新学期で新学年で新クラス。新入生に新人戦に…。
「何度来ても無理ですよ」
「でもそれぐらいなら…」
「無理なものは無理です。諦めてください」
向きを変えて、新しい席に着く。窓際で後ろから二番目の席。窓を開けると、冷たい風が吹きこんでくる。
新人戦なんて、もう関係無い。
「麻生さん…!」
「…煩い」
振り向かずにそういうと、走り去る音だけが帰って来た。泣いていただろうか。だったら、少し可哀相だったかもしれない。
「…麻生さん怖っ」
「…かわいそー、あのこ泣いてたよ」
クラスの連中は早くも悪い印象を持ったらしい。それはそれで都合もイイ。無関係だから言える。人事だからいえるんだろう。
私だって、やれるもんならやってた。でも、先の見えてる勝負を出来るほど強くない。もう一度戻れるなら、戻ってる。でも、同じプレイは二度と出来ない。ボールの音が無いと息も出来ないけど、きっとコートに入っても、動けない。半分の視界じゃ、何も出来ない。
なるべく自然に見えるように、机に頭を乗せて、目を閉じる。こうなってしまったら、寝たふりに限る。そのうち新担任が来て静かになるだろう。昼の光は眩し過ぎて、左目には何も映らない。窓際の席で、本当に良かった。バレる確率少ないし。黒板は良く見えるし。
「今年も同じクラスか~。よろしくな、麻生」
知った声に右目だけ開く。誰だかわかってるけど、一応の確認のためだ。
そこにあるのは、学校の中じゃ、まず友達という枠に入るかもしれない男だ。体格も良いし、性格もいい。協調性はあるし、面倒見も良い。更に明るく、元気だけが取り柄に見える体力馬鹿だけど、意外にまわりを良く見ていたりする。今もきっと教室の空気の悪さを緩和するためにでも、声を掛けてきたのだろう。
「はよ、桃」
それだけ言ってまた閉じる。ちょっと本格的に眠くなってきたかもしれない。
「おいおい、それだけかよ」
足りねーな、足りねーよと繰り返す妙な口癖にわずかに上昇した気分で、安心して眠りに入った。
(桃城視点)
柔らかくなる空気に、こっちまで嬉しくなる。誰も知らないが、けっこうこいつは感情が豊かだ。よくみると可愛いし、クールな外見とは裏腹にかなりの負けず嫌い。バスケの特待生で入学したという噂だったけど、たった半年でやめてしまった。なにか事情があるとはきいてるけど、教師連中は口堅いし、こいつが言うわけもないし、どういうわけなのかこちらも困っている。
手負いの野良猫、そういった感のある女だけど、気の強さも半端じゃねぇ。
さらりと風に流れて、自分で髪を左側に寄せる。無意識の行動なのだろうけど、一瞬どきりとする色がある。同い年とは思えない、大人っぽさがある。起きている時とは、比べ物にならないくらいに。
「そっけないなー麻生さん」
そこがまた魅力でもある。
もちろんスポーツ特待からはずれたとはいえ、麻生は頭もそこそこだから退学なんて事態は起きなかった。もっとも毎回10位内常連なんだから、学校側だって手放すはずもなく。おかげでこいつが特待生だったと知っているのは同学年でも極僅かだ。
「おい、なぁ、起きてんだろ?」
話しかけても完全にシカトを決めこんでいるのか、反応はない。こうなると意地でも起きない。
風でまた髪が流れる。それをまた左側に寄せる。
「おまえら、あんまり苛めンなよ」
「別に苛めてるわけじゃ」
「ほらほら、あっち行ったっ」
集まりかけていた友人を追い払って、また彼女に視線をもどすと、またも風に流れた髪を左側に寄せているところだった。わずかに眉間に皺ができてくる。閉じられた長めの睫毛は、小さく震え、上下する肩はあまり穏やかじゃない。
(そろそろか?)
また風に流れた髪を避けてやろうと手を差し出す前に、麻生が動く。大きく音を響かせて、後ろに倒れそうになる椅子を押さえる。本人はまったくそれに気がついていないのは、見ているだけでわかる。
「…っはぁ…っ」
起きたときそのまま、目を見開いたまま大きく息を吐く。吐き出すとともにゆっくりとまた瞳が細くなり、閉じたと思ったら今度はすぐに開いた。
「どうした?」
「…なんでもない」
ーー青ざめた顔で意地を張ってもいいことないぜ?
今と同じように机に肘を立て、組んだ手の甲に額を当ててこらえたいた時に、そういって怒らせたことがある。血の凍るほどに冷ややかな目で、「あんたには関係ない」と言い捨てられ、しばらく口も聞いてくれなかった。
あれは試合で負けるよりもきつかった。
入学したばかりの時はそうでもなかった。人当たりも良いし、明るいし、それでいて負けず嫌いで反応が面白い。けっこう気もあってたほうだ。それが、1ヶ月の長期不登校を経てからは人が変わったように大人しくなった。前の麻生が夏だとすれば、今は冬みたいなもんだ。でも、逆にそのクールさで惹かれている男も多い。
「麻生」
声は返ってこない。
「おまえ、大丈夫か?」
「なにが?」
振りかえった麻生は、目を細めて笑っていた。無理しているのなんて、バレバレなのに。
無理してでも笑えるぐらいだから、たぶんまだ大丈夫なのだろうけど。笑えなくなったら、笑わせるまでだ。
「私に構ってないで、友達のところにいけば。桃」
「今日は麻生と話したい気分なんだよ。一緒帰ろうぜ」
まったく、男心のわからない女だぜ。なんでココにいるかなんて決まってんだろ。
麻生 晴樹が好きだからに決まってんじゃねーか。
「悪いけど、先約がある」
「え?」
「…あ、先約と違うか。用事があるから」
何かを思い出したのか、クスッと久々に声に出して笑っている。喉の奥で転がる音が、風に響いて広がってゆくようだ。ずっと、聞いていたくなる音だ。
「おっさんとガキとデート」
ーーーーーーは?
「なんだ、それ」
「なんだろうね?」
その返し方が、そのままうちのテニス部の不二先輩みたいだった。でも、麻生がやると全然違う。もっと女性らしさが滲み出てくるみたいで、なんてつーか、英二先輩じゃないけど抱きしめたくなるっつーか。
とりあえずはぐらかされたのは間違いない。知ってたけど、そーいうやつだよなぁ、そーゆうやつだよ。そんな奴だから好きになったのか、好きになったのがそんな奴だったかなんて、まさに関係ねーな。
何故だろう。
手塚部長とか3~6コンビのが好きなのに…。
リョーマで、桃ってきたら…。
うわーん(泣)。なんで予定と違うんだよ。
予定通りに動いてくれないんだよ。
書き溜めておいたものがほとんど使えない事態に…!
激ヤバ。これが辻褄併せの結果ってことです。
う~ん。読んでから書いたほうが良かったかなぁ。
B-girlのBはバスケのBです。今のところ。
(2003/09/07)