読切>> いただきました>> 暗いお題で笑うバトン(女の子Ver.)

書名:読切
章名:いただきました

話名:暗いお題で笑うバトン(女の子Ver.)


作:ひまうさ
公開日(更新日):2009.9.11
状態:公開
ページ数:5 頁
文字数:4768 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
1. 君はもういない
2. 偽りの言葉
3. 死にたがり
4. 朝なんてこなければいいのに
5. 届かない気持ち
1. 君はもういない 2. 偽りの言葉 3. 死にたがり 4. 朝なんてこなければいいのに 5. 届かない気持ち あとがきへ

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p.1

1. 君はもういない



 私の目の前で、彼がキラキラ輝く宝石のような冷たい塊を口に放り込んだ。あの、口の中に広がる冷たさと甘さのハーモニーを味わうことが出来ないという事実に、私はがっくりと肩を落とす。

「あぁ、食べちゃった~」
 そう呟かずにはいられない。だって、あの冷たさと甘さのハーモニーが今まさに彼の口の中で展開されていると思うと、もう羨ましくって、ちょっと悔しくてたまらないんだもん。

「おまえが食べろって言ったんだろ」
 でも、彼は小さく息を吐きつつ『何をいまさら』って顔をしながら、そんなことを言ってくる。

「うぅ……っ」
「ダイエット中だから代わりに食べてくれって」
「言ったけどぉ」
 ……確かに言いました。言いましたけどぉ。なにもダイエット中の女の子の前で食べることないじゃない。……私が言ったんだけどさぁ。何かもう、頭の中がうきゅ~ってなって、涙が出そう。

「じゃあ、おまえも食べるか?」
 そんな私の様子を見兼ねたのか、彼はそんな誘惑を仕掛けてくる。あの、冷たさと甘さのハーモニーが口いっぱいに広がるのを想像すると、ほわほわ~っと至福の時のイメージが……って、だめ! 誘惑になんか負けちゃだめよ!!

「あなたはもういないけど、あなたの犠牲を忘れず、私は必ず痩せてみせるわ!」
 これほど惜しい犠牲を払ってしまったんだもの。絶対に成し遂げてみせる! 私が決意表明している間に彼が何か言ったような気がするけど……ごめんなさい、今はこの決意をしっかりと胸に刻みたいのーーって、な、何!? 話をちゃんと聞かなかったことに怒ったのか、彼はいきなり私を抱き寄せてきた。そして、そっと耳元で囁きだす。

「おまえが痩せるとこの抱き心地がなぁ」
 なっ、ひっどぉい! このぉ、人の気も知らないでっ!! 間髪入れずに、彼の脇腹に拳で返答してあげる。もぅ、誰のために頑張って痩せようとしてると思ってるのよぉ!

「絶対、痩せるっ!」
 彼が仕掛けてきたドキドキに決意が揺らいでしまわないように、私はそう言ってしっかりと拳を握った。



▽2009/02/27 男ver. nvl20090216

p.2

2. 偽りの言葉



 学祭期間中の校舎内は、今の私にとってとても危険な場所だ。飲食系の出し物をしているクラスや行きかう人たちから漂ってくる美味しそ~な匂いが、私の鼻をつついていじわるしてくる。

 でも一番いじわるなのは、私が今必死にしがみついている腕。その腕で袋に入った肉まんを抱えて、もう片方の手で美味しそ~に鯛焼きを頭から頬張っている彼だ。

 少しでもいじわるな誘惑から逃れようと彼の腕にしがみついているのに、その彼の周りに誘惑がいっぱいあるんだもん。

 でも……負けちゃだめ! 絶対に痩せるって、誓ったんだもん!!

 けど、必死に耐えている私をよそに、彼はぽつりと呟く。

「足りない」
「それだけ食べてて、何が足りないってのよ」
 もう、反射的に彼を睨んでいた。

 それだけ食べれば十分じゃない。私がダイエット中なの知ってるくせに……嫌がらせのつもり?

 ……でも、私の予想は外れていたみたい。

「いやいやそれじゃねぇよ。おまえ、余分なトコ痩せてねぇ?」
「は?」
 彼の言葉の意味がわからなくて、ちょこっと首を傾げる。彼はそんな私の様子にため息を吐くと、人気を避けるように屋上階段に私を誘う。そして彼は、両手を腰に添えて私を見下ろしながら話しだした。

「ダイエットもいいけど、無理はするなって言ったよな?」
「無理なんてしてないよ」
 ちょっと……何だか嫌な予感が……。

「食事は三食ちゃんととれって言ったよな?」
 その言葉に、思わず顔をしかめる。まずい……絶対気付かれちゃってるよ。

 悲しいかな、私の考えは当たっていたようで、彼は軽く睨みながら言いよってくる。

「いつから食べてない」
「き、昨日の朝は食べた、よ」
 彼の迫力に身体が竦みあがる。

 ……何よぉ、そんなに睨まなくたっていいじゃない。

「今朝は」
 いくらそう思っても続く、彼の追撃。

 ついつい目線をそらすと、彼は私の顔を両手で挟んで無理やり目線を自分に向けさせる。

 な、何か視線がこわい……よ。そして、案の定ーー。

「無理矢理ダイエット終わらせんぞ、こらー!」
「ぎゃー! ごめん、ごめんなさいっっっ」
 ーーその後、ひたすら謝り続けた私に罪を償わせるかのように、私は彼に学祭の食巡りに付き合わされたのでした。



▽2009/02/27 男ver. nvl20090217

p.3

3. 死にたがり



 ーー生きた心地がしなかった。

 いったい、私の頑張りはどこに行ってしまったんだろう。私の頑張りは、どこか違ったベクトルを辿って行ってしまったの?

 何で? どうしてなの……。

「死にたい……」
 もう朝から気分は最悪。あんなことがあったんだもん。そんな言葉を零しちゃうのも当然だよ。

 朝の教室。私の悲痛な想いが声となって零れたのを傍で聞いていた彼が、何だか少し面倒くさそうに話し掛けてくる。

「なんで」
「昨日の夜計ったら、朝より一キロも増えてた」
 そう、そうなの。こんなに頑張ってるのに一キロも増えてたの。

 一キローー200グラム包みのバラ肉5パック分の脂肪が、朝から夜の間に私の身体に蓄えられたってこと。

 200グラム包みのバラ肉5パックが私の身体にくっついてるのを想像すると泣きたくなってくる。

「な、知ってるか?」
 そんな私に、彼はそんなことを言いながらそっと頭を撫でてくれた。

 何だか嬉しくてふにゃ~ってなっちゃう。

 そして彼は、こんな言葉で私を安心させてくれる。

「朝の体重が人間、一番軽いんだぜ」
 嬉しいの『ふにゃ~』が、ホッとして『ふひゅ~』になった。



▽2009/02/27 男ver. nvl20090218

p.4

4. 朝なんてこなければいいのに



「どーした? まさか明日来ないなんていうなよな。エスコート役の俺を一人にさせないでくれよ」
 電話越しに聞こえてきた彼の声に、私はもう込み上げてくる涙を抑えることが出来なかった。

 もう今は学内クリスマスパーティーの前夜。その日のために、これまで頑張ってきたのに……。

 ベッドの上に広げたドレスを見ると、余計に涙が込み上げてくる。

「……何があった」
「ドレスが、入らないの」
 認めたくなくて、でもそれは事実で。

 声に出したくないけど、伝えなくちゃいけなくて。

「頑張ってダイエットしたのに、去年のドレスガ入らないの。可愛いって、言ってくれたのに」
 彼が可愛いって言ってくれたこのドレスを着るために、これまで必死にダイエットしてきたの。

 それなのに……どうして入ってくれないの?

 苦しい……。苦しいよ、彼に申し訳なくて……。

「ごめんね……」
 いくら謝っても、このドレスが入ってくれることはなくて。

 もっと……もっと頑張ってたら、このドレス入ったのかな。

 彼に喜んでもらいたかったのに……。

「……朝なんて、来なきゃいいのに」
「馬鹿いうな。このためにダイエットしてたんだろ?」
「でも、ドレスが入らない」
 もう震える声でそんな言葉を呟くことしか出来ない。

 私のダイエットは、結局失敗に終わってしまったんだ。

 いくら体重が減っても、このドレスが入らなかったら意味ないよ……。

 彼の声が聞こえなくなって、寂しさが一気に押し寄せてくる。

 ……でも、少しするとさっきまでとは違ったちょっと明るい彼の声が聞こえてきた。

「な、この一年で身長何センチ伸びた?」
「……5センチ……」
「体系もかなり変わったよな」
「ふ、ふとった?」
 彼が口にした『体系』という言葉に、私は悲しさを通り越して情けなさを覚えてしまう。

 でも、返ってきた言葉は私が想像してたものとは全然違ってて。

「グラマーになった」
「!?」
 ビックリした。

 本当に心底ビックリした。

 私と『グラマー』なんて単語、全く結びつくことはないと思ってたのに。

 ……でも、彼は私がグラマーになったって言ってくれた。

 これって、喜んでいい……んだよね?

「心配しないで、とりあえず寝とけ。そんで、明日の朝一で届くから、それ着て来い」
「えっ? 朝一で届くって……どういうこと?」
 私が聞いても彼は答えてくれなくて、ただ一言優しい口調で「おやすみ」って言ってくれた。

 その言葉を胸に、私は『こなければいい』と思っていた朝を迎えるべく眠りに付く。



▽2009/02/27 男ver. nvl20090219

p.5

5. 届かない気持ち



 喜びと不安が入り混じった朝を迎えて、私は今、彼が回してくれた迎えの車を降りたところ。

 朝一で家に届いたドレスは、自分に似合うかどうか不安になっちゃうほど綺麗な白いドレスだった。

 驚くほどぴったりなサイズ。似合ってるかどうかはともかくこんなにも身体に馴染むのは、きっと彼が贈ってくれたドレスだから……だよね。

 少しでも彼に気にいってもらえるように鏡の前で入念にチェックしていたら、家を出るのが遅くなっちゃった。

 彼……怒ってるかな?

 ハラハラと雪の舞う中、ヒールなのも気にせず小走りにコンクリートの道を進んで行くと、目指すクリスマスパーティー会場の外に手に息を吹きかけて寒そうにしている彼の姿があった。

「待ちくたびれて凍えるかと思ったよ」
「ご、ごめん」
 素直に謝ると、彼はそっと微笑んで私の腰を引き寄せる。

「サイズ、ぴったりだな」
「うん、なんで?」
「俺が彼女のサイズを知らないわけないだろう」
「……スケベ」
 流石に私でも彼が何を考えているのかがわかって、みるみる顔が熱くなってくる。

 どうしてそんな言い方するかなぁ、もぅ。

 ……でも、彼だから。

 彼だから、こんなにふにゅ~って感覚になるんだろうなぁ。

 そんな彼は、そっと額への口付けで私を彼の空間に誘ってくれる。

「世界で一番可愛いよ」
 うん、知ってるよ。

 ……だって、世界で一番かっこいいあなたが選んでくれたドレスに身を包んでるんだから。

 そんなことを、心の中でそっと呟く。

 ごめんね。口に出して言ってあげたいけど、やっぱりちょっと恥ずかしいんだ。

 会場の扉が開かれると、彼は私の正面に来て恭しく礼をする。

「とりあえず、踊ろうか。お姫様?」
 差し出された手がちょっと私の手に触れただけで、その冷たさが伝わってくる。

 ……ずっと外で待っていてくれたんだね。

 こんなに冷たくなるまで待ってくれた王子様の申し出を、断るわけにいかないよね。

 ううん、待ってくれたかどうかじゃない。

 私の大切な王子様だもん。

 その冷たいけど暖かい手をきゅっと握る。

「喜んで」
 嬉しさと恥ずかしさに包まれながら、私は彼にそう返す。

 彼は私をエスコートしながら、ふとこんな言葉を掛けてきた。

「男が女にドレスを送る意味って知ってる?」
 聞いた瞬間、心臓が跳ね上がった。

 そして、身体がスピーカーになって外にまで聞こえてるんじゃないかってくらい、ドキドキが止まらない。

 大好きな彼。

 私のことを可愛いと言ってくれる王子様。

 ……でも、ちょっとスケベな彼。

 そんな彼の足に、私は思いっきりヒールのかかとを落とす。

 軽く顔を歪めながら落胆の色を見せる彼。

 ふふ……何かそんな姿がちょっと可愛らしく見える。

 自然と浮かんできちゃった笑みを隠す意味もちょっとだけ込めて、私はそんな彼に顔をそっと近づけた。

「しょうがないから、今夜だけね」
 すっごく恥ずかしいし、ちょっと不安。

 そのちょっとの不安が手に表れちゃっていたけど、彼がその手を強く掴んで私を抱きしめてくれたら、そのちょっとの不安はどこかに飛んで行ってくれたみたい。

 飛んで行った不安が喜びになって返ってくるように、そして飛んで行った不安な気持ちが彼のもとに届くことのないように、私も彼の身体にそっと腕をまわした。



▽2009/02/27 男ver. nvl20090220

あとがき

まさか、女の子ver.をいただけるとは夢にも思わなかったですよ!
私が書く女の子よりも数倍可愛らしい子に仕上がってて、もらった時はもう嬉しくて嬉しくて、
仕事が手につきませんでした!(仕事をしろ(無理!
(2009/09/11)