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書名:幕末恋風記
章名:他

話名:幕末恋風記・弐 - 彼女と野村と相馬


作:ひまうさ
公開日(更新日):2008.3.28
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:3090 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)

野村と彼女

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p.1

「葉桜さん、こんなところで一人でサボりッスかーっ」
 川面で寝転がっていると、突然野村がやってきた。昼寝時間を邪魔されるのも面倒なので、両目を閉じる。寝たふりでもしておけば、そのうち勝手に帰るだろう。

「どうせなら俺も誘ってくださいよ~」
 こいつはどうやら例に漏れず金に好かれない質らしい。新選組に入ってからも、いろいろな奴に奢ってもらって日々を生き抜いている。なんとも逞しいというか、図々しいというか。

「噂で聞いたんスけど、葉桜さんって強いんですよね」
「今度俺や相馬も飲みに連れていってくださいよ」
 ああ、そういえば。こいつは相馬にくっついてきたんだったな。彼が入ったおかげで、土方らの目を盗んで外出しやすくなったのはありがたい。もともとこういう晴れた日はのんびりと日向ぼっこをしているのが好きなのだ。

「ねえ葉桜さん」
 とりとめもなく続くおしゃべりに小さく笑いを零す。

「あ、起こしました?」
 身体を起こし、隣で寝転がっている野村の顔をのぞき込んで笑う。

「起こされました。責任取って、ちょっと団子買って来いよ」
「いいッスよ」
 飛び起きた野村が手を差し出す。金の催促か、と財布を渡そうとしたら、違うと言われた。

「一緒に行きましょうよ。美味い団子屋知ってるんス」
「なんだ、一人で団子も買いに行けないのか」
 違いますよ、と一向に取らない葉桜の腕を取る。

「こんないい天気だし、一緒に散歩とかどうスか」
 少しの間考える。こんなに直球で来るのはまず少ないのだが。

「…軟派?」
「ッス」
 満面の笑顔で返され、苦笑する。

「おまえ、私の噂知らないのか。土方らにしめられるぞ」
 新選組の幹部らは過保護すぎるぐらいに自分を大切にしてくれていることを知っていた。山南のあの事件以降は突き放すどころかますます過ぎるようになっている。

「ただ一緒に散歩して、茶ァ飲みましょうっていてるだけじゃないッスか」
 過保護が行き過ぎないように、屯所で過ごすようにはしているのだが。

「ね、行きましょう。あ、ついでにどこかで遊んでいくッスよ」
 ぐいぐいと腕を引っ張られたところで、野村も本気というわけではないのだろう。あまり動く気になれない葉桜はびくともしない。

「団子買ってくるの、こないの」
 だったらと、財布をしまってもう一度寝ころぶ。自分の両腕を枕に眩しい青空を目を閉じて追い出す。

 諦めてさっさといってしまうかと思ったが、次には野村も元のように寝転がってしまった。

「イー天気ッスね」
 眠くなると大きな欠伸をし、少しすると寝息が聞こえてきて驚いた。吃驚するほど寝付きのいい男だ。こんな河川敷じゃ身体も痛くなるだろうに。気にならないのだろうか。

 しばらく見ていたが起きる様子もないので、自分も同じ体勢に戻って目を閉じた。



p.2

(相馬視点)



 葉桜さんは妙な人だ。男のような格好で刀を振り回し、新選組という猛者の集まる中でも一際異彩を放っている。局長たちには目をかけられているがそれを鼻にかける様子もなく、永倉さん達とは男のように話をし、山南さんや伊東さんたちとも政治的な話が出来る。

 どう生まれ育つとそういう風になるのか、俺にはまったく見当も付かない。まかり間違っても、姫君には見えそうもないが、農民の出にも見えない。故郷では道場をもっていたそうだが、それは彼女の父親から譲り受けたものだという。その父は実父ではなく養父で、実の父に関してはまったく誰も知らない。

 宇都宮藩の出ということ以外、庵さんでさえも彼女の素性を探れない。だが、ただの人とは思えない。

「相馬ー」
 どこからか呼ばれた気がして、辺りを見回す。道に姿はないが、それよりもさらに下方から聞こえてくるとわかって、河原の見えるところまで近づいた。

 白い河原に寝転がり、ひらひらと手を振って俺を呼ぶのは、さきほどから考えていた葉桜さんその人だ。隣にはどういうわけか野村が昼寝をしている。

「なんですか、葉桜さん」
 新選組に入る前、局長たちと出会う前は何度もこの人を占った。だが、どれも当たることはなかった。まぐれ当たりさえも、なかった。

「私、そろそろ戻ろうと思ってんだけどね」
 苦笑いする彼女の意図を汲む。どうやら、ここにこのまま野村を置いていくわけにもいかなくて困っていたらしい。

「なんだか幸せそうに寝てるから、起こすのも忍びなくてねぇ」
 そういって彼の顔をのぞき込む葉桜さんのほうがよっぽど幸せそうな顔をしている。暖かく、とても優しい。

 こんな表情も出来る人なのかと少し驚く。いつもはどこか飄々として、どれだけ人を惹きつけようとも一線を置く人だから、こんな顔を見るのは初めてだ。

「相馬が通りかかってくれて良かったよ。たたき起こすのと水をかけるのとどっちにしようか迷ってたんだ」
 どっちもどっちだ。

「屯所で昼寝してるんだったら、もっとからかって遊ぶんだけどな」
 口端をかすかに挙げて笑う様子は見慣れたモノだ。葉桜さんはとにかく誰かをからかって遊ぶのが趣味らしい。だが、その姿が時折何かを誤魔化すために行われているような気がすることもある。

 俺と葉桜さんの間を風が駆け抜ける。煽られる髪を少し抑えている葉桜さんは、哀しそうに水面を見つめる。そう、こんな時だ。こんな時、この人はそのまま消えてしまいそうに儚い。

「風が、少し冷たいか。風邪を引かせるわけにはいかないし、水は却下だな」
 珍しい気遣い、というほどでもない。この人はからかっているように見えて、きちんと周囲を見ている。

「相馬はどこかへ出かける途中だったのか?」
「はい。副長に頼まれて、書状を届けに行ってきた帰りです」
「今日はもう予定なし?」
「今のところは」
 ふむ、と一度肯き、彼女が俺の肩に手をかける。自然と顔が近づくよりもなお近く、前髪が触れあう距離まで近づく。

「相馬は明日の夜空いてるな?」
「ええ」
 この人は全隊士の当番を覚えている。簡単なようで難しいことをやってのけている。

「野村も空いてたと思うから、島原のXXという店に来てくれ。今日の礼だ」
 彼女が示したのは島原でも有名な置屋だ。この人は、京の町中でよく迷子になる割に、顔がとても広い。庵さんを凌ぐかもしれないというぐらいに。

「礼?」
「ここでサボってたこと、土方たちには秘密だぞ? わかったな、二人とも」
 流れるように彼女が離れ、すぐにその姿は雑踏へと紛れてしまった。あの人は、本当によくわからない。

「おい、野村」
 寝転がっている親友を呼ぶ。

「起きているんだろう」
 彼は起き上がり、少し不服そうに俺を見る。

「なんだ?」
「俺が誘ったときは動く気配もみせなかったのに、なんで相馬が誘われるんだよ」
 知るか。

「ただの気まぐれだろう」
 俺の答えに対し、不服そうに言い募る。

「あの人の気まぐれ、特定の奴にしか動いてないんだぜ。気がついてたか?」
 指摘されて考えてみるが、もともとそこまで彼女を見ていないのでよくわからない。それから、野村は彼女について少し語り、最後にこういった。

「俺は時々、葉桜さんが怖いよ」
「あの真っ直ぐな目で見つめられると、すべてを見透かされそうで怖くなる」
 恋愛事にはむちゃくちゃ鈍感だけどなーと笑ってしめていたが、野村の言いたいことが少しわかった気がした。

 正体の掴めない人だけど、ひとつだけわかっていることがある。

「葉桜さんが局長たちの味方でよかったな」
「ああ、そうだな」
 彼女が敵になったらと考えても、勝機は見いだせそうにない。だから、安堵と共に、願う。

 いつまでも彼女が仲間でいてくれることを、先ほどまで彼女が見ていた水面を見ながら想った。



あとがき




何が書きたかったのかよくわからないけど、突発的に野村で書きたくなった
時期は相馬たちが入隊して一月ぐらい経った頃?
適当に書いたから、更新前には修正しないと。


そのうち、長編に組み込めたらいいなぁ
もしくは月一更新がピンチになった時のための最終手段(笑
(2008/03/28)