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書名:GS
章名:GS3@桜井兄弟 - I Still..

話名:13. Don’t let go.


作:ひまうさ
公開日(更新日):2013.7.3
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:3546 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:荒川/美咲
1)
ルカの下校イベント。ヨタ高。

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p.1

 昇降口で上履きから学校指定の革靴に履き替え、昇降口を出る。暦の上では春だというけれど、二月というのはまだまだ寒い。コートとマフラーと手袋まで装備しているというのに、外へ出た途端に吹き付けてきた風に、私は思わず立ち止まり、強く目を閉じていた。

「美咲ちゃん、途中まで一緒に帰んない?」
 近くで琉夏君の声が聞こえたので目を開けると、半歩前で顔を覗きこまれていたので、思わず私は一歩下った。

「あ、琉夏くん」
 さすがに寒いからか、冬になってからの琉夏君はブレザーまでしっかりと着ている。だが、他の生徒のようにコートやマフラー、手袋はしていない。寒さに強いのだとしたら、羨ましいことだ。

「うん、いいよ」
「んじゃ、出発」
 自然と差し出された琉夏君の手に少し迷ったものの、私はそっと自分の手を重ねた。手袋に包まれた私の手を、琉夏君は嬉しそうに強く握って歩き出す。

「そういえば、琥一君は?」
「コウはバイト。……俺だけじゃ、イヤ?」
 私の手を引いて歩く琉夏君は、振り返らずに尋ねてくる。

「そんなことないよ」
「よかった」
 正門を出た辺りから、琉夏君は私の歩くペースに合わせて歩いてくれる。女の子と歩き慣れてるなぁ、なんて言ったら、琥一君だったら怒るだろうけど、琉夏君はどうなんだろう。

「琉夏君、女の子と歩き慣れてるよね」
「……そんなことないよ」
「だって、琥一君はいっつも先に歩いて言っちゃうけど、琉夏君はこうやって私に合わせてくれるでしょ?」
「それは美咲ちゃんだから」
「あはは、巧いなぁ」
「ホントなのに」
「ふふ、ありがと、琉夏君」
 私が笑いながら、隣を歩く琉夏君を見上げると、彼は少し目を丸くして、それから嬉しそうに笑った。

「そうだ、教会の新伝説、聞いてきた」
 はばたき学園にはよくあるゲームみたいな伝説がある。その中に出てくるのが教会で卒業式に告白するとーってやつだ。だけど、あの教会には七不思議以上に伝説が多くあって、どれが本当だか誰にもわからないらしい。

「新伝説!? ……どんなの?」
 私が聞き返すと、琉夏君はこう言った。

「秘密結社編」
「……編?」
 いきなり胡散臭くなった話に私が眉を顰めると、琉夏君は内緒話のように顔を寄せて、声を潜める。

「ステンドグラスがあるだろ? あれが実は秘密のコードになってる」
「コードって、暗号とか?」
「そういうこと。それを秘密結社が守ってる」
「ずいぶん、秘密が多いんだね……」
「そりゃそうだ。バレたら全米が震撼するからね」
「映画の宣伝みたいな話になってきた……」
「映画? ……ありだな」
「ないと思う」
「夢がないなぁ……せっかく考えたのに」
 残念そうでもなく肩を竦めて見せる琉夏君に、私は呆れた顔を向けていた。

「もうちょっと信ぴょう性がほしいなぁ」
「例えば?」
「その秘密結社の総帥が実は学校関係者で」
 私がにやりと謀略の笑みを浮かべて、話し始めた頃のことだ。

「おいおいおい……桜井弟じゃねーか!」
 琉夏君は学外で良く「桜井弟」と呼ばれている。同様に琥一君は「桜井兄」と呼ばれている。これは噂に疎い私でも知っているぐらい有名な呼び名だ。

 先程まで機嫌よく話していた琉夏君の顔から笑みが消える。

「偉そうにはば学の制服なんか着やがって、コラ。一瞬、誰かわかんなかったじゃねぇか」
「チャラチャラ女連れで下校か? イケメンはいいなぁ、コラ」
 私達に声をかけてきたのは、評判の悪い、余多門(よたかど)高校の制服に身を包んだ、二人の男だ。一人はやせっぽっちで狡そうな印象で、ひとりはラグビーや柔道でもやってそうな大柄で体格のいい印象を受ける。

「あのさ、今、オフなんだよ。見てわかんねーかな?」
 私の前では滅多に出さない、低い琉夏君の声。

「この人たち……友達?」
「えぇと……そんな感じ」
 戸惑う私の問いかけに、琉夏君は苦笑しつつ返してくれる。てか、どう見てもその答えには無理があると思うんだけど。

「アラ? 今日はずいぶん大人しいじゃねーか。やっぱアレか? 兄貴がいねーとダメか?」
「ギャハハ!」
 彼らを無視して背中を向けようとした琉夏君だったが、そのセリフを聞いた途端、それまでの雰囲気をガラリと変えて、振り返った。

「待てコラ……今、なんか言ったか?」
「あぁ!?」
 どう見ても一触即発な雰囲気に焦りを覚えて、私は琉夏君の腕を引きながら名前を呼んだ。

「琉夏くん!!」
「友達と話あるからさ、今日は、ここで。ゴメン」
「でも、その人たち――」
 友達なんかじゃないんでしょ、という言葉も、話するとかって雰囲気でもないよね、とか、何一つ口にできないまま、私はやんわりと掴んだ手を外されて、背中を押された。

「いいから、行けよ」
 それが私を巻き込まないためだと、わかるから。

「うん……」
 何の力もない私には、琉夏君の枷とならないようにその場を離れるより他なかった。

 呆然としたまま、一人足を進めて。でも、頭のなかはさっきの琉夏君でいっぱいで。正直、不安で仕方がなかった。

(あの人たち、友達じゃないよね……琉夏くん、大丈夫かな)
 しかも、相手は二人だ。二対一なんて、どう考えても不利だろう。そして、それを知ってて、私は本当にこのまま行っていいのだろうか。

 足を止めて、私は踵を返して走りだした。

(怖いけど、やっぱり戻らなきゃ)
 今なら、まだ間に合うはずだ。

 私が琉夏君から離れて、距離も時間も経っていない。だからか、その声は直ぐに聞こえた。

「どした? ビビッて声も出ねぇか? ほれ、待っててやるから兄貴呼べ?」
「ピーピー、ウルセんだよ。来いよ、オラッ!」
 それは再会してから聞いたこともない、ひどく乱暴で荒々しい琉夏君の声で。

「琉夏くん!?」
 その事実が本当に大変な事態なんだと、私を慌てさせた。続いて始まった喧嘩は、私の予想に反して、琉夏君の圧勝といっても過言ではない。

「オワッ!」
「グハッ!!」
 一方的に殴られ、蹴られているのは数の上では優っているはずの相手方で、琉夏君は、琉夏君は別人みたいに怖い顔で。

(ど、どうしよう……早く止めなきゃ!)
 このままじゃ、琉夏君が何処かに遠くにいなくなってしまう気がして。

「やめて、やめてよっ!!」
 私は涙声で叫んでいた。怖くて足も手も震えていたけど、だけど逃げずに戻ってきた私を見て、琉夏君の顔がいつもの様子戻る。

「なんだなんだ? ケンカか?」
「おい、おまえ達、警察呼んだぞっ!」
 近くを通りがかったサラリーマンらしきスーツの男やどこかの酒屋の店員のような男が言うと、余多門高校の二人は慌てた様子で逃げていった。

 私はというと、安堵とともに力が抜けて、その場に座り込んでしまった。ゆっくりと近づいてきた琉夏君が、私の前にしゃがみ込む。

「もう、どうなるかと思った」
 琉夏君は困った顔で私を見下ろしている。怪我をしている様子もないし、悪びれた様子もない。でも、私の様子に戸惑っているようだ。

「……どうしてケンカなんてするの?」
「そりゃあ、ほら、悪者はやっつけないと。ヒーローとして?」
「また、すぐふざける……本当に、怖かったのに」
 負けるかもしれないと思った時よりも、喧嘩をしている琉夏君の姿がひどく怖かった。琉夏君が、じゃなく、琉夏君がそのままいなくなってしまうことが、怖かった。

「ハァ……だから、さき帰れっつったろ?」
 呆れた様子で琉夏君が私に手を差し出す。私は、その手を支えに立ち上がった。まだ震えているけど、歩ける。そのまま手を引っ込めてしまいそうな琉夏君の手を、今度は私が強く掴み直した。

「わたしが止めなかったら大変なことになってたでしょ? ビックリした……」
 琉夏君は嬉しそうに、私の手をしっかりと握り返してくれた。

「俺もビックリした。“やめてー!!”ってスゲーでかい声で。ヨタ高のやつらビビッてた」
「だって、それは!」
「ハハッ!」
 それから、私の家まで、ずっとふたりで手を繋いで歩いた。家につくまでにはすっかり震えも収まってくれた。

「今日はゴメン。一緒にいるときはさ、絡まれないようにする」
 神妙な顔で謝ってくれたけど、私は少しだけ不安だ。

「うん。……ん? 一緒にいるとき“も”、だよ?」
「も! バイバイ」
「うん、じゃあね」
 去っていく琉夏君の姿が見えなくなるまで見送っていたけど、生まれた不安は全然消えてくれなかった。

(琉夏くんって、どうして、時々、危ないことするんだろう……)
 いや、たぶん、琥一君も二人ともが私の知らない所で今日みたいなことになっているのかもしれない。それが、桜井兄弟、が有名である所以だ。

 これまでが無事でも、これからもそうだとは限らない。

(ーーヤダーーヤダよ)
 押しつぶされそうな不安を抱えたままだった私は、帰宅してすぐに自室のベッドに突っ伏した。

あとがき

突発的に続きを書きたくなった。
期末か遊園地でWデートか迷ったけど、書き始めたら何故かルカとの下校イベに。
あれ?
(2013/07/03)