うちの学校には素敵な卒業生がいる。在学中は生徒会長として三年間務め上げた人で、何よりもその人柄と、アレに惹かれて人気を博していた人だ。
「どうっ?」
「あー…いいんじゃないですか?」
眼の前にいる会長は制服姿ではなく、振袖姿だ。俺達が学校を卒業してから、もう三年が経つ。あの頃から俺と会長の関係が変わったかといえば、あまり違いはないかもしれない。
「なによ、やる気のない返事ねー」
それでも、別々の大学に進学したために久々に会った会長は、あの頃よりも随分と大人らしくなった…らしい。
目の前には艶やかな赤の振袖を着て、俺の前でくるりと一回転して見せた会長が頬をうっすらと染めて笑っている。ああ、化粧もしているから、余計に印象が変わるのだろうか。女は化粧で化けるからなぁ。
「こーらっ」
俺の目の前まで近づいてきた会長が俺を見上げる。あの頃とは違って、俺よりも頭一つ分小さな会長は、自然と上目遣いに俺を見上げる。
普通なら、どきりとしそうな場面で、俺も例にもれなく、どきりと胸を高鳴らせた。目の前で揺れている白くて長い耳は緊張でぴくぴくと震えている。
「会長、まだその耳抜けないんですか」
俺が問いかけると、会長はさも不思議そうに聞き返してくる。
「耳?」
「その頭の上の白くて長いやつですよ」
「あ、あぁ……」
なんだと会長は呆けて笑う。
「抜けるわけないじゃない、生えてるんだから」
「開き直ってもダメですよ。会長だって、来年には就活でしょう?」
学校では通用しても、社会で通用するとは思えない。そう、俺が言うと、会長は面白そうな顔で笑う。
「そうだけど、それがなに?」
「何って」
「大学だって入れたんだし、なんとかなるわよー」
「っ、なりませんよっ」
俺が声を荒げると、何故か急に会長が笑い出した。
「な、何がおかしいんですかっ」
「きみは相変わらずねぇ」
「会長っ」
会長は急に俺の回りをくるりと回った。
「ま、そういうきみだから、スカウトしようと思ってたの」
「は?」
会長は何故か着物の袷に手を入れて、何かを探し始める。着物だからよくわからないけれど、胸もあの頃よりは成長して……て、違う!
「なにしてるんですか、会長っ」
「あ、あったあった、はい、これ」
俺が言うのと同時に、会長は目の前に一枚の名刺を差し出した。
「えーっと、*****カンパニー? CEO……って、え?」
そこに書かれた名前は紛れもなく会長のもので、俺はなんの冗談だと会長と名刺を見比べてしまった。
「入る場所がないなら、作ればいいのよ。で、優秀なきみを誘いに来たわけなんだけど」
会長のやわらかな手が俺のゴツゴツと骨ばった手を両手で包んで、微笑みながら言う。
「うちの会社の経理をお願いします」
これはどんな冗談だろうか。俺はまた会長にからかわれているのだろうか。
しかし、会長の頭で揺れる、白くて長いそれはすっかり伏せてしまって、ピルピルと震えていて。これで、冗談なんかではないと、確信してしまう自分に笑いが込み上げてしまう。
「会長」
俺は会長の手を包み込むように握り返して、膝をつき。
その手に口を寄せた。
「!?」
会長は瞬時に硬直したけれど、まさか本当に口付けたわけではない。音だけの騎士の真似事だ。
「俺を雇った事、後悔はさせませんよ」
ニヤリと俺が口端を上げて笑うと、会長は懐かしいあの満面の笑顔で笑った。
「しないわよ。私はきみ以上に優秀な経理を知らないもの」
頼りにしてるわよ、と笑う会長の頭では、元気よくピンと立ってうさぎの耳が天を向く。
一度は離れた互いの道だけれど、こうして再び重なるのなら。
「……覚悟してくださいよ、会長……」
もう二度と、あなたを逃してはやらない。
俺の小さすぎる呟きは聞こえていないのか、先に立って俺の前を進む会長の足取りは軽やかだった。
ある意味最終話。
会長の生まれたマンガゲットのSNS機能&みんノベがなくなるということで、急いで書いた話。
でも、結局なくなってないっていう(笑
…ま、区切りもいいので、そろそろ終わりにしてもいーかなーと。
そんなわけで、いきなり卒業後の話です。
え、飛びすぎ?
まーいーじゃないですかー。
会長だし。
うん。
ではでは、また気が向いたら、書こうかなぁー会長。
(2012/09/20)