真正面から無遠慮に吹きつけてくる風を、私は両目を閉じて迎える。
開けた窓の外には部屋の中とは大違いの色鮮やかな世界が広がっていて、誘われるままに私はスケッチブックとペンを手にして、窓枠を乗り越えた。
とん、と地面に着いた足を、柔らかな青草が受け止めてくれる。出てきたばかりの窓を見上げると、窓から黒い服の人が両手を振り上げているけれど、私には何も聞こえない。
他の人は、よく聴こえないのかと尋ねてくるけれど、私にはよくわからない。
聴こえるって、何?
危ないからと止められている屋敷の外へと抜け出す。灰色のアスファルトに伸びるいくつもの影の間を縫うように走っていったけれど、行き先なんて考えてなかった。そもそも屋敷の外なんて知らないから、どこへ行きようもないのだけど。
風に煽られた自分の金の髪がふわりと私を追い越し、空に舞う。一緒に動かした視線が空を捉え、すぐに下へと降りた。
(何?)
空に溶けて届く、かすかな「それ」が何なのか。わからなかったから知りたくて。知りたいから私は「それ」を追いかける。
「おと」がなんなのか、私にはわからなかった。聴こえないということがどういうことは、私には分からなかった。それはどんな本にも載ってないし、誰も答えてはくれなかった。
(あれは、なに?)
誰も教えてくれないのなら、自分で見つけるしかない。だから、私は答えを探しに出かけることにした。
ーー空に溶けて届くこれが何なのか、知るために。