三年ぶりにあった望美は、別れたときとまったく変わっていなかった。だから、あの気持ちを思いだしてしまったんだろう。
「なあ、あの懐中時計」
俺が続ける前に、機嫌良く望美が夢で渡したそれを取り出す。考えてみれば妙な話だ。夢の中で渡しただけなのに、彼女の手には本物があるのだから。
懐中時計を開くと流れ出すメロディに二人で耳を澄ませる。現実に聞こえる音は懐かしくて、軽く望美に寄り掛かると彼女の方も俺にもたれてくる。遠い昔、放課後の教室で、ひとつのイヤホンを二人で分け合ってCDを聞いた時のように。
「こうして目を閉じると、夢みたい」
「だな」
囁く言葉に小さく同意する。目を開けたら、もしかしたら教室に戻っているかもしれないなんて考えてしまう。でも、目を開いてもここはやっぱり緑深い熊野の宿の一室で。
「どうした?」
「なんでもない」
きゅっと服をつかまれる感触に寄り掛かっている望美を見下ろすと、目を閉じたまま険しい顔をしていた。
「ねえ、もしもあのとき…ううん、やっぱりなんでもない」
言の葉を紡ぎかけた望美がそこで切る。それだけでも言いたいことは十分に伝わってくる。だけど、もしもなんて起こってしまった後じゃ無意味なんだ。
「ごめんな、ずっと守ってやれなくて」
「そんなことないよ!」
声を上げる望美の肩を抱く。ずっと守るべき存在だと思ったのに、3年ぶりにあったら、ずいぶんと大きくなっていた。姿形は変わらずとも、その心が驚くほどに強くなっていた。
誰もどれだけ彼女が変わったかなんてわからないだろう。譲だって本当のところは判らないに違いない。俺だけが、わかるんだ。その心に深い想いと決意を抱えていることを。もう守らなくてもいいんだと、自分が守るのだと強がっている心を。
「なあ、ピンチになったら俺を呼べよ」
「あはは、将臣くんはヒーローだもんね」
昔から、望美を助けるのは俺の役目だった。それは今でも変わらない。
「ああ、俺はおまえだけのヒーローだからな」
他の誰でもなく、望美の望みだけはーー。
「ひーろー?」
あどけない声に望美が慌てて身を離し、振り返る。そこには幼い子供が不思議そうに首を捻っている。
「は、白龍!?」
「神子、将臣、ひーろーって何?」
慌てている様子を見ると、どうやら少しは俺を意識してくれていたらしいとわかり、そんなささいなことにほっとしている自分がいる。まだ、俺は望美のヒーローでいられるのだとわかるから。
離れて行こうとする望美の肩に腕をまわし、引き寄せて囁く。
「どれだけ離れても、絶対呼べよ?」
こちらを見ないで頷く望美の耳は鬼灯色に染まっていた。
長くてごめんなさい。そして、ありがとう。
友人リクの練習のつもりで書いていたんですが。気が付けば、長くなっていました。
初書き遙時3夢は将臣。しかも、拍手かよ。
過去ログに収録する際にはちゃんとドリーム化する予定です。
「彼女」に名前を入れれば、ほぼ夢。
(2006/08/18)
彼女の一部を変換可能にしました。