幕末恋風記>> ルート改変:山崎烝>> 慶応三年水無月 12章 - 12.1.1-女同士

書名:幕末恋風記
章名:ルート改変:山崎烝

話名:慶応三年水無月 12章 - 12.1.1-女同士


作:ひまうさ
公開日(更新日):2006.8.20
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:2093 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)
揺らぎの葉(85)

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p.1

 葉桜の荷物ははっきり言って本当に少ない。風呂敷一枚でこぢんまりと包める程度しかない。というのも、本人に物欲というモノがないせいというのが大きい。

 対して山崎の荷物は隊内の誰よりも多いといっても過言ではない。鈴花も驚くほどなのだ。そうでなくても、普段から大量の武器やら丸薬やらを持ち歩いているというのだから、どこまで化け物だこの人は、と大抵の者が思っても不思議ではない。

「着道楽っても限度あるって、烝ちゃん」
「しょうがないでしょ~。どれもアタシに似合うんだ・か・らっ」
 土方の作戦の甲斐もあって、新選組は西本願寺に用意してもらった新しい屯所に移ることになった。葉桜は部屋に荷物を置いてすぐに終了なのだが、山崎はそうもいかない。なので、手伝いに来ているわけである。

 部屋の前の縁側でお茶を啜りながら、涼しい風を感じて目を細める。手伝いに来ているはずなのだが、ーーまあ、葉桜が手伝うはずもなければ、山崎が手伝わせるはずもない。とかく山崎の荷物は謎が多すぎるのだ。本人曰く、監察方なんだからこのぐらい当然よぉ~という話なのだが、同僚の吉村も呆れていたのを葉桜は知っている。

「しかし、ここはずいぶんと広いね~」
「そうね。色んなモノも揃ってるみたいだけど…ねっ、女湯はあるのかしら?」
「あると嬉しいね。思う存分長湯出来るし、」
 すぐ近くで聞こえる声に振り返る。もう部屋の片付けは終わったらしい。

「葉桜ちゃん、長湯好きだものね。もしもなかったら作ってもらいましょうよ!」
 イイ考えだと手を打ち鳴らせる様子に苦笑する。本当に、この人はもう。男にはどうしたって見えない。

「それでお風呂が完成したら、二人で背中の流しっこしましょうね」
「あはは、そうしよう!」
 明るく同意を返すと角で何か重い物を落とした音が盛大に響いてきた。もちろん、葉桜も山崎もそこに誰がいるかなんてわかっている。

「あら、どうしたの。左之ちゃん?」
「掃除ご苦労さん、原田」
 山崎はいつもどおりににこやかに、葉桜は苦笑を堪えながらわずかに振り返りつつ訊ねる。これで逃げようにも逃げられないから、出てくるしかないことぐらいわかるだろう。でなきゃ山崎が追って行くに決まってる。

 どうして彼が廊下の端で葉桜らの会話を聞いて動揺しているかなんてことは、二人ともよくわかっている。一言で言えば、純情なのだ。純情すぎる故に、葉桜と山崎の会話の不自然さに動揺する。

「ご、ご苦労さんじゃねーだろ、葉桜!」
「なぁに動揺してるんだよ、原田」
「そうよぉ~、べっつっに、なぁんにもおかしいことないでしょ。女の子どーしなんだから」
 この物言いは、どうやら山崎も分かっているらしい上に、葉桜の目的もわかったらしい。

「女同士って、おまえは違うだろうが、山崎!!」
「そんなことないわよねぇ、葉桜ちゃん」
「うんうん。烝ちゃんはその辺の女の子よりよっぽど女らしいって」
 何か言いたげな原田を振り返らずに、くつくつと笑いを堪える。

「で、でもよー」
「別に誰と風呂に入ろうが気にはならないよ。昔から人前での行水なんてもんもあったからな」
 巫女の修行と称して、いろんなことをやらされた。それは、私に印があるのに力がないという特殊性故だ。だから、人に見られているということは日常で、あまり気にかけるものとも感じない。もっとも殺されるとなれば話は別だが。

 まっすぐにこちらに歩いてくる原田を気にせずにいたら、いきなり頭を拳で思いっきり叩かれた。

「っ!」
「おまえはもうちっと自覚しろ、葉桜」
「加減ぐらいしろ、原田。馬鹿になったらどうしてくれる」
 痛いなぁと頭をさすりながら言うが、その方が良いという。変な奴だ。

「おまえは仮にも女なんだぞ。いくらなんでも男と風呂に入って、身の危険とか」
 ふっと吹き出す。身の危険? この新選組で?

「あははっ」
「笑い事じゃ」
「そんなことできるもんならとっくにしてんだろ。まあ、仮に出来たとしてもこの私が生かしちゃおかないぜ?」
 にやりと微笑んでみせると、原田は一瞬怯んでから深く息をついた。

「…おまえの腕は知ってる。だけどよ、おまえは人を斬れねーじゃねえか」
「死ぬ目に合わせてやるんだ。ちったあ強くなれんだろ」
「…ったく…」
「なんだって?」
 小さく呟かれた言葉に拳を突き出し、その顔面で寸止めする。怯まない辺り、流石だ。さすが組長なだけある。

「向いてねーよな、葉桜には」
 葉桜の拳を下げて、微笑んだ原田はどこか泣きそうだった。

「何が?」
 問い返しても、答えは返ってこなくて。父様みたいに頭を軽く叩いてから行ってしまった。

 何かを言おうとしていたようにも思うし、そうでないようにも見える。だけど、きっと原田の望むように私は出来ないと思う。私のすることは大抵、誰もが止めるから。ーー父様と芹沢を除いて。

 とん、と山崎に身体を寄せると、ふわりと包み込んでくれた。

「烝ちゃん、心配、かけてごめん」
「なぁに今更なこと言ってんのよ。アタシと葉桜ちゃんの仲じゃない」
「…うん。でも、ごめんね」
「葉桜ちゃん」
 山崎はただぎゅっと強く葉桜の肩を抱きしめた。

あとがき

そういえば、山崎も一覧に入っているよね、たぶん。
うぅん。でも、姐さん生きて欲しいなぁ。
(2006/8/20 10:54:02)


~次回までの経過コメント
永倉
「近藤さん、例の新藩会議で激論したそうじゃねェか」
「しっかし、いいのかねェ。俺たちみてーな半端者集団が政に口を出してよォ」
「何か違和感を感じるんだよなァ」