庭に生える緑の木々をただぼんやりと眺めていた。空は高く蒼く、視界から陽射しを遮るように白い雲が流れる。
いや、これは雲じゃないただの白いタオルだ。後ろできゅっと結ばれ、頭が圧迫される。
相手に何か抗議しようかとも考えたが、なんの言葉も浮かばないので息を吐くだけに留めた。口も鼻も抑えられているわけではないので、命に危険があるわけでもない。
しばらくして、相手から驚きの声があがる。
「え、それだけ?」
それは初めて聞く声ではない。
「何がしたいの、あーちゃん」
「あーちゃんいうな、はーさん」
「…細かいこと言うな」
タオルを取らずに、彼のいる辺りへ顔を向ける。
「お茶」
「ほらよ」
手渡されたのはペットボトルで、開けて口にしてみたら、フローズンオレンジだった。氷の破片が口の中でさっととけ、一時暑さを忘れさせてくれる。
「…変なオンナだなあ」
「ありがと」
「褒めてねえよっ」
「飲み物とってくれたでしょう」
少しの間をおいて、また彼は言った。
「変なオンナ」
声にはただ困惑だけがあって、それが妙に笑える。
「朝陽、今日のお茶受けはなに?」
少しして、タオルが取り払われた。同時に吹き付けてきた風に雨の気配を感じる。
「雨が降るから、泊まっていきなさいね」
「…」
「夕食は何がいい? 私は冷し中華」
後ろから抱きしめてきたことに少し驚いた。彼はそういう触れ合いを恐れていると思っていたから。
「はーさんは、俺が恐くねぇの?」
「なんでそんな面倒」
「面倒?」
「恐いとか恐くないとか、考えるのが面倒だわ」
「…変なオンナ」
確かにそうかもしれない、と小さく笑いが零れる。
「少なくとも、自分で自分を怖がっているような人を怖がるのは果てしなく面倒だわ」
体が離れたので、首を巡らせ、顔だけを向ける。彼はひどく憤慨した様子で、言った。
「俺が、俺を、怖がってるって?」
自覚はあっても認めたくはないのだろう。気持ちはわからなくもないが、同情も同意もするつもりはない。
「影鬼って知ってる?」
「影踏み、だろ」
馬鹿にしているのかと怒りもあらわな少年を笑う。
「同じことよ。得体の知れないものを旧くから人は畏れを持って、鬼と名付けたの。つまり、影鬼はその名残ね」
常についてまわる闇を畏れた。
「鬼ごっこも多分同じことよ」
縁側を降りて池へと向かう。
「朝陽にとっては私のが鬼みたいなものじゃない?」
「怖くなんかねぇよ!」
少しの間を置いて叫ぶように返され、私はまた笑った。
彼がいなくなってから、彼女がポツリと零した。
「はーさんは鬼じゃないよ」
強く意思を持つ言葉が温かく、胸に染みた。
満員電車で倒れかけた。都会は怖いね。
最近遥か4やってるから影響が文にでてるね。
前半はディズニーシーで書いてた。あそこは並ぶためにいくようなものだね。
(2008/07/01)