「才谷さん、あんたまだ幕府に情けをかけるつもりか?」
腕の中で、彼女は表情もなく、ただ無心に眠っている。ここにある確かな温もり。それを欲したときにはもう道は定まっていたのだろう。彼女を救いたいから、わしはわしの道を行く。
「ああ、そのつもりじゃ」
「あんた本当に甘すぎるぜ!」
声を荒げる石川に対して、口元に指を立てる。
「しっ」
はっとして、石川が落ち着くのを待ち、続ける。
「何事も荒っぽい手段はいかん。禍根を残せばまた次の火種になるだけぜよ」
禍根を残せば、彼女の身が危うくなるばかりだ。
「いや、物事を大きく変えるには一度根こそぎぶち壊す必要がある!」
「江戸であれ、室町であれ戦乱の中から平和をつかんだ!」
彼の言うことも一理あるが、それではダメだ。彼女の望む道に血があっては、いけない。これ以上、彼女に苦しんで欲しくはない。
「大勢の人が死による。それでもえいのか?」
躊躇うと思った。だが、彼はわしとまったく同じ考えではないのだと思い知らされる。
「この世に流血なき革命はない!」
心のどこかで信じていた。石川だけは、同意してくれるものだと。
だが、結局は彼女だけなのか。
腕の中の温もりを抱く手に力を籠める。たったひとりでも理解者があるなら、わしは進んでいけるから。
「…石川」
意を決した言葉は、階下の騒々しさにかき消された。
ネタバレでごめんなさい。
ええと、「揺らぎの葉」で梅さんたちの死なないバージョンを模索中。
本編に含めるか、まったく別ルートとして書くかは、未定。
(2006/09/11)
本編に入りました。