うちの学校の終業式は毎年12月25日と決まっている。理由は初代生徒会の決定によるものだというから、当時の生徒会の権力がいかほどのものかと窺い知れる。今はその権限も一部しか残らないが、それでもこのイベントだけは今でも生徒会主催と定められている。
25日、終業式後の殺風景な体育館とはかけらも被らない華やかな光景に、俺は口元を緩めた。一面に敷いた赤絨毯、壁伝いに並べたテーブルには白い布を皺なくのばし、上には温かなクリスマスらしい食事が並ぶ。
テーブルを囲むのは男子はタキシード、女子はイブニングドレスというのが習わしで、女子はエスコートが必須だ。舞踏会を思わせる会場の中央スペースは広く開かれ、ウィンナーワルツを踊る生徒で更に華やかさを増す。
今年の目玉がステージ上の本物のオーケストラの演奏なのは、指揮者がOBであるおかげだ。すらりとした長身と整った造詣の顔形に、マスコミの覚えもめでたい彼は、会長の縁戚らしい。言われてみれば、確かにそんな感じだと感覚的に納得した。
「どう?」
「成功でしょう」
あの指揮者を説得するのは会長の魅力をもってして容易だったそうだが、相変わらず会長は自分を安売りしすぎだ。声をかけてきた会長を振り返った俺は予想通りの事態に、諦めの息を吐いた。
「今年はミニスカサンタですか」
会長の頭上でぴんと立ったうさぎの耳が、得意げにぴくぴくと動いている。白くふわふわした感触を想像させるそれは、実際に触ると想像以上にふわふわで滑らかだ。
俺が口にしたように会長は制服でなく、襞に白いモールみたいにふわふわの飾りをつけた膝上スカートをはき、赤いシャツの上から赤いケープをつけている。ミニスカから伸びたすらりとした足は膝上のニーソックス(白)で、運動部らしい引き締まった筋肉が妙になまめかしい。
て、俺は何考えてんだ。
気を取り直して、俺は会長が手にしている白い袋に視線をむける。この中はーーと、これはトップシークレットだった。
「キミも着替えたら?」
会長の勧めに、俺は眉を潜め、頭を振った。まだハロウィンで追いかけまわされた記憶は新しいままだ。
「俺は今日の聖夜祭がうまくいけば満足です」
「心配性ねえー」
白い袋を背負い直した会長の後ろ姿を見送る。これから会長のメインイベントなのだ。内容はどうしてもパラソルキャンディをばらまきたいという会長のワガママ企画だ。
「て、あーっ!」
会長の姿が消える寸前、俺は大切なことに気がついた。イベントで会長が立つ場所は体育館の二階廊下で、一階が見渡せる場所だ。そんな場所にミニスカで立つなんてーー!
「ま、待ってください、会長!」
うさぎ耳が生えてから、会長の足はさらに早くなった気がするので、走ったところで追いつけるだろうか。そんな俺の心配を他所に、会長がひょっこりと戻ってきた。
「ん?やっぱり一緒にやりたくなった?」
「是非、やらせてください!」
迷うことなく即答した俺を少し目を見開いて、驚く様をみせた会長は、嬉しそうに手を差し出してきた。
「うん、やろうか!」
会長の笑顔の向こう、いつも白いうさぎ耳は、ほんのり薄紅に染まった気がした。