BSR>> あなたが笑っていられる世界のために(本編)>> 17#-19#

書名:BSR
章名:あなたが笑っていられる世界のために(本編)

話名:17#-19#


作:ひまうさ
公開日(更新日):2011.8.10 (2012.2.29)
状態:公開
ページ数:3 頁
文字数:8605 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 6 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)
17#伝わらない I LOVE YOU
18#伝えられない気持ち
19#慶次との再会

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p.1

17#伝わらない I LOVE YOU



 夢現に彷徨わせた手が大きくて強い力で握られる。ここにいる、と強く主張しているのは誰だろうか。

「なんで、俺じゃねぇ」
 苦しそうな声は伊達政宗のものだ。まだ怪我が痛むのだろうか。私はその手を握り返し、ゆっくりと目を開く。そこには今まで見たこともない、いつもの強気からは想像もつかない弱々しい目が私を見ていた。

「……政宗様、またどこか傷を負っておられますか?」
 問いかけたが、首を横に振って、顔を背けられた。

 松永久秀を倒してから、私たちは元の建家に戻り、それぞれに与えられた部屋で休んでいた。当然ながら、伊達政宗と片倉も別な部屋で休んでいたはずだ。だが、この部屋に伊達政宗がいるということは術が失敗して、また怪我が戻ってしまったかと思ったが、まだ私の身体に移した傷はズキズキと鈍い痛みを訴えている。それなら、私が眠っている間に別な事件でも起きて、伊達政宗がまた傷を負ってしまったのかと思ったのだ。

「政宗様?」
 私が身体を起こすと、伊達政宗は私の背中に手を当てて、助けてくれる。

「無理すんな」
「心配いりません。舞姫は傷の治りも早いんです」
 顔を合わせて微笑むと、伊達政宗は少しの間私を見つめ。

「Sorry」
 それから、何故か私を抱き寄せて、謝罪した。何を謝られているのか、私にはさっぱりわからない。

「謝られる理由がありません」
 だけど、息が詰まる程強く抱きしめられて、私はそれ以上の言葉を継げなかった。

「なんで葉桜は俺を助ける? 侍が嫌いだから手を貸さねえって、力を使わねえって言ったのはアンタだろ」
 確かに私はそう言ったし、そのつもりだった。だが、奥州には、伊達政宗や片倉には恩がある。

「葉桜を引き留めたのは俺の勝手だった。それはアンタだってわかってたはずだろう。なのに、なんで俺を助けた。小十郎が俺を助けろと頼んだからか?」
 ここで何故片倉の名前が出てくるのだろう。腕を緩めた伊達政宗が左手で私の顎を持ち上げる。伊達政宗の息が私の鼻先にかかる。

「なんで、この俺じゃなく、小十郎だ?」
 苦しそうな顔で言われる言葉の意味が、わからない。

「片倉様には恩があります。それだけです」
「違うだろ。アンタは小十郎が……むぐっ」
 両手が勝手に動いて、伊達政宗の口を塞ぐ。その先は言わせてはいけない言葉のはずだ。

「何を仰られているのか、わかりません。私はただ貴方がたに恩を返すために舞ったに過ぎません」
 自分でも白々しい言葉だと思うのだから、聞いている伊達政宗は尚更だろう。恩を返すため、それから私怨のために手を貸した。……前者はともかく、後者は褒められたものじゃない。私は彼らを利用したのだから。

 自分が化け物というだけじゃない。だからこそ、私はそれに気づいてはいけないのだ。

「政宗様、私は……もう奥州には帰……戻れません」
 伊達政宗が私を拘束する手を避け、私は静かに笑う。奥州で片倉からの書状を受け取ったときに、私はもうこうなることを覚悟していた。

「これまでのご温情に感謝いたします。今後の政宗様の御健康を遠くから祈っています」
 伊達政宗は悔しげに奥歯を噛みしめると、急に私の肩を押した。背中に軽い衝撃があって、仰向けに倒れこんだ私の頭の両側に手を付くから、なんだかまるで私が伊達政宗に襲われているように見える。

「I love you」
 でも、そんな風な置いて行かれる子供みたいな目で襲う人がどこにいるだろう。

「政宗様?」
「I need you」
「南蛮語では何を言われているのかわかりませんよ」
 伊達政宗は私に覆いかぶさったまま、私を抱きしめる。

「……I miss you」
 切なくて、甘やかで、でもわからない言葉ばかりで。ただ泣きたくなるほどの切なさが私に届く。

 いつからか伊達政宗から向けられる瞳が変化していたことには気づいていた。珍しい玩具のようだったのに、いつのまにか希う人の目で私を見ていた。

 でも、私にはそれに応えることができない。化け物が恋などできるわけもない。

「いつきをよろしくお願いします。あの子は無茶をするから」
 私はそっと手を伸ばし、伊達政宗の髪に触れる。ゆっくりとなでると、私より何倍も大きな身体がびくりと跳ね上がった。それから何かを堪えるようにした後で、ごろりと私の隣に寝転がる。一人用の布団に眠っているから、彼の身体の半分は布団から転がり落ちてしまっているのではないだろうか。

「小十郎、いるんだろ」
 伊達政宗が声をかけると、部屋の戸が開いて、誰かが部屋に入ってきた気配がある。伊達政宗は立ち上がり、入れ替わるように戸口へと向かった。そこで立ち止まる。

「葉桜を説得しろ」
「……政宗様」
「わかったな」
 自分にできないからって、片倉に丸投げするのはいかがなものだろうか。それに、それが私に聞こえていては台無しではないだろうか。

 私が小さな笑い声をあげると、伊達政宗は舌打ちして離れていった。少しの間後ろ姿を見送ってから、片倉が私の布団の傍らに来る。

「政宗様が我侭を言って、すまない」
「片倉様が謝ることではないでしょう」
「いや、俺が……」
 片倉が言葉を切ったのは、私が起き上がったせいだろうか。完全に上体を起こした私をしばらく見てから、片倉は姿勢を正し、深々と頭を下げた。

「か、片倉様」
 戸惑う私に片倉は言葉を紡ぐ。

「葉桜には感謝してもしきれねぇ。政宗様への助力、本当に感謝している」
 そんな風に頭を下げられるような人間じゃないのに、と知らず私の顔には笑みが浮かんでいた。

 化け物と罵られることはあっても、こんな風に礼を言われたことなどない。伊達政宗も片倉も変な人だ。普段は兵を率いる武将だというのに、こんな風に私を扱うから。だから、私はどうしたらいいのかわからなくなる。

 私は布団を出て、片倉の前に膝を進める。

「やめてください、片倉様。私はただ……」
 顔を上げた片倉と目が合ってしまった私は、それ以上言葉を継げなかった。最初に会ったときと同じ真摯な眼差し、その奥に陰っているのは誰に対する想いだろう。

「ただ、なんだ」
 問い返され、ビクリと自分の身体が震えるのがわかった。別に脅されているような声音じゃない。子供に諭す時のような、そんな声。ただ、なんだと言おうとしたのか、もう頭の中が真っ白になってしまって、わからない。

「葉桜?」
 私の顔を覗き込む片倉は、さきほどの伊達政宗よりもよっぽど遠い位置にいる。それなのに、この違いはなんだというのだろう。

「ちょっといいか?」
 片倉の手が私の額に触れたら、私の緊張は限界で。もう完全に動けなくなってしまった。

p.2

18#伝えられない気持ち



 里を出るまで、私は男というものには数えるほどしか会ったことがなかった。それも里に出入りする行商人だけだ。

 里を出てからは、先代の舞姫と暮らしていた最後の月日、私は彼女が伴侶と選んだ者と三人で暮らしていた。彼の気持ちは完全に姉様に向いていて、私も兄として慕っていただけだ。里の外のことをその兄に教わっていたおかげで、一人になってもそれなりにやってこれたわけだ。

 自慢ではないが、一人になってから言い寄られたことも何度かあるし、男に対して免疫だってあるほうだ。舞姫と知られただけで、寝室に連れ込まれ、押し倒されたことだってある。危ないときは何度かあったが、それでも運良く助かってきた。

「少し熱がある、か」
 それなのに、なんでこの人のこんな行動一つで私は動揺してしまっているのか。この人には疚しい心ひとつないというのに。

「葉桜の力はなんの代償もなく無限に使えるわけじゃねぇんだな」
 目の前で、苦い笑いを浮かべるらしくない片倉の顔から目が離せない。

「それなのに、無理ばかりさせてすまねぇ」
 どうして片倉が謝るのだろうか。私が私の意思でしたことであって、片倉に謝罪されるようなことはないのに。むしろ謝るのは私の方なのに。

「政宗様は葉桜を引き留めろといったが、俺はもう十分すぎるほどアンタに助けられちまった。だから、これ以上願うことはできねぇ」
 寂しそうな目で、でも微笑んでいってくれる片倉。最初は強面で、堅物で、なんて思ってて、今はそう考えてしまったことが申し訳ない気分だ。

「今度奥州に来ることがあったら、遠慮無く俺を頼ってこい」
 さよならを言ったのは自分なのに、その別れの言葉がぐさりと胸に突き刺さる。

「達者でな、葉桜」
「あ……」
 あまりにもあっさりと引き下がられてしまっては私のほうが戸惑ってしまう。立ち上がりかける片倉の服の袖を思わず握ってしまったのは、きっとそのせいだ。

「葉桜?」
「あ、あの……いや、ええと、その」
 私がなにか言おうとしているのを片倉は辛抱強く待ってくれている。それなのに、何か言わなくてはいけないと思うのに、私は自分が何を言おうとしたのかもわからない。

 引き止めて欲しいとか、そういうことじゃない。そのはずだ。だって、奥州はとても楽しく過ごせて、だから私みたいな化け物がいちゃいけないって思ったのも事実なのだ。だから、そう。

「私、本当に行ってもいいんですか? だって、片倉様は政宗様の命に逆らってしまうのに、それなのに私の勝手で頼ったりなんてしていいんですか? 迷惑じゃないですか?」
 問いかけているのに、自分で否定を返して欲しいと望んでいるのがわかる。そんな卑怯な自分なのに、それなのに、本当に頼ったりしてもいいのだろうか。やっぱり、こんな外見も内面も幼い私は迷惑だと言われるだろうか。

 不安な気持ちで片倉を見ていると、急に私の頭に大きな手が乗せられ、優しく撫でられた。片倉のそれは、侍なのに、土の匂いのする優しい手だ。

「迷惑なはずないだろう。むしろ、もう少し甘えたほうがいい。葉桜はまだ子供なんだから」
 片倉の言葉に、私の心が、身体が震えた。「子供」だから、という言葉に少なからず落胆したことは間違いない。片倉にとって私が子供だというのは間違いないのに、何故自分はこうも落ち込んでいるのだろう。

「……子供じゃ、ありません」
 気がつくと、私はそれを口にしていた。

「私たちーー舞姫は力が強いほど、成長が遅くなるんです。ほとんどのものは舞姫を継いだ時に。私はーー里を失った十二の頃から六年間ずっと、この姿のままです」
 この人に言っても仕方ないのに、どうして私はこんな話をしているんだろう。もし私が年齢通りの外見だったとしても、片倉にとっては子供と変わらない。どうしたって、私じゃ吊り合わない。

 片倉は困った様子で私を見ている。困らせたいわけじゃないけれど、自分でどうしたいのかわからない。俯く私から片倉の手が離れてゆく。……こんなことを言ったところで、自分が化け物だと証明するだけなのに、本当に自分がどうしたいのかわからない。

「……もしも……」
 紡ぎかけた言葉を口を引き結んで閉ざす。これ以上、私は片倉に何を言おうというのか。

 強く手を握りこみ、私は目を伏せた。

「政宗様は私自身がきちんと話して説得しますから、安心してください。片倉様の手を煩わせたりはいたしません、から」
 座ったまま、少し離れて頭を床に付ける。

「今まで、ありがとうございました」
 最後にと目を開けて片倉を見つめると、困惑した顔で私を見ている。これで良かったんだと私は片倉にふわりと笑ってから、三つ指をついて、ゆっくりと頭をさげた。額が床に着くと、ひんやりとした冷たさを感じる。

「葉桜」
 片倉様は何度か私を呼んだけれど、顔は上げられない。私は泣きたくなんてないのに、涙が溢れそうで、目を開けられない。目の前にいる片倉が立ち上がる気配があり、それが静かに離れていった。

 部屋で一人になってから、再び布団に横になる。一晩で力は回復している気がするのに、ひどく疲れていて、眠い。涙が、目元から零れ落ちる涙が熱い。

 片倉を困らせるつもりなんてなかった。でも、どこかで引き止めて欲しいと思ってしまった。奥州は寒いけど、人の心が暖かくて、居心地が良くて、本当に私を望んでくれるなら、願うことが許されるのなら、戻りたいって。

「馬鹿だなぁ、私」
 私みたいな化け物が、自分の幸せなんて願っていいはずないのに。片倉も伊達政宗もいつきも、奥州の者は自然に接してくれるから、つい忘れてしまいそうになる。

「……馬鹿だなぁ」
 もう一度つぶやいた言葉は、誰もいない室内に寂しく響いて消えた。

 どれくらいそうして、寝転んでいただろう。私はのろのろと起き上がり、武田側の用意したものではなく、自分の手荷物から奥州で用意された藍染の着物と袴を身につけた。それから、舞扇を差して、名を呼ぶ。

「佐助、いる?」
 気配を探ったわけじゃない。ただ、あの無遠慮な忍はいる気がしただけだ。でも、声に応える者はない。いないならいないでも構わない。

「誰か忍んでいるなら、信玄様に伝えてください。舞姫は南に行きます、と」
 それから、手荷物を肩にかけ、部屋を出る。

「本当に、行っちまうのか?」
 背中に寂しげな伊達政宗の声がかかり、私は振り返った。そこには着流しのままの青年が立っているはずなのに、私にはひどく小さな少年がいるように見える。なんでこの人はこんなにも私を気にかけてくれるのだろうか。

「行くな」
 縋る言葉なんて、この人には似つかわしくない。

「……強く、あってください。想いを強く、心を強く。後ろなんて振り返らずに、走り続けてください。もしも政宗様が天下を統一なされたならば、その時にまたお会いしましょう」
 悔しげに歯噛みする伊達政宗は言う。

「アンタ、小十郎が好きなんだろ。だったら、奥州にいりゃあいいじゃねえか」
 本音を言えば、奥州に帰りたい。今すぐにでも撤回して、あの居心地のいい場所に帰りたい。でも、帰っちゃいけない。

 困った末に微笑んでみせると、伊達政宗は私に向かって腕を伸ばしたが、結局は手前で止めて、触れることはなかった。

「俺の誘いを断ったこと、後悔させてやるよ」
 鼻で笑って、足音荒く立ち去る伊達政宗の姿が見えなくなってから、私は彼とは反対の方向に歩き出した。後悔なら、奥州を離れる時からすでにしている。

 もう二度と、大切な人間なんて作るもんかって思っていたのに。きっと私はどこかで道を間違えたのだ。出会ってはならない人に出会ってしまった。だからこんなにも。

「葉桜」
 目の前に現れた覚えのある人を前に目を見開き、それから私は久しぶりに顔を歪めた。

「慶次……」
 私の倍はある長身の体躯が近づき、私を包み込む。派手な衣装はすぐに見えなくなり、私は素直にその胸に顔を埋めた。

「久しぶりだな、葉桜」
「っ」
 ごく普通の挨拶だったのに、あっという間に涙が溢れて、止まらなくて。嗚咽を殺す私を男はただそっと抱きしめてくれていた。

p.3

19#慶次との再会



 どのくらいの時間が経っただろう。男にーー前田慶次に抱えられて移動した部屋で、私が泣き腫らした目でぼんやりしていると、目元に冷たい手ぬぐいがあてられた。

「あり、がと」
 目元を抑えたまま礼を言うと、彼からは少し寂しそうな声で問われる。

「葉桜は出会っちまったのかい? アンタのミヤに」
 慶次とはひとりになる少し前から、およそ四年前からの付き合いだ。彼は私の素性のすべてを知るわけではないが、ひとりになってからの私を兄のような優しさで私を立たせて、前に進ませてくれた。その過程の中で、こぼした愚痴の中にミヤの話もあったから知っているのだ。

 ミヤは舞姫にとっての弱さだ、とそれを知る前の私は思っていた。でも、今なら少しだけわかるかもしれない。舞姫の重責を何を知らずとも癒し、包みこんでくれる存在。ーーそんなもの、いらないと思っていたのに。

「わから、ない」
「じゃあなんでそんな顔で泣いてんだい?」
 どれだけ聞かれても、私は答えられなくて、ただ俯いたまま首を振るしかなかった。

「……奥州にいたんだって?」
 私がびくりと身体を震わせ、顔を上げると、慶次が優しい顔で私を覗き込んでいた。どうして、なんて聞くつもりはない。

「俺は会ったことないけど、いい男らしいじゃないか。奥州の竜とその右目は」
 会ったんだろう、と聞かれて、引き結んだ口の端が下がる。そんな風に面白そうに言わないでほしい。伊達政宗も、片倉も、そんな風に奇異の目で見られることなんて望まない。

「優しい、人達だったよ。寒いけど、心の暖かい国だった。……留まってもいいかと、少しだけ考えたこともあった」
 慶次の大きな手が私の頭に置かれ、軽く叩いてからくしゃくしゃと撫でられる。暖かくて、優しい慶次のこの手に、何度も救われたはずなのに、それで私が思い出したのは片倉の事だった。

「……慶次、なんで私が舞姫なのかな。なんで、私だけが舞姫なのかな。どうして、姉様たちは私を救けたのかな……」
 他にも力の強い人はいたのに、選ばれたのは私だった。先代の姉様が舞姫であったことだって、せいぜい私が独り立ちできるまでの間のつなぎでしかなかった。

 舞姫でなければ、あの手をとっても良かっただろうか。でも、舞姫でなければ、きっと彼らとは出会えなかった。

「どうしよう、慶次。私、もう舞姫を続けられない」
 できるはずもない願いを口にする。自分しかいないからと心を決めていたはずなのに、それなのに私は。

「舞えないよ」
 泣いてしまいそうな私に、慶次はただ柔らかく笑いかけてくれた。

「……じゃあ、やめちまえばいいよ。葉桜が一人で背負うことないんだ。アンタの姉さん達だって、きっと許してくれるさ」



 アンタが恋をすることを。



 慶次はいつだって、私のほしい答えをくれる。でも、それは責任がない部外者だから言える言葉だということを私は忘れちゃいけない。

「ありがとう……」
 甘えたいけど、甘えちゃいけない。これは私が決めるべきことなんだ。私は一度目を閉じ、強く意識を切り替える。そうしてから、慶次を見ると、彼は寂しそうに笑っていた。

 慶次は優しい。最初から、私を本当の妹みたいに扱ってくれて、守ろうしてくれる。それは、力のことを知ってからも何も変わらなかった。という点では伊達政宗や片倉たちとも変わらないのに、どうしてこうも気持ちが違うのだろう。慶次になら、私は素直に甘えて泣けるのに、片倉にはどうしてもそれができない。伊達政宗にはしようと思わない。

「慶次、怪我してる?」
「大したことないよ」
 そんなこといいんだと笑ってくれる慶次は、決して私の力を頼ったりしない。でも、変わらずにいてくれることだけが私を癒してくれている気がする。

 片倉も伊達政宗も、それに伊達軍のみんなも変わらなかったな、と思い出して、少しだけ私は笑った。

「じゃあ、一差だけ」
 ふわりと舞えば、呼吸するように世界を纏ってしまうのは、もうずっと前からだ。だから、私は意識して、世界に抗う舞を踊る。それほどの時間は掛かっていないのに、舞終われば身体中がぐっしょりと汗をかいている。

「葉桜」
 差し出されたぬるい茶を一気に飲み干し、私はやっと息をつく。

「俺もいろんな場所でいろんな奴にあったけど、葉桜ほどの舞は見られなかったなー」
「お世辞でも嬉しいよ、慶次」
「世辞じゃないってっ」
 はははと笑う私の両肩を掴んで、慶次が揺らす。その必死さがさらに笑いを誘うが、それにしても揺らしすぎだ。

「慶次、やめ、やめろってっ!」
 笑い止まない慶次を殴り倒すと、ようやくその笑いがおさまる。でも、慶次は起き上がることなく、大の字に寝転がったまま天井を見つめていた。

「……よかったじゃねぇか、葉桜」
「なにが」
 答えないままの慶次の顔を覗き込んで、私は少しだけ後悔した。慶次はなんだかすごく遠い目をしていて。

 本当は、慶次がさっきの話の続きをしていると私は気づいていた。慶次は恋と親友を同時に無くした人だから、寄る辺を無くした私が恋を見つけることを喜んでいるのだと思う。

 寝転がったままの慶次の顔を、私はべしりと強く叩く。

「この話はもうオシマイ。それよりさ、慶次はなんでここにいるの?」
「ん? なんとなく葉桜がいるような気がして」
 冗談で誤魔化そうとしている慶次の頬を、私は摘まんで引っ張る。

「はいはい、じゃあ逢えてよかったとでも言ってあげよう」
 なんかもごもご言っている慶次の頬を摘んだままで、私は思案する。

「このまま行こうかと思ったけど、気が変わった。信玄様と話をするから、慶次もちょっと来てよ」
 私が手を離すと、わざとらしく頬をさすった慶次がにかりと笑う。

「葉桜にしては殊勝だな」
 迷った末に、私は慶次に背を向けた。

「……侍はやっぱり嫌いだけど、先々代様のミヤなら、信用したい」
 里を襲ったのが誰なのかわかって、それで仇も討ったけれど、三年の旅の間の経験からもやはり私には侍を信用しきれない。慶次は少し違うと知っているから、こうして信用できるけど、後は奥州以外の侍はまだ……怖い。

 迷っている私の肩を後ろから慶次が優しく包みこむ。

「うん、そうだな」
 行こうかと背中を押して、私を前に進ませてくれる慶次に釣られて、私も歩き出す。いつも、そう。慶次は私の背中を押してくれる。

「……ありがとう、慶次」
「はははっ、どういたしまして」
 その笑顔につられて、私もまたやんわりとした笑顔をこぼした。

あとがき

17#伝わらない I LOVE YOU


うーん、どうやっても小十郎落ちから修正できない……
幸村とか佐助に行くには、やっぱり最初からあっち側にいないとだめかな?
(2011/08/09)


公開
(2011/08/10)


改訂
(2012/02/22)


18#伝えられない気持ち


飄々とした主人公で書いてみたい。
あと、某サイトの夢に影響されて、元親で書きたくなってきました。
……とりあえず、逆ハーをやるなら奥州で始めたらだめというのがよくわかりました。
そろそろこの話も終にしてしまおう、うん。
(2011/08/19)


公開
(2011/08/20)


あれ、書きなおしたら、なんかいけそうな気がしてきた。
(2012/02/24)


19#慶次との再会


お久しぶりです。
最近やっとBASARAやりました。
PSPですけど。
でも、きっと偽物具合は変わらないと思います(え
(2011/08/30)


公開
(2011/08/31)


全面書き直しました。二つぐらい、余分に話も追加。
片倉落ちになってしまいそうだったけど、書きなおしてみたらそうでもない感じ。
6.5#竜の恋?と8#竜と旅の話、9#伊達軍にご挨拶、辺りがかなり違います。
そんなこんなで、次は武田名物でも入れたいです(え
(2012/02/29)