重い音と共に教室の扉を開けた男を見て、教室中が静まり返る。戸口で俯いたまま動かない彼を前に、誰かがごくりと喉を鳴らす音が響いた。男はこのクラスの教師である。生徒と間違われることが日常的な童顔だが、間違いなく教師だ。
彼はふらついた足取りで教壇にたどり着くと、一言呟いた。
「財布落としたー、もー今日やる気ねぇー」
ぐったりと椅子に座って、出欠をとる気配もない。意を決した生徒の一人が手を上げた瞬間、SHRの終わるチャイムが響いた。一時限目はこの男が担当だがこれでは自習に違いない。
フラフラと男が教室を後にする為に戸口に立つと、彼が手をかける前にガラリと戸が開いた。開けたのは特別特徴があるわけではないのだが、何故か学内外男女問わず人気のある女子生徒だ。
その姿よりも彼女の手元を映した一瞬後、男は彼女に飛びついた。
「俺の財布ーっ!」
「ちょ、公衆の面前でやめてよ。馬鹿兄っ」
耳まで真っ赤にした彼女に英国式の挨拶とやらをした彼は、直後股間を押さえて蹲った。後に残された生徒達は呆れ顔でその日常を見守っている。
そう、これもまた学校名物の一つなのであった。
定期的に馬鹿らしい話を書きたくなります。
一応「公衆の面前」で「面」入ってるし、いいかなぁって(ぇ
(2009/02/06)
公開
(2009/02/19)