(近藤視点)
最近、葉桜君に避けられているような気がする。しょうがないとも思うし、淋しいとも感じる。そして、よくよく考えてみれば現状は当然の結果というもので、つまりは葉桜君が少なからず俺を男として警戒してくれているということだ。
意識されるのは有難いが、避けられるのはどうも困る。せっかく俺が葉桜君の望むままの仲間であろうと思っても、そうさせてくれないというのは卑怯じゃないか。
「葉桜君」
気配を殺して近寄ると、わずかに肩を震わせてから葉桜君は作り物の笑顔を浮かべて振り返った。
「近藤、さん。お出かけですか?」
ここ最近、頓に葉桜君の様子は妙だ。特に江戸へ来てからはかなり酷く、雨が降っていなければふらふらと江戸の町を彷徨うように歩いている。他の隊士と出会うと適当な理由をつけて、またどこかへ行ってしまうそうだ。
「ああ、家に顔を出してこようと思ってね」
ほっと息と吐いて、葉桜君が笑う。ねぇどうして、そんなに君が安心するんだい? 俺が家に帰るのは、そんなにも気にかかることなのかな。
「そうですか。楽しみでしょうね。きっと、奥様もお嬢さんも喜びますよ」
「そうだね」
「どうぞ、ごゆっくり」
そのまま立ち去ってしまいそうな葉桜君の腕を、思わず掴んでいた。
「あ、あのさ。よかったら、俺の家を見に来ないか? 試衛館がどんなとこなのか…見るだけでもっ」
言ってから後悔した。だって、あまりにその表情が淋しそうで、哀しそうだったから。
俺はいったい何をやっているんだ。連れていって、どうしようっていうんだ。俺にはつねと娘がいて、それで、葉桜君は俺の恋人でも何でもなくて。それなのに、連れていって、どうしようとしているんだ。
「いや、都合が悪いならいいんだ。その、変なコト言ってごめんな」
名残惜しいけれど、掴んでいた腕を離す。それをじっと見つめていた葉桜君は、踵を返した俺の背中に声をかけた。
「私、行きます」
「…え?」
「近藤さんの居る試衛館ってのも見てみたいし、あ、ついでに一勝負しませんか?」
名案だと手を打ち鳴らし、葉桜君は楽しそうな足取りで外へと向かった。
「い、いいのか?」
「いいも何も、誘ったのは近藤さんの方でしょう?」
何を言っているんですかとカラカラ笑うのは昔どおりの葉桜君で、やっぱりその笑顔が俺は好きだと気持ちを改める。追いかけて、無理矢理に繋いだ掌はひんやりと冷たい。
「じゃ、行こうか」
「はい」
葉桜君にとっての俺は仲間でしかない。彼女の中で、俺は決して男にはなれないだろう。それでも一緒にいたいと、最期まで側にいたいと願ってしまう。一緒になることは出来ないのに、彼女の瞳に映る男でありたいと願ってしまう。
隣をあるく葉桜君は、そんな俺の気持ちに気づきもせず、鼻唄でも歌い出しそうな様子だ。今はただ、笑ってくれることだけで満足するべきなのだろう。誘えばこうしてきてくれる。ただそれだけを喜ぶべきなのかもしれない。だけど、いつか俺はーー。
遠くに向かって、急に葉桜君が手を振り上げる。もうすぐ試衛館がみえるだろうというトコまで来ていたのは確かだけど、俺は走り出した葉桜君とは対照的に動けなくなった。
「あっ」
走ってきた俺の娘を軽々と抱き上げて、くるくると周りながら再会を喜んで。明らかに初対面ではない様子に俺の方が動揺する。
「ふふ、ずいぶんと大きくなったね」
「おねいちゃん、おかえりなさいっ」
「んー今日は別にそーいうんじゃないの、ごめんね。それよりもあなたの父様に、おかえりなさいは?」
「…父様…?」
葉桜君の腕の中で、不思議そうに彼女が首を傾げる。それは間違いなく俺の娘なのだけど。だけど、次の瞬間パッと顔が輝いた。
「おかえりなさいっ」
「ただいま」
地面に降ろされてから飛びついてくるかと思いきや、彼女は恥ずかしそうに葉桜君の影にかくれる。
「どうしたの?」
「…母様に教えてくるっ」
くるりと踵を返した娘に苦笑しながら、葉桜君がこちらを振り返る。
「ははっ、久しぶりだから照れてんですね。近藤さん、私、先に行きますっ」
「え」
俺の返答も聞かずに葉桜君も駆け出す。そして、二人が並んで試衛館に入るまで、俺は一歩も動けなかった。来たことがあるかどうかなんて聞いたことはなかったけれど、葉桜君はいったいいつ試衛館へ来たのだろう。しかもかなりの期間を過ごしていたようだ。
「お帰りなさい、あなた」
「ただいま、つね」
久々の我が家ではいつもどおりにつねが出迎えてくれた。
「江戸にお戻りになるまでのこと、色々と風の噂で聞きましたよ」
「…そうか」
「でも、今日くらいは自分の家でゆっくりと休んでくださいな」
「ああ、そうするよ」
「娘もあなたのお帰りを楽しみに待っておりました」
「ああ。さっき会ったけど、ずいぶん大きくなったなぁ」
「ええ。最近は折り紙の鶴も上手に折れるようになりましたよ」
「そうか。前に送ってくれた鶴はくしゃくしゃだったのにな、大きくなったんだな」
二人で連れ立って、庭へまわると、そこではやっぱり当たり前のように葉桜君が居て、娘もしっかりと懐いていて。
「葉桜様もこちらでお茶を召し上がりませんか?」
「もーちょっとお嬢さんと遊んだら、いただきます。お二人ともどうぞゆっくり過ごしてください」
楽しそうに笑っている葉桜君に奇妙な違和感を憶える。まるで普通の町娘みたいに楽しそうな葉桜君がここにいることに対する違和感がチクチクと心臓を刺激する。
「彼女は、葉桜君はいつからここに?」
「あなたが京へ立たれて一月ほど後です。ふらりとここへ立ち寄られて、食事をなさいました」
「…食事…」
「それから数日、こちらで門弟の方々の剣の指導をされて、またふらりと出て行かれました。あなたを、助けると言い残して」
俺を?
つねが語る葉桜君の様子は、俺のまったく知らないモノではない。現に、彼女は新選組に入隊して以来、同じようなことばかりしていたのだから。
「それからも何度もお手紙をくださって、あなたや新選組の皆さんのことを教えてくださいました」
すべて、知っていて。もうずっと前から、俺たちのトコへ来る前から全てを知っていて、ここへ来ていたのか。本当に敵わないよ、葉桜君には。
「つねさん、道場借りていーい?」
「はい」
「やった。じゃあ、今度は父様に遊んでもらいな」
たたたっ、と娘が胸に飛び込んでくるのを抱き留めたときにはもう、葉桜君の姿はなかった。
「ずいぶんと懐いてるなぁ」
「うん! たま、おねいちゃんがダイスキっ」
「そうね。お父様が京へ上ってからは、いつも遊んでもらっていたものね」
それほどの頻繁に来ていたなんて、知らなかった。そういえば、葉桜君自身のことを俺はほとんど知らない。その役目や志を知っていても、どこへ行って何をしてきたかとか、誰と出会ってどんな話をしたとか、そういったことは一切彼女は語らない。
必要がないからとか、そういうんじゃなくて。彼女はーー。
膝の上の娘の頭をそっと撫でると、彼女は気持ちよさげに目を細める。とても可愛い俺の娘だ。こんなにも愛しい娘がいて、これほどに聡明な妻がいて、どうして俺は葉桜君を好きになってしまったんだろう。
「たま、お父様に鶴を折ってみせてあげたら?」
「あ…」
不安そうにこちらを見上げる娘に柔らかく微笑む。
「上手に折れるようになったんだって? すごいな、たま。さすが、俺の娘! 折ってみせてくれるかい?」
「折り紙、取ってくるっ」
顔を輝かせ、娘は直ぐさま駆けていった。ここを出るときは本当にすごく幼くて、あんな風に走るようになるまでもっとずっと先だと思っていた。上京して五年。あっという間だった気がしたけれど、娘の成長をみているともっと時間を短く感じる。
この五年の間に彼女にはどんなことがあったんだろうか。そばにいない時間で、どれだけ成長したのか。そんなことを考えるだけで、不思議と心が暖かくなる。
「葉桜様は、とても良い方ですね」
不意に声をかけられて、思わずびくりと振り返る。つねはいつものように微笑んでいるだけだ。
「とても大人びているようでいて、子供のままの純真さが消えない、真っ白な方」
「あ、あぁ」
「…私たちのことは心配せず、あなたはあなたの道を歩んでください」
最初、何を言われたのかわからなかった。あまりに普通の笑顔で言われたからだろうか。
「あなたはこの場所で多くを考え、歩き出しました。ここがあなたの原点であることは、あなたがどんなに変わり、世の中がそれだけ変わろうとも、変わりません」
「つね…」
「あなたは、葉桜様をお好きになったのですね」
「!!」
「一目でわかりました。あなたの葉桜様をごらんになる目を見れば」
静かに紡がれる言葉を受け止め、手を強く握りこんだ。
「つね、俺は…!」
「責める気はございません。多くの責務を負って、それでも苦労を表に出さないあなたが見つけた、たったひとつの癒しなのでしょう?」
まっすぐに見つめてくる視線は痛いけれど、俺は目を逸らすわけにはいかない。
「遊郭の美しい太夫の話も色々と伝わってきました。それでも、あなたの愛情を疑ったことはありません。いつかは私たちの元に戻ってきてくれる、そう思っていました」
「…つね」
「そんな顔をしないで。私はあなたを責めたくて、こんなことを言っているのではないのです」
迷いは少しも見えず、瞳にわずかな曇りもないつねの視線は、傷ついたモノの目ではなかった。ただ、受け入れたのだと。
「ともに戦い抜いてきた仲間である女性に恋をしたことで、あなたは戸惑っているのでしょう」
「私はあなたを待つだけの身です。でも、葉桜様ならあなたとともにきっとどこまでも羽ばたいていけます」
こんなに心の美しい人なのに、それなのにこんな目をさせてしまう自分が情けない。たしかに、つねを愛しているのはわかるのに、葉桜君への想いを止めることが出来ない。
「あの方はとても孤独な方です。一人で何でも抱え込んでしまうところなんて、あなたとそっくりで。葉桜様を心底大事にお想いなら、ともに夢へと羽ばたいてください。最後まで、ともにいてあげてください」
俺は彼女との間に子供までなした。それは、もちろん愛していたからだ。彼女もそれをわかっていて、これまで試衛館を守り続けてきてくれたのだろう。なのに、俺は。
「つね、少し俺の話も聞いてくれるか?」
彼女を愛していたことに偽りはなかった。だけど、同時に葉桜君を愛おしむ気持ちを止めることもできなかった。
本当に愛していた女性だから、俺の本当の気持ちを知って欲しい。本当に俺は、つね、君を愛していたんだ。
(葉桜視点)
道場と庭はそれほど離れていたワケじゃなかった。だから、葉桜にはすべての会話が聞こえていた。
どうして、と思う。子供までなした夫のことを、私に託そうだなんて。私は、すべてを決めかねているのに。そんな話をできるまでに、つねさんはとても苦しんだはずなのに。
葉桜は自分を孤独だと思ったことは一度もない。父様がいなくなっても、世界は変わらずにあるし、慕ってくれる仲間だって大勢いる。それこそ、今の敵味方という区別なんて関係もない仲間が。
ただ日々漠然と考える。生きること、死ぬこと。それが何なのか。
最近の情勢から考えて、間違いなく徳川復権というのは厳しいと思う。誰かが幕を引いてやらなければならないし、それこそ自分の役目だ。徳川最期の影巫女として、全ての業が時代を越えることのないように、全ての人へ業が降りかかることがないように。
試衛館へ来たのは久しぶりだけど、近藤さんの娘と対することでより強く思うようになった。あんな子どもたちが暗い未来を見ることのないようにすることが、自分の使命だと自分は思っている。
「余計なことを、言わないで欲しいなぁ」
誰も聞いていないとわかっていて、小さく呟く。
(近藤さんは助ける。でも、すべてが終わったらちゃんと返すよ。すべてを終わらせて、ここへ帰す)
人にはそれぞれに居場所がある。近藤さんの居場所は、ここだと思うから。自分のそばに連れていってしまってはいけない。それぐらい、ちゃんとわかってる。
「葉桜様、起きていらっしゃいますか?」
「うん」
勢いをつけて起き上がり、そのままの態勢で彼女を迎える。
「話は全部聞こえたよ。だけど、私は受け入れられないって話もしたよね?」
「はい」
帰ってくる笑顔は諦めたモノじゃなかった。受け入れた心が見えて、苦笑する。
「私は近藤さんとともに戦って、戦って、戦い抜きたいと思ってる。だけど、近藤さんの帰る場所はここだから。だから、戦いが終われば、ここへ帰してあげるつもりだ。ともに夢を分かち合うからこそ、近藤さんの夢を素晴らしいと思ったからこそ、私は彼に手を貸そうと思ったんだ」
「近藤さんの家族から幸せを奪うつもりは、まったくない」
彼女は静かに微笑んで、言った。それはとても暖かくて、苦しい言葉。
「葉桜様、人が人を好きになるということは、とても素晴らしいことです。あなたがお父様をとても大切に思っていらっしゃることも、同じように近藤を慕ってくださっておられることも、私は承知しています」
「どうか私に気兼ねなどしないでください。そして、もしあなたが嫌でさえなければ、そばで近藤を支えてやってください。あなたなら、あの人とともに大空を羽ばたけることでしょう。あの人を支えてあげてください。あの人の背負っている荷物は、あまりにも大きいですから」
最初に会ったときからそうだった。この人はとても強くて優しくて、今まで見た誰よりも強くて深い人だ。だから、私はこの人が好きなんだ。
「つねさん、私はこの戦いが終わったら、旅に出ようと思うんだ」
「旅、ですか?」
「うん。戦いが終わって、この役目から本当の意味で解放されたとき、海を越えて、世界を見てみたい」
夢のまた夢かもしれない。でも、どこまでも誓約のない日々を過ごしてみたい。そして、いろんな人と出会ってみたい。
「その旅で帰ってくる場所はここでありたいと、近藤さんとつねさんとお嬢さんが笑っているこの試衛館でありたいと思っているよ」
「葉桜様…」
「今は、この戦いの間は彼が斃れることのないように支えるよ。その後は、近藤さんをあなたの元へ帰してあげる」
答えることは出来ない。でも、支えてあげたいと思う。彼が斃れることのないように、生き抜くことが出来るように。その心を、支え続けたい。それは葉桜の誠の心だ。
「好きなのかどうかはわからない。だけど、連れてはいけない。それが、私の答えだ」
葉桜の答えに笑顔を崩さぬまま、つねは頭を下げた。
「近藤を、よろしく頼みます」
深く下げられた彼女を前に、葉桜は何故と心中で問いかける。言われなくても近藤は助ける予定だし、きっと彼だけは選べないと思う。だって、近藤にはこんなにも素敵な奥さんがいるのだ。それにあんなにも可愛い娘がいて、そんな絵に描いたような幸せを、どうして自分に壊すことが出来るだろう。
帰る間際まで、葉桜とつねは談笑を続けた。それはお互いの近況報告であったり、近藤の話であったり、新選組のことであったりした。
「あいつに付き合ってたら、こっちが疲れちまったよ。よくまぁ、あそこまで、はしゃげるもんだぜ」
そこへまったく疲れたという様子ではない笑顔で道場へ入ってきた近藤を二人で笑い合う。
「久しぶりに父親に遊んでもらって、嬉しくてたまらなかったんでしょう」
そろそろ帰らなければならないらしいと察して、葉桜は立ち上がり、裾を払う。
「葉桜様、よろしかったらまたいつでもいらしてください」
「はい」
「本当に、葉桜様のような人でよかったわ」
そうだろうかと考えながらも、葉桜は笑顔を返す。
「つね? 何の話なんだ?」
不思議そうな近藤さんに「殿方には内緒です」とあっさり言い切ってしまう辺り、やっぱりつねさんはただものじゃない。
「ふふっ、そうですね」
「ハァ? 何だよそりゃ」
こうして笑い合えることは、もうないかもしれない。だけど、今だけは心から笑っていたい。つられるように、近藤も笑い。笑いながら、道場を後にする。
「それでは、さようなら」
つねさんの別れの言葉は、しばらく耳から離れなかった。
(近藤視点)
試衛館から屯所までの道のりを行きと同じように、葉桜君が半歩先を進む。嬉しくて走り出しそうな様子を苦笑しながら、俺はゆっくりと歩いた。もうこれから何度もないかもしれない。その道をゆっくりと進む。
「葉桜君、話があるんだ」
「それは奇遇ですね。私もです」
くるりと振り返った葉桜君は夕陽を背にしているので、その表情は影となっている。
「もう幕府に先はありません」
笑って、いるのだろうか。
「それはあの坂本竜馬襲撃事件があろうとなかろうと、決まっていたんです。私の力が足りないから、幕府は滅んでゆきます」
「な!?」
漠然としていた俺の不安を、葉桜君はすっぱりと言い切った。更に続けて、問いかける。
「最期に徳川の業のすべてを昇華すること。それが、私の為すべきコトです。それでも、その言葉を口にするんですか?」
自分に未来はないから、言わないでくれといっているようにも聞こえる。だけど、つねにあそこまで言わせてしまっておいて、引き下がれるような男じゃないんだ、俺は。
伸ばした手の先、葉桜君は動かない。そっと頬に触れると、自らすり寄ってくる。いつも、そうだ。
「君に好きだと伝えるのは、そんなにいけないかい?」
離れようとするのに気がついて、引き寄せる。腕の中で、葉桜君は小さく震えていた。
「駄目だ。私、近藤さんに何も返してあげられないんだ」
「別に、構わないよ」
「私が構う。第一、近藤さんにはあんなにもよくできた奥方がいるじゃないか。どうして、私にそんなことを」
言葉が続けられないように強く抱きしめて、囁く。今は、拒絶する言葉を聞きたくない。
「きみが好きだ」
腕の中で震える身体をなだめるように、髪をゆっくりと撫でながら、続ける。
「きみを想う気持ちは他の誰にも負けない」
「近藤、さん…」
壊さないように、だけど逃げられないように抱きしめたまま、何度も囁く。
「何度も止めようと思った。だけど、葉桜君を見る度に好きになってしまっていたんだ。あげく、つねにもあっさりと見抜かれてしまったよ。俺は、駄目な男だなァ」
「そっ、んなこと、ない、です」
「葉桜君はいつも言ってくれるよね。それを、今は俺に言わせて欲しい」
腕の中で、今、葉桜君は何を想っているのだろう。それが俺のことだとイイ。俺を少しでも好きだと想ってくれるなら、少しでも希望があるのなら。
「何があっても、俺は葉桜君とともにいる。約束するよ。俺はきみとともに羽ばたき続けよう」
小さな震えが伝わってきて、弛めた腕の中で葉桜君が顔を上げる。その瞳は大きく見開かれ、わずかに潤んでいた。何をそれほどに不安なのか、わかっているつもりだ。ここ最近の葉桜君は明らかに新選組の隊士たちと深く関わることを避けている。それは自分の役目のせいで不幸が起きないようにという配慮なのだろうけれど、もともと寂しがり屋な葉桜君がそうそう続けられるわけもない。
いつか壊れてしまう前に、救ってやりたいんだ。他の誰でもなく、俺が。
「どうして、そんなことを言うんですか。私には翼なんてないんです。どこへも行けない。どこへも連れていってあげられないっ」
「ふたりとも私を買い被っています。私には愛されるような資格なんてない。誰かと一緒に飛び立てるような翼なんて…っ」
もう一度、強く胸にその頭を押しつける。瞳がこぼれ落ちてしまいそうだ。
「あるよ。俺には葉桜君の背中に大きな翼が見える」
「ウソ」
「俺がウソなんてついたことあったかい?」
「ない、けど」
「信じてよ。葉桜君には翼がある。その翼で何度も俺たちを救ってきてくれたじゃないか」
腕の中で違うという呟きを強く抱いて、聞こえないふりをする。
「今度は俺たちが助ける番だ」
「…イヤ」
「きみに翼がないというのなら、今度は俺が葉桜君の翼になろう」
「ヤダ…っ」
拒絶の言葉を吐きながら、強くしがみついてくる腕が震える。
「近藤さんがっ」
強く咳き込む体を支え、その背中をさする。久しぶりに見る気がする。彼女の中の約束の制約だ。
「無理してしゃべらなくていい」
ふるふると首を振る姿はまるで子供で、強さの欠片も見せずに頼られていることが何より嬉しい。
「なくしたく、ないんだ。子供みたいだってわかってるけど、近藤さん、あなたを失うことはーー」
その後の言葉は一生忘れられないだろう。きっとそれは葉桜君にとって最上級の告白だから。
「約束するよ」
もう一度、誓いの言葉を口にする。
「俺はきみとともにどこまでも羽ばたき続けよう」
不安そうな葉桜君の顔を上げさせ、揺れる瞳をまっすぐに見つめてから、瞳を閉じて口づける。小さくて朱い唇は静かに震えていた。
「好きだよ」
この気持ちが罪だというのなら、俺は喜んでその罰を受けよう。だけど、どうか葉桜君にはそれが降りかかることがないといい。全ては好きになってしまった俺の罪なのだから。
ただ、俺が好きになってしまっただけなのだから。
ーー近藤さんを失うことは何よりも怖い。
葉桜君の言葉だけで、俺はもう十分に幸せだから。
ゲームではつねさんが言う相手が違いますけど、だめですか?
つか、つねさんは書きたかったけど、これ超書きにくい。
つねさんニセモノかも。
近藤さんは好きだけど、奥さんがいる設定がなかったらもっと書きやすかったのにー(それもどうか。
(2006/12/19)
年内に近藤さんを助けられるといいんですが。
て、あと一回しか更新のチャンス無いし!!
もー無理ですね(諦め早っ
次は本編です。
勝海舟先生ともヒロインの父が縁有り。
父様、超顔広いのは別話で書きたいです。
もちろん、その場合は完全にオリジナルに。
(2006/12/19)
「裏巫女」→「影巫女」に変更。
(2007/1/7 16:06:31)