幕末恋風記>> ルート改変:沖田総司>> 慶応元年卯月 07章 - 07.5.1#できないんです…

書名:幕末恋風記
章名:ルート改変:沖田総司

話名:慶応元年卯月 07章 - 07.5.1#できないんです…


作:ひまうさ
公開日(更新日):2006.6.7 (2012.7.4)
状態:公開
ページ数:4 頁
文字数:7386 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 5 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)
一条ケイさんのリクエスト
沖田イベント「できないんです…」

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p.1

 非番の日の私は、朝も暗いうちから床を抜け出し、早々に屯所を出ることにしている。行き先は誰にも告げないが、大抵は町が起き出すまでは壬生寺に、人通りが出てくる頃には町中に、日が大分落ちてくると山南塾を帰宅する子供を誂いがてら送ってから帰路に就く。

「げ」
 だけど、今日は部屋を出たとたんに、私は土方と鉢合わせてしまった。まだ寝間着のままの土方は眉間に皺を寄せ、私を強く睨みつけてくる。起きて早々一番には、さすがの私も見たくない顔だ。

「葉桜、こんな時間からどこへ出掛ける気だ」
「えーっと、散歩」
「ほう」
 土方の疑う様子に、私は目で応戦する。

 だって、違わないぞ。ただ行き先がこれと決まっていて、暗くなるまで帰らない散歩なだけなんだから。

「葉桜は今日、非番だったな」
 土方のその問いかけは嫌な予感しかしないだけに、私は渋面した。ついでに、ずりずりと摺り足で土方から間合いを取りつつ、移動する。こういう時は逃げるが勝ちなんだが、こういう時に限って上手い言い訳というのは思い付かないものだ。

「ああ、明日が死番だから休みなんだ」
 死番というのは、見廻り中に一番先頭に立ち、一番に斬り込んでいく役のことだ。危険性が一番高いこの仕事の前は大抵休みが取りやすい。そうでなくても、しょっちゅう休みなんて替わってもらっているというのはこの際秘密だ。土方に知られたら、色々とやりにくくなる。

「そうか、明日か……」
 私の言い訳を聞いたとたん、急に土方が困った風な様子で視線を逸らした。頼み事をしようとして、どうするか迷っているようだ。こういう困った様子に私は自分がとても弱いことを自覚している。手を差し伸べたくなってしまうのだ。だけど、土方がこんな時間に声をかけるということは、もちろん仕事の話以外であろうはずがない。休みが潰れるのは決定してしまう。そんなのは面倒だ。

「じゃ、じゃあ、私は行くから」
 考え込んでいる土方を置いて、私は離れるように足を進めた。土方からは生返事しか返ってこないし、その上気配は動く様子もない。視線は感じないが、困っているこの空気がどうにも私は放っておけない性分らしい。

 あーもう。

 私は踵を返し、土方の前まで戻る。彼はまだ考え込んでいる風で。

「何の仕事?」
「しかし葉桜は休みなんだろう」
「いーよもう。休みはまたとれるしさ」
 私が口を尖らせて言って返すと、土方の口角が小さく上がった。やっぱり土方は私の性格を分かってて、やってやがったようだ。そうとわかっていても私が立ち去れないことを土方に理解されているのは、果たして喜んでいいものなのだろうか。

「それじゃ、頼むか」
 自分の性分を私は今ほど恨めしいと思ったことはない。

 だけど、そういう性分を損と思っても、私は後悔したことだけは一度もない。そうして出会った人たちがみんな大切だし、それを否定する気なんてあるはずがない。出会う人みんなが大切。これだけは、ずっと変わらない。だから、困っている人に手を差し伸べることはやめられない。やめたら、それはきっと私じゃなくなってしまうだろうから。



p.2

(沖田視点)



 非番の日、大抵葉桜さんは朝早くからどこかへ行ってしまう。最近は彼女と稽古するのも大変だ。本人は面倒くさがりだがその腕は確かで、指導力のある稽古をすると他の隊士たちが噂しているのを聞いた。

 葉桜さんを捕まえるなら朝早く。そう考える者が増えたせいだろう。ここ最近は朝から姿を消していて、夜になるといつの間にか部屋へ戻って眠っているということが増えている。

 だから、部屋に誰もいないのを見ても、僕は落胆しない。

 布団は既に畳まれ、きちんと整頓されたというよりも私物のほとんど無い部屋へ足を踏み入れる。あるのは文机と風呂敷に包まれた数枚の着物、それから手入れされた予備の大太刀と小太刀、それに小さな荷物があるだけだ。予備の大小は、葉桜さんらしく平隊士に貸し出すためのものだと聞いている。

 すぐにでも出て行けるような葉桜さんの部屋を見る度に、僕は寂しさに駆られる。いつか近藤さんが言ったように、葉桜さんは引き止めていないとどこかへ消えてしまいそうなのだ。

 本人がいないのにいつまでもいる意味はない。僕は部屋を出て、他に葉桜さんが行きそうな場所へ足を向ける。まずは、壬生寺だ。あそこは随分とお気に入りらしく、隠れていることも多い。

 壬生寺に人影を見つけて一瞬葉桜さんかと思って、僕は走りだしそうだった。だけど、すぐにそれが桜庭さんと気が付く。彼女はどこか物思いにふけっている風だ。桜庭さんは葉桜さんが一番気にしている人で、彼女が大切に守り育てている女の子だ。葉桜さんとは別の意味で女性らしさを残しながらも気丈に振る舞っている。こちらも僕や藤堂さんに腕は劣るけれど、平隊士の中じゃ一番腕も筋も良い。葉桜さんが気に入るのも道理だ。

 そうだ、桜庭さんなら葉桜さんの居所を知ってるかもしれない。

「桜庭さん、何考え込んでるんですか?」
「きゃっ!」
 僕が声をかけると、よほど驚いたのか、桜庭さんは小さな悲鳴をあげた。葉桜さんだったら、こんな風に驚かない。驚いたとしても表面には決して出さずに振り返って笑うだろう。そういえば、こんな風に隙をつかれて驚いた葉桜さんを見たことはない気がする。

「ひどいなぁ。そんなに驚かなくてもいいじゃないですか」
「あ、あはは」
 僕が知っている限り、葉桜さんが本当に驚いた顔を見たことがある人はいない。近藤さん達の話では彼女は時の先を知っているせいというのもあるのだろうけど、そんなものを知らないとしても彼女は驚かないような気がする。桜庭さんとは正反対に人の気配に敏感で、女性であっても僕や永倉さんほどに強くて。僕の知っているどんな人よりも情が深い。

 葉桜さんはいつも笑っているけど、よく涙の跡を見る。僕が見るのはいつも泣き終わった後で、葉桜さんがいつもの強さを取り戻した後で。笑ってくれるのは嬉しいのだけど、どうして僕の前ではその弱さを見せてくれないのか、時々不満に想う。

「ねえ、沖田さん。どうして沖田さんって笑顔で人が斬れちゃうんですか?」
 不意の桜庭さんの問いかけには、僕も少し驚いた。

「そうでしたっけ?」
「どうしても全員の命を奪わないとイライラするとか? 血を見ないと収まらない日があるとか?」
「あははは、それじゃ危ない人じゃないですか」
 他愛のない話をしている間も葉桜さんのことが頭から離れなかった。そこに唐突な言葉が飛び込んでくる。こういう所があるから桜庭さんは侮れない。

「指示がなかったら殺しちゃう、と。でも、何だか悲しいですよ、それ。みんなみんな殺してたら、周りに誰もいなくなっちゃいますよ。殺してしまってから後悔することになったって、遅いじゃないですか」
 誰もいなくなるなんて、考えたこともなかった。僕の周りにいる人たちはみんな強い人ばかりだから。

「味方を殺したことはないんですけどねえ」
「あったら大変ですって」
 もちろん隊内の粛正のために斬ったことはある。だけど、土方さんに標的だと指示されたらその人はもう味方ではないから違う、と思う。

「自分自身や好きな人が殺されたら嬉しくないですよね。だから、こんなコトしてたら、いずれは……。同じことを相手にされたら嫌だなってことは、しちゃダメです」
 もしも僕が殺されても、それが強い人なら構わない。でも、もしも葉桜さんや近藤さんが殺されたら、と考えるだけで嫌な気分が広がる。あの人たちに限ってそんなことあるはずないけど。

 そもそも、間違っても近藤さんや葉桜さんが僕に斬られることだけはないだろう。

「うーん……そうですねえ。まだピンとこないんですけど、少し真面目に考えてみますよ」
「ええ、お願いしますね」
 もしも葉桜さんがいなくなったら、僕はどうなるのか。想像も出来ない。だって、あの人はいつだって強く笑う人で、いつだって側にいて、いつだって背中を預けて戦える人だから。

「二人ともここにいたのかい?」
 近藤さんが来て、桜庭さんと二人で仕事を頼まれた。非番の時よりも仕事の方が何も考えなくていいからいい。葉桜さんのことはひとまず後で探すことにしよう。

(今度の非番は絶対に、葉桜さんに稽古に付き合ってもらおう)
 仕事の後で約束を取り付けようと決意しつつ、僕は桜庭さんと任務に向かったのだった。



p.3

(葉桜視点)



 騒がしい隣の部屋の音を聞きながら、私は一枚の草の葉を口に当てる。それに息を吹くと、草笛特有の不揃いな音が溢れ、窓から外へ出て行った。元来不器用だけれど、これだけは出来るという数少ない剣以外の特技だ。でも、草で手を切ったりもよくやるので、滅多に私はやらないから知るものも少ない。でも、合図にはきっとこれで十分だろう。さて、階下に来ている応援は誰だろうかと私は耳を澄ませた。

「すみません。ご主人はいらっしゃいますか」
 沖田と、鈴花ちゃんの取り合わせかぁ、と苦笑いが浮かんだ。判断力はあるが腕がまだ追いつかない鈴花に、無垢な天才剣士の沖田という組み合わせは案外にいいと聞いている。もっとも沖田が暴走したら、鈴花には止められないだろうが、敵を薙ぎ払うには十分すぎる一振りとなるだろう。

 声と気配で分かる二人は、そのまま階上へのぼってくる。これで私の仕事はお終い。非番だから、わざわざ剣を抜くようなことなどないし、帰ってもいいのだが、私は少しだけ様子を見ることにした。

 沖田がきているなら、相手が抵抗しても捻じ伏せられるだろうし、私にはやることもないだろう。今剣を持っているかと言われると簪一本と心許ない。普段なら女装の時には大小を差せない代わりに、必ず二本忍ばせておくのだが、時期悪く両方研ぎに出してしまったばかりだった。今日の夕方には出来るそうだから、帰りにとってこればいいやと思っていたのだ。

 つまり今は女装姿なわけで、今のところこの姿の私を知っているのは、変装させる山崎と仕事を頼む土方、近藤だけだ。普段の私を見慣れているヤツでもよほどでなければわからないというのは実証されている。故に、こういう監察方の仕事もしやすい。

「何だぁ、貴様らは?」
 二人が部屋に乗り込むのを見届けてから、そっとその後ろに立つ。気配を完全に殺せている証拠に、二人とも私を気にする様子はない。鈴花はともかく、沖田にしては珍しいことだ。

「我々は新選組です。尊攘激派らしき者たちが暴れているとの通報を受けました。見たところあなた方がそのようですね。おとなしく新選組の屯所へ来てください」
 何故だろうか、沖田の言い方は相手を怒らせるやりかただ。わざとなのか、素なのか。普段から共に行動していても判断はし辛い。

「新選組だと?」
「てめえら、俺達を誰だと思ってる! 我らの大望を阻む会津の狗どもが!」
 さっきから聞いていたけど、大望も何もないじゃん。まったく、そんなことを言ったら沖田が喜んじゃうじゃない。と思った側からもう沖田の目がランランと輝いているのを見て、私はため息をつきたくなった。

「ふぅん……強くはなさそうですが、ぜいたくは言えませんね」
 少しばかり不満そうな沖田の言葉に、鈴花が顔をしかめる。ていうか、沖田に敵うような強さの浪人がそうそういてたまるか。純粋なだけの沖田の剣には迷いがない。だからこその強さでもあるが、迷いがその剣に現れたとき、いったいどうなるのか。私には判断できない。

「言ってくれるなぁ、貴様!」
「抜きますか」
 二人の剣が抜かれるが、誰も私に気が付いていない。まあ、流石に沖田の剣だから時間もかからないだろう。終わったら、鈴花ちゃんとお団子でも食べに行きましょうかね。

「少しは楽しませてくださいね」
「とりゃあ!!」
 一撃でやられた仲間にもう一人が完全に戦意を無くすのが分かる。それでも、剣を手放さない限り、沖田は戦うんだ。まったく、これだから沖田とは仕事したくない。

「こっ、降伏するっ! だから助けてくれぇっ!」
「あのー、降伏するなら剣をおろした方が」
「まだやる気なんですね」
 恐怖で居すくんでしまい、剣も手放せなくなってるなんて、しょうもない。いい加減、助けてやるか。

 そう思った矢先だった。

「う……うわ……あわわ……」
「ちょっ、ちょっと、沖田さんっ! 沖田さん、斬っちゃ駄目ーっ!!」
 浪士と沖田の間に鈴花が飛び込んでいくのを目にした瞬間、私は鈴花を突き飛ばして、彼らの間に割り込んでいた。

 ドシュッという肉を切り裂く音が耳に響く。ああ、治ったばかりの傷がまた開くな、なんて暢気なことが頭の隅を過ぎった。

「つぅ……鈴花、無茶しすぎ」
 沖田と鈴花、それに斬られかけていた浪人の三人が動揺しているのが、私の視界の端に映る。咄嗟に飛び込んだから、私は沖田の剣先を逸すことも流すことも出来なかった。かなり深く斬られたようで、傷口が熱いのに体が冷えていく。これはヤバイかもしれない。

 悲鳴のように鈴花が自分を呼ぶ声に、私は無理やりに目を開ける。目の前の剣を振りきった体勢のままの沖田の冷たい眼差しに、一瞬だけ私は居竦んだ。斬られる覚悟はいつだってしてきたから、剣を握ってきた。だけど、わかっていても沖田の色のない冷たい眼差しに私は負けてしまいそうだ。

 ゆっくりと沖田の手が下がることに、私は息を吐いて安堵する。次第に動揺する沖田の姿が揺らいでいく。

「何で、何でこんなこと……」
 見上げる私の目線に、沖田が怯む。だから、沖田には再三言っておいたはずなんだけどなぁ。まさか、自分が沖田に斬られるコトなんて予想もしていなかったから、私はこういうときどうしたらいいのか、どんな言葉をかけたらいいのか思い浮かばない。寒さに身が震えながら、痛みに体中が悲鳴を上げている中で、必死に考えをまとめようとしてみたが、無理だった。

 こういうときの沖田がどうあっても止まらないと知っていたはずなのに、私はただ鈴花を助けるためだけに飛び出してしまった。こんなことなら、さっさと去っておくべきだっただろうか。でも、それじゃ鈴花に余計な怪我が増えてしまう。そんなのは駄目だ。だから、やっぱり私は残っていて良かったのだろう。

「沖田も、戦う意思のないヤツ、斬るなって、言っただろ?」
 危うく鈴花まで巻き添えを食うところだった。もう少し考えて剣を振れと、だから普段から言っておいたのに。

 こんな怪我は計算外だ。あの紙にも書いてなかったことだ。どうやら、アレにはこういう細かいことまで書いていないらしい。いや、もちろん、それぐらいはわかっていたけど、さ。

 どこかで私にも甘えはあったのかもしれない。沖田はきっと私を傷つけないという、気のゆるみが招いた結果かもしれない。私は口元に自分を嗤う小さな笑いが溢れ、思考がゆっくりと暗転して、自分の身体が畳に倒れたのがわかった。もう、指一本動かせないし、どんどん遠くなる意識の端に、沖田たちの声だけが届く。

「あっ……葉桜さん?」
「何やってんだよ、あんた!! 早く手当てしてやらねぇとっ!!」
「は、はい、そうですよ!」
「そ、そうですね! 大丈夫ですか、葉桜さんっ!! しっかりしてください!!」
 動揺する三人の声が、遠く遠く、私の頭に響いて消えた。



p.4

 濃い化粧の匂いと血の臭いが混ざっての気持ち悪さが、私に否応なく寝覚めの最悪さを強く演出させた。

「ん、ぅん」
「やっほー、気が付いたみたいねっ?」
 笑顔だけれど、とても怒っている様子が見てとれる親友が、私に声をかけてくる。いつもながら、気合いの入った衣装だ。

「私、確か……」
 私は天井を見上げ、ゆっくりと意識を失う前の出来事を思い出す。

「アンタも命知らずよねェ、総ちゃんの剣の前に出るなんてさ」
 そうだ、鈴花が浪人の前に飛び出したのを見て、我を忘れて突き飛ばしちゃったんだっけ。今考えると、とんでもないことをしたと思う。だって、いくら私でも簪一つで沖田と渡り合う自信はない。しかもあの時は女姿で、慣れない分普段よりもすごく動きが制限されていたのだ。敵うわけがない。

「幸い、ケガはそれほどひどくはないわ、でもね。無謀よ、無謀っ!! いくらなんでも素手で剣を持った総ちゃんに敵うわけないでしょっ?」
 しっかりと状況は聞いているらしい様子に、私はほくそ笑む。

「まったくぅ、死なずに済んだから良かったものの、あまりにもムチャだわ」
 眦を下げて、ホントに心配している様子に、私はどうしても笑いが溢れてしまった。だって、こうなったって私は生きてる。生きてるから、こうして山崎にも怒られるし、生きているから話すことが出来る。

「鈴花ちゃんは無事?」
 ぐっと山崎の拳が握られ、震える。

「あ、あ、あんたねぇ! いくら鈴花ちゃんが大切って言っても、限度ってモンがあるでしょっ! アンタが死んじゃってたら、それこそ意味がないじゃない!」
「でも、生きてるよ」
 私が笑って返すと、山崎はしばらくの間病人を殴るに殴れないといった風に拳を握り締めて、ふるふると震えていたが、諦めたように深く息を吐いた。

「とにかく、もう少しお休みなさい。傷自体は大したことないから、すぐに治るわ」
「ありがとう、烝ちゃん」
 立ち去りかけた山崎に言うと、一瞬私を哀しそうに見つめ、勢い良く襖を閉めていった。

 山崎が怒るのも無理はない。私だって、あの時鈴花が斬られていたら、彼女に同じように怒っただろう。

 幸いにして、斬られたのは私で、こうして生きているから大丈夫だと言える。生きている限り、この身は私の為じゃなく、大切なものを守るために使うと決めているから。だから、心配してくれて有難うという言葉の後ろに、いつもごめんという謝罪を含ませている。それに気が付いているから、山崎は私を怒るのだろう。この性分を変える気もない私を心配するのも通り越し、呆れ、心配して。

 わかってはいるけど、大切な人たちに囲まれて、幸せだから。だから、無理でも無茶でも何でもするよ。守るためなら、何だって出来る。新選組に入ったときよりも強い想いを胸に、私はそっと瞳を閉じた。

 この直後から沖田が斬り合いにおいて人を斬ることは疎か剣を抜くことさえ出来なくなったと云うことを、私はずっと後になってから聞くことになった。



あとがき

イベント話なのに、長いなぁ。これでも、前振りです。
次はやっと松本先生が!
(2006/05/26 15:29)


公開
(2006/06/07)


リクエストで「私はここです!」イベントがあったので、あれを書くにはこれも書かな!ということで。
まだ前振りです。
(2006/06/07)


沖田視点の人称修正序でに、改訂。
(2006/07/06 14:26)


改訂
(2012/07/04)


ファイル統合
(2012/10/09)