会う度に親友の娘に大きな傷が増えていることに気が付いてた。
「おい」
愛しそうに診察途中で眠ってしまった娘を撫でる親友は父親の顔をしている。
「こんなにちっこいのになぁ。頑張りすぎだよなぁ」
そのとき初めて血が繋がっていないという話を聞いた。まさかと思った。だって、どうみても本物の父娘だったからだ。
「こんな小さな体でさ、徳川の業を負っているだぜ、こいつは」
「業…?」
らしからぬ言葉を聞き返し、初めてその存在の意味を知る。
「東照宮の奥巫女知ってっか?」
「…噂だけなら」
「こいつ、次のそれなんだ」
他にいないのだと語る。
「今は引き継ぎ中なんだと。それで業の半分がこいつにくる」
「…業がどうしてこんな刀傷になる」
どうみても人間の仕業のそれが余計に信じられなかった。
「業を昇華する代償、らしい」
信じられない、信じたくない話だ。こんな小さな少女に徳川の業の半分が与えられ、こんな刀傷がこれからもっと増えるというのか。
「俺は、あまり長くこいつといられねぇ」
このとき親友の体はもう労咳に蝕まれていた。
「だけどよ、良順」
「こいつができるだけ長く生きられるように助けてやってくれねぇか」
父親の顔でそんなことを言うから、それが遺言なんかになっちまうんだ、バーカ。
おまえが生きなくてどうする。おまえ以外の誰におまえの娘を助けられるってんだ。