GS>> GS3@桜井兄弟 - I Still..>> 11. Hatsumode

書名:GS
章名:GS3@桜井兄弟 - I Still..

話名:11. Hatsumode


作:ひまうさ
公開日(更新日):2013.3.1
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:3601 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:荒川/美咲
1)
コウと初詣

前話「10. Xmas Party (first year)」へ p.1 へ あとがきへ 次話「12. Limit and tears」へ

<< GS<< GS3@桜井兄弟 - I Still..<< 11. Hatsumode

p.1

 人混みの中で一息ついた私は、新年早々途方に暮れていた。こんなことなら、やめとくんだった、と。

「混んでやがんな、おい……こいつら全員神頼みか?」
「お参りだよ。琥一くんだってそうでしょ?」
「俺はオマエ、運任せよ」
「カッコつけて言ってもおんなじだよ」
 隣にしっかりと寄り添ってくれる強面の幼馴染みは、少し愉しげに見える。まあ、普段着であれば私もここまで疲れはしなかったかもしれない。

 事の起こりは、年明け早々の琥一君からの電話にあった。年越しで普段より遅く寝た私は、普段よりもゆっくりとした時間で目を覚ました。つまり、昼過ぎだ。私を起こしたのは、琥一君からの電話だった。

「おう。初詣、行くぞ」
 ごく軽い調子だけれど、気負う所の全く見えない誘いに、寝起きながらも気分よく私も返事をする。

「うん、行く!」
「おう。そっち、行くからよ。準備しとけ」
「うん、わかった」
「そうだ。あぁ……あんまり待たせんなよ?」
 どこか含みのある言い方に、クスクスと私も笑う。

「はぁい」
 電話を切って、出かける準備をするために洗面所へ向かう途中、リビングでテレビを見ている両親に挨拶をする。

「お父さん、お母さん、明けましておめでとうございますー」
「おそようさん、美咲」
「ちょっと出かけてくるー」
 それから洗面所で歯を磨き、顔を洗って、自室へ戻ろうとした私を母が呼び止めた。

「お友達と初詣?」
「そー……友達……友達?かなぁ。ほら、お母さんたちも知ってるでしょ。コウ君たちから誘われたの」
 友達なのかなぁ、とカラカラ笑っていたら、急にがっしりと両肩を抑えられ。

「まあまあ、そうなの? じゃあ、しっかりとおめかししないとね」
「へ? いや、混んでるし、あんまり気合入れて行くと疲れちゃうって」
「いーからいいから」
 母に上手く丸め込まれ、気がつけば晴れ着を着付けられて。終わったタイミングで、丁度玄関のチャイムが鳴るという奇跡。母に逆らうのはとっくに諦めていた私は、琥一君に笑われるのを覚悟で出かけることになってしまったのだ。

 そして、私の晴れ着姿に対し、予想通りの評価をいただきました。

「いいじゃねぇか、七五三みてぇでよ」
「……似合わないってこと?」
「悪ぃ。あ、いや、悪かねぇ。ククッ……」
「もう!」
「褒めてんだろうが。むくれんな、晴れ着が台無しだ」
 どこが褒めてるっての。どうせ、馬子にも衣装ですよーだ。

 そっぽを向く私の頭を軽く叩いて、琥一君が促す。

「ほら、行くぞ」
 私の後方に軽く頭を下げたのは、少し両親に気を使ってくれたのだろう。私も家の中に向かって、声を張り上げる。

「行って来ますー」
 慣れない着物で歩き出した私に、さりげなく琥一君は手を貸してくれて。二人で歩いて神社へと向かったまではいい。その後は予想通りの人波に流され、境内に着く頃には私はヘトヘトで。

「ほらよ、甘酒だ」
「ありがと」
 屋台で買ってきたらしい紙コップを渡され、私は木に寄りかかったままそれに口をつける。そっと隣を見ると、琥一君も同じように甘酒を口にしながら、人並みを見ていた。

 歩きながら、ずっと疑問に思っていた事がある。

「……てっきり、二人で迎えに来るかと思ってたんだけど……」
「ルカなら寝てるぞ。昨夜は徹夜だったからな」
 愉しげに苦笑する琥一君もおそらくは徹夜のはずだ。だけど、同じように徹夜して、どうして琥一君がここにいて、琉夏君がここにいないのだろうか。

「……私、琉夏君に嫌われてるのかな……」
 小さく小さく呟き、そのまま甘酒に口をつける。心当たりはないこともない。クリスマスの時も思ったが、琉夏君は優しいくせに私と線をおいている。もしも琥一君がいなければ、話すことはもっと少なかったかもしれない。

「チッ、余計なこと考えんじゃねぇ」
 後頭部を叩かれ、私は恨めしげに琥一君を睨む。だけど、私を見下ろす琥一君はどこか苦しそうに見えて。私は理由のわからない息苦しさに、胸を軽く抑えた。

「ほら、行くぞ。離れんなよ」
 琥一君が私の手を取り歩き出す。引っ張られるままに私も歩き出し、幼馴染みの大きな背中を見つめた。

 昔、一緒に遊んでたといっても、それは本当に小さな頃の話だ。それに互いに記憶は朧気なはずで、妹分だなんて言っても構ってくれる理由には程遠い気がする。現に琉夏君は必要以上に近づいてはこない。

 もちろん、自分が二人に甘えているという自覚はある。知り合いのいなかったはばたき市で、唯一私の小さい頃に遊んでくれた二人のお兄ちゃんだ。頼るなという方が難しいだろう。

 だけど、必要以上に接しないようにしてきたのは私も同じだったのに、バイトの面接のあの日以来、琥一君は特に私を気にかけてくれるようになった。それは、何故だろうか。

 賽銭箱の前に着いた私たちは、並んで手を合わせる。でも、私の中はごちゃごちゃとしてまとまらないままだ。

(とりあえず、勉強、がんばろう)
 昨年末にようやく許可の降りた調理室の使用には、学業キープが絶対条件だ。そして、続けることが出来たら、少しは琉夏君との境界が薄まるかもしれない。だから、結局自分で頑張るしか無いのだろう。

 祈り終えた私は、再び琥一君の背中を追いかけて、賽銭箱の前を離れた。

「すごい人だったけど……琥一くんの後ろにくっついてたから楽だったよ。背が高いといいね?」
「ま、そんなことくれぇだ、デカくて得なのは」
 自分でも私は無理して笑っている気がしたけど、琥一君は何も聞かずにいてくれた。

「おう、もう帰んだろ?」
「そうだねーーあ、おみくじ」
 お参りを終えた人たちの半数以上が向かう先に目をやると、簡易テントにおみくじが設置されているのが見える。

「おみくじ引いてみようよ」
「金の無駄だ。やめとけ」
 身も蓋もない言い方に、私は子供っぽく口を尖らせた。確かに、お金は大切だけど、一年最初の運試しぐらいはいいじゃないかと思う。

「お正月くらい……ね、琥一くんも引こう?」
「やなこった。メンドクセー」
「いいから、ほら!」
 面倒がる琥一君を引っ張っていって、私は財布から二人分のお金を出して、自分の分を引く。

「おい」
「無駄遣いするのは私のお金なんだからいいでしょ。お年玉だよ」
「チッ」
 琥一君たちの場合は、生活費を削ることにもなるので、とっさに判断してそうしたが、琥一君は文句を言いながらも御神籤を引いてくれた。

「吉だ。……なんだこりゃ?」
「普通ってこと?」
「普通だ? そんな運じゃ、任せていいか分かんねぇじゃねぇか」
「努力次第ってことだよ」
「なことは、神様に言われねぇでもわかってんだよ。手ぇ抜きやがって」
「バチあたりだなぁ」
 呆れるほどに当たり前の会話をしながら、二人で御神籤を結び、参道の帰路へと向かう。

「おい、で? 次は何すりゃいいんだ?」
「これでお終いだよ? 後は帰るだけ」
「なんだよ、拍子抜けだな」
「ふふっ、楽しそうだね?」
「あ? ……んなこたぁ、ねぇよ。行くぞ」
 そして、当たり前みたいに手を繋いでくれる琥一君を、私は歩きながら見上げた。

 子供の頃はここまで体格差もなかっただろうけど、なんとなく手を引いてくれたのは覚えている気がする。そこに自分が確かに信頼を寄せていたのもわかる。最近見る夢は、そういう夢ばかりだ。

 もしも初夢がまたあの頃のものだとしたら、私たちは元のような関係になれるのだろうか。三人で遊ぶことができるだろうか。

(無理だよねぇ)
 哀しいけれど、同じように遊ぶことはできないだろう。だって、もう私はあの頃の二人が、女の子である私に気を使って「かくれんぼ」をしてくれていたことに気づいている。もしも今同じようにしても、きっと私は怒るだろう。気を使うなと、私も一緒にヒーローごっこをするのだ、と。

「フフッ」
「どうした?」
「なんでもないよ」
 隣で急に笑い出した私に琥一君は訝しげな目を向けてきたけど、想像に笑う私は気にすることをやめた。

 重なりあった手を強く握られ、私は苦笑しながら幼馴染みを見上げる。

「ルカの馬鹿に、何か言っておくことはあるか?」
「琉夏君に? ないよ。あったら自分で言うし」
「……そうか」
 家の前に着いて、漸く琥一君から手を離される。繋いでいる間温かかったせいか、一月の風でより寒さを感じる。それでも、両手を重ねあわせながら、私は笑顔で琥一君に礼の言葉を口にした。

「ありがとう。琥一くん、今日はどうするの?」
「バイトだ。正月は稼ぎ時だからよ。浮かれた客がチップくれる」
「お年玉狙いか……頑張って!」
「おう」
 去っていく琥一君の背中を見送り、その背が見えなくなってからも暫くの間、私は玄関の前で立ち続けていた。

(今年も、琥一君と琉夏君にとって、実り多い一年になりますように)
 そんなことを願いながら、晴れた空を見上げて吐き出した息は、周囲を一瞬だけ白く染め上げ、すぐに空気に溶けて消えていったのだった。

あとがき

空気を読んで、コウと初詣。
誘われたこと無いけどな…!
あ、今日は方々で卒業式でしょうか。
卒業生の皆さん、おめでとうございます。
(2013/03/01)