庭が青々とした葉を芽吹かせた木々が増え、良く晴れた陽気に世界が春を歌い出すような、そんな日だった。庭に一本だけある白梅が小さな小さな花を付けているのに目を細め、箒を動かす手を時折止めては眺める。そんな珍しい非番の一日を過ごしていた鈴花を見つけ、近藤は足を少し止めた。
(桜庭君?)
細い腕が上がり、一番下の枝にかけてほんの少ししならせて、背伸びをして香りを嗅いでいた。そんな何でもない仕草が普段の殺伐とした空気を一掃し、普通の女の子と見えてしまう。剣で身を立てるために新選組に入って来た女の子は、今やその辺の男では敵わないほどの腕前となっている。
でも、やっぱり鈴花は女の子のままでもあるという一面に気づかされた気がした。
(いつのまにか、俺も認めてたのかもなぁ)
こっそりとうしろから近づいて、鈴花に手で目隠しをする。
「だぁ~れだっ」
鈴花が入ったばかりの頃は、冷ややかに言われたっけ。あの時みたいに返してくるのかな。それでも、いいな。そんな軽い気持ちだったのに、振り返った彼女は満面の笑顔で答えた。
「おかえりなさいっ」
鈴花の生気に溢れた眩しさに目を細めると、怪訝そうな顔をする。
「なんですか、近藤さん?」
「い~や、なんでもないよ~?」
変な近藤さん、とこんなに近いのに何でもない風に離れていく彼女をとっさに引き止めていた。
「近藤さん?」
「え、あ、いや…その」
言えるわけがない。君が離れてゆくと思ったら怖くなったなんて。
「あ、そうだ。お土産があるんだよ」
「また、遊郭で、戴いてきたんですか」
「そんなところ。さ、手を出して」
袂から包みを取り出し、彼女の小さな手に乗せる。ザラザラとした音に彼女の目が柔らかくなる。
「金平糖ですか」
「うん、好きだろ?」
「はいっ」
箒を抱えたまま早速開こうとする鈴花を眺めながら、自然と笑みが浮かんでくる。女の子が笑っているのを見るのは好きなんだ。せっかく可愛いんだから、いつも笑っていればいいんだけど、ここじゃそうもいかない。
「近藤さん」
俺の大好きな笑顔で言うから、いつも通りに「なんだい?」と返そうとしたら、口の中に甘い欠片が飛び込んできた。
「こんなに甘くて美味しい物を、一人で食べるのはもったいないです」
だから、一緒に食べましょうと快活に笑う。あいつとは、つねとは違う魅力を振りまいて、無防備に。
まったく。どんな女性も君のその強さには敵わないだろうな。その内なる強さで、俺なんかよりよっぽど人を惹きつけて已まない。
鈴花の手の上から金平糖を一つ取り上げる。
「そうだね」
それを彼女の口元に近づけて。
「はい、じゃ桜庭君も」
先ほどまでの笑顔がそのまま固まった。まさかそのまま返されるとは思わなかったのだろう。そうはいかない。
「え?」
「さっき俺もしてもらったしね。お返し」
「え、ええと」
困っている顔さえも愛しく思えて、笑っていたらからかっているのかと怒られた。
そんなつもりじゃないんだけど、ただ、笑ってくれるのが嬉しくって、困ってる鈴花も愛しくて、ただそれだけなんだ。
「俺ってそんなに嫌われてるのかなぁ~」
「別にそういう理由じゃなくてっ」
「嫌いじゃないならいいじゃない。はい」
「ええっと、でも、それはっ」
「桜庭君だってしてくれたじゃない」
「あれは勢いというか」
「これも勢いで」
「む、無理ですっ」
赤くなった顔で叫んだ瞬間、鈴花の口に星の欠片を放り込む。口に入ればすぐに溶けてしまう星だけど、この上ない甘さが舌に残る。
「美味しい?」
口を押さえて朱に染まった顔で瞳を潤ませている鈴花を抱きしめたくなって、誤魔化すように彼女の額を指で弾いた。
「いたっ」
「そんじゃ、お仕事頑張ってね~」
返事はもちろん返ってくるはずもなく。
困っていた鈴花を想いながら、近藤は自室へと戻った。
途中にすれ違った土方がいつものお小言を始めたけど、全然耳に入らなくて、笑っていたら怒られた。
なんだか、予定以上に近藤さんが崩れたような・・!
なんというか、屯所がどこだとか全然考えてないんでつっこまないでください。
ただ甘い甘い話を「金色のコルダ」聞きながら書いたらこうなっただけなんです(謎。
どうでしょう? 鷹斗さん。
OKなら貰ってください。駄目なら駄目って言ってください。書き直し可。
煮るなり灼くなり好きにしてやってください。愛だけは溢れてます。
(2005/12/05)