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書名:GS
章名:読切・他

話名:GS@姫条まどか/葉月珪 - 一緒に帰 ろう!?


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.3.12
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:3084 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:東雲/春霞/ハルカ
1)
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p.1

 ほどよく雲の出た外風景。視線を落とすと、早めにHRの終ったクラスの生徒がもう校舎に背を向けてる。

(ずるいなぁ)
 と、思っても仕方のないことを考えて、ひとり苦笑した。うちの担任はHRの時間の話の長さがバラバラという定評がある。いくら今日のHRがいつもよりも長めだとは言っても、どうしようもない。

 教室中がもう帰りたい空気になっているのを察していないのか、話し続ける教師も問題ありやけど。

 見上げた時計が目的の時間を指すまであと、8秒。

 7秒。

 6秒。

 5秒。

(…て、数えても終るわけやないし)
 もう一度窓の外をみる。せめて後ろ姿だけでも見つけられれば、ここから(2階だけど)飛び降りてでも行く気はある。

 最近、意識している女がいる。それはいつもの遊びではなく、もっと違う、自分にはありえないと思っていた「本気」を引き出してくれそうな女だ。

 名前は東雲春霞。細めのピンクブラウンの髪に大きな目の、しかしどこか天然の入っていそうな女だ。ーーまだ少女、て感じか。

 ともかく、現在目と意識だけはその少女を探している。

 終らないうちのクラスのHR。

 時間きっかりに終ってまう彼女のクラスのHR。

 今日ほど、担任を恨んだことはない。

 今日ほど、彼女の級友を恨んだことはない。

 今日ほど、違うクラスである事を恨んだことはない。

(あぁ終ってしもた…)
 無常に時を刻み続ける時計を睨みつけても、止まるわけでなし。止まっても困るし。

 いよいよ座っているのもイヤになり、教室を抜け出そうかとソワソワしていると、藤井と目が合う。

(…勘付かれた?)
「(春霞んとこ行きたいの?)」
「(せや)」
「(もうちょいだから、待っとき)」
「(早よせんと、春霞帰ってまうわ)」
「(もうちょっとだから)」
「(悪い、もう抜けるわ)」
 そんな会話をアイコンタクトで繰り広げていると、一斉に他の生徒が立ち上がる。やっと終ったらしい。

「ほな!」
 級友たちへの挨拶もそぞろに、昇降口を目指す。どうして教室へ行かないかって、どうせもう教室には残ってないやろと思たから。

 一斉に同じ方向、昇降口へ向かう生徒を避けながら、走る。体育の時間でもこんなに真剣になったことない。だが、急に思い出したことがあるんや。それは、あの葉月が春霞と同じクラスだということ。誰に対しても無感情無関心な男が、春霞に関してだけは、その相好を崩すという。原因はすべて春霞の無条件に純粋な笑顔のせいだとわかっているのだけれど、春霞への気持ちを自覚しかけている俺としては気が気でない。

 そこかしこで交わされる別れの挨拶(どうせ明日も会うけど)はすべて雑音で、目と耳と勘でその存在を探す。勘って云っても別にそう大層なもんでもないが。

(いた…)
「春霞!」
 思わず大声で叫ぶと、何人かが振り返ったが、今はそれを気にしているときではない。彼女に気がついてもらえるかが、今は一番や。

「まどか」
 走ってゆくと、俺に向かってへらりと軽い微笑みを浮かべる。ふわり、ではなく、へらり。俺以外にはなかなか見せない、ある意味、俺専用の笑顔である。

「今日もかわええなぁ」
「そぉ? いつもどおりだよ?」
 手を伸ばして、振れようとした手元からその姿が消える。間に不自然に紺のブレザーが目に入る。

「珪?」
「なんや?」
 葉月はただ、無言で睨みつけてくる。目は口ほどにものを言うというのは、きっとこういうことをいうのだろう。

(春霞に何の用だ)
 強暴なシェパード犬、よりももっと獰猛そうだ。人それを番犬という。

(そこ、どき。春霞はあんたのもんやないで)
 威嚇してくるなら来い。眼つけられたぐらいで引いちゃ、男がすたる。

 睨み合う2人を避けるように、流れる生徒の群は、少しが面白そうに、少しが心配そうに眺めている。人垣に気が付いていないわけでもないが、2人とも今、それどころではない。

 オロオロと俺と葉月を交互に見やる春霞が、細い腕にはめたさらに細い腕時計を見る。シルバーのバンドに文字板は淡いピンクだ。先月買ったばかりという、彼女愛用の品である。

「珪、今日の撮影は!?」
「休む」
「え、だめだよ~っ」
「一緒、帰ろう」
 そのまま肩を抱こうとする腕からするりと引いて、手元へ引き寄せる。少しミニマムサイズの春霞は優雅に俺の目の前に来る。ここは、まぁ、昔の慣れや。決して好きではなかったけど、身についたエスコート術が初めて役に立った気がする。

「春霞、今から帰んの?」
「あ、うん。まどかも、今帰りなの?」
 葉月、ひとりだけ、イイ思いなんてさせへんで。春霞はおまえなんかにもったいない。

「帰りっちゅうか…楽しい下校デートの始まり、やろ?」
 軽く片目を閉じてやると、大体の女は落ちてきた。だから、自分でもその動作がどれだけの影響を与えるかなんて知ってる。知っていて、やった。普通なら、頬を淡く染めて、小さく頷いてくれるもんだが。

 頬をわずかに染めてはいるが、それはいつも通りで、しかし困り顔で。そんな姿もカワイイと思ってしまう自分が、どうしようもない男のようだ。実際、春霞とどちらが一緒に帰るかということで揉めているのだから、しょうもないと言いやしょうもない。



 が。



「2人とも、ごめんなさい!」
 と、目を瞑って、顔の上の方で彼女は両手を併せてみせてきた。

「弟が風邪で熱出しててね、買物とかいろいろあって! だから…」
 本人は俺と葉月の様子を覗っているだけだが、申し訳なさだけでわずかに瞳が潤み、しかも上目遣い。これは、かなりカワイイ。

 彼女の弟というのは、けっこういろんな場所で見かける少年だ。いわゆる可愛い系で、春霞の男版な外見ながら中身はかなりしたたか。だが、そこは小学生であり、彼女の大切な弟である。

 葉月の方を見ると、同じ考えのようだ。

「ーーしかたないな」
「ーーせやな。一時休戦や」
 今にも泣きそうな顔に手を伸ばし、頬を引っ張る。かなり柔らかくて、滑る白い肌。これで抱きしめたくなる衝動を抑えているとは、春霞も葉月も気づくまい。

「買物、つきおうたるわ」
「え?いいよ、別に」
「両親、出かけてるって言ってただろ」
「でもーー」
「荷物持ちは必要やろ」
「悪いよーー」
 引き続ける春霞の頭を今度は葉月がくしゃくしゃと撫でる。容赦なくする姿に、わずかに怒りを覚える。

(いやいや、今は休戦中や)
「こういうときは、素直に頼る方が可愛いで?」
 屈んで顔を覗きこむと、ようやく春霞は頷いてくれた。けっこう頑固な少女なんや、こいつは。

「でも、ひとりでいいよ。珪は撮影に行って?」
 ふっとわずかにその不機嫌さが伝わって来て、心の中だけで笑った。

「春霞」
「それに、風邪うつっちゃマズイでしょ?」
 モデルさんなんだから、と上品に微笑む。こちらは葉月だけに見せるふわりとした笑顔だ。本人は無意識使い分けているのかといぶかしむ。だが、春霞はそんな視線に気がつくこともなく、俺に向き直った。

「そーゆうことで、まどか。…本当にいいの?」
「ええって」
「ありがとう」
 行きますかっと先に急ぐ春霞を、慌てて追いかける。その視界の端に捉えた残念そうな葉月に、意地悪く笑顔を返してやった。

「(今日は俺の勝ちやで)」
 しかも、買物の手伝いもして、好感度アップ間違いなし!

「まどか、どうかした?」
「なんでもないわ」
 不思議そうな春霞の後ろ頭に手を掛けて、まっすぐ前を向かせる。

 その目に誰も映らんように、今は俺だけを考えてくれるように。

 いつかはーーずっと、こうして隣に居続けてくれ。

 そして、俺専用の笑顔で笑っててぇな。

あとがき

Jさんのリクエストで『葉月vs姫条』+『主人公の気がつかないと
ころで取り合っている』。 超鈍感主人公ですが、これでも王子もまどかもときめき近い状態ってことで。 てーこんなことやっ
たら、王子に絶対爆弾つきますよねぇ~。 完成:2003/03/12