今日は別になんでもない一日だった。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
部屋の前にいた私の隣に近藤さんが座る。ここ最近は白粉の匂いがしない。
「きみ、甘いもの好きだったよね」
「はい」
「今日のお土産はお饅頭だよ~」
「ありがとうございます」
お土産と称して渡されるいつもの包みには、お饅頭がひとつだけ。
これはたぶんわざわざ買ってきてくれたもの。嬉しいけど、ひとりで食べるのは気が引ける。
「すっごく美味しかったから、買って来ちゃった」
すっごく美味しいなら近藤さんだって食べたいはずなのに。
とりあえず一口を食べると本当に美味しくて、口いっぱいに広がる甘さに幸せを噛みしめる。
そして、やっぱり一人で食べるのはもったいないと思う。
半分に割って近藤さんに指しだそうとすると、急に口端にその大きな指が伸びてきて何かを拭い取った。
それをそのまま口にいれる。
「うん、やっぱりここのが一番美味しい」
拭い取ったのは口に付いていたお饅頭の中の餡の欠片。気が付いたときには顔が火照っていた。
「こ、近藤さんっ」
言ってくれれば自分で取ったのにっ
「美味しいでしょ?」
こくこくと大きく頷く私の頭を近藤さんは嬉しそうに撫でた。