私は刀を振って血を飛ばし、鞘に収める。一連の動作を終えて、ようやくその人が声をかけてきた。
「いつもながら、面倒なやり方してるわね」
十重二十重と化粧をして、艶やかな女姿で、綺麗な簪をしゃらりと揺らして微笑む彼女は、よく見知った同僚である。
面倒というのが、私がさっきまで戦っていた相手を一思いに殺さないからだ。相手が戦意喪失するか逃げるまで、追い詰めてゆく剣を振るうからだ。
「慣れればどうってことないよ」
もともと私は人を斬りたくて新選組にいるわけでなし。殺すのはできるだけ最後の手段にしておきたいのだ。
「それに、ちょっと荒れてるみたいじゃなぁい。大丈夫、葉桜ちゃん~」
山崎は冗談めかして声をかけてきているが、私は彼の目線に本気の心配を感じ取って、くすりと笑っていた。自分の額に張り付く髪をかきあげつつ、私は山崎に言って返す。
「まーね、今のところは」
黙りこんでしまった山崎の頭を軽くたたき、私は彼の脇を抜けて歩き出す。直ぐに後をついてくるのはわかっているし、急ぐ用事もない。今日は非番なんだ。
「総ちゃんの体調って回復の兆しはあるの?」
囁くような山崎の問いかけに、一瞬だけ私は足を止めそうになった。だけど、そのまま歩く。山崎もついてくる。
「山崎はいい薬知ってる?」
「……ごめん」
「まあ、難しい病気だからねぇ」
からからと笑う私は、しかし直ぐに袖を引いて路地裏に引きずり込まれた。山崎にしては強引なやりかたをするものだ。
「あのね、葉桜ちゃん、無理に笑わなくていーの。アタシとアンタの仲でしょ」
私の頭を胸に抱え込み、ぎゅっと抱きしめてくる山崎に抗わず、私は目を閉じる。女姿だけれど、山崎はこういうときは男のようだ。力も強いし、女性とは違う力強さがある。それが時に、私には羨ましくもある。
「総ちゃんにはもう言われた?」
「何を」
私が聞き返すと、ぎゅっと更に力が込められて、苦しい。
「総ちゃんに、好きって言われた?」
でも、私以上に苦しそうに山崎が言うから、私はそれを言えなかった。
「……知ってたんだ」
「アンタ以外、み~んな知ってるわよ」
「そっかぁ」
私は山崎に腕を緩めてもらい、その腕から抜け出す。山崎は不安そうに私を見ている。
「はっ、なぁんて顔してるの。烝ちゃん、美人が台無しよ」
「葉桜ちゃん……」
「沖田のことは好きだよ。でも、私にはそういうことは考えられないんだ」
空を見上げると、冬の澄んだ青が眩しくて、私は泣いてしまいそうだ。
「そんなことより、皆が生き抜いてくれることが大切なんだ」
山崎の刺さるような視線は、私は全て受け流して、そうやって笑って。いつものことなのに、山崎が泣きそうだ。
「もちろん、皆の中に烝ちゃんも入ってるよ」
「……馬鹿」
少し屈んで、私の胸元に顔を寄せてくる山崎を、今度は私が包むように抱きしめる。
「皆アンタが好きだから、心配してるのよ」
「ふふっ、じゃあ、ありがとうって伝えておいてくれるかな」
「……馬鹿」
私がそっと山崎の髪を撫でると、山崎は私の腕の中で、寂しそうに笑った。
短いですが。
沖田のことが話題のメインだから、どうにも明るく出来ないなぁ。
あと完全に自己満足になっています。
書くのが楽しいです!
仕事が珍しく面白くない!!!
息抜きが大幅に時間を削っている事実をどうしたものか(仕事しろ
(2012/11/08)