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書名:GS
章名:GS3@桜井兄弟 - I Still..

話名:12. Limit and tears


作:ひまうさ
公開日(更新日):2013.3.2 (2013.3.13)
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:4138 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:荒川/美咲
1)
コウに慰められるイベントなんて、なかったけど捏造。

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p.1

 一月に入り、三学期が始まり、何事も無く日常が過ぎていく中で、私は調理室の窓でため息をついていた。今ここにいるのは私だけで、戸締りもしてあるから誰に邪魔をされるわけでもない。

 ここを使用できるようにしたのは、幼なじみたちのためというのもあるが、こうして一人でいる時間のためでもある。カレンさんやみよさんと仲もいいけれど、時々一人になりたくなるのは何故だろう。

「はぁ」
 零れたため息に苦笑する。

 室内に暖房があるわけではないが、きちんとコートは着込んでいるし、日当たりもいい教室は窓を開けていないためほのかに温かい。もちろん、その原因の一端は先ほど淹れたばかりのコーヒーにあるわけだが。

「おいし」
「荒川、開けろ」
 小さく呟くと戸口から囁くような声が聞こえた。振り返っても、室内に誰かがいるわけもない。

「俺だ」
 ということは戸口にいるのだろう。

「残念ー、昼休み以外は他の生徒を入れちゃいけないことになってるんだぁ」
「馬鹿言ってんじゃねぇ」
 軽く戸口を蹴る音に、私は息を吐き、腰を上げて戸口の鍵を開けた。直ぐ様入ってきた琥一君に苦笑しつつ、戸は閉めずにそのままにする。

「どうしたの、琥一君。バイトは?」
「今日は休みだ」
「へぇー、珍しい。コーヒー飲む?」
「おぅ、頼む」
 鍋に水をためて、コンロに掛ける。ヤカンなんてものはここにない。

「……戸、閉めろよ」
「ダメだよ。ここ使えなくなったら、困るし」
「チッ」
 舌打ちを笑っていると、琥一君が近づいてきて、隣に立つ。

「暖房ねぇのかよ」
「そんなものはカイロで凌いでよ」
 はい、とコートのポケットから取り出し、手渡す。琥一君は文句を言いながらもそれを受け取る。

「あったけぇ」
「もう一個いる?」
「……ククッ、何個持ってんだよ」
「えーと、コートのポケットに二つでしょ。、制服のスカートと上着に一つずつ。後は……」
「そこまでして、こんな寒い場所で何考えてた」
 急に静かな問いかけが降ってきて、でも私は見上げずに苦笑した。

「くだらないことだよ」
 私がそう言ったのに琥一君は何も言わずに続きを待っているみたいだった。だからだろうか、続けてしまったのは。

「もしこの街に戻らないで、あっちの高校に進学してたら、今頃どうしてただろうなって。小学校から仲のいい友達だっていたけど、もっと別な出会いだってあったかもしれない。だけど、全部を捨てて、私はイイコのふりをして、ここに戻ってきた。それなのに、こんなふうに好き勝手にやってる。それって、どうなんだろうって、考えてた」
 口に出してみたら本当にくだらなくて、自然と苦笑がこぼれていた。お湯が湧いたのでコンロの火を止め、元栓を締める。

「荒川、オマエ……」
「いい子でいればいいことがあるなんて信じていられるほど、子供じゃないつもりだよ。だけど、いい子でいたって、願いがかなわないと知っているから、私はこうして一人で反発してるんだと思う。結局、ここの許可証を取ったのも、琥一君達の家出と似たようなものなのかもね」
 だから、家に帰る時間をこんなふうに引き伸ばしているのかもしれない。

 コーヒーを淹れてから、手渡すために私はようやく幼馴染みを見上げた。いつになく真剣な琥一君を見て笑ってしまう。

「冗談だよ。だから、気にしないで」
「……本当か?」
「琥一君がそれ飲み終わったら、片付けて帰るかなー。予習してるから、声かけて」
 教卓近くに置いておいた鞄から教科書と筆記具を取り出し、私は椅子に座って目を通し始めた。でも、内容なんて全然入って来なかった。だって、視線が痛い。

(まずいなぁ)
 カチカチと意味もなくシャーペンの芯を出す。と、突然手応えがなくなって、目の前から長い芯が落下した。しまった、やりすぎた。拾い上げて、芯を中に戻し、次の芯が出てくるまでカチカチとシャーペンをノックする。

「おい」
「ん、飲み終わった?」
 光を遮るようにできた影が急に消えて、教科書越しに琥一君が私の顔を覗き込む。ちょっと笑っているようだ。

「無理すんなって言ってんだろうが」
「わっ」
 それから伸びてきた大きな手が、いつものように私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。容赦の欠片もないその行動は、必然的に髪がぐしゃぐしゃになるので、止めてほしい。でも、気持ちいいとも思うので止めてほしくない気もする。ーーどっちだ。

 どちらにしても、今私はすごく泣きたい。泣いてしまいたい。

「……琥一君、あっち向いてて」
「あ?」
「いい、やっぱり私が向く」
 椅子から身体を反転させ、急いで琥一君に背を向けると、すぐに目元からそれが溢れでた。気づかれないように、声を殺す。

「……荒川?」
「片付けはしておくから、先に帰ってて」
「……おい」
「お願い、一人にーー」
 一人にしてと言う前に、私は何か大きなものに包まれていた。

「バカか、オマエは」
 できるわけねぇだろ、という声も布越しに聞こえてくるからくぐもっている。つまり、私は今男物のブレザーを頭から被せられて、ーー琥一君の腕の中にいるらしい。

「だから、無理する前に言えっつっただろーが」
「……コウ、くん……」
「あのな、オマエが無理してたのなんて、最初っからわかってたんだよ。親の都合で引越しさせられて、わけもわかんないまま、再会した幼馴染みに戸惑ってただろ。だから、俺もルカもこれ以上オマエに負担をかけねぇために、あんま近寄らねぇようにしてたんだ。なのに、オマエはなんでか近寄ってくるわ、妙なお節介は焼こうとするわ。おかげで、俺はーー」
 珍しく饒舌な琥一君の言葉が止まったけれど、私は混乱の最中にあったため、まったく聞いてはいなかった。というか、これどういう状況なの。なんで、私、琥一君に抱きしめられてるの。おかげで、吃驚して、涙は止まったけど。

「えーと、琥一、君?」
「…………おぅ」
「あの、離して、くだ、さい」
 しばらくして温かさが離れてから、私は琥一君の上着の中で、ごそごそとポケットを探り、ハンカチを取り出した。目元を抑えて、パチパチと瞬きする。涙はもう、溢れない。

「急にゴメン。これ、ありがと」
 上着を外して、振り返って渡すと、琥一君は少し照れた様子で受け取った。目線は私から外れているので、思った通り照れているのだろう。私も、少し恥ずかしい。こんななんでもないことで泣き出すなんて、子供みたいだ。

「じゃあ、片付けて帰ろうかな。琥一君も暗くなる前に帰ったほうがいいんじゃない?」
 席をたち、幼馴染みの隣をすり抜け、使っていた湯呑を洗う。ここにコーヒーカップなんてあるわけもないが、湯呑は何故かたくさんあるんだ。

 洗い終わるのにそう時間はかからなかったが、振り返った私はそこにいる幼馴染みの姿を見とめて、ひどく驚いた。

「……帰るぞ」
「え?」
「ほら、早くしろ」
「あ、うん」
 戸口から外へ出た琥一君の後を思わず追いかける。というか、私の鞄は何故か彼の手の中だ。疑問に思いながらも調理室を出て、鍵をしめるのは忘れない。

「待って、琥一君」
「行くぞ」
「鍵、職員室に戻さないといけないんだけど」
「あぁ? ……早くしろ」
「う、うん」
 それから、促されるままに職員室に鍵を返したときには琥一君の姿はなかったのだけど。まさか、昇降口で待っているとは思ってなかったですよ。

 琥一君は私が靴を履き替えたのを見て、正門に向かって歩き出す。その後を少し遅れて歩く私は、しきりに首を傾げていた。

「そういえば、今更だけど、なんで琥一君はあそこに来たの?」
「あ?」
「あの辺りって、特別教室ぐらいしか無いし、放課後に使ってる部活って手前までしかなかったよね」
 たしか、手芸部あたりが使っている教室があった気はするけど、どうだっただろうか。ちなみに、手芸部で調理室を使うこともあるので、その時は部活動優先ということで既に手芸部部長と話しはついている。

「……チッ」
「あ、何舌打ちしてんの?」
 足を早めて隣に並び、琥一君の横顔を見上げる。ん、なんか気まずそうに目線そらされたんだけど。

「なんでもいいだろうが」
 それ以上追求してくれるなという雰囲気に、私は口をとがらせる。

「別に、いいけど。さっきも言ったように、昼休み以外は他の生徒を入れちゃいけないことになってるんだから、琥一君も来ないで」
「……別にいいじゃねぇか」
「でないと、あそこ使用禁止になっちゃうし、ーー困るよ」
 そう、あそこでないとつけない息がある。家でも、友達の前でも、当然幼馴染みの前でも作れない、素の私のやすらぎの場所。そんな場所になりつつあるのに、失いたくはない。

「……一人で……」
「え?」
「なんでもねぇ」
 視線を感じて顔を上げる、琥一君が丁度目をそらしたところだった。見られていたのだろうか。

(まあ、いいか)
 夕日の落ちる道を歩きながら、私はぼんやりと考えていた。どうして、この幼馴染みはこんなにも私を気に掛けるのだろう。どうして、一緒にいてくれるのだろう。

(無理、してるつもりなんてないんだけど)
 どうして、さっき自分はみっともなくも泣いてしまったのだろう。時々から回ってしまう歯車みたいに、ゆっくりと自分の時間がずれていく感じがして、私は少しだけ顔色をなくした。

 私と周囲の関係は、けっこう綱渡りだと自覚している。みよさんもカレンさんも、クラスメイトたちもそれなりに優しい。でも、それはこんな私の本性を知らないからでもあるだろう。そして、それは幼なじみたちにも当てはまるはずだ。

(まだ、大丈夫、だよね)
 立ち止まり、自分の胸に手を当てる。気づいた琥一君が立ち止まり、私が追いついてくるのを待ってくれる。私はただ深く息を吸い込み、吐き出す。

 それから、できるだけ元気に見えるように笑顔を作り、琥一君の元まで跳ねるように足を早めて追いつき、追い越した。

「琥一君、次の水曜日は何食べたい?」
 様子を変えた私に少しだけ目を瞠った後で、琥一君は困った様子でわずかに口端を上げた。どうやら、見逃してはもらえるらしい。

「ステーキ」
「ちょっと、学生の財布に無茶言わないで! ……まあ、前日に牛肉が安かったら、してあげてもいいけど」
 互いに軽口を叩きながら歩く道は、いつもどおりの微温さでもって、私を包んでくれた。

あとがき

放課後の憩いタイム。
成績が良くなかったため、制限多いです。
学校の教室とか寒いですよねー。
特別教室とか、めっちゃ寒かった思いでがあります。
暖房はいるけど使っちゃダメとか。鬼か!と。
しかも、よりによって普段の教室の隣が特別室だったんで、級友たちは委員長筆頭に侵入しようと何度も試みてましたね。
(2013/03/02)


暗いのと時期が早すぎる気がするので、ちょっと封印。
(2013/03/04)


えーと、思う所ありまして。再公開。
(2013/03/13)