隊長が案内してくれたのは私が作っている船の甲板の上で、部屋にといったはずの男は舳先から地上を見下ろしているようだ。
「アニキ、桜夜をつれてきやしたっ」
相当に大きな船を作っている自覚はあったけれど、その上に乗る予定はなかっただけに、初めて見る景色に私はキョロキョロと辺りを見回す。私のいる位置からは地上は見えず、ただ青空と海原だけが視界を覆う。空と海の境は見えず、蒼のグラデーションがただただどこまでも続く。
「おー、来たか」
隊長と長宗我部元親が話しているのを右から左に聞き流しながら、その視線を操舵室へと移す。これだけの船を人の手だけで操縦するなんて、昔の人はすごいななんて感心しながら見ていると、その操舵室から知り合いが顔を出した。
「桜夜じゃねぇかっ」
「太一っ、配置換えって、ここかー。後で見てもいい?」
「なんだ、お前もか」
はははと笑い合っていると、いきなり頭を鷲掴みにされた。そんなことをするのは、隊長だけかと思っていたのに。
「げ」
「俺を無視するとはいい度胸じゃねぇか」
「ぎゃぁぁぁっ、いたいいたいいたいー! たいちょー、たすけてーっ!」
まさかの長宗我部元親でした。隊長よりも更に痛い。女だって、知ってるくせにありえないだろ、と心のなかで悪態をつきつつ、頭の上の手を剥がしにかかる。
「うぐぐぐぐっ」
「がんばれー」
応援なんかしてないで助けろコンニャロー、と口にしながら、ぐぐぐと自分の頭を抑える手に添えた両手に渾身の力をこめる。でも、まったく、微塵も動かせる気配もない。
なんかもう痛くて、泣けてきた。
「っかに、すんなっ!」
思いっきり腰を落として、相手を蹴りつけるが、寸でのところでかわされる。そのまま続けざまに拳をむけても、全てが防がれる。敵わないとわかりきっていても、そこで諦められるようなら、最初から男の中で働こうなんて考えない。それは、どこにいたって同じだ。
「はぁっ!」
拳が掌に捕まれ、ぎゅっと包み込まれた。
「いい拳だ」
「……そりゃどうも」
「で、カラクリが作りたくって、うちにきたって。いつから、こういうことをやってんだ」
「……年数的には、もう五年か六年かな」
「どこで教わったんだ?」
「兄とか、まあ、ほぼ独学ってことになるかな」
「それだ」
急に男がかがんで、私と隻眼を合わせた。真剣な視線は、少しの焦りをみせる。
「お前の兄貴ってのは何者だ? いや、この際それはいい。その兄貴はどこにいる。そいつを俺の前に連れてこれるか」
そういえば、と隊長に技師ってのが貴重だとか聞いたことがあったのを思い出した。
でも、連れてくることができるぐらいなら、私はここにいない。そんな方法を知っているなら、とっくに帰っている。
「兄さんがいないと、私は雇ってもらえないのか?」
胸がきゅうと締め付けられるように痛い。不安だからとか、理由はわからないけれど、痛い。
「アニキ」
隊長が男に何かを耳打ちする。そして、私を見る彼らを見て、私ははっと顔を怖ばらせた。私はいったいどんな顔をしていたというのだろうか。少なくとも、それが同情めいた感情を生んだのは間違いないだろう。そんなものは真っ平だ。
私は努めて、口元を緩め、にやりとした笑顔をむける。
「まー、それならそれでいいか。私は別に軍属になりたいわけじゃないし。作れりゃ見習いだってかまわないんだ」
最初から長宗我部軍にしたのは隊長が外海との取引があると言ったからだ。元の世界に帰るにせよ、そうでないにせよ、私には仕入のルートを確保する必要がある。
「隊長ー、面倒だからもう言っちゃってもいい?」
「……そうだな、見せたほうが早いんじゃねえか?」
「そうだねー。んじゃ、元親サマにはご足労頂けマスか?」
百聞は一見にしかずってね、と私は返事を聞く前に彼らに背をむけて、歩き出した。戸惑う男どもが追いついてきたのは私が船を降りた後で、長宗我部元親はどうやら船から直接飛び降りてきたらしい。
「別にアンタの兄貴がいないと雇わねえって話じゃねえ。技士は一人でも多いほうが良いってだけだ」
私に並んで歩きながら、気まずそうに呟く男を笑う。
「わかってますよ。まー、兄さんには会えないんで、その辺は諦めてもらうしかないんですけど。代わりにイイものを見せます」
「イイモン、ねえ」
「期待してください」
ついでににやりと笑ってみせると、長曽我部元親は面白そうに笑い返してきた。
半端な感じだけど、ここまでで公開してた。
ブログで(おい
(2012/01/17)
そんなわけで、どさくさで公開しちゃえ
(2012/04/21)
デフォルト名変更。
(2013/9/5)