けたたましい音が家中に響き渡る。時計の主は布団から腕を伸ばし、それを止め、そのまま寝入る。
数分後、ドアをノックする音。
「お父さん、朝だよー」
ドアの向こう側では起きる気配もない様子。
「開けるよー」
返事もないので、おもむろに開けると、ベッドの上には白い固まりが規則的な上下をしている。…せめて顔出して寝てよ、お父さん。
「お父さんー、あっさでっすよーっ」
「ぅ~…」
「お父さんってば。ウチ、学校に遅刻しちゃうよっ」
そういうとようやく布団から顔だけ出されて、寝ぼけて普段以上に緩みきった笑顔で言う。
「行ってらっしゃい」
(あーもう、この人は)
頭を抱えていると、手招きされる。警戒しながら近寄ると、急に腕を引っ張られて、布団ごと抱き込まれる。
「お父さん、寝ぼけないで」
「今日はお休み今日はお休み今日は」
「お父さんが休みでも娘は学校なのっ」
「えー」
「えー、じゃないっ」
父の呪縛から離れ、枕でぶっっ叩きつつ、いつもの言葉を言う。
「朝食はテーブルに置いておいたからね。ちゃんと食べてよ!?」
「は~い」
聞いているんだかどうだかしらんけど、とにかく早くしないと遅刻だ。
「いってきまーす!!」
布団から相変わらず手だけ出している父に見送られ、家を出るのがウチの日常だ。これで母が来るときだけは早起きなんだから信じられない。