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書名:書きかけ
章名:「いろはのお題」 Rapunzel Rhapsody

話名:(ろ) ろくな男じゃありません


作:ひまうさ
公開日(更新日):2006.3.17
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:2619 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
ラプンツェル・パロディ第2回

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p.1

 今更、自動的に門が開いたくらいじゃ驚かない。だって、これだけの豪邸だ。とりあえず、門の向こう側は鬱蒼と木が生い茂っている中にわかりやすく道が続いている。道の終わりは見えない。定石通りに行けば、待っていれば迎えの車が来るのだろうが。

「あ、こら!」
 門が開くやいなや、猫は転がるように道を駆けてゆく。そして、数メートル先で立ち止まって、ウチが来ないことに気がつくと、ちょこんと座って待っている。早く来いとでも言うように。

 つか、なんでウチが猫に待たれるのか。猫の知り合いなんていないぞ。

「むー。歩けとでも言う気か」
 小さく呟くと、今度はうちを呼ぶように鳴く。でもいくら父の知り合いの家とはいえ勝手に入ったらどんなことになるやら。

 悩んでいるウチを後押しするように、インターフォンから声が聞こえる。

「少し歩いた所に車を回して置きマシター。ドウゾ、お入りクダサイ」
 うぉい。歩くのかよ。

「ソウソウ。お父様からのお手紙もお預かりシテマスー」
 うさんくさい声は続ける。

「早く来ないと開封しちゃいますヨー」
 いっそその方がここを歩かなくてもいいかもしれない。

 でも、それっきりインターフォンは何も喋らなくて。猫は目の前でにゃーにゃー鳴いてて。

 ウチは深い深~いため息をついてから一歩を踏み出したのだった。

「しかたない。行きますか」
 どうやらここにいないらしいというのはわかったけど、手紙を置いていくなんてどういうことだろう。まるで、ウチがここに絶対来るって確信していたみたいに。

 もしかして、やっとケータイが無いことに気がついたのだろうか。性格からして、わざと置いていくなんて考えられない。

「にゃー」
「あーはいはい。わかったわよ」
 猫を追いかけて、敷地内に足を踏み入れた。そのまま猫に導かれるように歩きつづける。いや、単に私の前を猫が歩いているだけだし、道は一本道だ。だた、ほらそんな風に考えるとゲームっぽくなるし。面白そうなことが起きるような気がしてきたりなんかして、変な人が住む家に行くのも抵抗が少なくなるっていうか。…いや、違うか。

 歩き始めて五分少々過ぎた頃だろうか。ていうか、なんでこんなに歩かされてんだ、ウチは。

「猫ー、迎えの車は見えたかー?」
 聞いても答えが返ってくるはずはない。代わりに強い横風が吹いてきて、ウチは立ち止まって、揺れた木々を見上げる。

「何?」
 ただの風だ。視線を前に戻す。

「あれ?」
 そこには猫の姿がない。ここまでずっと前を歩いていたのに、一体どこへ行ったというのだろう。辺りを見回す。

「猫ー?」
 声も出てくる気配もない。たったそれだけなのに、急に置いてきぼりにされた気がして怖くなった。タイミング悪く、また風が木々を揺らす。理由なんて無いのに、怖くなる。

「ちょっと何でも良いから出てきてよー」
 ガサリと、茂みが音を立てる。

「猫?」
 いや、違う。ウチの腰ほどの高さに明るい茶色の毛並みが覗いている。

「ね、猫ーっ」
 また、ガサリとなって其れが前足を出した。ウチの手と同じぐらいある!と気がついた瞬間、思うより先に駆けだしていた。

「う、ウチは旨くないよー!!」



p.2

 得体の知らない獣から逃げてすぐ、ウチは迎えの車とやらのもとに着いた。車の中でウチ宛の未開封の手紙を受け取ったからその場で帰っても良かったんだけど。車に乗らないと手紙を渡してくれないし、運転手の人は何聞いても無言だし、反応もしてくれないしで、ほとんど無理やり連れてこられちゃったってワケ。

 手紙の内容は要約すると、今夜はここで泊まれってことだ。いつもはそんなこと言わないし、友達の家に泊まりに行くってだけで涙ながらに見送られたりするぐらい娘ラヴの人なのに、一体どういう風の吹き回しだろう。娘を安心して預けられるような家だとでも? それとも婚約者とかあるか? いやいやウチの父さんの場合あり得ないだろう。第一、インターフォンで聞いたあの人、絶対変人だぞ。父さんがあの人に愛娘を預けるか? いや父さんが許しても母さんが許さないはずだ。

 うんうん、と一人頷いていると車が止まった。自動的にドアが開く。運転手に言われるままにその大きな扉の前に立つ。そして、車は何も言わずに去っていった。

 ……いや、だからさ。

 扉はとても大きくて、見上げるほどだ。歴史の教科書とか超有名ホテルで見るような華麗な装飾で縁取られた扉で、その脇の壁にはそれらしく鈍い光を放つ紐付きの呼び鈴がついている。

 引っ張ったら、きっと扉は開くのだろう。でも、本当にこのまま進んでいいのだろうか。確かに手紙の筆跡は父さんのものだった。でも、内容はおよそらしくないとしか言いようがない。偏見かもしれないが、あんな変な話し方をする人が凡人とも思えない。そんな場所に、大事な娘を預けるか?

 扉の前で考え込むこと数分。よし、と握り拳を作って目の前のそれを見上げる。考えていても埒があかない。手紙の筆跡は父なのだし、約束しているようなのだから、とりあえずここの人に会って話をするしかない。それで、ここじゃなくて友達の家に泊めてもらうことにしよう。

 呼び鈴の紐は思ったよりも堅く、ガラァンと重い音がした。何か、間違っている気がする。

 待つこと数分。

「すみませーん…」
 普通の声で呼びかけても返事はない。それから更に待つこと数分。立っていることにも飽きて、玄関前の石段に腰を落ち着けようとしたところ、背後でギィィと重い音をたて、扉が開かれた。

「お待ちしておりマシタ」
 うさんくさい。それが彼に対するウチの第一印象だ。明らかに日本人的でない彫りの深い顔立ちと肌の色、白いけれどそれがただの白髪ではないと一目で分かるほどの滑らかで見事な銀髪を深い藍色のリボンでひとくくりにし、赤い縁取りの眼鏡をかけて、満面の笑顔で話しかけてくる。眼鏡の奥の瞳の色は、深い深い湖の底の色をしている。

「大沢様のお嬢様ですネ?」
 確認の問いかけに頷き、続けて吐こうとした言葉の前に、彼はウチの腕を無造作に引っ張った。

「いたっ」
「お待ちしてマシタ」
「引っ張らないでよ!」
 抗議の声を聞いていないようで、彼は無理やりウチを屋敷に入れた後、扉を閉めた。バタン、という大きな音がホールに木霊する。

「さぁ、参りましょうカ?」
 うさんくささは二百%を振り切った。すぐにでも帰りたい。こんなろくでもない男を雇ってるなんて、正気の沙汰じゃないぞ。



あとがき

予告と少し違いますが、これでも十分碌でもなさそうなヤツになったからいいか。
(2006/03/16 16:10)



成り行きで異人館に泊まることになってしまった大沢葉子。
しかし、この屋敷にはTVが無いと聞いて、愕然とする。
どうやって時間を潰せと!? 8時とかに眠れなんて言われても無理だって!!