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書名:読切
章名:パロディ童話

話名:シンデレラ・マジック(笑)10#-12#(完)


作:ひまうさ
公開日(更新日):2015.11.5
状態:公開
ページ数:3 頁
文字数:6806 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 5 枚

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p.1

10. あと1にち(そのいち)



 父が教えてくれた母の通信手段を使い、私はなんとかエリシアと連絡を繋ぐことができた。結果、私は今。

「今更、これを着なきゃいけないっていうのは、嫌がらせ?」
「とても良くお似合いですよ、シンデレラ」
 侍女に扮したエリシアによって、私はあの時のドレスを身にまとっていた。あの運命の舞踏会の日のドレスを。あれから成長しているはずなのに、身体にぴったりとかどういうことだ。特に胸のあたりとか。男として過ごしていた間は気にならなかったが、流石に女として寂しすぎる胸元に溜息が溢れる。

「説明が足りなかったかい?」
「わかってる。わかってるけど、舞踏会が魔法の鍵になってるなんて知らなかったから」
「そりゃ隠してるんだから、知ってたら困るわさ」
 ケラケラと愉快そうに笑うエリシアは、いつ会っても変わりない。あちらの世界は今大変なことになっているらしいのだが、私がここで舞踏会に参加することそのものが抑止力となるとか。

「本当に、これで解決するんですか?」
「するに決まってる。アンタも知っているだろう。魔法族は、楽しいことが大好きなのさ」
 お祭り騒ぎが大好きだから、舞踏会には何を置いても「見物」にくるのだとか。えー

 まって、今ものすごく大きな叛乱中だったんじゃなかったっけ。

「魔法族がそうなのは聞いてたけど、現実にそうだって言われるのはものすごく納得いかない」
「しなくても事実だからねぇ」
 ケラケラと笑うエリシアに沈んだ様子や、真剣な様子はまったく見受けられない。本当にこれでいいのかわからないだけに、不安が募る。

 それが表情に現れていたのだろう。急にエリシアが私の目の前に手を伸ばしたかと思うと、目の前でパチンと叩きました。いわゆる猫騙しというやつで。

「しっかりおし、シンデレラ」
「エリシア……」
「祭りってのは、そんな暗い顔じゃあ楽しめないよ。どうせなら、パーッと派手にやろうじゃないさ」
 彼女がそう口にした瞬間、パッと私の周囲で小さな花がいくつも舞う。ゆらゆらと風に揺られながらも私の髪に、ドレスにと落ちて留まるそれは、魔法族の魔法だろう。

「……綺麗……」
 思わず目を落とし、顔を綻ばせていると、ゆっくりと部屋のドアが開いた。現れたのは、渋面を隠しもしない父様だ。

「こうしてみると、アリシアはユリシアによく似ているよ。私たちが出会った頃の、彼女に。奔放なところや、ユリシアの強さまで似なくても良かったのに」
「父様」
「ユリシアを手に入れ、アリシア、君をこの手に抱いた日を、私はよく覚えているよ」
 眩しそうに、寂しそうに、父様は私を見る。

「いつか、君たちを帰す日が来ると覚悟はしていたけれど。ーー他の男とアリシアが行ってしまう覚悟はしていなかった」
 私はほんのりと潤んだ眼差しが似合う父様に苦笑する。

「私も父様がいきなりいなくなった時はどうしようかと途方に暮れましたわ。しかも、継母様と継姉様お二人と取り残されて」
「うぐっ」
「幸いにも掃除も洗濯も料理も嫌いじゃなかったからいいですけど、普通の貴族女性なら、世を儚んでいてもおかしくないですよ」
「ぐぁ……っ」
 そういえば、別に継母様や継姉様を着飾ったりするのは、別に嫌じゃなかったんだよねぇ。その方向が王家に嫁入りなんてだいそれたものでなく、そこそこの貴族にっていうなら、たぶん本気で応援できた。ーーだって、ほんっとうに王妃様は大変な苦労をしておられるのを知ってたし(亡くなったお母様と親友であったから)、彼女たちには無理だと思ったんだもの。

「色々ありましたけど、別に今日は私の結婚式ではなく、王城で開催される舞踏会ってだけですよ? それに、今まで一緒にいられなかった分の親孝行をさせてください、お父様」
「あ、アリシアーっ」
 抱きついてきた父様の背中に腕を回して、ポンポンと撫でていると、なんだか父親というより弟っぽいと思ってしまった。

「シンデレラ、迎えが来たようだよ」
 親子の情を深めていると、両手を叩いて注意を自分に向けらエリシアが、楽しげに告げてきた。

「迎え?」
「ったく、会場で待ってろって行ったのに、しょうのない王子様だねえ」
 その言葉にお父様は私を抱く腕に軽く力を込めたようだった。

「くっ、あんな男にアリシアを預けなくちゃならないなんて……っ」
「だ、大丈夫ですよ! 今度はエリシアがちゃんと精神物理両方の防御魔法をかけてくれてますし、アレでも国内屈指の剣士でもあられますし、クリス団長もおられますし」
 あれ、クリス団長は奥様に愛人疑惑を保たれるのを恐れて、男の私を可愛がってくれていたわけだから、女に戻った今はもしかして歯止めにならない!?

「アリシア、気をつけるんだよ」
「もちろんですっ」
「……やけに気合が入ってるけど、まあ、そのほうがいいか。いざとなったら、殴り倒してでもいいから、全力で逃げなさい。後のことは私がなんとかするから」
 魔法族に物理って通用するのかな? まあ、効かなかったら、不可視の盾で閉じ込めておけば、後はエリシアたちがやってくれるでしょう。

「はい、お父様」
 そうして、私は舞踏会へとでかけたのでした。



p.2

11. あと1にち(そのに)



 エントランスに出た私を待っていたのは、きちんと正装をしたまさしく王子殿下であられました。元々が美しい方ではありましたが、正装すると倍増です。男の時は感じなかった胸の高鳴りに戸惑っていると、第二王子の頬が緩み、甘く微笑んできました。

「やっと君に会えた、アリシア」
「シャル様」
「……夢ではないのだな。君はもう消えたりしないよな?」
 私を覗き込む第二王子の瞳はまだ不安に揺れている。私だって、何もなければ、きっと最初からこの手を取っていた。

「この作成が成功したら、お話したいことがあるんです」
「別れ話なら聞かないよ」
「違いますよ。あの夜からずっとお伝えしたかったことです」
「あの夜?」
「ふふ、では参りましょうか、シャル様」
「あ、ああ」
 そうして、二人で馬車に乗り込み、私たちは舞踏会へと向かったのだった。

 馬車の中では二人共何も話さなかった。ただずっとお互いがお互いを見つめ合って、それは会場に入っても終わらない。終わらせたくなくて。でも、それは唐突に終わった。

「ユーリー!」
 会場入りした直後に顔面に何かがぶつかってきて、衝撃で倒れそうになった私は、シャル様にさせられながら、顔を抑えた。

「っ、な、何……っ」
「ユーリー! やっと会えた!! やっと会えたわ!」
 顔の前でパタパタと喚く小さな光る虫に思わず手を振る。否、虫じゃなくて、人の形をしたものだ。

「誰!?」
 瞬きの間にそれは十歳ぐらいの小さな少女の姿に変わる。光をより集めたような金の髪はふわりと波打ち、透き通るほどに白い肌は頬と目元が薄っすらと紅に染まっている。吊り目気味だが、愛らしさは例えようもなく、ほっそりした四肢は蜘蛛の糸で織ったような白く光沢のあるドレスに覆われている。両手と顔ぐらいしか露出はなく、履いているのは私と同じガラスの靴だ。

「ずっとずっと探していたのよ、この馬鹿娘! 人間に連れて行かれて、ずっと帰ってこないんだもの! すぐに戻るって約束したのに、いつまでも帰ってこないんだもの!!」
 喧しい。キンキンと頭に響く高音は、周囲に聞こえている様子もなく、彼女の姿も他の誰にも見えていないようだが。

「大丈夫か、アリシア?」
 案じるだけのシャル様の声が心強く支えてくれなければ、私はもうそれに向かって当たり散らしていたかもしれない。

 だって、これが私の運命を狂わせたものだと、なんとなくわかってしまった。母様が亡くなった日からゆっくりと周囲を蝕む今では魔力だとはっきりわかるその波長が、目の前の少女から発せられているとわかるのだ。

「……女王陛下、で、あらせられますか?」
「そんな他人行儀なこと言わなくてもいいっていつも言ってるでしょ。もー、ユーリーは本当に真面目なんだからぁ」
 仕方ないなぁなんて笑っている彼女の背中に、鳥の羽みたいなものが六枚着いていて、可愛らしい少女は、見た目に反して、強い威圧で周囲を圧倒している。最も普通の人間には見えないのか、具合が悪くなるぐらいで済んでいるようだけど。ーーああ、いや、ダメだ。ご婦人方から倒れてる。

 私はかつて習った淑女らしさを思い出しながら頭を下げる。

「初めまして、女王陛下。ユリシアの娘、アリシア・ポンテカネと申します」
「ユーリー?」
「女王陛下におかれましては、亡き母と親しくされていたご様子で、娘としても有難く……」
「……あなた、誰? ユーリーはどこ?」
「それがユリシア・ポンテカネのことであれば、亡き母のことと存じます」
 私がそれを口にするやいなや、いきなり周囲が明かりを落としたように真っ暗になった。外では雨まで降り出して、豪雨となり、雷まで鳴っているような音がする。

「……嘘を、いうな! ユーリーが、ユーリーがこんなに早く死ぬわけがない! この国があの子を殺したんだろう!?」
 うん? そんなはずはない。

「母が亡くなったのは、ごく普通の風邪をこじらせた肺炎です」
「うそだ!」
 目元を釣り上げて怒っている美少女な女王陛下は、この場では私以外には見えないみたいで、周囲は天候の変化に大騒ぎしている。

「アリシア、女王陛下がいらっしゃるのか」
「はい、シャル様」
「私たちは人間の病気になんてかからないのに、そんなわけ無い!」
「それで、女王陛下はなんと?」
「……聞こえませんか?」
「まったく。まあ、怒ってるのはわかっているんだ。ずっと、な」
「そうなんですか?」
「一応、王宮内に留めてはいたんだが、こちらまでおいでになってしまえば、王族の結界も意味を成さないな」
 空を見上げて、疲れた様子の溜息を吐くシャル様を見つめ、それから私は女王陛下に向き直った。

「うそだうそだうそだ! お前たちがユーリーを殺したんだろう!」
 信じたくないと駄々をこねている様はまったく魔法族の女王とはみえない。でも、この人が母を慕ってくれていたことだけは私にもわかる。ああ、どうしよう。この人は、この人は違う。この国を壊そうとしているのは、この人じゃない。

「シャル様」
「アリシア?」
「違います。この方ではないです。この方ならば、回りくどいことをしなくとも、(物理的に)この国を潰せますよね?」
「……そう、だな」
「不味いです。振り出し、ですよ。てか、このままだと本当に物理的に国が無くなります!」
 私は努めて目の前の女王陛下に言葉をかける。

「女王陛下!」
「ユーリーがいないなんて、嘘だ!」
「陛下!」
 両手を伸ばし、私は彼女を自分の腕の中に隠すように抱きしめる。暖かくも冷たくも感じる小さな身体だが、溢れ出てくる力は止まらない。ちょっと、おかしくないか。

「落ち着いてください、女王陛下。大丈夫ですから。母様が魔法族であるなら、この国で死んだ後はそちらに生まれ変わっているはずなんでしょう?」
「だって、いないんだもの!」
「ならばまだ時が来ていないだけなのではないですか?」
 実際の処、母様からそんな話は聞いたことはない。騎士学校にいた頃の友人にそういうことをいう変わった友人がいたのだ。変わっているけれど、珍しい面白い話をたくさんするので、よくつるんでいたんだ。聞いているシャル様は怪訝そうだが、今はこの人を正気にするほうが先だ。

「……じゃ、じゃあ、ユーリーは……?」
「母様の娘である私は、貴女にとって信用ならないでしょうか?」
 信じてもらうにはこの身ひとつしかないけれど、自分の身のうちにある魔力を半分明け渡す。ずるり、と身体が重くなるけれど、気力で姿勢を保って、彼女に笑いかけた。

 少女が目を見開く。

「っ、ば、馬鹿!」
 慌てた様子で私のもとに渡したよりも僅かに多く返ってくる魔力。しかも、精錬されたようで、渡す前より身の内が涼やかで軽くなった気がする。

「こんな馬鹿なことをするのは、ユーリーしか、いないと思ってたのに。もう、馬鹿な子ね」
 そう言って笑った魔法族の女王陛下は、少女の外見に似合わず、穏やかで暖かな母親の顔をしていた気がした。





p.3

12. あと1にち(そのさん)



 軽やかにウィンナ・ワルツの音楽が始まり、私は久しぶりのステップを踏む。目の前にいるのはあの時と同じ、この国の第二王子であるシャル様だ。

「ありがとう、ユーリーの娘。正気に返してくれた御礼はどうする?」
「この国を元のように守護してもらえますか?」
「それはユーリーの娘がいるのだから当然だ。それ以外にはなにかないのか?」
「えーっと、この国の王族であられる第一王子と第二王子の帰還?と、あとは父様に掛けられた呪いを解除して欲しいです」
「うむ、任せろ。他には?」
「ほ、他ですか?」
「なにか、ほら、ユーリーの故郷をみたいとか、ユーリーの生まれ変わりを一緒に探したいとか、ユーリーについて私と語りたいとか、なにかない、のか?」
 何かと言うには具体的なそれはつまり、母様の話をしたいということでいいだろうか。

「そ、そうともいう」
 まったく、素直ではない。

「母様の話をしたいですけれど、それは願わなければ叶わないことなんですか?」
「む、そ、そんなことはない! ユーリーの娘ならばいつでも玉座の向こうを通ってくることが出来るだろう」
 玉座の向こう側が魔法族の世界との通路になっているらしいが、玉座とは通常謁見の間という普通は入れない場所にあるわけで。

「アリシアが私とともになれば、フリーパスだから問題ないな!」
「シャル様」
 魔法族の女王陛下が周囲にも自分が見えるようにしてくださったおかげで、シャル様も彼女が見えるようになり、現在三人で客まで話し合いをしていたわけなのだが。

「何を勝手なことを言っている。ユーリーの娘は婚姻など認めないぞ」
「それではアリシアは玉座の間を通れぬだけのこと」
「む、それは困るが、私がこの国の王に命じればいいだけのこと」
「魔法族の女王よ、人の世界には人のルールがある。それを犯せば、いかに陛下が命じようとアリシアを害するものは絶えない。私……俺はそれを望まない。アリシアはもう十分に苦しんだ。ずっと、母をなくし、父を見失い、家を失うことを恐れて、自分を失うところだった。どうか、もう彼女に平穏を与えてはいただけないだろうか」
 シャル様がいうことに、私は驚いた。魔法族の強制的な暗示の魔法から開放されて、そして、私が男になって生きていたことも、それ以前のことも覚えているという彼が、そこまで考えているということに。



 え、けっこう男の生活気に入ってたんだけど、今言っちゃダメだよね、これ。何故か騎士学校では同室に指名されたり、強制的に近衛隊に組み込まれたり、おかげで数多の嫉妒と羨望と恨みまで買っていたけれど、シャル様や近衛隊達と仕事するのもふざけ合うのも楽しかった。だから、ずっと苦しんでいたというより、男になってからはかなり開放されて、好き勝手やった自覚もある



「むう……そうだな。それは私も同感だ」
 女王陛下の同意を受けて、結局私とシャル様の「婚約」は魔法族の認めるものとなってしまった。

 そして、今は彼らの魔法の仕上げの真っ最中なのだ。

「やっと私のもとに戻ってきたな、アリシア」
「……殿下」
 ステップを踏むだけで、この国の魔法は完成する。女王陛下は私達に向かってそう言った。この城の広間には、魔法族だけが使える巨大な魔法陣が仕込まれているのだそうだ。それをしたのはこの国に元々生きていた魔法族だったという。彼はこの国の平民の娘と恋に落ち、彼女の生きる国を長く守り続けるために、生涯最高の魔法をこの国に掛けたのだという。

 それを上回る魔法は現在もないらしい。

「本当に全部覚えておられるのですか?」
 ダンスをしながら問いかけると、困ったような柔らかな苦笑が零れてくる。

「うーん、半分くらい、かな」
「半分」
「もちろん、アリシアが男(アル)になっても私の愛が変わらなかったのは覚えているけど」
「そこは変わってよかったのでは」
 第二王子とはいえ、男色では流石に不味いと思う。

「もう男でも女でもアリシアが私にとって、最上の人だというのは変わらないというのはわかってもらえたでしょ?」
 それはもう、いやというほど。

「もういなくなってはイヤだよ、アリシア」
 囁く言葉で私を甘い瞳で見つめる人は、後にこの魔法族が守る国の王となり、私は王妃となった。行方不明だった第一王子は、実は魔法族の国に迷い込んで、しかも次期女王に惚れ込んでしまったらしい。あの時の助けて、ということとそれが繋がっていたということを知ったのは、もう少し後のこと。

 後はよくあることだけれど、魔法族の守りを取り戻した国で、私は王妃として、シャル様と末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし。





あとがき

途中で飽きて、ごめんなさい。
次に描くなら白雪姫かなぁ。