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書名:GS
章名:千晴ちゃん

話名:Lovin’you


作:ひまうさ
公開日(更新日):2002.12.20
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:3252 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:東雲/春霞/ハルカ
1)
キリ番リクエストイラスト御礼創作
ちゃんやす様へ

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p.1

 華やかなパーティー会場の中で、彼女は華だった。いつも魅力的だけれど、今日はまた一段と人を惹きつける才を発揮する。クリスマスパーティーということで着飾っている分を差引いても、春霞は魅力的だと思う。黒のシルクドレスは会場の光に映えて、星の光を撒き散らす。普段より露わな肩に、僕は直視できずにいる。

「それでさ~姫条ってばひどいのよ!あたしに向かって、太った!?て。もーすんごい失礼!」
 彼女の前に現れた友達というのはこれで何人目だろう。ふと見た窓の影に、つまらないそうな男が映っている。隣にはとても楽しそうな春霞がいるというのに、どうして僕はこんなにイヤな気持ちを抱えているんだろう。

 だれも、僕の春霞に近づかないで=。

「千晴くん、疲れた?」
 急に後ろから掛けられる声に、僕は驚いて振り返る。そこにはいつもどおりの彼女が微笑んでいる。

「え、いいえ。あの、お友達は?」
「みんな忙しいからね~他に挨拶しに行ってくるって」
 僕が何を考えているかなんて、わからないのにニコニコと笑顔でいて。

「あたしもほとんど挨拶終ったし、そろそろ帰る?」
「え?」
「て、あー…来ちゃった…」
 もう少し待っていてと言い残して、彼女が人ごみに消えた。言葉とは裏腹に嬉々としているその姿を目で追う。

「こんばんわ、千晴くん」
 それを遮るように男が僕と彼女の間に立った。ブラウンの上品なスーツで、赤いワイングラスを持っている。彼は父の友人で仕事相手で、僕も小さい頃からよく知っている。今日のパーティーの主催者だ。

「天之橋さん…」
「お父上は相変らずのようかね?」
「はい…あの…」
 どけてくださいという言葉を紡ごうとすると、巧にまた違う話題を被せられる。厄介な相手に当ってしまったようだ。

「日本の大学はどうだね?」
「とても楽しいですよ」
「不自由は?」
「これというのはありません。あの…」
「外交官を目指しているそうだね」
「え?どうして知っておられるのですか?」
 話しこんでいるうちについ引きこまれても、辺りにあるいくつもの窓ガラスを辿って春霞を探す。ガラスに映る君の姿を探す。色とりどりの何人もの女性の姿は映るけど、どこにも春霞がいない。魔法みたいに君は消えてしまった。

「…というわけでね。聞いているかい?」
「あ、はい。ええ」
 悟られないように、作り笑いだけを彼に返す。春霞は、どこにいる?

「今日は誰かと一緒かね?」
「ええ、春霞…さん、と」
 名前を出したとたんに急に場の空気が固まる。彼の、といったほうがいいだろうか。何故、だろう。

「東雲くんと、かね?」
「ご存知なんですか?」
 聞き返すと、ふっと遠くを見るような目つきになる。その視線の先には、ただガラスだけがある。

「私の学校の生徒だったからね、知らない者の方が少ないだろう」
 それは優秀な学生だったと、夢を見るような口調で話す。僕の知らない彼女のことを。

 聞きたくなんかない。僕は人の口から語られる春霞の奄ネんて、当てにしないことにしている。

 どれも根も葉もない奄ホかりで、僕は彼女のことを聞くのをやめたんだ。だって僕は、街で出会う君との思い出しかなかったから。異国の街で自信のない僕に優しかった春霞の姿しか知らなかったから。

「千晴くん、このジュース美味しい!」
 いつのまにか僕の前から天之橋はいなくなっていて、僕は引っ張られた袖の先にさっきまで見つからなかった春霞を見とめ、人目を憚らず抱きしめていた。不安だったから、というだけじゃない。春霞の笑顔がとても遠く眩しくて、そのまま光の中に溶けてしまいそうだったんだ。

 カシャンッと小さくグラスの砕ける音で、僕は正気に返った。とたんに何をしたのか理解して恥かしさがこみ上げてくる。慌てて離そうとした腕の中で、彼女は固まっている。

「ご、ごめんなさいっ! 大丈夫ですか、怪我はないですか!?」
 パーティー会場のざわめきが一瞬途切れたものの、何事もなかったようにまたそれぞれに話し出す。

 春霞はただこくこくと頷いて、俯いている。僕はなにをしているんだろう。もう小さな子供じゃないというのに。

「えと、そろそろ帰ろっか」
 小さな手がきゅっと僕の袖を引く。

「もういいんですか?」と聞くと、いいの、とそのまま先へ歩き出す。

 僕はこのまま彼女と別れるのが嫌で、その腕を引いた。倒れこんでくる細い身体を抱きこんで、囁いた。



p.2

 見せたいものがあるといわれ、僕は彼女と夜道を歩いている。月は白く、彼女の息も僕の息も白い。夜闇に映る海は、暗く底も果ても見つからなくて吸い込まれそうだ。

 言葉はなかった。

 なにもないのに、確かななにかが僕たちをつないでいる気がしている。どうしてだろう。風も空気も冷たいのに、僕たちは手をつないでいるだけなのにとても温かい。

「夜の海って、怖いね」
 ぽつりと春霞が呟く。

「でも、なんでだろう。なつかしい気がする」
 この海は遠くアメリカの僕の家族も見ている。同じ海と同じ月を見ているのだろうか。

「この海の向こう、千晴くんの家族はいるんだよね」
「はい、そうです」
 くるっと振り返ると、ふわりと彼女のコートから覗くドレスの裾も回る。月の光だけなのに、春霞は太陽みたいに温かい。

「遠いねー…」
「そう、ですね」
 春霞は両手を口に近づけて、息を吐く。暖かな空気はすぐに冷えて、白く変わる。その手を差し出して、引っ込めて、またクルンと回って、先を進む。

「ねねね、ここからあっち見てて!」
 ちらっと時計を見てから、彼女が港をはさんだ向こう側の遊園地を指す。今日はクリスマスだからか、夜なのに煌びやかな光の洪水が渦巻いている。

「テーマパーク、ですか?」
 降りかえろうとした僕の背中から春霞の温かさが伝わってきて、僕は彼女の姿を見られなくなる。こういうイタズラ、どうして好きなんだろう。春霞は。

 こみ上げてくる笑いをおさえて、振りほどこうとした手を、少し考えて上から包み込んだ。

「こっち見ないでよ」
「どうしたんですか、春霞?」
 照れと笑いがお互いに声に混じって、闇と月光が優しく温かく僕たちを包み込む。

「まだ、だめーっ。ちゃんと遊園地の方見てて」
 言われた通りにテーマパークを振り返ると、背中から春霞の小さく数える声が響いてくる。僕も時計を見て、ちょうど秒針が十二の数にかかるところで顔をあげる。白いものがふわりと僕の前から落ちていく。

 テーマパークに新たな光が灯った。大観覧車がクリスマスのカタチに灯りを灯したのだ。暗い海にその影がゆらゆらゆれて、闇を温かく溶かしていく。そして、さっきまでの闇を払うのは、それだけではなかった。

「メリークリスマス。大好きだよ、千晴くん」
 光景に見惚れる僕に、背中から新たな暖かさが宿る。僕の世界を輝かせる春霞が、新しい魔法をかける。光の洪水を僕の胸に収めて、温かく、優しく、太陽がこの手に届く。

 春霞はずっと変わらずにこの腕の中にいる。ずっと、ここにいてくれる。

 それがいつまでも心地好いんだ。アメリカに、家族のもとへ帰りたくないぐらい心地好い。

「春霞、顔を見せてくれないんですか?」
「ちょっと、一世一代の告白にそう来るの?」
 クスクスと笑いを背中に埋めてくる。またひとひらの白い星の欠片が落ちてくる。クリスマスに落ちてくる星は恋人たちへの祝福の光。天使の祝福のエアメールだって、知ってるかな。

「雪ですよ、春霞」
「うん。…え!?あ、ホントだ!!」
 驚いて、離されるかと思った手はしっかりと僕の前で組まれたままだ。

「今年はホワイトクリスマスだ、やった~っ」
 バタバタと足だけではしゃぐ振動が伝わってくる。

「春霞」
「うん?」
 しかたない。本当は、顔を見て伝えたいんだけど。



 Happy Merry Christmas. I also love you forever.



 いつかこの誓いを、二人であげよう。この雪みたいに白い、あの小さな教会で。



★cyanyas_6262hit.jpg★ちゃんやす★

あとがき

キリ番で、書いて欲しいイラストをリクエストしたのですよ。
強引千晴君で、キスさせようとしたというのは秘密です。この主人公が頑固だったんです。
クリスマスイラストをもらったので、これを書くしかないという四面楚歌状態だったもんで(笑。
企画部屋をつくろうかと思ったんですが、そんな状態じゃなくなってきました。|表示《ひょうじ》で、わかるかな???
完成:2002/12/20