BSR>> あなたが笑っていられる世界のために(本編以外)>> おまけ - omake2#湯上り

書名:BSR
章名:あなたが笑っていられる世界のために(本編以外)

話名:おまけ - omake2#湯上り


作:ひまうさ
公開日(更新日):2012.7.6
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:4552 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)
軽い18禁描写らしきものがあるので、ご注意ください
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p.1

 政宗様の好意で、私は昼から城の湯を頂いた。今回は梓にも美津にも遠慮してもらって、一人でのんびりと入浴した。それから、脱衣所で淡青の長着に着替えて、濡れ髪を手拭で軽く拭いてから、その手拭を肩にかけて、脱衣所を後にする。

 と、すぐにバフッと上から羽織がかけられた。この香りは。

「……え、片倉様?」
 戸を出て直ぐに気配に気づいて振り返ると、何故か仕事中であるはずの片倉様が待っていた。頭から羽織をかけられた状態で腕を捕まれ、歩き出す。

「行くぞ」
 ひどく不機嫌な声に不安がそのまま声に出る。

「どこに、ですか?」
 片倉様は一度立ち止まり、私を見てから、深く深ーくため息をつく。それから、再び無言で歩き出す。いや、何か言ってるような。

「……こんな姿、他の男に見せられるか……」
 そのつぶやきはしっかりと私の耳に届いたのだけれど、ちょっと笑えてしまった。だって、片倉様以外の人には私は子供にしか見えないのだから。

「ふふっ」
「何笑って……っ!」
 急に片倉様の気配が鋭くなったかと思うと、いきなり近くの部屋に連れ込まれた。

「っ」
 問いかけようとした私の口を片手で塞ぎ、片倉様は戸口で耳を澄ませている。……何か、私が探されているような。行かなくていいのだろうか。

 軽く片倉様の袖を引くが、ただ黙っていろと手をふられるばかりで、振り向いてもくれない。なんだか、蚊帳の外みたいでムカつく。

 もう一度強く袖を引く。

「後で……っ?」
 騒ぐと怒られるのは目に見えているので、私はただぎゅっとその大きな身体に抱きついた。ぐりぐりと広い胸に頭を押し付ける。それだけで、片倉様の香りで少しだけ気分が落ち着いた。

「……っまえな……」
 肩を掴まれて、無理矢理に引き剥がされたら、いきなりの口付けに襲われた。教わったように息を継ぐ暇もない。

「は……ぁっ」
 やっと息を継いでもそれは終わることなく、深く深く私を飲み込んで、考える力さえも奪い去る。

 ザラザラとした舌の感触も、歯列をなぞり、舌を絡め、入り込んで混ざり合う互いの唾液さえも全てが気持よすぎて、体の芯が疼いてくる。そんなことをしたこともないのに、それが何を示すのを知っている私は羞恥で更に体温が上がるのを感じた。

 自分の胸に添えられる手にビクリと体が震える。そっと撫でられると、ぞわぞわと背筋を何かが這い上がる。それは確かに心地よく、ただ私を翻弄する。

(もっと、直接……)
 ゆっくりを潤む瞳を開きながら、自分が考えてしまったことを反芻して、思わず私は片倉様に向かって、両手を突き出していた。流石にビクともしないが、片倉様も正気に返ってくれた。

「っ、すまねぇ」
「あ、や……ええと……っ」
 視線を泳がせる私に、本当に申し訳なさそうな片倉様。端から見れば、何をしているんだと言いたくなってしまうことだろうが、今の私達にそんな余裕はない。

「だが、葉桜も悪い」
「へ?」
「あんな格好で城を歩きまわるな」
「ただの湯上りですよ」
「だからだ」
「……私が、片倉様以外には子供にしか見えないって、わかってますか?」
 少しの間の後で、片倉様は深くため息を吐いた。この人、ため息つき過ぎじゃないだろうか。

「忘れてたな」
「確認すればわかると思いますけど、片倉様以外には今も十歳ぐらいにしか見えてませんよ」
「そう、なのか」
「そうらしいです。……私もちゃんと確認したことはないんですけどね」
 自分では歳相応に見えてるんで、と笑うとじっと見つめられた。さっきから恥ずかしいばかりだけれど、私もじっと見つめ返してみる。

「俺に幼女趣味はねぇからな」
「わかってますよ」
「葉桜はちゃんとイイ女だよ。この俺を腑抜けにしちまう」
「っ、あ、ありがとうございます?」
「もう一回、いいか」
「え?……っ」
 答えを待たずに、軽く音を立てて、鼻先を啄まれる。それから、頬や目蓋や額やら、顔中に降ってくる口付けはくすぐったい。

「ちょっ、片倉さ……っ」
 抗議しようと口を開いたら、あっというまに深く口付けられて、さっきよりも緩やかだが、さっきよりも激しさを感じさせる口づけに、全てが溶けてしまいそうだ。世界に溶けこむよりも、もっと甘く、もっと熱い。思わずと伸ばした腕を捕まれ、床に押し倒されて見上げると、苦しげな片倉様の顔が目いっぱいに広がっている。

 今直ぐにでも、と考えてしまう自分の思考に震えるのは、心か体か、そのどちらもなのか。

 先に体を起こした片倉様が、私を助け起こしてくれる。無表情だけれど、ほんの少しだけ照れが見える、そんなところが時々可愛いなと思う。口に出したら、もっと大変なことになるので言わないけれど。

「夕餉も城で取ることになった」
「また政宗様がお逃げになられたんですか」
 米沢城で片倉様の手伝い(つまり、政宗様の見張り)をするようになってから知ったことは、政宗様が頻繁に休憩を取るということだ。最初はよくわからなかったが、それはすなわち片倉様の帰宅が遅れることを意味する。一緒に暮らしている私の帰宅も当然遅れる。

「探りましょうか?」
「いや、大方成実と遊郭にでも行ってるんだろ」
「またですか」
「まただ」
 日常茶飯事とわかっていても、怒りが芽吹いてくるのは仕方ないだろう。なにしろ、政宗様が仕事をしないと、その分を片倉様がこなさなければならないのだ。それでも、どうしてもという決済に絞って、かなり片倉様が仕事をしているというのに。

 体調は大丈夫だろうかと心配になって片倉様をみると、軽く頭を撫でられる。

「俺は大丈夫だ。葉桜がいるからな」
 意味がわからない私は首を傾げるが、片倉様は隙を突くようにまたくちづけてきた。今度は触れるだけだが。

「片倉様」
「あんまり煽るな、葉桜。じゃねぇと、ここで押し倒しちまいそうだ」
「っ、の、望むところですよっ」
 ぎゅっと目を閉じ、身構える私だったが、いつまでたっても押し倒される気配はない。どころか、片倉様の気配が離れていくような。

「できるわけあるか」
 そういって部屋を後にした片倉様の耳は、真っ赤に染まってて、私はただ畳の上に突っ伏した。

(片倉様がこんなに口吸いが好きだなんて、思わなかった……)
 最初は慣れなかったそれも、今では震えずに受け止められるようにもなったし、ちゃんと呼吸することも覚えた。でも、その先はまだ無い。私自身の経験がないこともあるから、ゆっくりと歩み寄ってくれているのもあるし、舞姫としての役目の制約に何か抜け道がないかどうかも探っているからだろう。

 早く触れて欲しい気持ちもあるし、もう少し待ってと怯える心もある。片倉様にだったらと思うのに、その時が来ることが怖くなってしまうのだ。

(でも、口吸いには慣れたし、今夜こそは)
 薄暗がりの部屋の中で、私が決意を固めていることを片倉様は知るわけがなかった。



p.2

 私と片倉様が帰宅したのは、もう宵の刻を過ぎていた。月も西に沈み始めている。

 城で夕餉を終えていた片倉様は早々に布団を敷いて、眠ってしまった。疲れているからだろう。

(でも、殿方は疲れていてもこういうのは別だっていうし)
 眠っている片倉様の布団に私は潜り込む。温かさに安堵し、ついうとうととしてしまいそうだけれど。

 片倉様の顔に口を近づけ、ぺろりとその唇を舐める。ぴくりと眉が動いた気もするけれど、目を覚ます様子はない。もう一度、と口を近づけ、今度は唇を合わせる。わずかに開いた隙間から舌を滑り込ませる、と。

「んぅっ?」
 急に体を引き寄せられ、私の舌に片倉様の舌が絡んできた。こちらが仕掛けていたはずが、既に私のほうが翻弄されている。体を撫でる手に、ビクビクと反応してしまうし、口吸いはいつもよりも濃厚な気がして、頭がクラクラと酩酊する。

「なんのつもりだ、葉桜」
 一頻り口付けして、息も絶え絶えな私を厳しい目で見ながら、片倉様が言う。

「何って、夜這いです」
 確か姉様たちにはそう聞いた。こういうのを夜這いと言うのだと。

「夜這いです、じゃねぇだろ。まだ、なにもわかってねぇんだ。悪いが手を出すわけには」
「はい、だからね、私も考えてみました」
「は?」
 私は布団の中で、片倉様のソレを軽く握る。片倉様の顔が瞬時に赤くなり、青くなった。

「っ、葉桜っ!」
「やめませんよ、私。だって、片倉様はいつも我慢してくださってるんでしょ?」
 起き上がって、顔を近づけようとする私の肩を掴んで止める片倉様はひどく怒っていた。

「どこでこんなこと……っ!」
「舞姫教育の一環です」
 知らなければ、対処のしようもないから、と教えられたのだ。知っているから、襲われた時にどうしたらいいかというのも私は知っている。そうでなければ、舞姫一人で旅など出来ない。

「もちろん、ミヤにしか、好きな人でなければ、こんなことできませんよ」
 だから実践するのは初めてなんで教えて下さいね、と私が笑うと、片倉様は難しい顔で私を覗きこんだ。

「……ったく、本当にしたことはねぇんだろうな?」
「ないですよー。でも、ここが急所で、噛んじゃいけないことぐらいはわかってます」
「っ、当然だ」
 片倉様が起き上がったかと思うと、急に体が布団の上に落とされた。痛くはないけれど、私を覗きこむ片倉様はすごく真剣で。

「だが、そんなことをする必要はねぇ」
 じゃあ私はどうしたらと泣きそうになっていると、片倉様の顔が近づいてきて、額に口付けられる。

「後悔するなよ」
「しませんよ」
 そう口にしながらも内心は心臓が飛び出るんじゃないかというほどの動揺を押し隠して、私はまた自分から片倉様に口付けた。

 それから朝まで、私は寝かせてもらえなかったということだけは言っておこう。私が片倉様にしようとすると、先手を打たれてしまうのだ。何度か意識も飛んでいたけど、気がつくと片倉様の腕の中にいて、身動きしようものなら再開されて、ちょっと待ってと言っても待ってくれない。こんなに全部、余すところなく片倉様に見られ触れられ暴かれて、それでも処女であることが自分でも信じられない。

「片倉様はこれでいいんですか?」
 空が白んできた頃、うとうとしながら問うと、片倉様に背中を覆うように抱かれていた私は耳を喰まれて小さく声を上げる。全身、どこもかしこも敏感になっていて、少しの動きでも感じてしまうのは、全部片倉様のせいだ。

「葉桜はまだ足りないか?」
 苦笑交じりに囁かれ、ぶんぶんと首を振る。でも、後ろから胸をやわやわと揉む手や、硬くなった部分に軽く触れてくる手が止むことはない。

「ちょ、そろそろ寝かせてください……っ」
「ふっ」
「っ、み、耳はやめて……っ」
「ああ、すまん」
 絶対にわざと耳元で喋ってるであろう片倉様を涙目で睨みつけようとすると、後ろから項に口付けられた。

 だめだ、もうだめだ。

「か、勘弁して下さい……っ」
 後悔するつもりは微塵もないが、正直ここまでされるのは想定外だ。片倉様だって疲れてるはずなのに、なんでここまで元気なんだ。

 涙目で何度も懇願して、やっと眠ることができた私が目を覚ますのは、太陽が中天にかかる頃で。すっかりと清められ、着替えさせられた自分を見て、私は一人布団で悶絶するのだった。

 結論、片倉様を誘うときは、もう少し手順とか方法とか考えた方がいいらしい。

あとがき

一度書いたものの18禁部分を大幅に変更してリユース。
うちの小十郎さんはキス魔です(え


にじファンもなくなることだし、そろそろ潮時みたいです。
これにて、完結にしようと思います。
今まで「あなたが笑っていられる世界のために」を読んでくださって、有難うございました。
(2012/07/04)