彼女は大の紅茶好きでした。美味しい紅茶を飲むためならば、どこへでも行きます。美味しい紅茶を飲むためならば、何でもします。
彼女の特技はケーキ作りでした。
「ええと…ダメですか」
目の前の彼女の困った微笑を前に、セブルスは大きく息をつく。
「どこで聞いてきたか知らんが、我が輩は紅茶を人に淹れたことなどない」
よって、彼女が自分の前に現れる理由がわからない。と。
「えー」
そんなに不満そうに叫ばれても。
「せっかく貴方の好きだっていうケーキ焼いて来たのにー」
別にケーキは好きではないし、残念でもない。だが、何故彼女のこの顔に気持ちが焦るのか。
「…いったい誰に何を聞いた」
「それは」
それは?と目で問い返すと、にっこりと微笑む。
「企業秘密」
「…では、ダメだ」
「教えたら淹れてくれるんですか?」
「…そうは言って」
「あ、じゃあ淹れてくれたら教えます」
いかがですか?と。
どこかの誰かを彷彿とさせる飄々とした風貌だが、憎めない。
「あっ、ちょっとっ!」
「ついてこい」
たまには、良かろう。
「あ、いいの?」
後ろからついてくる足音に久方の心楽しさを感じながら、道を歩いた。
何故、彼女がこちらにいるのか。疑問に思わないことを、疑問と思いながら。
そのうち書き直しそうですけど、お茶会シリーズでセブとの出会い編一部。
魔法界と非魔法界の区別はヒロインにありません。
美味しい紅茶があれば神出鬼没。
(2006/05/16)