意識までもっていきそうな抜ける蒼に手を翳す。そこを無粋に横切る白雲を見て、私はそのまま手を下げた。緑の木々と涼しげな石庭が目の前に広がる。
辺りは蝉の合唱と湿気で余計に暑さがいや増す。
「だるー」
じっとりと肌に吸い付く浴衣の中に風を入れても全然足りない。夕暮れに夕立でも降れば、少しは和らぐかもしれないが、今蒸し暑いというほうが問題だ。
ぐったりと縁側に倒れると、木の床はひんやりと少しの冷たさを伝えてくれた。
「今日はおやすみー」
「またそーゆーことを…」
「こんな日に相談なんか受けてらんないよ」
「お・し・ご・と・ですっ」
「め・ん・ど・う・ですっ」
区切って強調する小間使いの幼女にきっぱりと言い返すと、彼女の頬がぷくりと膨らんだ。そのまま彼女が踵を返す音と共に涼しげな音色が響いて、慌てて起き上がる。
「え、そのフロートはっ?」
「お仕事しない人にはあげませんっ」
無情に遠ざかる冷たい飲み物を少しだけ目線で追いかけたけど、蝉の声がことさらに大きく聞こえて、ぐったりと私はまた縁側に倒れた。
「追いかけるのも面倒ー」
夏は暑いものだし好きだけど、たまには手加減して欲しい。
面、で最初に浮かんでたのがはーさんて。しかも「面倒」て。
なにかこう人格を疑われそうなネタ。
面倒事は好きじゃないけどちゃんとやりますよ、はい。
(2009/02/08)