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書名:GS
章名:GS3@桜井兄弟 - I Still..

話名:01. Before the entrance ceremony


作:ひまうさ
公開日(更新日):2013.1.23
状態:公開
ページ数:3 頁
文字数:8074 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 6 枚
デフォルト名:荒川/美咲
1)
オープニングが気に入っているので、書いてみました。
桜井兄弟寄りです。

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p.1

 私は元々、両親が故郷に帰るつもりがあったという話は知っていた。それでも貸家を引き払って出ていくしかなかったのは、父の仕事の都合で。就学前の子供の私は逆らうなんて思いもよらなくて、ただ着いて引越したのだ。

 その時のことを思い出そうとすると、少しだけ心が靄々する。大切な何かがあったような気がするのに、思い出せない。そんなもどかしい想いを抱えていることを、誰にも話したことはない。

 中学三年の秋になってから、私は両親から引越しの話をされて、かなり驚いた。やっと故郷に帰れると喜ぶ両親に、文句なんて言えなかった。

 小学校から仲の良い友達は、何人かいた。一緒の高校に行こうと約束して、受験勉強だって頑張ってきた。それなのに、今更引越しだなんて。

 友達は皆優しくて、連絡先を交換して別れてきたけど、寂しさは拭えない。この先会えることがあるんだろうか、なんて感傷してしまうのは仕方ないだろう。

「美咲、片付けは終わった?」
 部屋を覗いた母親からかけられた声に、私は自分の手元をはっと見た。段ボール箱から取り出した連絡帳を開いたまま、随分と浸っていたと気がつくのに時間はかからなかった。幸い、残っているのは本棚に手持ちの本や教科書をしまう作業しか残っていない。

「ちょっとおつかい頼んでもいい? お釣りはお小遣いにしていいから」
 はい、と渡されたのは千円札が三枚と、買い物のリストが書かれた紙だけだ。

「お母さん、お使いって」
「そんな離れてないコンビニだから。ああ、覚えてないか。ちょっと待ってね、地図書いて……」
 部屋を出ていく母親に着いてリビングに着くと、自分の父親と同い年ぐらいの男が、父親と一緒に何かを組み立てているようだ。

 リビングの入口で立ち止まっている私に、その男が妙に嬉しそうに目を細めた。

「大きくなったなぁ」
 自分を知っているような口ぶりに首を傾げていると、母親がメモを手に戻ってくる。

「あの……」
「俺のこと覚えてないか? まあ、ちっさかったし、しかたねぇか」
「それ以上にショックもあったんでしょ。ほら、コウくんたちと仲良かったし」
「ああ、引越した後は大泣きして大変だったもんな」
 親たちの訳の分からない会話についていくのは早々に諦め、私はお使いに出かけることにした。

「あの、行って来ます」
「あ、美咲、ついでにタバコも」
「禁煙中でしょ、お父さん。美咲、ついでに色々見てきたらいいよ」
 親たちの声を後に、私は玄関から外へと出たのだった。

 門を出て、一歩で振り返る。なんとなく覚えのあるような気がする家は、実際に以前に住んでいた家らしい。それを今回買い直したというのだから、両親はもうここに永住するつもりなのだろう。

 手元の地図を見て、私は一瞬でそれを握りつぶす。

「なにが海沿いまっすぐ、よ!」
 適当にも程がある簡略地図に文句をつけつつ、私はぐるりと家の前の道を見回した。なんとなく、左に向かえばいい気がする。

 勘で適当に方向を定めて歩き出した私は、ほどなくコンビニを見つけて買い物を済ませることは出来た。ついでに、学校の場所も確認しようと思って尋ねると、この道を真っ直ぐ、と教えられ、そのとおりに進む。海沿いに続く道だったから、自然と私の目線は海へ向かった。

(海がすごくきれい。やっぱり、はばたき市って素敵なところだな)
 潮の香りを胸いっぱいに吸い込むと、清々しさに胸がいっぱいになる。さっきまでの落ち込んだ気分も吹き飛んでしまって、同時に心に浮かぶのは「懐かしい」という想いだった。

 朧気な記憶に確かに引っかかる町並み、この景色を私は確かに懐かしいと感じる。覚えていないのに、だ。

(本当に懐かしい。海も街も、小さい頃、住んでいた時のままなのかも)
 眼下に広がる海の手前の海岸にはレンガ道の公園が続き、そこには何気ない人の営みが見える。少し目線を海寄りにすれば、春の海辺を歩くカップルがあって。街よりに目線を移せば、人工的なビルや少し古い町並みが映る。

(少し歩いてみよう)
 更に歩いて行くと、道はゆるやかな上り坂になり、その先に正門が見えた。あれがきっと、私が明日から通う学校なのだろう。

 はばたき学園はこのあたりでも名門と言われる、それなりにレベルの高い学校だ。卒業生に有名人がいるらしいけど、いまのところ私が知っているのはモデルの葉月珪だとか、三原色って芸術家ぐらいだ。

 そんな学校に受験日前日からホテルに泊ってまで受験させられたことに文句を言わない私は、とても良く出来た娘だと思う。

(……まあ、特別やりたいことがあるわけじゃなかったし……)
 友達とどの高校にするか騒ぎながら紹介本を見て、どこの制服が可愛いだの、どこは英語に力を入れてるだの、どこはスポーツ特待があるだの話していたことが懐かしい。

 本来なら、奨学金をとって、両親に少しでも楽をさせてやろうと選んだ高校だったのだけど、あてが外れて受験したはばたき学園は、想定以上にレベルが高く、私は合格がやっとだった。

(そういえば、中庭であったオジサン、元気かな)
 ふと思いを馳せたのは受験日にあったスーツを着こなした、ロマンスグレーという言葉がしっくりと来る壮年の口髭を湛えた男のことだ。父親よりもさらに上の様子だったが、どこのだれなのだろうか。

「君」
 考え事をしていた私は、背後からの鋭い声にビクリと肩を揺らした。

「ここで何をしている」
「あ、あの、学校の下見、です」
 振り返った先にいるスーツの男を見て、落胆と同時に非常な罪悪感に苛まれ、私は下を向いた。

 整いすぎた顔立ちだけならまだしも、鋭い眼光は氷点下を思わせる寒さで、もう桜も綻ぶ季節だというのに、私は無意識に腕をさすっていた。

「……新入生か」
「はい。あの、引っ越してから、まだちゃんと見たことがなかったので」
「引越?」
「は、はい。あの、もしかして、勝手に入っちゃいけなかったんですか?」
 返答がないので恐る恐る男を見上げると、まだこちらを睨みつけている。その目線は非常に心臓によろしくない。

「ごめんなさいっ! あの、もう帰りますからっ、さようなら!」
 挨拶もそこそこにその場を逃げ出した私は、あとに残った彼が何を言っていたのかを知らなかった。

「……そうか、もうそんな季節だったな……」
 何かを懐かしむように綻ぶ桜を見上げ、残された教師は仄かに微笑んでいた。



p.2

 学園から慌てて飛び出した私は、とりあえず離れようと必死に足を動かしていた。明日から生徒になるのだとしても、今はまだ部外者なのは間違いない。学校だから、不法侵入とかで怒られたりとか。いやいや、だって、私名前も何も言っていないし!

 考え事をしながら歩いていたせいだろうか、ふと辺りを見回した私は、そこが来る時に通った道でないことに少々青ざめた。

(あれ? ここ、どこだろう。迷っちゃったかも……)
 しかし、立ち止まっていても状況が改善されるわけではない。鬱蒼としたツタや雑草に覆われた塀づたいに道を探していると、道ではなく、塀の入り口みたいなものが現れた。手入れもされていないせいで、入り口かどうかもよくわからない。とりあえず、その向こうを覗いてみた私は、再び首を傾げることになった。

(なんだろう? あの建物……)
 塀をくぐり抜け、敷地の中に入ると、こじんまりとした建物が目の前にはっきりと存在を主張している。

(教会、かな。ツタと雑草で、よくわからないけど……)
 なんとなく足音を忍ばせて、入り口に近寄ろうとした私は、次の瞬間びくりと肩を震わせた。

「今はだめだ」
 咎めるような鋭い声ではないけれど、それは確かな否定の言葉だ。今はダメというのは、つまりは入れないということだろうか。

 私が振り返ると、塀の上からこちらを嬉しそうに見下ろす男の子と目があった。年はたぶん同じぐらいだろうけど、金髪に光の加減で少しだけ赤みの強い目が印象的だ。その面立ちはモデルかと思うほど整っていて、単純に綺麗な子だと印象付けられる。白い長袖のシャツに濃紺のズボンというラフなスタイルだけれど、それがまたブランドでも着ているのかというほどに良く似合う。

 答えない私に、彼は続ける。

「その教会に、入りたいんだろ?」
「え? あの……」
「鍵がかかってる。中には入れないよ」
 彼の言葉に、そうだ、そんな話をしていたのだったと思いだした。鍵がかかっていると知っているということは、彼はこの小さな教会の関係者なのだろうか。

「すみません! わたし、帰り道を探してたら……」
 私がとっさに謝ると、少年が不思議そうに尋ねてきた。

「どうして謝んの?」
「だって……この教会の人じゃ、ないんですか?」
 私の問に、彼は首を振る。

「いや? 俺も、帰るところが、わからなくなったんだ」
 ホッと私は小さく息をついた。勝手に敷地に入ってしまっているし、どう考えても不審者だったから、関係者だったら両親に迷惑をかけるところだった。しかも、彼が言うことが本当なら、私と大差ない理由でここにいるわけだ。

「なんだ。じゃあ、わたしと一緒ーー」
 私がそれを口にしようとした時、彼は思わぬ行動に出た。

「よっ、と」
「あぶない!」
 塀から飛び降りた少年は、私の心配を他所に、何でもない風に着地を決める。でも、どう見ても一階分以上ありそうな高さだというのに、彼は本当に平然と私の前に立った。

 並んでみると、彼は想像以上に背が高くて、少しだけ私は顔を上げなければ彼の目を見られなかった。

「あんなに高いところから……ケガ、しなかった?」
「平気。それより、もう、遅いから帰ろう。送ってく」
 何でもない風に彼は言い、歩き出した。速度は早くもなく遅くもなく。私は少しだけ早足で、彼の後を追いかける。

 どうして追いかけたのか、自分でもわからない。もしかすると、同じ迷子仲間ということで、気を許していたのかも。だけど、彼に付いて行けば帰れる、となんとなくの確信があった。

 私の前を無言で歩く彼は、なんとなく嬉しそうだったけど、なんでだろう。

「着いた。ここだろ?」
 考え込んでいると、不意に彼が立ち止まって言った。ここ、と彼が立った家は確かに私の家だけど、今日引っ越してきたばかりの家をどうして彼が知っているのだろうか。

「うん、ありがとう。でも、どうしてわたしの家、知ってたの?」
「さあ、どうしてだっけ?」
 目線を少しだけ逸らして、はぐらかすような少年に、私は首を傾げる。知っている、ということは、もしかして私は彼の知り合いだったのだろうか。

 不思議そうな私に彼は苦笑し。

「じゃあな」
 あっさりと背を向けて歩き出した。色々疑問はあるけど、そういえば、と一番重要なことを思い出し、彼の背中に私は声を投げる。

「待って、帰り道がわからないんじゃーー」
 だけど、私の問いかけに対して、少年は「思い出した」とあっさり返して、去ってしまった。

 残された私は、門の前でもう一度首を傾げる。

(ヘンな人……。でも、ちょっと素敵な人だったな)
 この先縁があるとは思えないけど、偶然とはいえ少しだけ得したな、と私は玄関に手をかけたのだった。



p.3

「もういいかい?」
「まあだだよ!」
 夢の中の声が脳裏で木霊しているのを聞きながら、私は微睡みの余韻に浸っていた。

 小さな時に一緒に遊んだ二人の男の子、ルカ君と、コウ君。いつも一緒に「かくれんぼ」をしてくれていた。

 ルカ君はかくれんぼの最中にサクラソウが妖精の鍵だって話をしてくれて、私が引っ越すって話した日も、三人で一緒にそれを探した。離れても、また会えるようにと、妖精さんにお願いしようって。でも、もうどこにもあの花は咲いてなくて。

(二人とも、今ごろどうしてるだろうな。まだこの街にいるのかな)
 私が引越した後、ずっとここにいるのかどうかなんて知るすべはない。わかっているのは名前だけで、探しようもない二人の男の子に思いを馳せていた私は、大きくなる目覚ましの音によって現実に引き戻された。

 慌てて、目覚まし時計と止めて、ベッドの上で息を吐く。

「そうか、夢だったんだ……ルカ君と、コウ君。懐かしいな……」
 もしかして、昨日の男の子がそうだったりして、なんて苦笑した私は時計に目をやり、今度こそ本当に目を覚ました。

「いけない! 遅刻しちゃう!!」
 今日ははばたき学園の入学式だ。遅刻は絶対に出来ない。

 朝食を食べてから、真新しい制服に袖を通し、身だしなみを整えて。最後に姿見の前で全身を映して確認する。

「さて、と……髪も制服もOK! 忘れものも、無し!」
 鏡の前にいる自分に自信をつけるさせるように、私は笑顔を作る。特別美人でも特別可愛くもない顔は、生まれた時からさほど変わらずそこにある。体型も純日本人らしく、慎ましやかな胸が少し寂しいが、制服の上ではまったく支障なし。

「今日からわたしも高校生、気合い入れて行こー!」
 気合を入れてから、私は意気揚々と玄関へ向かった。

「お母さんたちは後から行くから、気をつけてね」
「はーいっ、行って来まーす」
 新しい革靴に足を入れ、私は一度後ろを振り返って、両親に笑顔で挨拶する。いってらっしゃいと見送ってくれた母親と、リビングから顔だけだした父親に手を振り、私は一人で玄関をくぐり抜けた。

 ドアの向こうは入学式日和とでも言うような、清々しい青空が広がり、細く棚引く雲がゆっくりと風に流されている。可もなく不可もない、良い天気だ。

「外はいい天気! わたしの高校生活、いいこと、ありそーー」
 鼻歌を歌いながら家の門を抜けたところで、私は歩いてきた誰かにぶつかり、少しよろけた。

「わっ!」
 ぶつかった相手は身体の大きな男だった。黒髪を後ろに撫で付け、細い目で私を見下ろす不機嫌そうな顔は、眉間に皺を寄せている。

「危ねぇな、おい」
「ご、ごめんなさい」
 よそ見して飛び出した私が悪いのは明白なので、素直に頭を下げて謝る。普通なら、それだけでどんな相手もいなくなってしまうものだけど、男はなかなかそのから動かない。

「すみません、あの、わたし、学校に行かないと」
 他に何かあるのだろうか、まさか慰謝料払えとか言われるんじゃないかと青ざめていると、男が舌打ちした。

「え?」
 不機嫌だけど、えと、なんだろう。

「見ろ、ビビってんじゃねーか。どうすんだよ?」
 男が誰かに声をかける。え、もう一人いるの、と男の視線を追った私は、目を見張った。

「やっぱさ、コウの顔が怖すぎるんだ。どう見ても悪者だから」
「ひとのこと言えんのか、テメェは」
 そこにいたのは昨日の男の子だ。昨日のようなラフな服装ではなく、制服を着ている。

「あっ! 昨日の」
 私が思わず口に出すと、昨日の子は首を少し傾げて微笑んだ。

「二人揃ったら、思い出すかと思ったんだけど。ダメ?」
 彼の言葉を脳内で繰り返した私は、さっきの彼が呼んだ名前でひらめく。でも、まさか、という思いの方が先に立ち、疑問形になる。

「二人って……じゃあ、もしかして、ルカ君と、コウ君!?」
 私があげた言葉に、先にぶつかった男のほうが機嫌良さげに答えた。こっちが、コウ君だろう。

「ああ」
「当り」
 続いて答えた男の子の方がルカ君。だけど、夢の中では二人とも黒髪の男の子じゃなかったっけ。

「えぇっ!?」
「美咲ちゃん。おかえり」
 驚く私に、ルカ君は柔らかく微笑んでくれた。

 時間も時間なので、私たちは歩きながら話すことになった。主に話してくれるのはルカ君で、コウ君は一歩先をダルそうに歩いている。

「じゃあ、これからは、三人一緒にはばたき学園に通えるんだね?」
 私が確認したのは、二人がどうみてもはばたき学園の男子制服を着ていることだ。聞けば、二人とも私と同じく、今日からはばたき学園の生徒になるんだそうだ。

「いきなり退学にならなければ」
 あっさりと返ってきた、不穏な応えに私は眉をひそめる。

「退学って……そう言えば二人とも、なんて言うか……小さい頃と、変わったね?」
 夢の中でのことしか覚えてはいないけれど、二人ともこんな風じゃなかったというのだけはわかる。少なくとも、今の二人は、その、危険な感じの不良っぽいのだ。

「あれから、コウはグレたから」
「“二人とも”っつってんだろ」
 ルカ君のやはりあっさりとした言葉に、先を歩いていたコウ君がすかさず訂正を入れる。

「二人とも、グレちゃったの?」
 グレたということは、やっぱり不良ということでいいのだろうか。再会して数分だけど、乱暴そうなコウ君はともかくとして、ルカ君にそういう雰囲気はみられない。

「チッ……オマエが変わらなすぎなんだよ」
 先を歩いていたコウ君が舌打ちする。

「そうかな? そんなことないでしょ」
 もしも知らなければ怖くなったかもしれないけれど、思い出してしまえばやさしいお兄ちゃんなコウ君だから、私は平然と言い返した。

「ぜんぜん変わんない。俺、すぐわかった」
 それに対して、コウ君ではなくルカ君が応える。

「うーん、それはそれで、ちょっと」
 確かに教会でいきなり話しかけられたけど、その時点でわかっていたと言われてしまえば、かわっていないのかもしれないけど。幼稚園児に比べれば多少の成長はあるはずなんですけど。思わず自分の胸に視線を落とした私は悪くない。

「チンタラ歩いてると遅刻すんぞ。入学早々、目付けられたくねぇんだよ」
 一応私に合わせているから二人はゆっくり歩いてくれているつもりなのだろう。だけど、私はとっくに早足だ。

 あれ、でもコウ君も「入学」ってこと? ルカ君が同い年なんじゃなかったっけ。小さい頃はなんとなくお兄ちゃんって思ってたけど。

「そういえば……兄弟そろって入学式なの? 確かコウ君の方がお兄ちゃんだよね?」
 私が素直に疑問を口に出すと、何故かルカ君がじっと私を見てきた。

「どうでもいいだろ。そういう家もあんだよ」
 コウ君も輪をかけて不機嫌になる。私、聞いちゃいけないことを聞いちゃったみたいだ。

「そっか……ごめんね?」
 私が謝ると、ルカ君が茶化す。

「おっかねーな、お兄ちゃんは」
 あれ、なんでかな、今の「お兄ちゃん」って、違和感がある。ルカ君っぽくないっていうか、ああそうか、「二人とも」グレたって言ってたっけ。

「キモチ悪ぃんだよ。あぁ……ダメだこりゃ。走るぞ」
 走りだしたコウ君に続く前に、ルカ君が言う。

「美咲ちゃん、Bダッシュ!」
「えっ!? ちょ、ちょっと待って!」
 いきなり走りだした二人に置いていかれないように、私も足を動かし、走りだす。たぶん、二人とも本気で走ってなんかいない。現に、時々振り返りながら、二人とも私が追いつける速度で走ってくれてる。

 運動なんて、しばらくしてなかった。だから、あっさりと息が上がってしまった私だけど、それでも二人が待っててくれるから、必死に足を動かし、伸ばされたルカ君の手に捕まろうとした。

 でも、簡単にはその手はつかめなくて。

「っ、ま、待って……!」
 コウ君が立ち止まっているのが見えて、その隣にルカ君も並ぶ。

「間に合ったか」
「余裕」
 ルカ君の言うように、二人とも息も切れてない。なんで、私ばっかり疲れてるの。今日、入学式なのに!

「ハァ……ハァ……もう! 二人とも、ちょっと待ってーー」
 その二人にもう少しで追いつくと思ったところで、その声は突然私の耳に割り込んできた。

「お、おい。あれ、まさか桜井兄弟じゃ」
「桜井兄弟って、例の、あの!? マジかよ、聞いてねーよ!」
「なんではば学にいんの!? やだぁ、なんか怖い~」
 なんで、そこで私は足を止めてしまったんだろう。二人まで、あと二、三歩で手が届くのに、いきなり二人が遠いところに行っちゃったみたいな気がしたからだろうか。

(なんか、ルカ君たち、すごく有名みたい)
 立ち止まった私を見て、コウ君は仏頂面のまま、ルカ君は寂しそうな笑顔のまま、私を置いていってしまったのだった。

 残された私は、人波に流されるように体育館へ向かって、一人で入学式に出たのだった。

あとがき

GS3のヒロイン設定を考えていたら、こんなキャラが出来上がった。
久々にGSで夢を書きたい気分です。
今のところイチオシは桜井兄。
あ、序盤の断られるのは精神的に来るので、そういうのは割愛です。
だって、夢だもの。


今のところ、自己満足なので公開は未定。
つか、この時点でまだメインキャラ出てないとかどうなの、私。
主人公も中学までの友人たちに未練ありすぎ。どうなの、それ(苦笑)
(2013/1/15)


OP見なおして、台詞保管してきた。
うん、これで当面のヒロイン設定は桜井兄弟ラブですよ。
(2013/01/16)


このままズルズル書きためてしまいそうなので、公開。
ヒロイン名はWikipediaの「さくらそう」項目内から決定。
安直とか言わない。
久々に悩んだわりに、単純ですが。
(2013/01/23)


気に入らないので、デフォルト名を変更。
苗字はここで使っていないため、保留にしとこう。うん。
(2013/02/15)