がつんとドアを蹴った足が痛くて、その場に籠を置いて、座り込む。
もう何日美味しい紅茶を飲んでいないだろう。
どこに行ってもリーマスが入れる以上の紅茶は無くて、いなくなってからまたしばらく放浪に出たけど、やっぱり戻ってきてしまった。
でも、やっぱりそこには誰もいなくて。
「先生ー、本当にいないんですかー…」
何も言わずにいなくなって、私がどれだけ心配していると思っているのだ。
放っておけば甘い物ばかり食べてそうなリーマスも、放っておけば碌な食事もできなさそうなシリウスも、ふたりとも本当に勝手だ。
「分量のメモなんか渡されても、同じ味になんかならないのよ」
リーマスが淹れたのじゃなきゃイヤ。だから、早く帰ってきて。
泣きたい気持ちで目を閉じると、後ろから急に目隠しされた。
懐かしいチョコレートの香りにまさかとも疑ったが、そうそうこんなにチョコレートの香りのする人なんかいない。ていうか、いて欲しくない。
「リーマスー…」
「当たり。わざわざ待っててくれたの?」
手を外して振り返るとそこには変わらない笑顔のリーマスがいて。
「本物?本物よね?」
「とりあえず紅茶を淹れようか」
「リーマスー!!」
あんまり嬉しくて、私はつい何も考えずに飛びついてしまった。
「わっ」
そのあとどうなったかというと、抱きかかえられて家の中に連れ込まれてしまいましたとさ。