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書名:読切
章名:テーマ(500文字制限)

話名:テーマ「理」 - どうにもできないこと


作:ひまうさ
公開日(更新日):2009.6.3
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:469 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 1 枚

テーマ「理」

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p.1

 部屋の中には空が溢れている。私が好きだと言ったから、窓から見える空が好きだと言ったから、彼女が部屋をキャンパスにして描いてくれたのだ。

「どう?」
 口を開いて声を出したつもりだけど、私の耳には届かなかったから、声になっていなかったかもしれない。

「わかってるわよ。雲は動くものだって言うんでしょ?」
 そんなことを言ってないし、思ってもないけど、拗ねて膨らませた頬を微かに赤くする彼女は可愛いので、私はただ口の端をあげて笑った。

「よーく見てなさいよ」
 彼女が腕まくりしながら、私に背を向ける。左腕に持った白い液体が湛えられた空色のバケツに、右手の刷毛を大胆につっこみ、向き合った壁の雲の左側をなぞる。

 彼女が雲の右手へ動く間にゆっくりと瞼が落ち、私は闇に沈む。

「ねぇ」
 泣いている彼女の声で目を開く。ああ、いつの間にか眠っていたらしい。

 目が合うと、彼女は目元を赤く染めたまま、嬉しそうに笑った。

「毎日、アタシが雲を動かしてあげるよ」
 だから、生きてと。

 約束してあげたいけど、無理だとわかるから、私はただ、いつものように口端をあげて笑った。

あとがき

 人間にはどうにも変えられないこと、それが「理」。という風に書いたけど、なんだかいまいち。
(2009/05/29)


公開
(2009/06/03)