GS>> 千晴ちゃん>> 僕とたいやき

書名:GS
章名:千晴ちゃん

話名:僕とたいやき


作:ひまうさ
公開日(更新日):2002.8.31
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:3691 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:東雲/春霞/ハルカ
1)
ちゃんやす様へ

p.1 へ p.2 へ あとがきへ 次話「Lovin’you」へ

<< GS<< 千晴ちゃん<< 僕とたいやき

p.1

 父さん、母さん、そしてマリ。

 僕が日本に来て、3年半がたつね。

 そっちは、変わりない?

 僕はこっちの大学でなんとかうまくやってるよ。



 日本でできた初めての友達と――。



「千晴くん、なにしてんの?」
「わぁ!!」
 後ろから声をかけられ、慌てて僕はノートパソコンを閉じてしまった。

 あ、しまった…。

「ご、ごめんね。そ、そんなに驚くとは思わなかったの」
 背後にいた彼女は申し訳なさそうに謝って、僕の向かい側に座った。

 彼女の名前は、春霞。日本に来て初めて出来たフレンドだ。アメリカの女の子たちのように、背が高いわけではないけれど、とても優しくて素直でまっすぐな少女だ。少しだけ、妹のマリに似ている。

「いえ、あの、僕は…」
「なんだか、とっても楽しそうだったから、驚かせたくなったの」
 楽しそう?僕が??

 大学に入ってから、僕は彼女と頻繁にいるようになった。春霞はプリティーで、純粋なハートを持っている。今日のように、僕に悪戯を仕掛けてくることもある。

「うん。メール書いてた?」
「はい」
「ご両親に?」
「はい」
 彼女は、僕の日本語の先生のようなものだ。メールでたくさん、日本語を教えてくれた。メールでたくさん、勇気をくれた。彼女がいなかったら、僕はとっくにアメリカの家族の元へ逃げ帰っていたかもしれない。

「…もう邪魔しないから。続けていいよ」
 ニコニコと微笑みながら、テーブルに両肘を乗せて両手を組んだ上に顔を乗せて、僕を見ていた。

 同じ大学内で会うようになってから、よくこういう光景に会うようになった。これは彼女の癖、なのかな。でも、とてもカワイイ。可愛すぎて、僕は動揺してしまう。

「春霞は今日の講義、終わったんですか?」
 そんな僕の気持ちに、きっと彼女は気づいていないだろうけど。

「うん」
「じゃあ、帰りましょうか」
 ノートパソコンをしまって、振り向いた時の彼女の顔がとても優しくて、僕はわざとゆっくり鞄をしめた。

 彼女は日本で出来た初めてのトモダチ。なくしたくない。

 だから、僕は僕の気持ちを封印している。

 卒業式のあの時から。



「帰りに喫茶店に寄らない?」
 隣を歩く春霞の誘いに、いつも通りにうなづく。そんな僕を見て、彼女も優しく柔らかく微笑む。



 これが今の僕の日常だ。

 壊したくは、ない。



p.2

「今なら限定パフェに間に合うかな?」
「どうでしょうか?」
 春霞の歩調に合わせると、とても色んなものが見える。一人だと、緊張してしまって景色を楽しむ余裕もなかった。

「…間に合うかも、ぐらい言ってよーっ」
 肩を小突かれて、僕も笑う。

「先日、ダイエットをしていると言っていませんでしたか?」
 隣でぐっと、彼女が詰まったのが楽しくて笑う。

「し、してるわよ。でもね、それとこれは別なの!」
 こういう言い訳はマリと大して変わらないな、と笑う。

 春霞といると、笑うということが大切だということを思い出せる。人はひとりでは笑えないのだ、と。

「もー、そんなに笑わないでよ」
「あはは、ごめんなさい」
 叩こうとする手を交わして逃げると、彼女も追ってくる。当たらないのがよほど悔しいらしい。でもすぐに思い出したように、春霞は立ち止まった。

「でも確かにねー…カロリーがねー…」
 こうして迷うのもいつものことだ。それでも、結局食べに行ってしまうのだが。

 そのとき、僕の鼻孔にフッと甘い香りが香ってきた。この辺りの道に、売っているハズがない匂い。

「あ、ねぇ! じゃぁさ、森林公園に行って、噴水見ながらアイスってどう?」
 考え込んでいた春霞が言った言葉に驚いた。

「いいんですか、パフェは?」
 自分から言い出すなんて、珍しい。いつも、絶対に引かないで、意地でも食べに行っているのに、だ。

「いいの! 今日はアイスよ。アイスの日なのよ。アイス記念日なの」
「そうなんですか?」
「そうなのっ」
 かなり強引な気がするけど、いいのかな。本当に。

 彼女は僕の鞄の紐をつかんで、どんどん歩いていった。

「春霞、鞄が落ちます」
「行くったら行くの」
 こうなると、全然話を聞かない。やっぱりマリと変わらない。

 前を行く彼女の甘い香り以外は、変わらない。



 たぶん、初めて会った時から惹かれていた。名前も知らない女の子なのに、町に出るたび、探していた。いや、彼女を見つけるために出かけていたかもしれない。いつも、僕を助けてくれる。勇気をくれる。ヒーローみたいな女の子。

 僕には彼女を捕まえられるのかな。

「千晴くん、タイヤキ売ってるよ、タイヤキ!!」
 興奮した面持ちで、春霞が叫ぶ。

 君は覚えているの?

 僕にタイヤキを教えてくれたこと――。



★cyanyas_chiharu.jpg★ちゃんやす★「僕とタイヤキ」★

あとがき

あぁなんだこれは。自分で書いててわかんないぞ、コラ。
ちゃんやすさんのフリー絵『僕とタイヤキ』を見てたら、出てきました。
でも、千晴くん、まだ買ってないよ。
主人公がまた違う人だよ!?
千晴君ファンの方、ごめんなさい~っ
完成:2002/08/31