片手で掴める小さな籐の籠の中で、賽一つだけが廻る感触が伝わってくる。中をのぞくと、聞こえないはずのコロコロと転がる音が聞こえる気がした。
くるりと手首を回す。籠内でからりと賽が廻る。
くるり。からり。くるり。からり。くるり。
「っ」
不意に背後から手首を掴まれ、強く籠の口を畳に叩きつけさせられる。その拍子に中の賽が宙を舞う。
「痛いよっ!」
後ろに唐突に現れ、邪魔をした男を振り返れないままに抗議する。
てん、てん、てん。
畳の上を転がる現実の賽の音に目を向け、驚いて見開いてしまった。
「ちっ、壱か」
「やった、壱だっ」
落ちた賽を手首を押さえられたままに捕ろうとしたら、背中に飛びきりの重圧がかけられる。
「飯食いに行こうぜ、イチ」
「壱が出たから、ジローの奢りだよっ」
少しの間の後で、起き上がることも出来ない私をからかうように、彼は更に体重を乗せてきた。
「イチの分際でいー度胸じゃねぇか」
「ぎゃー! ごめんなさいーっ」