BSR>> あなたが笑っていられる世界のために(本編以外)>> 弐 - 2.2#耐える夜

書名:BSR
章名:あなたが笑っていられる世界のために(本編以外)

話名:弐 - 2.2#耐える夜


作:ひまうさ
公開日(更新日):2012.6.29 (2012.11.5)
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:2015 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)
小十郎視点
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p.1

 葉桜の寝息が聞こえてきてから、俺は隣で眠る幼さの残る女の顔をじっと見つめた。そこには、昨日とはまた違った疲れの色が見える。

 初めて会った時から約三年が経過してもほとんど変わらない葉桜は、今も十八、九ぐらいの娘の姿だ。健康的に日焼けた肌は少し陰りがあり、ぷっくりと膨らむ瑞々しい口は、起きている時でさえも自己を否定するようなことばかりを口にし、他者のことばかりを気遣っている。少し長めの睫毛の下には意志の強い瞳が隠れていて、起きているときは誰であっても真っ直ぐにヒトを見つめる。

 全体的には中性的で、それでもよく見れば体つきはまろ味を帯びているのがわかる。軽く頭を撫でれば、朱に染まった顔のわずかに緩んだ口元がふにゃりと微笑む。あの長い眠りの間は表情さえもまったく変化がなかっただけに、その様は俺を安堵させる。

 葉桜との体の繋がりがほしくないのかといえば、そんなことはない。だが、あの話をーー子を孕めば出ていかなくてはならないと葉桜が考えている以上は、簡単に俺が抱いたりなどできるわけもない。

 よく遊び歩いている成実に尋ねれば、なんでそんなことをと驚かれたが、結果は惨敗。そんな方法はないといわれた。贔屓の女にでも聞いてみるとはいったが、そういう方法は殆どないのが現状らしい。そもそもどうして男と女でそうすれば子ができるか、よくわからないということだ。

 本当ならば、すぐにでも触れ合いたいほど魅力的な彼女の隣で一夜を過ごすのは、俺もキツい。だが、目を離せばどこかへ逃げてしまいそうな葉桜の雰囲気は、三年経っても、想いが通じあっても健在だ。少しも目を離せないからと、俺は無理矢理な理由をつけて、彼女を自宅へ連れ帰ってしまった。政宗様たちは笑っておられたが、二度も目の前から逃げられたことを思えば、用心は必要だろう。おそらく、今でも葉桜は逃げたがっている。それも役目を言い訳に、自分の心からさえも、だ。

 葉桜自身は消えることはないと言っていたが、俺には簡単に信じられるはずもない。現に、何も言わずに俺が彼女を抱いて子ができていたら、まちがいなく葉桜は何も言わずに行方をくらませてしまっていただろう。これは俺の推測だが、たぶん葉桜自身がそれと気づかず、一つところに留まれない性分のせいだ。

 俺は葉桜から視線を外し、天井を見上げる。隣からはすっかりと無防備な女の寝息が聞こえてくる。俺が襲うとは考えもしないからだろう。眠れとは言ったものの、こうも容易く眠ってしまうと、男として信頼されているのが嬉しくもある反面で、少々複雑でもある。

 先ほどの合わせた葉桜の唇は柔らかくて、癖になりそうなほどに甘かった。起きてから、城で隠れるように何度か重ねているが、葉桜は何度してもなれないらしい。そのフルフルと震えているさまは仔兎で、それでも逃げずに必死についてこようとするのがいじらしい。

 先へ進むことも、俺は考えないではなかった。きっとその肌は唇よりも柔らかで、掌に収まる小ぶりの胸はよく手に馴染むことだろう。己の手で赤く色付く葉桜の様子は、きっとこの上なく扇情的だ。足の付根に手を添えるだけでもその身は震えて、それでも恐れながらもきっと俺には体を開いてーー。

 まずいな、収まらなくなってきた。

 俺は葉桜を起こさないように身を起こし、静かに移動して土間へと降りた。龜から水をすくって、軽く顔を洗う。水の冷たさが、少しの冷静を取り戻させてくれる。

「……どこ……?」
 稚い声が聞こえたかと思うと、背に何かがあたった。何か、というのが何かはわかっている。葉桜だ。

「悪い、起こしちまったか」
 自分に抱きついてくる細い腕を掴むと、その柔らかさにどきりとするが、俺はなんとか平静を保つ。

 背後にいる葉桜からは、なんの返事もない。

「葉桜?」
 俺が振り返ろうとすると、ずるりとその体が傾いだ。慌てて抱きとめると、そこには完全に眠っている女がいる。どうやら、寝ぼけただけのようだ。

「っ」
 なんとなく周囲を見回してから、その背中と膝裏に腕を入れて、抱き上げる。眼の前にある安心しきった葉桜の顔は、舌打ちしたくなるほどに無防備だ。

 起こさないようにそっと運んで、再び布団に眠らせる。そうしてから離れようとしたが、俺の襟元をしっかりと握り締められていることに気が付いた。ーー俺を試しているのか、と問いたくなるが、相手は寝ぼけているだけだろう。ゆっくりと指を一本一本開かせようとすると、艶のある声でムズがる。なんて、たちの悪い、寝相だ。

「……しょうがねぇな」
 それでも、隣に自分がいないことに寂しさを覚えて、寝ぼけながらも追ってきてくれたのだと思えば、愛しさは募るばかりだ。

 近く暇でももらって、葉桜と二人で武田に赴くか、と俺は葉桜の頭を撫でながら、密かに決意するのだった。

「……気持ちーぃ……もっと……」
 撫でて、と言う艶のあるこの声に、いつまでも抗える気はしないからな。

あとがき

勢い余って、小十郎さん視点。
むっつりですね!(自重しましょう
(2012/06/26)


ちょっと短い上に、かーなーりーオリジナル入ってますが、片倉様視点。
この後の朝なんて書かなければ、続けるつもりはなかったんです。
(2012/06/29)


ありえない間違いを直しました。
「ない」と「ある」は大違いですね。
ついでに、前半部分を改訂。
(2012/11/05)