ぱたぱたと団扇を揺らす。
その先にあるのは七輪で、焼き魚が美味しそうな香りをさせている。
「はーさん、もっとちゃんと扇いで」
風向きとは別な方向にいる浴衣姿の幼い少女が口を尖らせる。
「はいはい」
返事をしつつも気が向かないので、私は変わらない速度で扇ぎ続ける。
「はーさん」
「…つーかさ、なんで花見で焼き魚?」
目線を上げると、塀の向こうからにょっきりと満開の桜の枝が庭先に突き出している。
突き出すわけ、ないんだけどなーと心中で呟くに留める。
「ジンギスカンしているところがあるんだから、焼き魚もいいでしょー」
わけのわからない理屈を捏ねる少女を水に、私は扇ぐ手を止め、くわぁと大きく欠伸した。
「はーさんっ」
「焼き魚より、ほら、たまにはお茶立てるとか」
彼女の怪訝な目がこちらをむいて、できるのか、と物語る。
「できないよ。でも、ほらせっかくの桜だし、花見だし」
「たまには風流にとか」
「はーさんが?」
すごく失礼なことを言われた気がするけれど、煙に別な香りが混じったこともあってスルーしておく。
「焼けてるよ」
「え?…あ!」
花も良いけど、この桜の下で普通にお茶をしたいなぁと扇ぐのを辞めた団扇を口元に持っていき、私は小さく嘆息した。
「おなかがすいたっていったの、はーさんなんだけど」
「そうだっけ?」