GINTAMA>> 読切>> ぎんたま@沖田総悟 - ありえないはありえない

書名:GINTAMA
章名:読切

話名:ぎんたま@沖田総悟 - ありえないはありえない


作:ひまうさ
公開日(更新日):2009.3.25
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:5225 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 4 枚
デフォルト名:/花音
1)
ローズさんへ
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p.1

 窓の外で小鳥が囀る清々しい朝だというのに、私は眠りから覚めて、すぐに小さく舌打ちした。

(ヤな夢見たなァもう)
 頭にかかる黒いもやもやを振り払うように両手でわしゃわしゃと髪を掻き回し、息をついてから手櫛で軽く整える。枕元の薄水色に小花があしらわれ、端をレースで処理された着物を纏い、深い藍に小さく桜がプリントされた帯を締める。それから、鏡に向かい、薄化粧をした自分を見る。

 部屋に入り込む陽光を適当に反射する黒いウェーブがかった髪、少し下膨れ気味のぷっくりとした頬と一重の目蓋と長めの睫毛に隠れる細い瞳。日に焼けるとすぐに赤くなってしまう白い肌はそばかすがあり、冬の日は頬が赤くなってしまう。初対面の人間はよくて十八、悪くて十四と見てしまう程度に童顔で、いくら若く見えても嬉しくない評価をくれる。

 いつもどおりのそんな自分を見ているはずなのに、意識は夢で見た出来事に飛ぶ。

(ありえないのに)
 自分を守って総悟が死ぬなんて、ありえないのに。

(馬鹿げてる)
 総悟というのは私が女中をする勤め先、真選組で一番隊隊長を務める少年だ。男、というには内面が幼すぎるのだが、時折見せる真剣な表情は悪くない。

 身支度を整えても今日は午後からの出勤だ。台所に立ち、朝食の準備のために冷蔵庫を開ける。冷御飯とベーコン、卵、マヨネーズ、それから仕事仲間にもらったキムチを取り出す。やる気もないし、チャーハンでいいだろう。

 材料を台所のテーブル上に置き、作り置きしておいた味噌汁を乗せてあるコンロを弱火に点火する。

「俺ァオムライスがいいなァ、花音」
 耳元で温い風が吹き、びくりと私は身体を硬直させた。ありえない声を聞いた気がしたのは気のせいだろうか。

「そー、ご…?」
「休みだってのに早起きですねィ、人が折角夜這いにきたってェのに」
 耳元にまた吹きかけられる温い吐息にびくりと身体が震える。その様子を面白がっているのはわかっているが、正直振り返りたくはない。S全開の笑顔なんか朝から見たくないのもあるが何より、今目にしてしまえば夢を鮮明に思い出してしまいそうだったからだ。

「サボりの間違いでしょ、総悟もキムチチャーハン食べる?」
「だからオムライス…いいや、マヨネーズ抜きでお願いしやす」
 文句を言いかけた総悟だったが、すぐに諦めてくれたのは助かった。

「了解」
 なんとなく総悟が離れたのに気が付いたのは、背後を冷たい空気が流れた気がしたからだ。振り返ると既に彼は居間に上がりこみ、リモコンを手にしてTVをつけている。チャンネルを何度か変え、結局いつもニュースで落ち着くのは仕事をしているつもりなのだろうか。

 小さく笑い、私は包丁を手にベーコンを細かく切る。野菜入れのダンボールから葱を取り出し、トントンとリズム良く細かく刻む。それから、ボールに片手で卵を割り入れる。透明の海に浮かぶ黄色い島を菜箸で突付いて崩し、クルクルと混ぜ合わせてから冷御飯を入れる。

(二人分には足りないかな)
 うーんと考え、冷凍庫に入れておいた御飯を取り出し、電子レンジで解凍する。

 ボールに更に卵を二つ割り入れてかき混ぜ、解凍した御飯を入れて、ヘラに変えてから混ぜ合わせる。これで準備は完了だ。後は焼くだけだし、とまた冷蔵庫を開く。

「総悟、プリン食べるー?」
「いただきやす」
 昨日買ってきたばかりの三つ入りぷっ○んプリンから二つを取り出し、居間の入口に置いた盆に乗せる。その上にスプーン、箸と二人分置き、温めておいた味噌汁の火を止めて、二つの碗によそって、これも盆に乗せる。

「総悟、これテーブルに置いてー」
「へーい」
 返事だけしか返ってこないがまあいいかと中華鍋を手にする。空いているコンロを点火し、中華鍋でベーコンと葱を軽く炒めてから退避する。それから、同じ中華鍋の中にマヨネーズで一周ぐるりと円を描く。普通に油を使うよりもこの方がいいらしいと仕事仲間から聞いたのだ。

 ここからが重労働だ。ボールの中身を全部中華鍋に入れて、強火にする。それから、ジュウジュウと焼ける美味しそうな音を聞きながら片手で中華なべを操り、もう片手の木べらですばやく混ぜ合わせる。これが、重い。

(手、痛いっ)
 でも美味しいものを食べるために苦労を厭っているようではいけないのだ。

 米がぱさぱさになるぐらい混ぜ合わさったところで塩コショウ、それから醤油を入れて、更に先に炒めておいたベーコンと葱を入れ、おまけでキムチを全部入れる。今度は大人しく中火で焦げないように混ぜ合わせる。

(ふぅ)
 良さそうなところで火を止め、棚から大き目の深皿を二枚取り出し、片方を少し多めに盛り付けて。

(あ、生姜忘れてたっ)
 日陰においておいた漬け置きの生姜汁の中から生姜をひとつ取り出し、簡単に細切りにしてからチャーハンの上に盛り付ける。それを見て、私はこくりと肯いた。良い出来だ。

「総悟ー…て、まだ持ってってないの?」
「すいやせんー」
「しょうがないなァ」
 まったく謝罪の感じられない返事だったが、既にTVに釘付けの彼からの返答がもらえただけ良いかもしれない。盛り付けた二つの深皿も盆に乗せ、私も居間に上がる。それから盆をテーブル近くまで移動して、私と総悟の前に並べてゆく。

 味噌汁の碗を置くと、ちらりとこちらを見る。チャーハンの深皿を置くと顔が完全にテーブルに向き、ぷっ○んプリンを置くと完全に身体がこちらに向き直る。本当に、こういうところは子供だ。

「はい、箸」
「チャーハンは蓮華で食べるもんじゃありやせんかィ?」
「日本だから箸でいいのよ、箸で」
 文句を言いつつ箸を受け取った総悟は、箸を持ったまま両手を合わせて、簡素な膳に頭を下げた。

「いただきやす」
「どうぞー」
 私も同じように、だけど静かに膳に頭を下げる。

「いただきます」
 一口食べた総悟が一瞬妙な顔をする。

「もしかして、マヨネーズ、」
「使ったわよー。おかげでいつもより上手くいったの」
 文句があるなら食べなくてもいいよ、と笑顔で言ってやる。あまったら明日に回すだけのことだ。

「とんでもねェ。花音の料理を残したらバチが当たりまさァ」
 目の前でみるみるなくなっていく自分の料理を見るのは嬉しい。屯所でも朝食は出ているはずだが、足りなかったのだろうか。それともそれだけ私の料理の腕も上達したってことだろうか。

(ふふふ~)
 ニコニコと見ていると、こちらに気が付いた総悟が食事の手を止める。

「えっち」
「え!?」
「何、人の食事みてニヤニヤしてんでィ」
「ニヤニヤじゃない、ニコニコ。それより、美味しい?」
 無言で親指を突き出され、ますます頬が緩んでしまう。自分の作ったものを美味しいといってもらえるのはやっぱり素直に嬉しいのだ。

 デザートのぷっ○んプリンまで完食した総悟が私に軽く頭を下げる。

「ごちそうさま。美味かった」
「ふふ、ありがとうっ」
 私もゆっくり食べているように見えて、すでにデザートのぷっ○んプリンに取り掛かっている。なんでぷっ○んプリンかというと、単純に好物なのだ。自分で作るプリンもいいが、コンビニやスーパーで買うこのぷっ○んプリンは自分の中で別格となっている。

「花音は美味そうにプリン食いますねィ」
「好きだもの~」
「俺は?」
「す…は!?」
 続けて言ってしまいそうになり、慌てて聞き返す。何を突然言い出すのだ。

「だから、俺のことはどう思ってんですかィ」
「どうって聞かれても」
「いきなり俺が来ても追い出さねェし、美味い飯まで作ってくれて、それでなんとも思ってないとか」
 言われたことを反芻している間に、夢を思い出してしまった。総悟が私をかばって、死ぬ夢。

「ありえない…」
「だろ?」
 ススス、と総悟が膝を滑らせ近寄ってきたことに、私は気が付かなかった。

「この際付き合っちまいませんかィ」
「ありえないよねぇ、総悟が私をかばうなんて、ましてっ」
 顔を上げたときには目の前に総悟の赤い目があって、吐息が顔にかかるほど近い。

「なんの話でィ」
「そ、総悟、近いよっ」
 胸を押し返そうとした手を取られ、畳に押し倒される。拍子に頭を畳にぶつけた。

「い、痛いっ」
「花音」
「しかも重い。総悟、ふざけるのはやめてっ」
「俺が花音をかばうコトがありえねェってどうして思うんでィ」
「まず先にどけろって言ってんのっ」
 えいやっと力を込めてもびくともしないコトが意外だった。見た目がいくら少年に見えても、彼もやっぱり男なのだということに初めて気が付くのがこんな状況なのはいただけない。

「どけて、総悟」
「話してくれるなら」
「話すからどけて」
 観念すると、やっと上からどけてくれた。だけど、膝をつき合わせて両手を押さえられているのは逃げると思っているからだろうか。

「夢を見ただけなの、ありえない夢」
 怖さを隠すために私はわざと笑う。

「どんな」
「総悟が私をかばって、死んじゃう夢。ね、ありえないでしょ?」
 思い出すだけで震えてしまうくらい、怖い夢。だけど、ありえない夢だ。

「なんでありえないなんて思うんでィ」
「どう考えたってありえないよ。だって、総悟だよ? 最愛の恋人でもかばわなそうじゃん」
 本人は否定するけれど、普段私から見た総悟は相当のSだから、他人を、近藤さん以外をかばうようにはみえない。近藤さんは総悟の中では別格の存在だというのだけは私でもわかる。

「なんで俺が花音をかばって死ぬと怖いんでィ」
「なんでって、知ってる人が自分のせいで死ぬとか嫌だし」
「それだけですかィ?」
「それだけ…?」
 何かを期待するような目で見られて困惑する。総悟が何を私から聞きたがっているのか、正直にわからない。

「たとえば、土方コノヤローがあんたをかばったとしても」
 仮定をイメージして、ますます困惑する。土方のしぶとさは相当だ。

「…あれは死なないんじゃないかな…」
 むしろ死んだとしても神様蹴っ飛ばして、生き返ってきそうだ。

「俺だと怖い?」
「…うん」
 総悟だって同じようにしぶといと思うのに、どうしてこんなにも怖いのか、自分でもよくわからない。

 だけど、総悟は私の回答に満足したのか、私の両腕を引いてバランスを崩させ、抱きしめてきた。

「そ、総悟っ」
「ねェ花音。俺と付き合っちまいませんかィ」
「なんでそういう話になるのっ?」
 大切そうに胸に私を抱きしめて、人の話を聞かない少年が囁く。

「ありえないはありえないって、俺が証明してやるよ」
 ぞくりと身体が凍りつき、だけど顔は熱くなる。これは一体なんだろう。

「だから、なんでっ?」
「俺が花音を好きだから、ではダメですかィ?」
 展開が急すぎて追いつけない。なんでそういうことになるのかわからない。その上、少年だと思っていた総悟の腕の中はやけに強く、大きくて、心臓の鼓動が忙しなく騒ぐ。

「ダメに決まってるよっ」
「観念しなせィ」
「会話をしてよっ」
「花音はとっくに俺に惚れてんでィ」
 どうして決め付けられるのか、さっぱりわけがわからない。でも、この腕の中が妙に居心地良く感じてしまうのは本当で、総悟が死んでしまうと考えるのが怖いのも本当だ。他の誰がいなくなるより、総悟がいなくなることが怖い。

(そんなはず、ないよ)
 誰だって知っている人がいなくなることは怖い。それは総悟に限らないし、例えばよく知る近藤さんや土方副長、山崎さんがいなくなると考えても怖い。なのに、どうして総悟がいなくなるーー死ぬことだけがこんなにも怖いのだろう。

 ふるふると頭を振る。

「意地張んなって」
「そんなはずないよ、総悟。だって、私は仕事に恋愛なんて面倒持ち込みたくないもの」
「面倒だから?」
「そう」
 即答し、目の前の少年を真っ直ぐに見上げる。見下ろす総悟とばっちり目が合って、でも逸らせないまま凍りついたように見つめあう時間は長いような短いようなと、掌で測れる長さではなかった。

「花音」
「何」
 顔が近づき、かすかな熱が額に触れ、離れる。頬が微かな熱を持つのが自分でもわかる。でも、誰でも男の人にこうされたら、赤くなるか青くなるかのどちらかではないだろうか。

「観念しなせィ、花音はどうみても俺に惚れてるって」
「その自信はどこからくるの」
 くくくっと喉の奥で笑う総悟を見ながら、首を傾げる。

「でもさ、総悟」
「ん?」
「ありえないけど、総悟が私をかばう夢を証明したら、総悟死んじゃうよ? ありえないけど」
 私を腕に治めたまま総悟は少しきょとんとした顔をして、だけど嬉しそうに笑った。

「そのありえねェは土方のヤローにまかせりゃいいんじゃね?」
 いい考えだというけど、それは無理だろう。つまり、やっぱりあれはありえない夢ってことだ。一人で納得して頷いていた私は自分が笑っていたことも、総悟がそれを見てニヤニヤしていたことにも気が付かなかった。

「あ、プリン食べてる途中だった」
「俺が食わせてやろうかィ」
「遠慮しますー」

あとがき

総悟メインのヒロインはいないので別なキャラを考えたら、こんなことに!
というかこの超鈍感ヒロインどうしたらいいのー
ローズさん、これでリクエストいかがでしょうか~
(2009/03/25)

こめんと閲覧

  • ローズさん> こちらこそ素敵なリクエスト有難うです♪ 喜んでいただけてホッとしましたv
    (2009-03-26 07:51:51 ひまうさ)
  • わぁ…ありがとうございます!!素敵な小説を書いていただいて、嬉しく思います!ホントにありがとうございます!!
    (2009-03-25 23:13:36 ローズ)