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書名:Routes -1- rinka -
章名:素直になれない10のお題&溺愛10題

話名:7#あまのじゃく


作:ひまうさ
公開日(更新日):2012.12.8
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:4224 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
「素直になれない10のお題」より
R18ギリセーフ?

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p.1

「ん……っ」
 朝から何やら妙な感覚でもって、俺は目覚めを促される羽目になった。何が起きているのかといえば、寝ている俺の貧弱な身体に這わされる手があるのだ。そんなことをするのは、世界中探しても一人しかいないし、一人しか出来ない。そう、ディルぐらいだ、そんなことをするやつは。

 眠気と強制的に引き出される性欲との狭間で鬩ぎ合う俺が目を開こうとすると、素肌の上を滑るディルの手が、俺の胸を遠慮の欠片もなく揉みしだきながら、勃ちあがっている敏感な先端を捏ね回す。

「っ、ぁ……っ」
「観念して、そろそろ起きたらどうだい?」
 耳元でディルの美声で囁かれ、反射的に俺の体が震える。逃げようにも背後から拘束されているし、その上後ろから俺の尻に押し付けられるものはーー。

「ぁさ……っ、から、ゃめねぇか……っ!」
 肘打ちを見舞おうとしたが、力ないそれはあっさりとディルに抑えられ、更に拘束は硬くなって。

「ディ……ル……っ」
 俺の目尻から涙があふれたところで、ディルはあっさりと手を止めた。

「おはよう、リンカ」
 含み笑いで挨拶してくるディルに返す言葉も無く、俺は深く呼吸を整えて、寝返りをうつ。

 昨夜寝たのは自分の部屋だったが、朝にこうしてディルのベッドで目がさめるのは、初めてではない。寝ている隙に連れてこられるなんて、よくある話なのだ。変態王子にとっては、俺の命に関わることでなければ、規則なんてどうでもいいらしい。

 連れてこられたといっても、別に事に及ぶわけではない。それをするには正式な婚姻が必須となるらしいのだ。だから、何をされようが、俺とディルの間は清いままと言えるし、これはただの同衾でしかない。

 俺の隣で、俺を見つめるディルは、一瞬引くほど、朝から甘い空気一色だ。胸やけしそうな甘ったるさに最初は吐き気を覚えたものだが、今ではすっかり俺も慣れてしまった。ーーいえ、嘘です、ごめんなさい。

「……朝から、こういうのはヤメろっつってんだろ……」
「朝でなければいいのか?」
「昼も夜も駄目だ」
「我儘だな」
 クスクスと笑っているディルは、気分を害した様子もなく、俺の頭をゆっくりと撫でる。

「じゃあ、いつなら?」
「いつでもダメに決まってんだろ」
「我儘だなぁ」
 俺がにべもなく断ると、やはり楽しそうに笑いながら、ディルは俺の頭を撫でている。その手がゆっくりと降りてきて、俺の耳元を撫でると、ぞわりと背筋をいいようのない感覚がすり抜けていった。

「今日は忙しいんだな?」
 俺が確信持って尋ねたのは、ディルが俺を夜中に連れ出す時は、決まって朝から拘束される仕事があるからだ。一日とは言わなくとも、半日拘束されるというだけで、こういう事態になる。

 案の定、ディルは秀麗な眉を潜めて、今にも泣きそうな顔になる。わかってたけど、こいつ無駄に美形で、無駄にフェロモン多いんだよ。近づくな、離れろ、離れてください、お願いします。

「仕事なんかどうでもいい。一日中、リンカと遊んでいたい……」
 いきなり仕事放棄発言は駄目だろ、王子として。俺が冷めた目で睨みつけるが、ディルは何故か頬を染めてきた。気色悪い。ホント、なんで、こいつは時々こんな風になるんだ。いつもはSなのに、なんで俺に殴られて喜ぶとか、おかしいだろう。てか、変態だったな、うん。

「仕事してこい」
「嫌だ」
「行け」
「嫌だ」
「おまえ、俺と仕事のどっちが大事だとーー」
 ディルは急に俺を抱き寄せ、胸に掻き抱いて、囁く。

「リンカに決まってる」
 清々しいほどに迷いのないディルの返答は、俺だって素直に嬉しいと思ってる。だけど、俺のせいでディルが仕事しないなんていったら、余計に貴族連中からつっかかれるだけだし、ディルの評判だって悪くなるだけだ。今だって、俺のせいで急降下中のはずなのにーー。

 そういや、最初に俺に向かって子犬みたいにギャンギャン騒いで文句つけてきていた貴族の嬢ちゃんら、最近王城で見てないな。俺が言い返せないのをいいことに好き勝手やった挙句、ディルに地の底まで埋まるような最悪の振られ方したやつはともかく、他の取り巻きとか簡単に諦めそうな奴らには見えなかったけど。

 王城では見てないけど、城下で見かけても俺に気づかないし、別に関わりたくもねーからいいんだけど。もしかして、姫かディルがなんかしてたりして……。

(洒落になんねぇ)
 俺が妄想で青くなっていると、再びディルの手がけしからん動きをはじめる。というか、上からどんだけキスするつもりだ。

「ディ……」
「お茶の時間までには終わらせてくるから、いい子で待ってるんだぞ」
 囁くように言った言葉は、どう差し引いてもこれから仕事に行く奴の発言のはずだ。なのに、なんで、ディルの手は俺を脱がしにかかってんだろうな。

「っ、ディル! てめ、やめろっていってんだろっ!」
「しばらく会えないんだから、少しぐらいいいだろう」
「さっき自分でお茶の時間までっていっただろうがっ。しばらくってほど、長くねぇぞっ?」
「俺は一秒だって、リンカと離れていたくない」
 思えば、出会った当初から何かと鬱陶しいやつではあったけれど、これも慣れてくると少しは可愛いとか思ってしまう、自分の思考が憎い。

 しかし、このままなし崩し的にディルに状況を委ねると、俺が(身体的に)危機的状況となるのは目に見えている。だから、俺はここに来てから姫の手で磨いた技で、ディルを説得することにした。

 基本は上目遣いだったな、とディルを見つめ、それから意識して目元を潤ませる。これはあの村を離れるといった時の親しかったウェイトレスとか宿屋のおばちゃんとか思い出せば楽勝だ。ーーなんか、思い出したら、帰りたくなってきた。

「ディルファウスト」
 俺がディルの名前を略さずに呼ぶと、その手が止まって、硬直する。

「仕事より俺を選んでくれるのは嬉しい。でも、そんなことをしたら、ディルの評価まで下がっちまう。俺は俺がディルの枷になるのは嫌だ」
 二択で迷いなく俺を選んでくれて、嬉しくないわけない。そんな風に素直に言えるディルを羨ましくもある。だけど、俺は。

「やらなければならないことを放り出してまで一緒にいてくれても、俺は嬉しくない」
 俺は養父と暮らした期間以外は、基本的に一人で生きてきた。だから、働かないで食っていけるような奴らはムカつくし、当時は王侯貴族なんてのは仕事もしないで遊んで暮らしてると思って毛嫌いしてたわけだ。今ではそうではないのだと知っているからこそ、だからこそ言う。

「仕事しねぇんなら、俺はディルを嫌いになるぞ?」
 嫌い、と口にしただけで何故か泣きそうになった自分に、俺は自分で驚いた。それから、そんなことできるわけねぇな、と笑ってしまう。こうして自覚してしまうほど、俺はディルに惚れてんだ。だから、これはただの脅しにしかならない。

 絶望的な顔をしているディルの腕から抜け出し、次いで俺はディルもベッドから引きずり出す。ベッドに力なく座り込んだままのディルの前で、その顔を見上げ、俺も大概こいつに甘いよなと自重しながら、また笑っていた。

「俺も茶会にはちゃんと出るから、ディルはディルの仕事をしろよ?」
 おまけとばかりにその鼻先に軽く口を寄せて、俺はディルに捉まる前に後方へと飛び退った。ふわふわの絨毯についた足先は、もたつくことなくしっかりと地を踏みしめる。

 それから俺は、耳元の赤い石の填るピアスを外して、軽く床に落とした。それが血に触れて、力ある言葉を発せば、俺は大神殿の奥庭に移動するというディル作の簡易魔法陣だ。

 それが地に落ちるのを見届ける前に、俺の周囲を風が包む。突風ではなく、柔らかなそよ風は、窓の開いていない室内に普通は吹いてこないはずだ。風は文句を言いながらピアスを拾い上げ、俺の耳に戻して収まる。

 もちろん、ただの風ではないし、ディルの魔法でもない。これは、そのほうが面白そうだという理由で、ディルの守護精霊が行ったことだろう。もちろん、俺だってそれぐらい計算済みだ。……あの野郎、後でフルボッコ決定だ……!

 唐突に俺の視界が白いもので埋まる。それは、白いシーツで、その上で俺はディルにあんなことやそんなことされてたとかとりあえず考えないことにして。俺は目の前で泣きそうなディルを見上げる。

「危ないことは、絶対にするんじゃない。それから、リンカに怪我でも負わせたら、精霊界を潰すからな」
 後半はたぶん自分の守護精霊に言ったんだろうけど、ディルは名残惜しげに一度俺を抱きしめてから、寝室を颯爽と出ていった。その姿は思わず見惚れるほどに、王子然としていたのだった。

「くくくっ、やっぱ殿下はおもろいなぁ。人間がどーやって精霊界に干渉するつもりか知らんけど、できそうなところが怖いわぁ」
 俺の方に軽く寄りかかるのは、上半身だけ現れたディルの守護精霊だ。一見白髪にも見えそうな薄い金色の短い髪を逆立てて、瞳を隠す茶色の色つきのメガネをかけて、耳には丸いリングピアスをつけている、空気に溶ける白い細面に糸目みたいな風貌の男だ。パステルブルーのジャケットを素肌羽織って、そのジャケットにはシルバーチェーンやらどこかの勲章みたいな黄色いバッジやらをジャラジャラとつけて、首にシルバーチェーンのタグプレートを下げている。

 いつ見ても精霊らしくない俗物的なこいつは、何故か知らないけれど、ディルの守護をしている風の大精霊らしい。

「ウィドー、ディルが逃げ出さないように見張ってろ」
 それから何故かこいつはディルよりも俺を上位と見てくれている。

「俺様は嬢ちゃんの監視なんだけど?」
「アンタならそんなもん片手間だろ」
 俺が自分に巻かれたシーツを剥ぎ取り、クローゼットに向かうと、後ろからは楽しげな声が答えた。

「素直になれや、嬢ちゃん。しゃーないから、アンタの代わりに殿下を守っといたる」
 御礼は後で回収に行くな、と言い残すウィドーを俺が振り返った時には、部屋の中には俺だけしかいなかった。

 徐々に赤くなる頬を抑えて、俺はその場にしゃがみこむ。

 ディルに仕事に行って欲しいのはマジだけど、俺が、俺の手でディルを守るために傍にいたいって言えなかったのを、なんでウィドーに見破られたか知らないけど。

「っ、ディルに怪我させたら、ぜってー許さねぇからな!」
 誰もいない室内に叫んだ俺を、からかうように一陣の風がくるりと渦巻いて消えていった。

あとがき

裏ってか、もうこっちが表な気がしてきた。
「溺愛10題」より「7#取捨択一」


王子は変態です。
リンカはツンデレです。
意図せずこうなってしまったのは、何故なのか。
とりあえず、王子はもっと自重すべきだと思いました。
これって、R18ですか?セーフですよね?ね!?


あと残り3題、心してお待ちください。
年末まで1ヶ月切ってる…!いやー!!!(脱兎
(2012/12/06)