幕末恋風記>> ルート改変:永倉新八>> 慶応三年霜月 14章 - 14.1.1-永倉の苦悩

書名:幕末恋風記
章名:ルート改変:永倉新八

話名:慶応三年霜月 14章 - 14.1.1-永倉の苦悩


作:ひまうさ
公開日(更新日):2006.9.20
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:1912 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)
揺らぎの葉(100)
永倉イベント「永倉の苦悩」

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p.1

 思い返してみれば、私は今まで好きなことを好きなようにやってきた。たまに我慢もするけど、やっぱりやりたいようにしかやってきていない。だから、後悔なんてしない。

「色々、あったなぁ」
 そろそろ潮時なのだろうか。すべてを終える準備を始めなくてはならないのに、新選組を離れたくないと叫ぶ自分がいる。

 できることは全部やってきた。思うようにいかないことはあまりに多くて、忘れてしまいたいくらいだ。だけど、どんなときも精一杯やってきたつもりで、それを後悔するなんていうのは、自分じゃないって思う。

 誰かに言われたからじゃない。全部、自分で選んで歩いてきたこの道を振り返って嘆くつもりはない。嘆くよりも前を向いて笑っている方が、よっぽど私らしい。身のうちから溢れてくる笑いはまだ本物じゃないけど、いつか本物に変えられる。

「あ…? 永倉、か?」
 不意に現れた気配に振り返ると、彼はなんとも情けない顔でこちらを見ている。しょうのないやつだ。手招きして、隣に座らせる。

「どうした?」
 いつになく真面目な様子で、こちらも居住まいを正す。

「ちょっと考え込んじまってよ。御陵衛士たちのことをな」
 言われるまで、忘れていた。そうだ、こいつは私が巻き込んだ。そのことを悩まないはずがないのに、自分のことばかりで一杯で。

「一人でいるとな、つい考えちまうんだよ。俺があいつらを殺したようなもんじゃねェかって」
 隣に座る永倉の肩に軽く寄り掛かる。

「それは違うだろ。永倉は私に巻き込まれてくれただけなんだから。責めるなら、自分じゃない。私にしておけ」
「葉桜」
「あいつらが永倉のせいで夢を奪われて死んだのだとしたら嘆くのも当然だ。でも、そうじゃないだろ? だったら、そんな風に思っちゃダメだ。今の永倉を見たら、あいつらが哀しいだろ?」
「そっか、そうだよな」
「永倉は、自分が同じ立場なら恨むか? 恨んだりしないよな?」
 言葉を続ける途中で体が倒され、永倉の膝に落とされる。受け止めた永倉の瞳はひどく優しい色になっていて。

「それに、私だって悲しい。永倉がそんなに苦しんでいるのは、私が巻き込んだからだ」
「葉桜、俺は…っ」
「いいんだ、おまえは何も悪くない」
 伸ばした腕でその頬に触れる。

「何も悪くないんだ」
 言葉は届かないかもしれない。だけど、気休めでも言いたかった。少しでもその心が軽くなるなら、全部自分のせいにされたって私は構わない。

 永倉は一度固く目を閉じ、泣きそうな顔で笑った。

「葉桜、ありがとな」
 笑ってくれたから、永倉が笑ってくれるから、私もやっと笑えた。

「オメーは大丈夫なのか?」
「え?」
「…夢とか」
「あぁ」
 言いたいことがわかって、体を起こす。永倉のあの優しい瞳を見ながら話しては、きっと笑っていられない。

「見ないよ」
 夢を見ない日はないけれど、心配されたくないから。そんな場合じゃないから。空を見上げてウソをつく。

「夢なんかひとつも見ない。悲しいぐらいに、ね」
 毎夜夢を見る。この手で奪った命の最後が繰り返される悪夢を、もうどれだけ見たかわからなくなるぐらいに。伊東の最後の温もりだって、服部さんの羽織を通した温もりだって、覚えてる。二人だけじゃない。御陵衛士たちの夢を何度も何度も、見る。私は彼らを毎夜ゞ斬り捨てていく。助けたくたって、助けることはできない。斬りたくないのに、勝手に体が動いて。哀しみのうちに目を覚ましても、それは夜明けまで終わらない悪夢。そんなものは、人に報せるモノじゃない。

 腕を引かれて、振り返る。

「なんだ?」
 ちゃんと、笑えているだろうか。

「すまねェ、葉桜のがつれェよな…」
「ん? なんでだ?」
 引き寄せられ、しっかりとその腕の中に抱き込まれる。

「一人で、苦しむな。俺は進んで巻き込まれたんだから、オメーを責めるつもりはねェ。俺じゃ頼りにならねェかもしんねェけど、何もかも一人で背負い込むんじゃねェよ。伊東さんたちのことはそれこそ、新選組全員に大なり小なり責任があるんだ」
 響いてくる優しい声音に胸は篤くなるのに、涙は溢れてもこない。あの夜に一生分泣いてしまったからだろうか。

 腕を伸ばして、永倉の背に手を回す。

「気持ちだけ、受け取っておくよ」
「葉桜」
「でも、別に一人で苦しんでなんかいないぞ? こうして、永倉も心配してくれるわけだし、烝ちゃんだってそうだし、総司も、近藤さんも、土方さんも、斎藤や原田だって心配して来てくれるからなぁ」
 こうして来てくれるだけでそれだけで充分だ。大切な人と語らう時間は、それだけで最高の癒しだから。

「有難う、永倉」
 囁いて返し、体を離すと、永倉は何とも複雑そうな顔をしていた。

あとがき

リクエストはないんですが、個人的な趣味で「永倉の苦悩」を入れました。
この人史実でも生存してるし、イベントを入れる必要ってないっちゃないんですが。
八っちゃんを外して新選組は語れない!みたいな(みたいじゃない。
書き始めるときにB’zの「あいかわらずなボクら」が頭の中に流れ出したので、そのまま書いてみたら、読むたびに頭の中をリフレイン。
この話、大丈夫なのかな…(何。
(2006/9/15 17:18:50)


~次回までの経過コメント
近藤
「王政復古の大号令…薩長主体の新政府が日本の今後を牛耳るってか?」
「あ~あ…どうせ天子様はないがしろにされちまうんだろうな」
「そんな新政府…認めるワケにはいかねーよな」
「目指すは徳川復権だぜ」