1#乱入者は六爪流
彼を初めて見た時は冗談じゃないと思った。
だって、六本の日本刀を一遍に使うとかありえないし。それを操っている人間が隻眼てのはいいとして、なにあの戦装束。大将が目立つのは当たり前にしたって、誰があんなの作ったんだか問いつめたい。…まあ、他の藩の武将も似たり寄ったりと言ってしまえばそれまでだけど。
二度目に会ったのは仕事の最中で。昼の光も届かないほど暗い森の更に奥、少しだけ拓けた場所を舞台に、一人の観客もない中で一人舞う私を見つけた彼が近づいてきて。
「アンタ…」
私はとっさに手元の短刀を彼の足元に投げつけて。
「そこを動くなっ!」
中途半端に止まった舞のせいで、静まりかけていたソレが意思を持って形を成す。身の丈七尺はありそうな巨体を見上げて、私は舌打ちした。なんとかソレが形を成そうとしているのは人の姿で、黒い靄に覆われた不気味な物体となっている。この場合の急所は人体と同じはずだが、私の背では簡単には届かない高さと距離にある。
「shit!なんだ、こいつはっ」
儀式を邪魔してくれた男が両手に六本の剣ーー六爪流を構えるのを見て、私はようやくそれが誰か思い当たった。
奥州筆頭、伊達藤次郎政宗。彼以外にそんな武器を使う者を私は知らない。よく見ればその蒼を基調とした戦装束には見覚えがあったのだ。
が、いくら彼でもソレと戦う無理だ。ソレはただびとが敵う相手ではない。私以外のものの攻撃はカスリ傷ひとつ付けられないのだ。ソレはまだ相手が見えていないのか、乱入者に向かっていこうとしている。
「馬鹿っ!」
伊達の闘気が蒼くその身を包むのを見ながらも、私は彼に向かって突進する。彼はどうしようとも敵わない相手というのを知らないのだろう。これをどうにか出来るのは私しかいないというのに。
ソレが大きく腕を振り上げる。
「おまえの相手は、私だろうっ!」
間一髪、私はソレと伊達の間に飛び込み、ソレに向かって舞扇を振り上げる。軌道を逸らした腕が私たちの直ぐ脇の地面を大きく抉り、凹ませた。
「説明している時間はない。さっさと逃げろ、大馬鹿者っ!」
伊達は目の前に現れた私に少し驚いていたようだ。無理もない。今の私は青龍を金糸銀糸で縫われた鮮やかな蒼の打掛姿をしているのだ。腰まである黒い髪をひとつに括ってあるとはいえ、とても戦いに向いている姿とはいいがたい。
「てめぇ、何言って」
先ほど投げた短刀を拾い上げ、私は左の綴じた白無地の舞扇と合わせて構える。
「これはただびとに殺せる相手ではない。いいから、退けっ!」
反論を聞いている暇はない。舌打ちが聞こえた気がしたが、知ったことか。私に向かって振り下ろされる腕を私は飛んで避け、その腕に乗って短刀を突き立てて、すぐさま飛びずさる。
「グォォォォッ」
咆哮が辺りに反響し、辺りの木の幹を震わせる。ビリビリとした空気の振動に震えそうになる自分を叱咤し、私は舞扇を広げて掲げる。
「
「わっ」
急に私は目の前を蒼で塞がれた。それが伊達の衣装のせいだというのはすぐにわかった。
「Ladyに守られるわけにはいかねぇ」
男の矜持ってやつなんて、この場でなんの役にも立たないというのに、伊達は本当に馬鹿なのか。
「どけろ、馬鹿っ!」
「俺が勝てねぇだと。
伊達の構えた六爪流がソレの腕をすり抜けるのを見届けずに、私は近くの樹の枝へと飛び移り、その枝からさらに高い枝まで飛び移り、ソレの上へとたどり着いて直ぐに舞扇の大扇骨を握り、扇首を化物の心臓部へと定める。
「おまえの相手は私だと言っているだろうっ!」
私は枝を蹴り、ソレの真上へと飛び上がる。顔がないはずのソレが真上を向いた気がした。意思があるはずなどないのに、ソレが私を見るのは異常すぎる。
「!?」
気がついたときには私の身体が弾き飛ばされ、ソレの足元の地面に叩きつけられていた。
「がはっ」
一瞬息がつまり、肺に残っていた空気が吐き出される。避ける暇もなく、上から私を押し潰そうと黒い腕が降ってくる。このまま潰されてしまえば、楽かもしれないと一瞬だけ考えた。
私がこんなことをしたって、この国の運命は変わらない。このまま放っておいて、滅びを待てばいい。私にはどうなろうと関係ないのだ。
一瞬何もかもを諦めかけたとき、耳元を一陣の風が通り過ぎた。それに身体には浮遊感もあり、化け物の咆哮も少しばかり小さくなる。
「Hey、You!しっかりしろっ!」
耳元で聞こえるうるさい声に眉を寄せる。どうやら、伊達に助けられたらしい。しかも、今はその腕の中に抱えられているという状況だ。
「……余計なことをしていないで、さっさと逃げろ」
目の前で見るとよく整った顔だなと考えつつも、私は伊達にため息混じりに忠告した。
「Ha!それだけ、減らず口が叩けりゃ上等だ」
私は伊達の腕から降り、深呼吸を繰り返す。息は苦しいが、まだ動ける。動けるなら、やはり守らなければならないだろう。この国の行方など知ったことじゃないが、あれを放置すれば弱いものから死んでゆく。それは私の望むことではないのだ。
気配を探ると、あの化物はそれほど離れていないらしい。
「おい、さっきのはなんだ」
「さっさと城へと帰れ、奥州の竜。そして、二度と私に関わるな」
襟首が掴まれ、目の前に隻眼の顔がつきつけられる。イラつく瞳の奥に滲むのは悔しさと、何だ。いつかどこかで見たような目をする。
「
何を言っているのかは分からないが、説得が無駄なことだけはわかる。その時間もない。
「これ以上、私の邪魔はするな」
「てめぇ……!」
私は伊達の腕を振りほどき、彼から少しの距離を取る。化物からの距離を気配で探り、二、三回深呼吸を繰り返す。それから、伊達が尚も言い募ろうとするのに構わず、両腕をゆっくりと水平に上げ、広げた舞扇を構え、彼が来る前に行っていた舞を踊り始める。
舞い始めれば直ぐに私の意識から伊達の姿は消えた。ただ世界を感じて、その手と舞扇の上に乗せる。先ほど形をなしたソレさえも、手繰り寄せ、少しずつ、少しずつ溶かしてゆく。
世界は元々は透明なものなのだ。それを汚してゆくのは人の欲望で、それが積み重なると戦を引き起こす。ひとつひとつの欲望の欠片を手繰り寄せ、舞の中で洗ってゆけば、それはまたひとつの光となり、世界へと消えてゆく。
「アンタ、何者だ」
伊達が私に問いかけるのと、苦しげな化物の咆哮が近くから聞こえるのは同時だった。
「Hey!」
私は急に身体を伊達の肩に担ぎ上げられ、宙を飛ぶ。私のいた位置には大きな黒い塊が落ちてきたところだったのが見え、私はまた伊達に助けられたことを知った。
「何を呑気に……」
だが、今はそれに礼を言っている時間もない。私たちの着地位置にいるのは黒い塊で、私たちを飲み込もうとしているのだ。
「奥州の竜、おまえの爪をひとつ借りるぞ」
「Ah?」
私は担がれながらも伊達の腰の刀を一つ掴んで、鞘から抜き放ち、真下へとその刃を向ける。
「ーー滅せよ!」
その刀が黒い塊に触れた瞬間、接地点を中心に白い光が溢れ出した。それはひだまりの暖かさを伴って、私たちを包みこみ。黒い塊は澄んだ音を立ててはじけ飛んだ。
2#米沢城に連れ込まれ
地面についたら、直ぐに私は伊達から離れようと考えていた。助けてもらったことには違いないが、肩に荷物のように担ぎあげられるなんて、屈辱以外の何者でもない。そりゃ、体格差を考えれば当たり前なのかもしれないけれど、それにしたってもっと他に運び方があるだろう。
だが、伊達は私を下ろすどころか、そのままどこかへと歩き出す。
「離せ……」
暴れようにも仕事が終わった後で、その上戦闘にまでなった後では二度の舞は私の体力をひどく消耗させている。腕一本上げることだに億劫で、囁く声しか出せない。弱々しい私の言葉など伊達には届かなかったのか、彼はその歩みを止めようとはしなかった。
次第に馬の嘶きが近づき、もう一人の気配が現れる。
「政宗様、その女は?」
「拾った」
あれ、私は拾われたのか。そんなわけあるか。
「冗談はいいから、おろせ」
私の呟きに答えはなく、私を馬上に乗せてから、伊達が私の耳元に口を寄せて囁く。
「アンタ、動けねぇんだろ。大人しく攫われろ。You see?」
同じ馬に乗った伊達が私を強く引き寄せる。その時にふわりと匂うこの場に似つかわしくない香にふっと気持ちが和らいだのは、それが聞き覚えのある香に近かったからだ。今は亡き姉の好む香、穏やかで優しい中に凛とした佇まいをみせる香だ。
傾奇者と知ってはいたが、こんな戦装束にも香を焚き染めているとは。
「……やはり、馬鹿だな」
私の声は届いていたのかどうかわからないが、伊達は少し笑ったようだ。私は目を開いても疲れの為か視界がブレて定まらない。
「政宗様、お戯れは程々になさいませ。どこの者ともしれぬ女を迎えるなど」
隣に馬の並ぶ音がする。その名前が片倉小十郎景綱と知れたのは、その後の会話からだ。
「ごちゃごちゃ言うな、小十郎。この俺が女ごときに遅れをとるか」
「しかし、政宗様!」
「一応、俺はこいつに命を救われたようだからな、怪我が治るまでぐらいは面倒みてやるさ」
後半は私に言ったらしいと気づくのに、少し時間がかかった。
「……命を救われたのは私の方だろう。オマエが気にすることじゃない……」
小声で言うと、伊達は静かにしてろとでも言うように私の頭に手を置いて、優しく撫でた。
命を救われた恩があるというだけではないのかと訝しむが、動けないのは事実なので抵抗もできない。さして時間がかかるわけでなく米沢城が見え、気がつけば私は居城に連れ込まれていた。途中、幾度か意識が飛んでいたのは事実だ。
気がつけば、打ち掛けもボロ布のようになっていた着物も取り払われ、清布が終わる頃だった。
自分の体なんて、久しぶりに見たなというのが最初に思ったことで。やせ衰えた身体にはほとんど体力もなく、すぐに布団に横になる他なかった。その布団もふかふかで太陽の光で暖かくて、気を抜けば直ぐにでも眠ってしまいそうで。ずっと握り締めているままの舞扇を胸に抱き込んで丸くなって。
医師という人を連れて、伊達が戻ってきた時は殆ど夢現だった。
「一月も寝ていれば治るでしょう」
それが医者の診察で、立ち会っていた伊達と片倉は黙ってそれを聞いていた。布団に起き上がって診察を受けていた私は着衣を直し、二人を顧みる。と、伊達はニヤニヤと何やら楽しげに笑っており、片倉は眉間に皺を寄せて眼を閉じているようだ。
伊達は鎧を脱いで藍の着流し姿で、眼帯をしているからすぐにわかった。医師は白だし、おそらく後ろの土色の装束の男が片倉だろうと当たりをつける。
「……有難うございます、伊達殿」
「何、礼には及ばねぇ。こっちも下心あっての人助けだからな」
やはりか、と私は目を細める。
「アンタ、護国の舞姫だろ。噂は聞いているが、こんなchildとは思わなかったぜ」
訝しげな片倉の眼差しが、さらに胡乱なものとなり、私は口をへの字に曲げた。
護国の舞姫、とは誰かが勝手につけた渾名で、噂がとんでもない尾ひれを付けてまわっているのは知っていた。訂正する気もなければ、名乗りでるつもりもない。
「それは伊達殿のお見立て違いでしょう」
「あのMonsterは何だ。アンタのdanceで形を変えたように見えたし、アンタはあいつを消し去ったように見えた。すべてdreamとでもいうつもりか」
すっと伊達の目が細められる。嘘や冗談は通じないとでもいうように、まっすぐに私を見る。威圧感がびりびりと肌を刺すようだ。だが、権力や力に屈するつもりはない。
「何をおっしゃられているのかわかりかねますね。私は旅の途中で出会った妖を退けていたに過ぎません」
私は怪我の治りが常人よりも早いのが取り柄だから、明日になれば怪我を気取られずに動くことも出来るだろう。そうなれば、奥州の居城になど長居は無用だ。助けてもらったことには違いないが、明日の早朝にでも出ていくことを、私は決める。
考え込んでいる私の前に、伊達の手が近づいてくるのを避けもせずに見ていると、顎を掴まれた。
「ただの女がMonsterを退けると? んなことをこの俺が信じると思ってんのか」
「ただの女とは一言も言っておりませんよ」
にやりと口元を歪める私に、片倉が刀に手をかける音が聞こえた。
「てめぇ、政宗様になんという口を聞く」
「いい、小十郎。……アンタに俺は斬れねぇだろ、You see?」
後半は私に言われたもので、まっすぐに見透かされそうな伊達の左眼の奥を逸らさずに見続けるのは、今はひどく疲れる。
「そうですね、面倒はお互いに望むところじゃないでしょう。だから、明日にでも直ぐに出てゆきます。それでよいでしょうか、片倉殿」
驚いた様子の伊達の手が緩んだ隙に、私はその手を振り払う。その反動のままドサリと布団に身体を投げ出す。無理な体勢をさせられたのもあって、余計に疲れた。
「そこにいてもいいですけど、私はもう休みます。ここを早く出て出ていきたいのでね」
どうせこの部屋を出て行けと言っても、伊達は素直に出て行くこともないだろう。私は説得は早々に諦めた。自分が不審者の自覚はあるし、そこの片倉の胡乱なものを見る反応は正常なものと言えよう。別に今更見張られていても構わないが、今ここにさっきのような穢れが舞い込むのも困る。世話になっておいて、穢れを呼び込むなど、恩を仇でかえすようなことは私の本位ではないのだ。
目を閉じ、深く深呼吸をして、辺りに自分の意識をなじませる。範囲は部屋の内外でいいだろう。しん、と張り詰めた空気は慣れ親しんだものだが、私は世に出てから特別な霊場の空気なのだと知った。これは一種の結界のようなもので、あの化物を生んだ根源、人の欲望のような穢れを簡単にでも祓う働きをする。
それから、ここから一番近い場所。おそらく城の中だろうか。奥にある黒い悪意の塊のような物に焦点を定め、ひとつの結界を施す。噂通りであれば、あれが伊達の母親という人の瘴気ではないだろうか。
「アンタ見た目よりCoolな女だな」
楽しげにかけられた伊達の声に、私は寝息で返した。それを信じてくれたのかどうかはわからないが。
「政宗様、ここには小十郎がおりますので、政務に戻ってください」
「Why?こいつは俺の客だぜ」
「政宗様が見ていたところで、怪我が治るわけではありません」
何時までもそこにいるつもりであった伊達を諌める片倉の小言を聞きながら、私の意識は深く深く潜っていった。
3#眠れぬ夜の甘い誘い
私を抱き寄せる大きな腕。姉様の心地良い香りに包まれて、私は心まで暖かくなる。小さな頃に戻ったみたいな気分で、その体に擦り寄ると、思いがけずさらに強い腕に閉じ込められる。
「姉さま……?」
ああ、違う。姉様はもういないのだ。
いないということが悲しくて、素直に零れた熱い雫を柔らかで暖かで、少し湿ったものが掬いとる。
「怖いDreamでも見てんのか?」
そして、聞こえてくる低い男の声。
(男の声?)
ぱっちりと目を開くと、吐息のかかる距離で伊達の顔があった。
「な、ななな……!?」
「Sh!騒ぐなよ」
落ち着いた様子で私の口を大きな手で塞ぐ伊達は、悪戯が成功した子供と同じ顔で笑っている。
伊達は一応藍染めの着物を着ているようだが、眼帯は外さずそのままだ。左目をよくみると、睫毛が長いな、と感心してしまう。鼻梁も通っているし、全体的に顔のバランスがいい。こういうのを格好いいと言うのだろうか。
「何をしている」
私が落ち着いたのを見て取ると、伊達は手を離してくれた。私が深呼吸してから睨みつけると、意外そうな顔で見つめ返され。次いで、意地悪そうににやりと笑う。
「一人寝は淋しいだろうと思ったからな。Thanksしろ」
その言い方がまるで子供に言うような言い方だったので、かちんときた。
「私はこれでも十八だっ」
ついでにその勢いで伊達を布団から蹴り出し、立ち上がる。すでに体力もほとんど回復し、わずかに呼吸が苦しい程度でしかない。この分なら朝方までにはでていくことも出来るだろう。
布団から追い出された伊達は、すぐにあぐらで座り直すと、私に向かい合った。
「Ha!そのBodyのどこが十八だ。どう見ても十二、三だろ」
確かに私は背も低いし、胸もないし、幼児体型だ。だが、それを責められる筋合いはない。身体の成長なら、三年前から止まったままなのだから。
「ガキっぽくて悪かったな」
言い返せば、ますます笑みを深める伊達に、私は不安が首をもたげるのを感じていた。
部屋を見回せば、城に上がって、最初に通された部屋でもなく、診察を受けて眠りについた部屋でもない。だが、青葉城の中であるのは間違いないと告げるのは、眠る前に辺りに撒いた結界の欠片だ。かなり薄れてはいるが、間違いない。奥深くの黒い靄は消えるでなく留まっている。
龍の描かれた衝立に、紙燭のぼんやりとした明かりが揺れている。他には何も無い。私の着物はここに来たときに着替えさせられた白い装束のままだが。
おそらくだが、ここは伊達の寝室だろうと予測できる。だから、それが何を意味するのかも分かっているだけに、私は目を細めて、伊達を睨みつけた。
「護国の舞姫は誰の下にもつかぬ」
既成事実を作ってでも、ここに私を閉じ込めてしまおうというのは愚策だ。
護国の舞姫の噂はほとんどが根拠のない出鱈目であるが、その出鱈目の中にひとつあるのが、護国の舞姫を手にいれれば、天下を手に入れるというなんともいい加減な噂だ。小者にであれば信じるそれも、伊達ほどの藩主が惑わされるのは珍しい。それとも、それは若さゆえの愚か。
「何を勘違いしてやがる。Childに手を出すほど不自由はしてねぇよ」
「じゃあ何故私をここに連れてきた」
「Firstに言っただろう。それに……魘されていたようだしな」
少し前まで見ていた夢を思い出し、私は頭に血が上ってゆくのを感じた。
「っ!勝手に見るな!」
叫ぶ私を伊達は面白そうに笑っている。
「それに、俺は護国の舞姫なんかより、アンタがほしい。アンタは見てて飽きなそうだ」
意味が分からない、と首を傾げる私に伊達は何かに気づいたように、気まずそうに目をそらす。
「アンタ、じゃねぇか。そういえば、お互い名乗っちゃいねぇな」
言われてみればそうだが。
「不都合はあるまい。私はオマエが伊達藤次郎政宗という名なのを知っている」
私の名前など知ってどうする。そう問いかけると、伊達は不機嫌な顔をする。曰く、私だけ知っているのは気に食わないと。
どっちが、子供だ。私は思わず、怒りを忘れて吹き出してしまった。
「袖摺り合うも他生の縁、か」
確かに仕事中に邪魔をされたのは私の方だが、山奥だからと油断していたから結界に綻びがあったのも事実だろう。迷いこんできた伊達ばかりを責めるわけにもいかないし、助けられたのも事実だ。
「私は、葉桜だ」
くつくつと笑いながら名前を明かすが、伊達はまだ不機嫌そうにしている。
「Homeはどこだ?」
「ここよりは少し温かい場所だな。確か、宇都宮より少し北ぐらいの場所にあったと聞いた」
あの場所がどこなのかと問われると自分でも困る。里を出てから、一度も帰っていないし、帰るつもりもない。紙燭の明かりが衝立に揺れるさまを見ていると、里を出るときのことが思い起こされた。久しぶりに夢を見たからだろうか。里を出てから今まで、こんなにも眠るのは久しぶりなのと、きっとおそらく。
伊達の着物に焚きしめられた香のせいでもあるだろう。
「アンタのFamilyは」
私が目を閉じたのは、里心に揺れる心を落ち着かせるためだ。
「今はいない」
仲間と呼べる人も、家族と呼べる人も、みんないなくなってしまった。もう里には誰もいないし、これからもそんな存在を作るつもりはない。私の血が絶えれば穢れは浄化されることなく留まることになるだろうが、たった一人で国中の穢れを払うなんて、こんな技を誰かに伝えたくはないんだ。
たった一人で背負うには、この国は重すぎるから。
「葉桜」
ふわりと、あの香が私を包みこみ、耳元で伊達が優しく囁く。それに、一瞬だけ泣きたい気持ちになったことは、秘密だ。姉様、と呼びそうになる自分を押し込める。
「なら、アンタは今から俺のFamilyだ」
「御免被る」
きっぱりと言って返し、私は伊達の身体を押しのけた。顔は、見ることができなかった。それに今、自分の顔を見られたら、この気持ちを吐露してしまいそうだった。
一人は、淋しい。誰かにずっと側にいて欲しい、なんて。そんなことを言えるはずもないのに。私にはそんな資格などないのに。
4#口調と呼び名と自覚
「それは俺が片目だからか」
どこかイラつくような伊達の声音に、私は首を傾げる。
「なんだそれは」
確かに身体の一部が欠損するというのは不便かもしれない。だが、そういった者たちでも、努力して能力を伸ばしている者がいると私は知っている。伊達が苦労して今の強さを手に入れていることぐらい、容易に想像はついている。
「葉桜は小十郎の前と俺の前だと、態度も口調も違うじゃねえか」
そうだっただろうかと考え込んでいると、無意識かと舌打ちされた。
「あー、別に片目だからとか、そういうんじゃないと思う。仕事中に出会ったせいかな。今更、伊達殿に取り繕っても無駄だろう」
仕事、と聞き返されて、そういえばと苦笑した。本当に、あんな現場を見られて、命まで救われて、全部見なかったことにしろをいうほうが無理な話だろう。
私は伊達に向い合うように両膝をついて座り、真面目な面持ちで説明をすることにした。
「悪欲、というのはわかりますか」
「仏教の欲界とかいうやつの中のひとつだな」
「そうです。万の物を必要以上に求める心、そういったものが私には黒い靄のように見えるのです。憎しみや怒り、悲しみといった負の感情も。それらが凝り固まって形を成すと、伊達殿があの時見たような化物のような形を取り、人を食い殺す悪鬼となります」
胡乱な、そういう胡散臭いものをみるような目で見られることには慣れている。
「私の一族はそれを代々舞うことで鎮め、時には戦って消し去ってきたのです」
舞の動き、ひとつひとつに鎮め、浄化する力があるのだと聞いたが、ほとんど覚えていない。私が覚えているのは舞の型と戦い方だけだ。
「そんなの聞いたことねぇな」
「ずいぶん昔に表舞台から姿を消してしまいましたから」
今ではそういうことをするのは主に神社の神主とかそういったものらしいと聞いている。彼らは黒い靄を「穢れ」と呼び、祓うことが出来るらしい。だが、伝え聞くところによると、やはり浄化することまで出来るものというのはごくわずかという話だ。
伊達は渋面した顔で私の頭を優しく叩く。
「アンタの言はわかった。もう口調を変えなくていい」
「……いいのか……?」
「アンタが……葉桜が俺に気を許しているからだと思えば、腹も立たねぇよ」
私が伊達に気を許している、だと。言われてから、首を傾げる。初対面の男にそこまで気を許す自分ではないはずなのだが、言われてみるとそう見えなくもない。
だが、どうして気を許すなんて。そんなこと、里を出てからは一度もーー。
「葉桜?」
真っ直ぐに私を見つめる伊達を見ていると、急に顔に熱が集まってくる。
え、あれ、なんだこれ。違うだろ。私は、誰にも気を許してなんかいない、はずなのに。
「おい、どうしーー」
「だ、伊達殿!」
顔を覗き込もうとした伊達を声を荒らげて制止する。それ以上、踏み込まれたら、何かまずい気がした。一人でいられなくなるような、ほだされてしまいそうな危険な予感だ。
「そういうわけで、怪我の治りが早いのも一族の特徴なんだ。だから、私の怪我のことも今の話のことも忘れてくれていい。陽が登ったら直ぐに出て行くから、だから」
「おい」
ぐいと手をひかれるのを、こらえて顔をそらす。今、顔を見られたら、絶対にまずい気がした。
「葉桜?」
「違う。気を許すとか、そんなこと、有り得ない。だって、私のような化物が、」
握られた指先が熱い。心臓が痛いぐらいに動いている。
「
両頬を挟まれ、無理矢理に顔を合わせられる。伊達の左目と合ったら、動けなくなった。まさに蛇に睨まれたカエルだ。
「一月、だったな」
それが医者が見立てた治癒時間だと気がつくのに、少し間があった。
「すぐに怪我が治っていてもいい。一月、俺のそばにいろ」
「な、なんで」
「葉桜、アンタは……いや、
伊達の使う異国語はわからない。でも、今まではなんとなく前後の言葉でわかったりしていたのだが、こんな風に唐突にされると予想もできない。
「なんて……?」
私が聞き返すと、伊達は両手を離し、私に額をぶつけてきた。痛がる私を少し楽しそうに眺め、今度こそ伊達は私から手を離す。
「俺のことは藤次郎と呼べ、葉桜」
「は?急に何言って……伊達殿?」
「藤次郎か、政宗。どちらかしか認めねぇ」
口調が気に入らないとか、呼び方が気に入らないとか、一体なんなんだ。ただ護国の舞姫を囲いたいだけなら、気にすることもないことなのに。
それとも、本気でこんな私を望んでいるのか。
(ないな)
心のなかで私はすぐさま否定した。見た目も中身もただの子供だという自覚ぐらいある。それに、人には見えない奇妙な業を使う者のことなど、本気で欲しがるヤツなどいない。彼らが私を欲しがる理由はひとつ、護国の舞姫としての価値だけだろう。それ以外の価値など私にはない。
「葉桜」
呼ばれて顔を上げると、伊達は真剣な顔で、私が名を呼ぶのを待っている。
この男に私が気を許しているのだとしても、家族として寄り添うことなど有り得ない。私には誰かといる資格なんてないのだ。私といれば、姉様たちのように、きっとーー。
「伊達殿」
私が困った様子で微笑むと、不機嫌そうな顔はしばらくして、ため息を付いた。
「
伊達の骨ばってゴツゴツした大きい手が私の頬から耳を伝い、私の肩口の黒い髪を掬い上げて口付ける。その仕草に、一瞬だけ胸が高鳴った。
「
ぎらりとした視線が私を射る。その挑戦的な瞳を、私は困惑でもって見つめ返すほかなかった。
だって、何を言っているのかわからないのだから。
5#二人で並んで正座して
結局のところ日が昇るまで伊達と語り明かしてしまった私は朝方に睡魔に襲われ、なし崩し的に伊達と共寝をすることになってしまったわけなのだが。もちろん、手を出されてもいないし、本当に伊達は私が寂しそうだから連れ込んだだけのようだ。
しかし、起きて直ぐに私たちを待っていたのは片倉の説教というわけで。
(帰りそびれちゃったな……)
伊達の寝室で揃って正座で説教を受けていたわけだが、夜中に起きていたせいで私も伊達も眠くて仕方がない。欠伸をかみ殺していると隣の伊達の身体が傾いできた。
(重い……)
片倉の話によると、どうやら昨日政務が終わった後で私の部屋に来た伊達が、私を寝室に連れ込んだらしい。ただでさえ私は不審人物なのだから、片倉が怒るのは道理である。いくら見た目が子供でも伊達は警戒心が足りないと思う。
でも、一番の疑問がなんで私も一緒に怒られなければいけないのだろうかということだ。寝ていた私にはどう考えても伊達に抵抗するなど不可能なのだから、どうしようもないではないか。
眠い頭でつらつらと考えていると、とうとう伊達の身体が本格的に私に寄りかかってきて。
「うわっ」
「政宗様っ」
避けようと下手に動いてしまった私は、膝の上に伊達の頭を迎えることになってしまった。焦る私と片倉を尻目に、伊達の気持よさ気な寝息が聞こえてきたときには、いっそ殴ってやろうかと思った。そのつもりで握った拳を上げて、震わせていると。
「……そういえば、名前を伺っておりませんでしたね」
「あ、葉桜です」
片倉の探るような言葉に、私はさらりと名前を明かしていた。自分でもおどろくほどすんなりと。起きていたら、伊達は怒るかもしれないな、なんてなんとなく罪悪感が飛来する。
「俺は片倉小十郎景綱と申します。失礼ながら」
そういえば、と昨夜の話を思い出し、こほん、と咳払いする。
「片倉殿、私のような小娘にそのような敬語は不要。それから、余計な探りを入れなくとも、問われれば全て正直にお答えします」
元より隠すほどの素性は持ち合わせていない。調べても、真偽が出てくるかまでは知りえないが。
片倉は困った顔で曖昧に笑う。強面だけれど、そうすると優しそうに見えるから不思議だ。実際のところ、片倉は胡乱な目で私を見る者の、本当には警戒していないようだ。
「なぜあのような場所にいた」
あの、と言われて伊達と出会った場所を指しているのはすぐに分かった。森の奥深く、普通の人間なら近寄らない場所だ。
膝の上の伊達の髪に触れ、ゆっくりと梳く。指通りもいいし、ほのかに香ってくる匂いはさっぱりとした薄荷のようにも感じる。
「邪魔が入らず、気の澱む場所があそこだったからのこと。まあ、こういうのは神職でもなければわからないらしいから、その辺りに当たっていただきたいのですけど」
「あそこで女一人で何をしていたんだ」
おそらく伊達から聞いているだろうが、確認だろうか。
「舞を捧げてました」
「誰に」
間髪入れずに返してくる片倉に、思わず苦笑がこぼれた。
「人外、とでも言えば納得で出来るでしょうか。そちらでも他に人がいなかったことぐらいは調査済みだと思いたいんですけど」
少しの間があって、片倉は難しそうな顔で言った。
「護国の舞姫ってのは結局のところ何なんだ?」
一番聞きたいことはやはりそれだろうな、と私は目を閉じた。それから、昨夜伊達に言ったのと同じことを片倉に離し、最後にこう締めくくった。
「実際のところ、こんなことをする必要なんてないのでしょう。でも、この力が私の生きている理由だから、やってるだけなんです。ただの自己満足でしかないのは承知しています」
ぴくりと眠っている伊達の眉間に皺が寄る。もしかして、小言が嫌で狸寝入りでもしているのか。一人で逃げるなんて、ずるいだろう。
そう考えているのがわかったのか、ゆっくりと伊達の瞳が開いた。まっすぐに私を見上げる視線が強くて、逸らしたいと思ったのに、伊達の手に顔を固定されてしまう。
「何」
両頬を捕まえる大きな手が、おもむろに左右へと摘まんで広げられる。
「なんで、小十郎だとeasyに名前を言うんだよ」
不満を述べられても困る。というか、これじゃ何故という問いにも答えられないだろう。黙ったままの私に何を思ったか、摘まんでいた手を外し、伊達が起き上がる。しかも、なんでか片手で抱き込まれてるんだけど。
片腕だけのはずなのに、大きな身体に私はすっぽりと収まってしまって、身動きがとれない。それに、こうして包まれていると伊達の香がどうしても姉様を思い起こさせて、センチメンタルになってしまう。
「おい、小十郎。宴の準備をしろ」
「……政宗様?」
「伊達殿?」
急に何を言い出すのだろう。それに、なんでこんな近くに私を置くのだろう。伊達は変な男だ。それに片倉も、昨日よりも幾分優しい気がするのは気のせいだろうか。
「To see is to believe. 葉桜の舞を見りゃ、こいつが護国の舞姫ってのに誰も文句は言わねぇだろ」
びくりと私は身体を震わせた。私は舞を誰かに勝手に見られることはあっても、自分の意思で、人の前で舞ったことなどないからだ。
「伊達殿!」
慌てて見上げた私は、きっと泣きそうな顔をしていたのだと思う。自分でも、顔が歪んだのがなんとなくわかった。
「宴は……やめてくれ。私の舞は人の目に触れるものではない」
声が、手が震える。
「Ah?こうでもしねぇと誰もアンタが舞手とは信じねぇぞ」
「信じなくていい! 人間に披露できるほどの腕前じゃないし、それに」
私を覗き込むその左目が驚きに見開かれる。
「伊達殿が信じてくれているなら、それでいい」
たった一人でも信じてくれるなら、他には何も望みたくない。
望みなんて、願いなんて、もつもんじゃない。過ぎた願いは後悔と絶望しか生まないのだから。それを、私は身を持って知っているのだから。
「どうしてもというなら、伊達殿一人のためにしかーー!」
はっと、私は慌てて自分の口を抑えた。自分で何を口走っているのか、わからない。仕事でもないのに、人間の、特定の誰かの前で舞うなんて、そんなことできっこないのに、なんてことを口にしてしまったのだろう。
「葉桜、アンタ……」
「違……っ! い、今のは違うからな!?」
照れ隠しに伊達の胸を殴りつけるがびくともしない。それどころか、腕の中の私をひたすら凝視していて。その視線に耐えられない私は俯いて、目を閉じるしかなくて。
「宴の準備を致します」
どこか疲れたような片倉の声が聞こえなければ、どうしていいかわからなかったに違いない。
私は力なく叩くだけだった腕を、やおら胸の前で手を開いて構え、勢いをつけて突き飛ばした。耐え切れなかった伊達が後ろへ倒れ、解放された私は立ち上がって走りだす。
「やらないからな! ひ、人前でなんか、舞えるものかっ!」
部屋から出て行く私を伊達も片倉も止めることはなかった。
6#無理をするから
どこをどうやって走ったのかわからないが、辿り着いた板の間ーー道場のような場所の戸を開けた私はやっと冷静になった。見慣れたものに近い光景を見つけたからかもしれない。
乱れた息をなんとか整えたが、先程のことを思い出すだけで胸が苦しい。寝るときにそのままだった黒髪が首や袖口にまとわりついて気持ち悪いし、最悪だ。
(なんで、私はあんなことを言ったんだ?)
自分でもわからない感情が胸に溢れて、どうしていいかわからなくて、苦しい。特に、伊達に「気を許している」と指摘されてからはそれが強くなった気がする。
「そんなはずないのに……」
心を落ち着かせるために、自然と手が動く。身体が動く。想いのままに、体が動き、気がつけば、無心にでたらめな舞をしていた。いつもなら世界に溶け込めるはずの舞が、ちっとも溶け込めない。
無心になろうとすればするほど、心のなかに伊達が思い起こされて、千々に乱れて定まらない。
「違う、違うったらっ」
それは認めてはならない感情だから、知らないふりをしなければいけない。
姉様たちを死なせてしまった時に決めたではないか。誰にも気を許さず、生涯一人を貫き、この国の浄化に努めると。それが、私に出来る贖罪なのだと。
滴り落ちる汗が足元を濡らし、足を滑らせた。
「うわっ」
衝撃に備えようとして目を閉じた私は、しかしなにか柔らかなものに抱きとめられる。違えようのないその香に、胸がさらに痛い。
「てめぇは馬鹿か。
そっと目を開くと、心配そうな伊達の顔が飛び込んできた。見上げてみて、改めて、ああ綺麗な人だと思う。自然とその顔に手を伸ばしかけ、途中でその手を抑えた。
「……ごめん」
目をそらして告げる私の視界の端に、あからさまに不機嫌になる伊達がいる。
「Look at me」
「やだ」
「Why?」
理由なんか、説明できない。伊達といると自分が自分でいられない気がするなんていったら、更なる誤解を受けそうだ。
私はひとつ深く深呼吸して、無理矢理に気持ちを抑えこみ、まっすぐに伊達を見返す。これでどうだと目線で言うと、伊達は驚いた様子の後で嬉しそうに笑った。
「で、なんで逃げた後でDanceしてた」
さっきからの様子を見ると、覗き見られていた気がしてならない。仕事してたわけじゃないから、問題はないのかもしれないけど。
「……見物料取るよ」
「別に構わねぇよな、小十郎」
伊達が戸口に声をかけたことで、私は初めてそこに別な人間がいると気がついた。思わず舌打ちが出る。
「冗談だ。こんな無様な舞で見料をとるわけないだろうが」
伊達の腕から離れた私は、意識して更に距離を取った。
「
怪訝な顔をした伊達から開いた距離が詰められ、私はまた距離を取る。
「Hey!なんで、離れんだ」
「近すぎるから。片倉殿、私が昨日休んでいた部屋に誰か案内を頼みたいのですけど」
片倉の元へ足を向けた私を、後ろから伊達が羽交い締めにする。そんなに密着されると、この早鐘のような鼓動が聞こえてしまうかもしれない。
「Needlessだ。昨日と同じでいいじゃねぇか。……その方がよく眠れんだろ」
耳元に伊達の吐息がかかり、びくりと肌が総毛立つ。だが、それをなんでもない様に押さえて、私は大声でかき消そうとした。
「片倉殿、どうか伊達殿から一番遠くて安全な部屋を」
「小十郎、葉桜の部屋は必要ねぇからな」
私の要望を覆す伊達の意見に、渋面したのは私だけではなかった。二人から言われた片倉はため息で主君に返す。
「政宗様は政務にお戻りください」
ぎゅっと私を拘束する伊達の腕が強くなる。
「葉桜は私のもとで一時預かりとさせていただきます。まだ、敵でないと決まったわけではありませぬ故」
片倉の言葉に、伊達が抗議の声を上げる。だが、私からすればそれは当然の話であるし、今は願ったり叶ったりである。
「Ah?」
「本日の政務を早く終わらせれば、葉桜と話す時間も取れることでしょう」
伊達は舌打ちしたが、やっと離れてくれた。ほっと私が息を付いたのも束の間。
「葉桜」
私は頭を掴んで伊達の顔に引き寄せられ、額に軽く口づけられて。
「な、伊達っ?」
「すぐに終わらせてくるからな。俺が戻るまで、浮気すんじゃねぇぜ」
私に怒る隙も与えず、伊達はさっさと出ていってしまった。
「片倉殿、私を追いだしてくれて構わないんですよ」
「俺は怪我した女子供を放り出すほど人でなしじゃねぇよ。ついてこい」
歩き出した片倉に続こうとした私は、次の瞬間ガクンと膝から崩れ落ちた。すぐに立ち上がらなければと思うのだが、足も腕もがくがくと震えて力が入らない。さきほどまではなんともなかったのに、である。
「どうした、葉桜」
私がついてこないことに気づいた片倉が戻ってきて、私の傍らに膝を付き、大きな手のひらが私の額に添えられる。
「これだけ熱が出ていて、よくあれ程の舞が踊れたな」
熱、と言われて、どこかで納得した。そうか、こんな風に変な気分になっていたのがすべて熱のせいとすれば、合点が行く。自覚した途端に、急に目が回ってきた。
「申し訳ない、すぐに」
立ち上がろうとしたのだが、ぐるんと視界が回って、あっという間に片倉に担ぎ上げられていた。なんだか、最初に伊達にあった時も同じように運ばれた気がする。
「大人しくしていろ」
そうして荷物のごとく運ばれる間に、私はまた意識が暗転してしまったのだった。
7#譲れぬ決意
名前を呼ばれた気がして、私はぼんやりと目を開けた。暗い質素な部屋の中には月明かりがわずかに差し込んでいることしかわからない。
熱のせいか視界が定まらないし、頭がクラクラする。吐き気まではないけれど、何かを考えようとするのは難しい。
「葉桜、起きたのか?」
近くで聞こえる声に首を傾げる。この声は誰だっけ。姉様でも義兄でもない。私を安々と抱き起こす大きな身体からは、姉様の香が薫る。口元に固いものが当てられる。
「……姉、さま……?」
「Waterだ」
飲め、と言われたが、身体は思うように動いてくれなくて、入り込んできた水でむせてしまう。なおも飲ませようとする人に、首を振って拒絶を伝える。
そのまま、また意識は暗転したが、それまで見ていた悪夢はひっそりと鳴りを潜めてくれたおかげで、久方ぶりに深く眠れた。
次に目が覚めた時には、すっかり熱も下がっていた。雀の啼く声に、どこかほっとする暖かな部屋で、誘われるままに一番明るい障子を開く。
目に飛び込んできたのは鮮やかな蒼天で、ふらふらと縁側に出た私は、そのままぺたりと座り込んでいた。そういえば、そろそろ秋が来る頃だったのか。里を出てから、初めて空を見上げた気がする。
「もういいのか」
声をかけられて、ゆっくりと顧みる。それが片倉だと気がつくまでに、少し時間がかかった。手には盆を持っているようだ。
「あ、ああ……はい、たぶん」
曖昧に答える私の前に片倉がしゃがみこみ、額に手が当てられる。
「熱はさがったみてぇだな」
こくりと頷き、私はまた空へと目を向けた。高い高い蒼に引きずり込まれそうで、でも、その蒼い空を自分が昇ってはいけないのがなんとなくわかっていた。
白く厚い雲がゆっくりと流れてゆく。
「もう少し寝てろ」
動こうとしない私の膝裏と背中に手を入れて、片倉が軽々と持ち上げる。そのまま部屋の布団へと、そっと寝かされた。
部屋の中を改めて見ると、私の眠っている布団以外には、枕元にきちんと畳まれた私の打ち掛けと舞扇がある他は、何も無い。少し埃っぽいのはしばらく使われていなかった部屋なのだろうなと想像させる。だが、掃除が行き届いている当たり、持ち主の几帳面さが伺えるというものだ。
「飯は食えそうか」
どうだろうかと考えたが、考えている間に片倉は縁側に置いていたらしい盆を手に戻ってきた。そこにあるのは粥のようだ。
片倉の手を借りて起き上がり、自分で一匙ずつ口にゆっくりと口に入れる。その様子をただじっと片倉が見つめているのは、居心地が悪い。
「毒が入っているとは、考えねぇのか」
「入っているのですか」
「いや、入れてねぇ」
「そうですか」
静かな会話で中断した後、そのまま食べ進める。片倉はずっと眉間に皺を寄せている。
「アンタの言う護国の舞姫を調べた。確かに何百年か前までは朝廷にそういう者がいたらしいが、源平の頃に平家に連れ去られて以降の消息は不明だ。……アンタは平家の落人の里の者なのか?」
そんなことを言われても、知らないとしか答えられない。知っているものはもう一人も生きていなのだから。
「里のことは、詳しいことは私も知りません。ただ、里には女しかおらず、常に強いものが舞手を継いでいました。でも、私が小さな頃に大半が流行病で亡くなってしまって、今はもう私一人しかいません」
だから、調べても噂以上のことは何も出てこない。私の素性は調べようがないのだ。
「片倉殿、私は主も持ちませんし、天下の行方に興味もありません。ただ民が穏やかに笑って暮らせることだけが願いなのです」
それが姉様の願いだったから、私も願いも一緒に継いだ。そういって穏やかな心地で微笑むと、片倉は眉間に皺を増やしたようだ。
「……アンタの姉上は」
「不治の病にかかり、私に舞手を譲って三年前に身罷りました」
「では、身寄りはないと」
私が頷くと片倉は思案顔になった。私は三年前のことを考える。姉様が死んだ日のことは、何度も何度も夢に見る。
「こんな話、信じなくていいんです。そして、どうか私を放り出してください。私は今まで通りに、ひっそりと闇を払って生きていたいのです」
私が本当の気持を告げると、しばらくの間辺りは静まり返っていた。
静けさを破ったのは、隣室の襖を開け放す小気味よい音だった。その向こうには、伊達が苛立った顔で立っていて、まっすぐに私に向かってきて、私の肩を抑える。手の中の粥の入った椀が震え、少しだけ零れた。
「駄目だ」
「伊達殿……」
反論を許さない、強い眼差しが眩しい。でも、私だって、それに負けるような簡単な決意じゃない。ひと眠りしたことで、揺らぐ気持ちも落ち着いたから、大丈夫だ。
「それが葉桜のdecideだというのはいい。だが、いつまでも一人であんなMonsterを相手にしていられるわけねぇだろ」
強い瞳の奥に覗いているのは心配で、会って間もない私にそんな瞳を向ける伊達が、私には不思議でならない。
「そういう事が起こらないための舞なんです。魂鎮めに失敗した場合しか具現化することはないし、倒せない相手は具現化しないことになってます。払える闇は私の器を超えて集まることはありませんから」
私は敢えて固い言葉で伝える。しっかりと自分で線引きすれば、言葉も自然と余所余所しく……いや、丁寧に話すこともできるのだ。それに気づいている伊達はますます不機嫌になる。
話し方を敢えてそのままにしていたのは不興を買って、追い出されるための策でもあるはずだった。だが、伊達には通じない。伊達に対して私がいくら不遜な物言いをしていても、片倉も何故か注意をせず、私を探るだけに留まっている。多少の不信はあっても、私が伊達を害する気がないことを察しているのだろう。
私がまっすぐに見つめれば見つめるほど、伊達は表情を硬くしてゆく様子が見て取れた。私の何を気に入ったのかはしらないが、どうせならこのまま嫌ってくれれば楽なのに。
そう思う反面、心の何処かで私は引き止めてもらえることを期待しているのかもしれない。でなければ、何も言わずにいたほうがいいのだから。
私は自分で自分がどうしたいのかわからなくて、結局伊達に判断を委ねたのだろうか。ーー自分のことなのに、それさえも私にはわからなかった。
8#私はMonster
私と伊達が睨み合っている間に、誰かがやってきて片倉が席を外した。それに気づいていたが、私は自分のためにも伊達のためにもここで説得するしかない。伊達のようなものは私のように素性の知れないものを側に置くべきではないのだから。
「Nonsenseだろ。あの程度で失敗するようなら、今までだって同じことがあったんじゃねぇのか」
伊達が言うことはもっともだ。そして、何度も同じ場面があった。だが、伊達のような反応をするようなものは一人もいなかった。
それを思い出した私は、伊達から視線をそらし、うつむいてしまう。
「同じことがあったとして、伊達殿にはなんの関係もないでしょう。私のような化け物のことなど、捨て置けばいいのです」
同じ場面で、人は私を「化け物」と言った。あれを呼び寄せているのは私だと恐れ戦き、逃げてゆく。それは事実なのだから、しかたがないことだ。だから、必要なとき以外は人里に入ることは極力避け、山中で過ごしてきたのだ。
「葉桜はSpecialなんだ。Monsterじゃない」
擁護してくれる伊達は優しいのだ。優しいから、いつのまにか私は甘えていたのかもしれない。
姉様と近しい香が私を包みこみ、温もりが優しく私を覆い隠す。
「そんな風にcryするな」
顎を掴まれ、上に向けられると、歪んだ伊達の顔が私を覗き込んでいる。そこで私はやっと自分が泣いていることに気がついた。
「誰がなんといおうと、葉桜はMonsterじゃねぇ。そんなことを気にして出て行くというなら、認めねぇぞ」
反論しようとする私の目元に、伊達がそっと口付ける。涙を啄み、慰めようとしている。もがいて逃げようとしてもさせてくれない。
「あ……」
「Shhh、
それが唇に触れる寸前、片倉の咳払いが差し止めた。
「政宗様、失礼いたします」
「Shit!邪魔すんじゃねぇ、小十郎」
伊達は舌打ちしているが、流されてしまいそうだった私は顔を赤くし、安堵した。
伊達は私を子供と思っていたのではないのだろうか。何故こんな真似をするのか、考えるだけで混乱してしまう。
「成島八幡宮宮司片倉景重が葉桜への面会を求めております」
「……宮司として、か?」
「はい、宮司としてです。葉桜の身元についてもそこで述べることがあると」
伊達と片倉は共に顔を見合わせ、それから私を見た。知り合いじゃない、と私は首を振って示す。
「わかった、通せ」
片倉が退出し、程なく誰かを伴ってきた。伊達はその間私を腕から離すことはなく、宮司を目の前にしてからやっと開放してくれた。それでも、布団のすぐ側に堂々と座っているのだが。
宮司は私たちを前にするなり、深く低頭する。伊達が話すことを許可すると、宮司は低頭したまま述べた。
「その前にそこな愚息より、葉桜様が鎮魂の舞をなさると伺いましたが、真でございましょうか」
「ああ」
伊達が私が答えるよりも早く、肯定する。
「そうであれば、貴方様は間違いなく
やけにきっぱりと言われて、私は目を瞬かせる。
宮司が言うには、神社関係者には長く「
「数年前まではこの日ノ本の各社を定期的に回っておられましたので、私もよく存じあげております」
聞いたことがないのは私が物心着く頃に、里のもののほとんどが亡くなってしまっていたからだ。
「八重、こちらに来なさい」
宮司が声をかけると、小さな声と共に十六、七ぐらいの巫女装束の女性が現れた。髪は私が仕事をするときと同じく、一括りにしている。清廉な美少女といった様相だが、彼女は緊張した面持ちで膝を付き、頭をさげる。それは、伊達にではなく私に向けられていたようだった。
「は、初めまして、八重と申します」
「この者が数日前より貴方様の神気を探り当てており、かねてよりお探していたしておりました」
八重という女性は明らかに身体を震わせていて、今にも泣きそうだ。
「お、恐れながら、葉桜様は穢れを受けておられる御様子です。そのままではあと幾日も持ちませぬ」
ああ、とようやく私も合点が行った。あの時、化け物に殴られたのだから、そのまま穢れが残っているのは道理だ。
「ど、どうか、私にその穢れを、う、移してください、ませ」
ぎょっと私が目を剥くと、八重は可哀想なほど震えていて。だからこんなにも震えていたのかと、私にもわかった。
姉様から一つだけよく言われているのは、私が集める穢れが通常よりも強いものだということだ。それに、あの時の化け物を産み出してしまうほどの穢れとすれば、相当な物。そんなものを常人が収めることなどできないし、最悪の場合狂ってしまう可能性も高い。
「……それは誰の指示ですか」
「い、いいえ! どなたでもございません! 私が自ら志願したのでございます」
伊達が止めるのも構わず、私は立って、八重の側に膝を付いた。少し躊躇ったが、彼女の肩に触れる。
「どういう事情でも、八重殿にそのようなことをさせるわけには行きません。あなたの穢れも私にいただき、浄化するといたしましょう」
八重が顔をあげる前に触れた箇所から彼女の穢れを拾い上げる。八重自身のものというよりも、誰かの穢れを彼女も持っていたようだ。
「な、なりません、葉桜様!」
拾い上げた穢れはあっという間に私の手の中へと吸い込まれてしまい。一瞬倒れそうになるのを堪える。どうやら、許容量を超えかけているらしい。だからこそ、熱も出ていたのだろう。今は昼の光で収まっているのだろうか。穢れは、完全に消えるわけではなくとも、昼の光には弱いようだから。
「あ、あぁ……」
泣きそうな八重の頭を軽く叩いて、笑いかけ、私は彼女を通り抜けて、庭へと降り立った。その直ぐ後を伊達が追いかけてきて、肩を掴んで振り返らせる。
「Wait!葉桜、何考えてやがる」
苛立ちと心配が綯交ぜとなった伊達の瞳が私を見つめる。この人は何故私なんかのためにそこまで心を動かすのだろう。
「……手を」
「Ah?」
「手を離しなさい、奥州の龍」
私が真っ直ぐに睨みつけると、伊達は驚いた様子で目を見開いた。肩に置かれた手にも力が入って、痛い。
9#ここにいろ
伊達を屋内へと下がらせ、私は八重に舞扇をとってもらい、彼らから離れた場所で構える。両眼を閉じて、ひとつ深呼吸し、意識を世界へと馴染ませる。
世界を取り巻く空気が、変わる。
「……ま、間違い、ありません」
ごくりと喉を鳴らした八重が呟くのが聞こえて、私は思わず笑っていた。
(間違いなく、私は「化け物」なんだろうな)
どうしたって人に溶け込めない。かといって、妖かしにもなれない。どこへもいけない、中途半端な存在。
手を翻し、ゆるりと動かしてゆく。自分の身の内に溜まる穢れを少しずつ扇に乗せ、力を加えて洗い流してゆく。手足に心を込めて動かせば、それらはやがて柔らかな光を放って世界へとまた溶けてゆくのだ。
(このまま、この身が世界に溶けてしまえば楽なのに)
全ての穢れが消えてから、私はゆっくりと舞を収めた。その場に両手を下げて立ちすくんだまま、蒼天を見上げる。視界の端では人間たちが何かもめているようにもみえるが、関係の無いことだ。
こんな風に誰かといるのも、もう終りにしなければいけない。
騒いでいる彼らの横をすり抜けるのは、楽だった。まだ私の存在の半分は世界に溶けたままだから、誰にも気づかれることなく着替えを済ませ、少ない荷物を背負う。
「Wait、どこへ行くつもりだ」
気づかれていないはずだったのに、伊達にまた腕を掴まれていた。私は伊達を見て、作り笑いを浮かべる。
「見ての通り、穢れも払い終わったし、次の場所へ旅立つだけです」
「怪我はまだ治ってねぇだろ」
「問題ありません」
私を見る伊達の顔はひどく怒っているようだ。ここへ来て、まだ二日か三日程度しか経っていないというのに、こんなにも私を気にかけて。馬鹿な人だ。
私の腕にある伊達の手をそっと撫でて、私は笑う。
「短い間だったけど、こんなに楽しい時を過ごせたのは姉様たちを失って以来でした。ーーありがとう」
本心の言葉は、自分でも驚くほどすんなりと出てきた。そうだ、私は楽しかったのだと、今更ながらに気がつく。伊達との語らいが楽しかったから、こんなにも胸が苦しくなるほど心に迎え入れてしまっていたのだと。
伊達は強く私を引き寄せ、腕の中へと収めてしまう。
「No……」
「伊達殿、お離しください」
「No!!」
苦しいほどの抱擁に、私は抗おうとは思わなかった。ずっと抗えなかったのは、姉様の香のせいだと思っていたけれど。
「……伊達殿、どうか……」
一瞬離れたかと思うと、膝裏と背中に腕を添えて、抱え上げられてしまった。私を閉じ込めるつもりなのだとしたら、無駄なことだ。
「No、だ。そんな泣きそうな目で笑うんじゃねぇ」
泣きそうなのは、いつのまにか伊達の方だ。怒っているけれど、今にも泣き出しそうな顔をしている。
伊達の顔に手を伸ばしかけ、途中で握り込む。私が……これ以上、触れていい人じゃない。
「俺を頼れ、利用しろ」
真っ直ぐに私を見る伊達が何を考えているのか、わからない。
「アンタは、葉桜はMonsterなんかじゃねぇ。国を護るDancerなんだろ? だったら、それを誇れ。逃げるんじゃねぇ」
私が、逃げていると。伊達ははっきりと言う。そうかもしれないけれど、そうしなければいけないのだというのがどうしてわからないのだろう。
「俺が、誰にも葉桜をMonsterとは言わせねぇ。だから、」
伊達の左目の奥が不安に揺れた。
「ここにいろ」
どくりと、心臓が大きく脈打つ。長い間凍りついていた時間が動く予感がする。あの時から、ずっと止めていた時間が、とくん、とくんと動き出す。
化け物と、言われて悲しかった。この国の民のためにしていることなのに、誰にも理解されない。それどころか、私自身が害悪なのだと、憎まれ、嫌われ、罵られ。それでも、姉様が愛した国だから、守ろうと決めて。でも、一人が、ずっと、怖くて。
涙で伊達の顔が良く見えない。
「……私、ここに、いて、いいの?」
「Yes」
「何も出来ないし、迷惑をかけるよ? それでもいいの?」
「
目元に暖かさが触れ、涙を舐めとってゆく。
「俺の隣でSmileしてやがれ」
唇にそっと触れた温もりは優しくて。涙は止まらなくて。
「一人は、もうやだよ。一人にしないで……」
伊達の首に両腕を回し、その胸に顔を押し付けると、姉様の香が強く薫る。でも、やっぱり姉様とは違う。
「
強く、強く抱きしめ返してくれた伊達の腕の中は、このまま死んでしまいたいと願うほど心地良かった。
1#乱入者は六爪流
勢いで公開
(2011/07/09)
勢いで公開を後悔して、人物描写とか位置とかセリフとかいろいろ修正しました。
(2011/07/16)
2#米沢城に連れ込まれ
公開。
(2011/07/10)
直すつもりが袋小路に入ってしまいそうだ。
(2011/07/16)
3#眠れぬ夜の甘い誘い
政宗の口調がどうも某ビタミンの翼様になってしまっている……!
(2011/07/11)
いろいろと修正。
(2011/07/16)
4#口調と呼び名と自覚
んんん?ヒロインの自覚はもっと遅くするつもりが、流れでこうなった。
というか、自覚させられた?……逃げてるけど。
(2011/07/12)
修正。
(2011/07/16)
5#二人で並んで正座して
公開。
(2011/07/13)
口調とかそのへん修正。
あと、手は出されてません。ていうのをちゃんと書いてみた。
(2011/07/16)
6#無理をするから
公開
(2011/07/14)
髪の長さとか、口調とか、こまかく修正。
(2011/07/16)
7#譲れぬ決意
公開
(2011/07/15)
部屋の中を書いたけど、どこの部屋かまで質問の隙が見当たらない……
(2011/07/16)
8#私はMonster
9#ここにいろ
これで終にしてもいいかな。
(2011/07/17)