「あ」
ただ歩いていただけなのに、鼻緒が切れてしまって、すごく単純だけど直ぐにでも会いたくなってしまった。
でも、屯所には来ないでくれって言われているから、壬生寺のいつもの待ち合わせ場所に行く。
友達は、そんなの気にすること無いから行きなよとか簡単に言うけど、怖がりな私には、あそこに近寄ること自体、とても無理だ。
わかってるから、ここで待ち合わせ。まあ今日は待ち合わせじゃないけど。
境内に座って、手紙を書く
「左之さん、元気ですか?」
「私は元気だけど、少しだけ寂しいです」
そこまで書いてから、ちょっと考えた。これじゃ、笑われるかな?
「やあ、今日も原田さんと逢い引きですか?」
いきなり後ろから声をかけられて、手紙も筆も取り落としてしまった。
沖田さんはいつもの笑顔のままでそれを手に取り、小さく微笑む。
「い、いえ、今日は違うんです」
「そうなんですか?」
彼は少し考え込んだ後で、待っていてくださいと言い置いてから走っていってしまった。
どこに行ったのか、何しに行ったのかわからないままの私だけが取り残された。
息せき切って走ってくる彼を目を丸くしてから笑顔で迎える。
「こんにちは、左之さん」
「おう…じゃねえだろっ!」
いきなり怒鳴られて、びくりと身を震わせる。なんでか分からないけど、怒っているみたいだ。
「おまえ、こーゆーことはちゃんと直接言えって言っただろ!?」
手に握られたくしゃくしゃの紙はさっきの私の手紙だ。
「でも、お仕事中でしょう?」
強く引き寄せられて、腕の中に抱きしめられる。
「そうだけどよ…オマエが一人でいたりとか、寂しく思ってたりとかすんの、俺が嫌なんだよっ」
これは、困った。だって一緒にいないときはいつだって寂しくなってしまうんだもの。でもそんなことを言ったら、左之さんのお荷物になってしまうから。それだけは絶対に嫌だから。
背中に腕を伸ばして、体中に響くように囁く。
「左之さんのそーゆートコ、大好きです」
どくんと音を立てて固まってしまうのはいつものこと。
「来てくださって、ありがとうございます」
ほんの少しでも会えればそれだけで最高に幸せだから、余計に一緒にいないときが寂しくなってしまうだけだから。
会えない分だけ、会ったときは嬉しくて。触れられた分だけ、いない寂しさは募るけど。
会って、二人で触れ合うだけで満たされるから。
だからね、こうしてただ強く抱きしめていて。