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書名:GS
章名:読切・他

話名:GS2@佐伯瑛 - monologue


作:ひまうさ
公開日(更新日):2006.10.25
状態:公開
ページ数:8 頁
文字数:8217 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 6 枚
デフォルト名:海野/あかり
1)

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p.1

 目を開けたら目の前にアイツの顔があって、まだ夢の続きを見ているのかと思った。

「…寝ぼけてるの?」
 だって、ありえない。こいつがこんな風に女らしく見えるなんて、信じられない。だけど、やっぱりあいつで。こんな風にかわいいとか思ったのは本当で。

 チャイムの音で一気に覚醒する。これは現実で、目の前には確かにアイツがいて。そんな普通なことが嬉しいなんて感じている自分がいる。

 てゆーか、授業!

「ーー寝癖は?」
「え?」
「どっち?」
「ないよ」
「遅い!」
 チョップを受けた様子はやっぱりいつも通りで。だけど、いつもよりも何だか数段可愛くみえてしまって。

「じゃあな」
 俺の中であかりの存在が大きくなっていく。それは全然不快じゃなく、むしろ波に揺られる心地よさを与えてくれる。あかりがいない週末、あかりのいない日常なんて、考えられなくなってる。

 最初は本当に邪魔だと思った。だって、なんだか簡単に懐いてくるくせに、他の女たちとはちがって媚びてくるわけでもなく、何かを要求してくるわけでもない。今まで全然周りにいないタイプで、苦手なんだって、思った。

 ただ普通の友達みたいに接してくれるあかりにだんだんと心が開いていくのを感じた。

 たまに俺にチョップしようとしてくる無謀も、それで返り討ちされて痛がってる姿も、だんだんと微笑ましく、愛しくなって。その表情のすべてを、その視線のすべてを俺だけのものにしたいと思ったのは何時だったか。

「遊園地? うん、もちろん行くよっ」
 誘ってみたら、本当に心から喜んでくれる姿がとても愛しかった。あかりがこれからずっと一緒にいてくれたらいいと、願った。



 なあ、あかりはどうなんだ? たまに手をのばしてきたり、服を引っぱったり、寄り添ってきたり、見つめてきたり…チョップしてきたり。俺のこと、どう思ってるんだ? なあ、教えてくれよ。

 伸ばされた手を繋いだら、あかりはただ嬉しそうに笑うだけで。



p.2

 急にあかりが学校に来なくなった。毎日会っていたのに、急に会わなくなったせいか毎日が落ち着かなくなった。クラスのやつに聞いてみれば、体調を崩して休んでいるらしい。もうそろそろ1週間が経つ。あかりと出会ってから、こんなに会わないのは初めてで、なんだかこのまま会えないんじゃないかなんて考えがよぎった。でも、俺は仕事を放り出すわけにはいかない。あいつが出てきてくれるまでは、どうすることも出来ない。

「瑛、買い出しを頼まれてくれないか?」
「え? 何か足りなかったか?」
「彼女にこれを届けてほしいんだ」
「…じーさん」
「開店前には戻って来いよ」
「ああ、サンキュウ!」
 あいつに会うには十分な理由で、俺はすぐさま店を飛び出した。あかりの家は知ってる。もう何度送っていったか知れない。

 あかりの部屋に通されると、あいつは嬉しそうに起き上がって出迎えてくれた。元気な姿にほっとした。反面、倒れるほどに無理してたんだってことをしって、それだけこいつが頑張ってきたんだってコトを思い知った気分だった。そういえば、頼られたコトなんて一度もなかった。あかりはいつも誰かに頼るなんてしないで、俺や他のヤツの話を聞いたりとかそんなことが得意で、頼られてばっかだ。

「俺が言っても説得力ないけどさ、あんまり無理すんなよ。俺…おまえが居ないと、困るよ」
 もっと俺を頼ってくれよ。俺、おまえの力になってやりたいんだ。



 帰り道にもしも、と考える。今急にあかりがいなくなってしまったら、と。その瞬間、愕然とした。永遠なんて信じてなかったけど、まるであかりのいない生活が想像できない。出会う前まではどうやって生きていたのか、何を考えていたのか思い出せない。今はただ、毎日あかりが何してるのかとか、何かあってもあかりならどうするだろうかとか、どんな反応を返すかとか、そんなことを毎日考えてばっかりで。妄想を、幻想を振り払った。



p.3

 俺のそんな苦労を無にして、あかりが無邪気に聞いてくることに腹が立った。

「恋愛についてどう思う?」
 まるで他人事みたいに、ただの友達に聞くみたいなあかりにとにかくむかついた。前はあんなに誘ってきたくせに、最近は俺から誘ってばっかりな気もするし。かといって誘ってやれば、ムカツク言葉を返してきたり。なんなんだよ。おまえ、本当に俺をなんだと思ってるんだ。八つ当たりしてもわけがわからない様子のあかりに、またむかついた。

 子供っぽいってわかってるんだ。だけど、おまえの前だと冷静で居られない。おまえが俺をどう思うのか、気になって仕方ない。こんなことしたって、あかりに嫌われるだけだってわかっててもどうにも自分をコントロールできない。

 別れ際のあかりの寂しそうな顔に心が痛くなる。ちがうんだ、俺はそんな顔をさせたいんじゃない。俺は、俺は、ただおまえにーー。

「送ってくれてありがとう」
 無理矢理に作ったみたいな痛々しい笑顔に、思わず伸びかけた腕を拳を握って押しとどめる。

「どういたしまして。じゃあな」
 俺の笑った顔に、やっぱりアイツは悲しそうな笑顔のまま手を振った。

 違うんだ。俺はただあかりに、あかりが笑って俺の隣にいてほしいだけで、恋愛とかそんなことになったら、もしかしてあかりが離れていってしまうんじゃないか心配で。そんな情けない自分が一番イヤで。こんな俺を知ったら、あかりは離れていってしまうんじゃないかって怖くて。

 なのに、誘えば普通に来てくれる。優しくて残酷なあかりがとてもーー。いや、いいや。今日は違う。謝るために誘ったんだ。いつまでもあかりとの間にわだかまりなんて残しておきたくなかったから。

「なあ」
 まっすぐに見つめ返してくる瞳をまっすぐに見つめ返す。海みたいに深いその色が俺は惹かれずにはいられなかったんだと思う。

「この間…ゴメン。急に、怒鳴ったりして」
 あかりは安心したようにふにゃりと笑って、首を振った。怒ってないって会ってすぐにわかった。それだけ、あかりが深いのだってこともわかった。だから、素直に謝ることだって出来たんだ。だから、本当の俺を知って欲しいって、思ったんだ。

「イライラするんだ。おまえと居ると、どんどん、自分が情けなくなってくみたいで」
「わたしといると…どうして?」
「おまえが言ったこととか、何考えてんのかとか、そんなことばかり考えるから。こうしておまえといるようになる前は、毎日、なに考えて生きてたのか、うまく思い出せないくらい…」
 黙って聞いていてくれるのなんて、わかってる。あかりはいつも俺の言葉を、俺の本当だけを見てくれるから。

「想像つかないよ。もしおまえがいなくなったら、俺、どうなるんだろう…」
「わたしが、いなくなったら…」
 俺じゃないその言葉に足下が暗くなっていく。もしも、本当にあかりがいなくなったら、俺はどうやって生きていけばいいんだなんて、考えてる。

「…これだ。イヤなんだ、こういうのが」
 いなくなったらなんて考えてる自分が、イヤなんだ。

「ど、どうしちゃったの?」
「ウルサイ。わかんないよ!…帰ろう」
 ため息をひとつついて、それでもついてきてくれる足音に安堵している自分はもう隠しようもなかった。



ーーなあ、俺、あかりが好きだ。でも、あかりは?



 別の日のデートの後、いつもの寄り道の帰り、「キスについてどう思う?」と波を見つめたままあかりが聞いてきた。珍しい。いつもまっすぐに見つめてくるクセに、目の前にいるのに俺を見ないあかりに何があったか何て俺は全然わからなかった。

 俺はあかりがはばたき市に来るまでのことを知らない。あかりもここに来るまでの俺のことを知らない。お互いのこと何て、なんにも知らないんだ、オレたちは。だから、おまえは?なんて、軽く聞くことも出来なかった。



 あかりは覚えていないだろうけど、俺の、俺たちの最初のキスはあのときの約束なんだ。再び出会えるようにと、あの人魚の伝説になぞらえたみたいな幼稚なキス。だけど、俺の中ではもうキラキラと海の泡みたいにキレイなものになっている。

 おまえで、良かったと思う。最初のキスが、お前で本当に良かった。



p.4

 二度目のバレンタイン。今年もあかりから呼び出された。去年もそうだったからと期待していたら、期待以上の手作りチョコレートを渡されたコト、本当にうれしかったんだ。これまでこんなにバレンタインを嬉しいなんて思ったことなかった。

「なあ、あとでこれ、一緒に食べよう。どっか隠れて」
 俺の誘いにあかりは素直に頷いて、放課後の誰もいない教室で二人で食べた。今までで一番美味しいチョコレートだったよ。

「美味いな」
「えへへ、ありがとう。瑛くんにはまだまだ適わないけどね」
 口元にチョコレートをつけて笑うその口をぬぐい、自分で舐めとる。

「あたりまえだろ。ほら、ついてるぞ」
「…あ、あの。今…」
「なんだ? …あ」
 本当に別にいつもどおりのことなのに、あかりが赤くなるからつられた。

 あかりの素直な感情にだんだんと翻弄されていく自分がいる。チョップ一つでさえ、前はどんな風にしていたか、よく思い出せないんだ。どんな風に接していたか、それがよくわからなくて。不自然にあかりの目には映ったかしれない。だって、チョップする寸前のあかりの様子にとても動揺していて、抱きしめてしまいたくて。でも、逃げられてしまう気がして、怖くて。



p.5

 クリスマスのあの日、まさかあかりが来るなんて思わなかったから、少し混乱した。ついさっきじいさんから珊瑚礁を閉めるって話を聞いて、飛び出したらあかりがいて。うれしいのと、今の情けない自分を見られたくないので混乱して、逃げ出した。

 なんで来るんだよ。なんで、会いたいときに、側にいて欲しいときに来てくれるんだよ。部屋の中で気持ちを落ち着けようと努めた。だって、あかりはきっと部屋にくると思ったから。こんな気持ちのまま相対したら、俺、どうしてしまうかわからない。ただ、みっともない姿だけは見せたくなかった。

 目を閉じていても、あかりが登ってくる足音がわかる。聞き慣れたその穏やかなリズムは波の音に似ていて、自然と落ち着いてくる。

「ねぇ、瑛くん」
「…なに?」
 努めて、感情を出さないように話す。

「大丈夫?何かできることはあったらーー」
「べつに、平気」
「でも、あんまり平気には見えないけど…」
 嘘なんて通じるはず無いとは思ったけど、やっぱりあかりは鋭いよ。感情のままに、抱きしめたいと言ってしまったらきっと困るから、だから少しだけ。

「じゃあ…膝」
「膝?」
「膝、貸して」
 頷いて、あかりがベッドに座る。その膝に頭を乗せると、俺の髪を優しく梳いてくれる。

「いい気持ち」
 素直に言葉が口をついて出てきた。

「…うん。良かった」
 安心した声音に、また気持ちが落ち着いてくる。だから、素直に言うことが出来たのかも知れない。

「俺、わかってたよ。気づかない振りしてたんだ。口に出しては言わないけど、じいさん、俺がいっぱいいっぱいなの見かねてたんだ。それで…」
 それで、俺のために店を閉めることにしたんだ。ずっとここで、ばあさんとの思い出の場所で。俺も二人が大好きだったから、ここを無くしてしまいたくなかったから、だからこれまでやってきたんだ。やってこれたんだ。

「なあ…俺、できること全部、やれたのかな?」
 じいさんの力になれたのかな。俺の問いかけには思った通りに優しい声が降ってくる。

「瑛くんは、がんばったよ」
 不思議だなって思う。だって、こんなに素直な気持ちで人の言葉を受け止めることが出来る自分なんて想像もしなかった。あかりの言葉だから、素直に心に響いてきて、とても気持ちが良くて。

「そうか。…もうちょっと」
「ん?」
「もうちょっと、このまま。少し…疲れたんだ」
 ゆっくりと髪を梳く手が気持ちいい。

「いいよ。ゆっくり休んで」
「うん…メリークリスマス。おまえがここに居てくれて、よかった」
 あかりと出会えて、本当に良かった。



p.6

 眠ってしまったあかりをベッドに横たわらせる。俺のためにクリスマスの合宿から抜けてきてくれて、本当に有難うと言いたい。でも、今はもう少しだけ眠っていて欲しい。俺がいつもの俺に戻れるまで、どうかこのままで。決心がつくまで、どうかこのままで。

 俺はあかりと出会う前から珊瑚礁で仕事していて、出会ってからもとにかく仕事していなかった。あかりの誘ってくれるのに色んな場所に出かけたけど、結局仕事が気になって、最初の頃は送りもせずに帰していた。今思うととんでもない。あかりを一人で帰すなんて、今じゃ考えられないぐらい大切で、かけがえのない存在になっていた。おまえがいなくなったらと考えると本当に怖くて。でも、それ以上にやっぱり俺は珊瑚礁が大切で、あかりのことは二の次にしてばかりだった。

 あかりは俺といて、本当に楽しかったのか。そんなこと、考えもしなかった。二人で過ごした時間、どれも俺はただ嬉しくて楽しくて。そればっかりだった。あかりは色んなモノを俺にくれたのに、俺はその十分の一も返していないことに気が付いた。

 珊瑚礁が無くなれば、俺がこの町にいる理由もなくなる。そうなれば、もうあかりと会えなくなるかもしれない。だから、ひとつだけ俺の宝物をみせてやりたかった。おまえの心にも残るといい。そうすれば、あかりが同じモノをみて、同じコトを思ってくれたら、俺はもうそれだけで生きていける。

 冬の海で震えているあかりが感嘆の声をあげる。

「わぁ…太陽が水平線から昇ってく…」
「ああ。こうして海に浮かんで見ると、まるで別の星の夜明けみたいだろ?」
「そうだね…不思議な感じがする」
「何度見ても不思議で、きれいだ。だから、どうしても一度、おまえと一緒に見ておきたかった」
「ありがとう。寒い思いした甲斐があったかも。海もキラキラしてきれい」
 そういうあかりの方が波の雫をつけて、とても綺麗だ。きっと人魚がいたら、こんな風だったかもしれない。

「俺、この時間の海が好きだよ。穏やかで、神秘的で…人魚に会えそうな気がする」
「…人魚に?」
「ああ…」
 人魚は自分で歩いてきてくれた。あの時と同じように迷子になって、会いに来てくれた。それだけで、俺は満足しなきゃいけないのかもしれない。人魚と王子は結局は結ばれないのだから。

「そろそろ戻ろう。コーヒー飲みたくなった」
 不安そうな顔のあかりに笑いかける。

「うん!瑛くんのコーヒー飲むの、久しぶり!」
「甘い。俺、もうバリスタじゃないんだぜ?たまには、おまえが淹れろ」
 もしかするとあかりのコーヒーを飲めるコトなんてなくなるかもしれない。だから、今はすべてを覚えておきたい。こうして一緒に見た景色もあかりの淹れてくれるコーヒーの味も。全部。

「ほら、しっかり捕まってろ!ボヤッとしてると、落っことすぞ?」



p.7

 一足先に受け取ったうすっぺらな卒業証書。こんな紙切れ一枚で終わってしまう高校生活だったけど、あかりのおかげでずいぶんと楽しめた。あかりがいなかったら、もっとつまらなかったと思う。だから、あかりにだけはちゃんと別れを言いたかった。

「お待たせ!」
 走ってくるあかりがバランスを崩すのを思わず抱き留める。久しぶりのあかりの香りに、決心がくじけそうになる。

「ゴメン、急に呼び出して」
「ううん、ありがとう。それより、話って?」
 あかりはこんな俺に会えることを嬉しいと思ってくれてるのに、俺は。だめだ、ちゃんと言わなきゃ。

「珊瑚礁は、あきらめちゃうの?」
 哀しそうな声が胸に痛い。あかりの言葉だけが、直接俺に響いてくるから、だから、怖い。気持ちを押し殺して、拳を握りしめる。

「ああ、もともと無理だったんだ。これ以上駄々こねても、みっともないだけだ」
「みっともないなんて…、あんなに必死でがんばってたのに」
「意地はってただけだよ。独りじゃ何も出来ない子供のくせに。そろそろ、大人にならなきゃ」
 珊瑚礁がないのに、俺がこの街にいる理由もない。だったら、今は進まなきゃ。

「そんなこと言うの、瑛くんらしくないよ」
 どうしてそう、あかりはいつも核心をついてくるのかな。

「…じゃあ、じゃあ、俺らしいってどんなだ?おまえは俺の何を知ってる?」
「知ってるよ。ずっと、一緒にいたもん」
 はっきりと言い切るあかりの言葉を待つ。

「学校ではいい子で通してるけど、ホントはちょっと乱暴で、皮肉屋で…。でも、海や、珊瑚礁や、おじいさんのことを話す時は、とっても優しい目になってーー」
 本当の俺、見てくれる人ができるなんて、本当に思わなかったんだ。あかりは本当の俺をちゃんと見ていてくれていた。それだけでもう十分だ。

「そっちが、ウソだとしたら?」
「えっ?」
「学校の俺が本当で、おまえと過ごしてた俺が、全部ウソかも知れない」
「…ふたりで一緒に笑ったり、ときどきは、ケンカもしたけど…そういうことも、全部?」
「ああ…酷いもんだろ?」
「そんな…」
 嘘だって、言ってやりたい。だけど、ダメなんだ。もう会えないんだから、こんな俺があかりの中にいても、こんなに情けない俺のこと何て。

「だから、忘れて欲しい。珊瑚礁のことも…俺のことも」
「そんなの、無理だよ…」
 言い切られて嬉しい反面で、より強く思う。

「頼むよ、耐えられないんだ。これ以上、情けない俺をおまえに見られるのは…」
「瑛くん…」
 もしも、もしもあかりと再会しなかったら、出会わなかったらこんな辛い別れなんてしなくてすんだ。

「人魚と若者はさ…出会うべきじゃなかったんだ。そうすれば悲しい物語なんて、無くてすんだんだ」
 出会わなければ、良かった。そうすれば、あかりに哀しい顔をさせることなんてなかったのに。

 でも、今俺に出来るのは、忘れてもらうことだけだから。だから。

「…さよなら」



p.8

 今も俺の前にはあかりのあの最後の姿が焼き付いたままだ。あのときあかりに言った言葉は嘘ばっかりで、俺はずっとそんな嘘であかりを傷つけてきたような気がする。

 卒業式も終わり、人もまばらな校舎内を走ってあかりを探し回る。朝に二人で話した教室。互いに声を掛けた廊下、踊り場。昼寝をした中庭。二人でサボった屋上。

 どこにもいないのに、どこからから出てきそうなあかりの影を求めて、校舎内を走り回る。

「佐伯くん?」
 廊下で声を掛けてきたあかりの親友だという女にもう帰ったと聞き、校舎を後にする。

 二人で立ち寄った喫茶店、いろんな話をした海沿いの帰り道。どこまで行ってもあかりとの想い出ばかりの道にも影がつきまとう。俺の高校生活には、いつでもどこにでもあかりがいて、笑ってくれていた。支えてくれていたんだと、本当に実感した。

 こんなにも大切な存在だったのに、忘れられるはず、なかった。別れ話をした堤防に差し掛かると、涙を堪えていたあかりの姿が蘇る。どうして、あんなことを言えたんだろうって、今は思う。だって、こんなにも深く俺の中に根付いている存在を、忘れられるはずなかったんだ。

 この道の先には、「珊瑚礁」と灯台がある。「珊瑚礁」に人の気配はない。じーさんも、もういない。戸口の前で、息をつく。

「どこ、行ったんだよ…」
 ケータイにかけても、誰も出ない。たぶん、あいつのことだから気がついてないだけだと思うけど、こんなときぐらい気がついて欲しい。

「っ!」
 それはかすかな音だった。塔を抜ける風の音。扉が開いていなければ、鳴るはずのない音。そして、灯台に登って上の扉を開かなければ鳴らない、音。

 考える前に体が動いていた。この街のことをよく知らないから、あかりは灯台の伝説を信じていた。いや、伝説なんかなくても、いつか登ってみたいと言っていたから、ここにいるような気がしたんだ。

 最初に何て言おうか。ただいまと言おうか、久しぶりとか、なんでこんなトコにとか。言いたいことはいっぱいあったのに、その姿を見つけた途端に胸がいっぱいになってしまった。

「あかり」
 言いたいことがあるんだ。知っておいて欲しいことがあるんだ。俺の背中を押してくれた礼と、それからこんなにもあかりでいっぱいな俺の気持ちをーー。



あとがき

攻略中の書きかけです。
(2006/8/11 17:28:22)


途中までまた書いた。
そのうち、消すと思いますけどまた今週末留守にするので、ここにおいておきます。
(2006/8/23 15:52:05)


GS2はここ最近休んで居るんですが、なんとなく読み返してたら瑛愛が(何。
そんなわけで、少し追加して、ちゃんと終わらせてみました。
こっちのが本当のGS2初ドリーム。
(2006/10/11 16:47:08)


公開
(2006/10/25)