BSR>> あなたが笑っていられる世界のために(本編)>> 25.6#艶姿

書名:BSR
章名:あなたが笑っていられる世界のために(本編)

話名:25.6#艶姿


作:ひまうさ
公開日(更新日):2012.6.8
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:1364 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 1 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)
小十郎視点
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p.1

 冗談みたいな本気で打ち込まれた小さな舞扇を受け止めた時、思いがけない硬さと強さに圧倒された。思えば、あの最初に剣を交わした時に全てが始まったのだと思う。覚悟と意志を背負った強い瞳を見た時には、きっともう囚われていたのだ。

 戦場以外で初めて見る葉桜の舞は浮世離れしていて、思い出すのは出会った時のこと。葉桜は政宗様ではなく、真っ直ぐに俺に向かって打ち込んできた。ーー不思議と、敵とは思えなかった。それは剣の型というにはあまりに流麗すぎる、剣の舞でも見ているような心地になる。だが、少しも気を抜くことを許されないのに、一切の殺意を持たない矛盾。

 守りたいと願いながらも、その先の死を見据えている気がした。

「葉桜をどう見る」
 政宗様に問われたあの時、正直戸惑った。十にも満たないとは誰の話だ、と。

 それが葉桜のことだと気がついた時、かなり戸惑った。俺には最初から政宗様と同じか少し下の年頃の娘にしか見えていなかったからだ。

 あの時には既に政宗様の御心に葉桜がいた。だから、自分が葉桜に慕われているなど、思いもよらなかった。

 甲斐で想いをぶつけられて、初めて自分が葉桜に慕われていたのだと知った。それでも、自分との歳の差を考えれば、やはりそういう相手には望めない。何よりも政宗様の慕う相手にそのような感情など浮かぶはずがなかった。

「小十郎」
 それが、どうだろう。目の前で舞う娘は本当にあの葉桜だろうか。さっきまで見ていた姿よりも一回り成長した艶やかさに、言葉も無い。凛とした佇まいに、流れる目線は蒼天のごとく澄んでいる。舞のことなど知る由もないが、これがかなりの舞手と知れる。

「小十郎?」
 政宗様に呼びかけられていたことにも気が付かぬほど、見とれてしまっていた。

 あれは、なんだ。真の姿とは、あれのことだろうか。二つの姿など、ありえるはずもない。見るたびに成長した姿を見せるなど、そんな人間はいない。では、あれは鬼か妖か。ーーそんなはずがない。あれはただの淋しがりやな娘だ。亡くした家族を求めているだけの、ただの娘だ。

 間違いなく、あれは人だ。政宗様や俺が雷を使うのと同じ婆娑羅者の能力のひとつなのだろう。

 舞終えた後の葉桜はなにか恐ろしいものでもみたかのようにひどく怯え、髪を、肩を、体全体を震わせて、気遣う政宗様の着物に顔を擦りつけて、小さな子供のようにむずがっている。だが、それも少しの間で、自分のしたことに気がついてすぐに部屋を飛び出していった。追いかけてゆく政宗様を見ながら、俺はただ惑う。

「竜の右目、おぬしも見えておるな?」
 政宗様が葉桜を連れ戻すまでの間にかけられた信玄公の言葉に、俺は無言のまま目を閉じた。

「葉桜は、あれはただの娘だ」
 どんな能力があろうが、最初に交わした剣で全てがわかった。あれほどに真っ直ぐな剣を使うものが鬼や妖であるはずがない。あれほどに澄んだ心の持ち主が、人でないはずが、ない。

 政宗様の腕に抱かれて戻ってきた葉桜を見た時、少しだけ心が騒いだ。自分を見ていたのと同じ目で政宗様を見るほどに、葉桜はゆっくりと惹かれている。それはきっと喜ばしいことであるのだろう。

(これでいい)
 俺には恋だの愛だのと囁いている余裕はない。政宗様が天下をとられるその日まで、その背中をお守りすると誓っているのだから。



あとがき

思う所ありまして、これまで明確にして来なかった小十郎さんからの見え方を書いてみました。
なんで、このタイミング!?
てか、政宗視点の前回の話を書いたら、不自然にしか見えない箇所があったので補完ともいうかもしれない(かもじゃない。


作者的にはずっと小十郎さんはずっとぶれることなく葉桜を見てます。
でも、この話を書いてたら、自覚と同時に終わってしまった気がします(笑
今後小十郎さんオチになるかどうかは不明です。
え、だって、前回の政宗が予定外だもの。
まさかここにきて葉桜のベクトルがあっちに向くのかが、自分でもわかりません。


この先はちょっと出てきてないんですけど、なるべく早めで上げたい気分です。
……仕事が忙しくならない限り(おい
(2012/06/08)