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書名:うさぎ関連小話&小ネタ
章名:うさ耳会長

話名:うさ耳会長 - 10) I Love You


作:ひまうさ
公開日(更新日):2009.11.1
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:1091 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 1 枚
[I LOVE YOUを訳しなさいバトン]より

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p.1

 うちの学校には自慢の会長がいる。一言で言えば和風美人。椿や菖蒲がよく似合う硬派な会長だ。切り出されたばかりの黒耀石の原石みたいな人だとも称され、人に寄っては冷たい印象を受けることもあるらしい。

 その会長の印象が百八十度変わったのは、高等部で会長に就任した一年の秋以来である。原因はーー。

 俺が向けた視線の先には、今日も変わらない会長が座って、事務処理を行っている。そして、その頭上では当たり前のように、白くて長くてふさふさしたーー二本のうさぎ耳が立っている。

 それが小さく震え、会長が顔をあげる前に俺は自分の目の前の書類に視線を向けた。

「ーーI LOVE YOU、君ならなんて訳す?」
 俺の手元で可哀相なシャーペンがばきりと折れる。会長はいつも唐突だが、今日のはまた突飛過ぎるだろう。

 俺の答えを待つことなく、会長は続ける。

「夏目漱石は英語教師をしていた頃に生徒が、私はあなたを愛しています、と訳したの。それを夏目先生は違うと一喝して、君といると月が綺麗ですね、と訳したそうよ」
「別にストレートに言っていいんじゃないですか?」
「馬鹿ね、時代背景を考えなさいよ。日本男児がそんな言葉を使うなんて軟弱なって言われるような時代よ?」
 得意げにひょこひょこと揺れる会長の頭上から、視線を逸らす。

「それで、会長」
「今は私が聞いてるのよ」
 会長は学年首席というだけあって、とても頭が切れる。先に切り返されて、俺は小さく息を吐いた。とりあえず、あのうさぎ耳さえ目にしなければ、俺の平穏は保たれる。

「そうですねー」
 数個の言葉を浮かべては消し、消した傍から浮かべて考える。といっても恋愛なんて経験したことも無い俺に愛など分かるわけも無く。

「会長が教えてくれたら、言いますよ」
 そんな小狡い答えしか返せない。だが、俺のそんな策は見透かしているとでもいうのか。

 会長は腕を伸ばし、細く骨張って、ごつごつとした世辞にも誉められない両手で、俺のペンを持つ手を包み込んだ。当然だが、会長の姿も至近距離だ。

「か、会ちょ」
 真っ直ぐに見つめてくる会長の少し茶の混じった黒目に、とまどう俺の姿が映っている。

「……あなたが私の全て、かな」
 え、お、俺? 俺に言ってるのか?

「運命でもいいかと思ったけど、だめね。私、運命は信用してないの」
 自然な動作で会長が離れ、元の席に着く。その一挙一動を見守ってしまった俺は、会長の一言ではっと我に帰った。

「それで、君の回答は?」
 期待に満ちた目で見つめられた俺は、どんな顔で、何と返したか。正直よく覚えていない。

 ただ頬を紅くした会長が嬉しそうに笑っていたのだけは間違いない。

あとがき

OVE YOUを訳しなさいバトンより


ルール:その昔「I LOVEYOU」を夏目漱石が『月がキレイですね』と訳し、二葉亭四迷は『わたし、死んでもいいわ』と訳したと言います。さて、あなたなら「I LOVEYOU」をなんと訳しますか?もちろん「好き」や「愛してる」など直接的な表現を使わずにお願いします。


次はハロウィン~を書く予定だったのですが、会長の回答が気になって書いてみました。
(2009/10/26)


公開
(2009/11/01)