風を切る音を聞きながら夜空を見上げる。ひゅるると昇ってゆくのと破裂音が少しのラグの後で起きるのを聞きながら、私はうちわを揺らした。
昼の暑さを忘れる湿やかな風が首筋を通り抜け、夏の夜に涼しさを届けてくれる。ーーまあ、蒸し暑いのが消える訳じゃないんだけど。
縁側に直接置いておいたグラスの氷が溶けて、カランと音を立てる。浴衣姿の世話焼きな幼い少女は珍しく隣に座って、光弾ける夜空を食い入るように見つめていた。
「たまやー、って何?」
「江戸時代の花火屋さんの名前ね」
汗をかいたグラスを持ち上げると、またからりと澄んだ音色を響かせる。
「かぎや、は?」
「それも花火屋さん。あ、また上がるわよ」
「あっ」
慌てて少女が空を見上げると、丁度夜空を大輪の華が彩った。光を移す少女の瞳は目一杯に開かれて、こぼれ落ちそうだ。
クスリと笑いながらグラスを傾ける。今日の飲み物は冷えたレモネード。
「たまやさんもかぎやさんもがんばれー」
幼い少女の言葉に応えるように、今度は二つの華が咲いた。