BSR>> あなたが笑っていられる世界のために(本編)>> 06.5#竜の恋?

書名:BSR
章名:あなたが笑っていられる世界のために(本編)

話名:06.5#竜の恋?


作:ひまうさ
公開日(更新日):2012.2.19
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:3137 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)
政宗視点
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p.1

 なんでそんなふうに自分を化け物なんて言う。俺よりよっぽど人間らしいじゃねぇか、と葉桜が出て行った後の室内で、一人胸中で呟く。

「あれが、護国の舞姫ねぇ。ただの可愛い女の子にしか見えないけど」
 成実の言葉に、小十郎が頷く。

「その名は知らんが、彼女の舞で力を得た者がいたことも、その舞で俺達が癒されたことも事実だ」
 俺達は一揆の報を聞いて、戦場から直ぐ様制圧に向かった。それなのに、誰ひとりとして掠り傷はおろか疲れさえも残っていない。戦に出る前と変わらないどころか、それ以上に体力も気力も充実しているほどだ。

 これらを葉桜は極軽い様子でやってのけた。それだけでも、護国の舞姫と聞かずとも、その力の強大さはわかるというものだ。

「それで、これから彼女をどう扱われるおつもりですか」
 網元の言葉に小十郎も俺に困惑の眼を向ける。

「政宗様は戦場に葉桜を出さないとおっしゃっておられる」
「でも、一瞬で大勢を癒す力なんて、それだけでも戦力だよ。使わない手はないと思う……けど……」
 ぎろりと成実を睨みつけると、口を噤む。

「さっきも言ったように、葉桜を戦に利用するつもりはねぇ」
「ではなんのつもりで城に招いたのですか」
「そんなもん、決まってんだろ。面白そうだったからだ」
 俺の答えに三人で溜息をつく。失礼な奴らだが、それを許すのはこの三人だけだ。ああ、いや、もう一人いたな。

「政宗様」
「なんだ、網元」
「葉桜様を側にお引き入れください」
 そうしたいが、無理強いはさせたくないのが正直なところだ。

 初めて葉桜の舞を見たときに、俺は心奪われた。あんなに美しい舞は見たことがない。その上、心身ともに癒されるなんて、最高じゃねぇかと思った。

 だが、葉桜は侍を憎んでいる。俺達に対するそれは薄れてくれたようだが、だからといって、囲い込めば否応にも憎まれるのは避けられないだろう。あいつの、あんな憎しみに満ちた目を向けられるのは、心に堪える。

 化け物、と葉桜は自分を言う。それを言う気持ちがわかるだけに、他の奴のように無理はできない。無理に側におこうとすれば、きっと葉桜は内にこもり、俺を見ることさえしなくなると想像できる。

「葉桜の様子を見に行く。小十郎、葉桜の飯を用意してこい」
「はっ」
 誤魔化すように場を後にした俺は、まっすぐに葉桜の部屋へ向かった。だが、用意した部屋に葉桜はいなくて、出て行っちまったかと軽く落胆したところで、二つの気配が近づいてきた。

「付きましたよ、葉桜様」
「だから、様はやめてくださいって言ってるじゃないですか」
「政宗様のお客様なんですから、そこは譲れません。で、本当に着替えちゃうんですか?」
 どうやら、葉桜と彼女につけた侍女ーーという名のくノ一ーーらしい。俺の時とは違い、ずいぶんと砕けた様子につい近くの部屋へ身を隠していた。

「こんなお綺麗な着物じゃ寛げないです」
「あー、まー、そうかもしれませんねー」
「でしょう?」
 そうかもじゃねぇだろ。俺は人選を間違えたんじゃないのかと、思わず黒脛巾組組頭を思い浮かべた。

「でも、下手な格好をさせるわけにもいかないですし」
「いやいや、私はもとの着物で十分なんだけど」
「そんなことしたら、私がお叱りを受けますから。……あ、これとかどうですか」
「……藍染め……」
「うちの特産品なんですよー。ほら、葉桜様にもよくお似合いです。……殿と並んだら、きっともっと似合いますよ」
 見えなくとも、葉桜が渋面しているのがわかって、俺は思わず顔を綻ばせていた。

「並ばないし、似合うわけないです。梓さん、もうそれでいいですから」
「はいはーい、じゃあ美津さんが来る前にちゃちゃっと着替えちゃいましょー」
 それから衣擦れの音がして、少し待つと侍女が部屋を出てきた。その足は俺のいる部屋の前まで来る。

「葉桜様は休まれるそうです」
 そのまま俺の返答は聞かずに侍女は去っていった。入れ替わりに、小十郎がやってくる。

「……政宗様、何をなさっておいでですか」
 そっと部屋を開けた小十郎が呆れた声と共に俺を見る。手の上の盆には握り飯が並んでいるようだ。

「葉桜は」
「部屋にいる。早く持って行ってやれ」
「………」
「俺じゃ、警戒しちまうだろ。……葉桜を閉じ込めるために、連れてきたんじゃねぇんだ」
「………」
「行け」
 小十郎は複雑そうな顔をしていたが、一礼して、葉桜の部屋へと入っていった。

 問答する葉桜はひどく不機嫌そうだったが、ほどなく出てきた小十郎は何故か苦笑していた。

「なに笑ってるんだ、小十郎」
「どなたかの昔を見ているようでして、つい」
 睨みつけると、小十郎はすぐに表情を改めた。

 部屋に戻った俺の前に、黒脛巾組組頭が現れる。それは護国の舞姫に関しての報告をするためだ。

 護国の舞姫というのは通称で、本来は(かんなぎ)の役目の一つなのだという。古くは天皇家の厄を身に受け浄化してきたが、源平の頃に平家によって隠され、以降は各地の神社を巡り、この国の浄化という役目を担ってきた一族なのだそうだ。

 葉桜のいたというその里は御神楽(みかぐら)の里と呼ばれ、ひっそりと暮らしていたようだ。だが、およそ六年ほど前に何者かによる襲撃を受け、里は壊滅。そのまま一族は死に絶えてしまったと思われていた。

「葉桜様はおそらく最後の舞姫となりましょう」
 この国にただ一人、負を受け、浄化する力を持つ(かんなぎ)なのだと、組頭は言った。

「引き続き、里を襲撃したものをしらべろ」
 組頭は短く返答すると、すぐにその姿を消した。

 それから、俺はしばらく外を眺めていた。だが、浮かぶのは葉桜の姿ばかりで。

「小十郎、お前に葉桜はどう見える」
「……侍を憎んではいるようですが、自分の手でどうしようという気はないでしょう」
「そうじゃねぇ」
 なんといったらいいか、と俺は思案する。自分でも何故それを考えたか理由がわからないからだ。

「俺には、舞っているときのあいつはとても十二の小娘には見えなかった。それに、俺達と渡り合う腕に、度胸。どれをとっても、ただの小娘じゃねぇだろ」
「それは葉桜が言ったように、これまで狙われてきた経緯のせいでは」
「……あいつが旅をしていたのは三年。十にも満たない子供(がき)が一人で生き延びれるほど、乱世は容易いか」
 だからといって、誰かに寄り添うようには見えない。従えているわけでもない。それでも、一人で三年も旅をしてきたのだというのなら、他に何かある気がする。

「私達が見ていない、(かんなぎ)としての本来の力、」
「わかんねぇ」
 うつむいて頭をかく。考えても答えが出るわけもない。だが、もし(かんなぎ)の力が葉桜に化け物と言わせるほどのものなら、決して俺達には見せないだろう。

「使わせますか」
「駄目だ、あいつは聡い。こちらの思惑を知れば、きっと姿を消すだろう」
 そうなれば、二度と会えないかもしれない。いつかはそうなるにしても、今はまだここにいてほしいと望む自分がいる。

 葉桜が、どこかに留まる性分には見えない。それは、(かんなぎ)の力のせいもあるだろうが。

「……もし、そうなら」
 頭を過ぎった仮定に俺は拳を握った。

「政宗様?」
「なんでもねぇ」
 俺はまた窓の外を見た。葉桜はきっと眠っているだろうが、まだこの城にいる。

 何故ここまで葉桜に肩入れしたくなるのか、俺にはよくわからない。だが、その憂いを無くした葉桜の本来の笑顔が見たいと、漠然と思った。もし、もしも(かんなぎ)の力が葉桜を苛んでいるのだとしたら、自らを化け物と言わしめているのだとしたら。自分にも何かできるのではないだろうか。

「……がらじゃねぇな」
 小十郎がいなくなった後の部屋で、俺は小さく呟いた。

あとがき

え、誰これ(ォィ
(2012/02/19)