屈託のない笑顔で武田信玄と言葉を交わす葉桜の姿に軽い嫉妬を覚えた。俺が引き出してやるはずだった笑顔を、いとも簡単に出させる武田信玄を睨みつけるが、まるで柳に風だ。
だが、食事の礼にと披露された葉桜の舞を見ているうちに心が落ち着いてきた。
舞っているときは、よりはっきりと見える十八ぐらいの娘の舞姿に、言葉もなく見守る。武田の赤を纏うのだけが気に食わねぇが、他はPerfectだ。やはり葉桜の舞は戦場でみるより、こんな風に宴の席で見るほうがよほど相応しい。
空を撫でるようにしなやかに腕が動き、指の先から髪の一筋までも神経を行き渡らせている葉桜の周囲は、凛とした清浄な空気に包まれる。一種の霊場のようなものかもしれない。
いつまででもみていたくなる舞を見ていると、穏やかな気持になってくる。
「小十郎」
「……」
「小十郎?」
「……っ、はっ」
珍しく呆けていた小十郎を小さく笑う余裕も出てくる。
そんな時だった、唐突に、なんの前触れもなく葉桜の姿が崩れ落ちた。まるで、糸が切られたかのように膝をつき、荒い息を繰り返している。
「葉桜っ?」
「し、しん、げん、さ、ま、おはやく、南東の、関に……」
葉桜を抱き上げると、小さな体はひどく震えていて、真っ青な顔で怯えて縋り付いてくる。
こんなに怯えるほどの、なにがあったのか。尋ねるのも憚られるほど怯えていて、俺の着物に顔を寄せて、幼子のように首を振る。
「……葉桜」
「あんなの、あんなの、無理、嫌だ、嫌だよ……っ」
初めて聞く葉桜の弱音は、普段の様子からは想像もつかない弱々しいもので、逃げたいと全身で拒絶していた。
怖いものなんてないと思っていたのに、思わぬ弱さに愛しさが募る。
正直、安堵した。自分で自分のことをMonsterだという葉桜は、心までヒトを捨てていないか、心配していた。But、ここにいるのはただの怖がりな女だ。
「大丈夫だ、葉桜」
強く抱きしめ、何度も背中を撫でていると、不意にその体が震えを止めた。そして、涙に濡れた大きな瞳が、恐る恐る俺を見上げてくる。
いつもなら、そこで無表情に戻るのだが、何故か今は首から上が赤く色づく。
「葉桜?」
俺が名を呼ぶと、慌てて飛び起き、部屋の外へと走りだしてしまう。
「あ、わ、私、行ってきますっ!」
「What!?」
引きとめようと伸ばした手は空を切り、その姿はあっという間に庭をかけてゆく。舞手の姿が動きにくいとか、そういう普通のことは普通でない葉桜を追いかける。
いくら早いとはいえ、普段とは違う舞姿は多少動きにくいのだろう。俺は塀を乗り越える前の葉桜を捕まえることに成功した。
「落ち着け、葉桜」
「っ!は、離してっ!」
野生の猫のようにひどく暴れる葉桜を正面から抱きしめて、力任せに押さえつける。葉桜の抵抗なんて、俺にとっては大して苦にもならない。
耳元で落ち着けと何度も促していると、やっと暴れるのをやめてくれた。
「……もう暴れないので、離してください」
弱々しく、泣きそうな震えた葉桜の声は、普段の万倍も愛らしい。
「No」
「ま、政宗様っ」
抱き上げて、葉桜を見上げると、その顔は見たこともないほど赤く色づき、戸惑いに揺れている。この反応を俺はよく知っている。
「一つだけ、聞かせてくれ」
「……なに」
「You like me, isn't it?」
「何言ってんのか、わかんないっ」
恥ずかしさを隠すために、俺の首に縋り付いてくる葉桜が愛しくて、力任せに抱きしめる。
諦めなきゃなんねぇって、考えてた。葉桜はまったくそういう風に俺を見ることがなかったし、その視線が小十郎を追いかけていたこともわかっていたからだ。だが、小十郎と葉桜じゃ歳も違いすぎるし、どうなるのかわからなかった。だから、出直してこようと思ってたんだ。
それが、こんなにも早く気持ちを向けてくれるとは思わなかった。嬉しい誤算てのは、まさにこういうことを言うのだろう。
地面に下ろした葉桜と額を付きあわせて、囁く。
「アンタを諦めようと思ってた。だが、少しでも気持ちが向いてきたなら、その必要はねぇよな?」
赤くなった顔のままの葉桜は、それでも頷くことはない。
「諦めてよ」
「No、アンタが諦めるんだな」
「……だって、ミヤになったら……」
次に出てきた言葉を聞いて、俺は戸惑う。
ーーミヤになったら、一緒にいられなくなるって、どういう意味だ。
終わらせたい気持ちが如実に現れてますー。
キャラとかもう適当になってて、ホント、誰だこれ(汗
色々と破綻しているので、さっさと魔王倒して、終わらせちゃいたいと思いますー。
(2012/06/06)