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書名:Routes -3- adularia
章名:本編

話名:Routes -3- adularia - 30#-39#


作:ひまうさ
公開日(更新日):2013.1.25 (2013.4.27)
状態:公開
ページ数:10 頁
文字数:40538 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 26 枚
30#よくある目覚め:あらすじ21-3
31#よくある関係:あらすじ22-1
32#よくある食事:あらすじ23-1
33#よくある身の上話:あらすじ23-1
二一、よくある陰謀
二二、よくある食事前
34#よくある国境:あらすじ23-2
35#よくある宣言:あらすじ26-1
36#よくいる隊長:あらすじ27-1
37#よくある治療:あらすじ28-1
38#よくある刻印:あらすじ28-1
39#よくある後悔:
二三、よくある会議
二六、よくある宣言
二六、よくある宣言(改)
二七、よくいる隊長
二八、よくある刻印

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p.1

30#よくある目覚め



 暖かな闇に抱かれて、私は心地よい眠りの中にあった。それが、私の古い名前で私を揺り起こす声に導かれて、ゆっくりと目を開ける。徐々に体に戻る感覚は陽射しの温かさを感じ取り、開いた瞳の向こうには抜けるような青空が映る。こんな空を見たのは村を出て以来かもしれない。

 ひゅうと風が吹き、私は身体をぶるりと震わせた。

「……寒っ」
 体感温度を感じられるということは、無事に体に戻れたということなのだろうか。試しに自分の目の前に手を持ってくると、見慣れた手相が目に映る。

 一瞬の間の後で、即座に私の上から大きな布が覆いかぶさってきた。かと思うと、外側から強く抱きしめられて、かなり苦しい。しかし、闇の中では何がおきているのか分からない。

「誰なの?ディ?オーサー?」
 それでも敵意がないこと、知っている気配であること、それから私を布越しに包む体が自分以上に震えていることから、私は柔らかく問いかけた。

「ねえ、何がどうなったの? 私、聞きたいこといっぱいあるんだけど」
 何度問いかけても私を抱く腕は緩まず、がっちりと捕らえられたままだ。寒いのはどうにかなったが、今度は腹がすいてきた。どうしたらいいだろうと私が途方に暮れかけた時、唐突に私は布ごと開放された。急な光を受け取った瞳を反射的に閉じ、私が次に開くと目の前には薬屋のあの女性がいて、足元ではディが蹲り、背中を擦っている。

 私が座っている台は、表面を平らに切り取った巨石だ。どのぐらい大きいかというと、私が横になっても余りあるぐらいの横幅があり、座っている私の足が地面につかなくて、立っている薬屋の女性の腰ぐらいまである高さだというぐらいだ。蹲っているディの身体は、私が少しだけ身を乗り出さないと全体が見えない。その大きな石の上に葦で編んだ敷物を敷いて、私の身体は寝かされていたようだ。私の頭があった位置のすぐ上には、黒い燃えカスと微かな煙が立ち昇っている。

「具合はどうかな、お嬢さん?」
「あ、はい。スッキリしてます、けど」
 私がぼんやりとしつつも反射的に返すと、最初に薬屋の彼女と出会ったときとまったく変わらない応答をしてしまった。薬屋の女性もそれに気づいたらしく、私たちは二人同時に吹き出してしまう。

「ということだよ、皆さん。人を当てにするなら信用して欲しいもんだよな、まったく」
 半身を返して薬屋の女性が振り返ると、草を踏む足音と共にフィッシャーとオーブドゥ卿が苦笑しつつ近づいてくる。その頃にはディも回復し、私の前に立ち、大きな手で私の頭を撫でてきた。

「信用してるから、ハーキマーに賭けたんだろうが。本当になんともねぇな、アディ?」
 私は両手を二、三度開閉し、首を左右に動かし、腕を回して、どこにも痛みや違和感がないことを確認してから頷く。

「むしろ調子いいくらいだよ。今ならここからイネスまで走り抜けられそう」
「馬鹿言うな」
 ここがもしも薬屋の家であるなら、イネスまでは馬を使っても半日かかる距離だ。流石に言いすぎだと自分でもわかっているだけに、私は苦笑いする。だけど、私がそうでも言わなければ安心してくれなそうな顔をしていると、彼らは自分で気づいたらいいと思う。

 極自然に石から降りようとした私だったが、その前に軽々とディに抱え上げられてしまった。

「わ」
「中に入って話そうぜ。ここじゃアディが冷えちまう」
「へー、優しいんだー?」
 薬屋のからかう声にディは返答をすることはなく、顔を顰めたままに歩いていって小屋の戸を開ける。とたんに中から薄荷系の香りが溢れ、私は吐き気を感じて、口を抑えた。このまま進めば、吐いてしまいそうなのは明白だが、止める以前に早くも限界を感じてしまい、私はディの腕の中で身動きがとれない。

「こらこら、話なら外でも問題無い。これから日も暖かくなるばかりだからな」
 それを止めてくれたのは、追いついてきた薬屋の彼女だった。どう云う状況か見る余裕はないけれど、ディの身体の震えで、なんとなく止まったことはわかる。わかるけれど、そこから彼が動くこともないので、吐き気は変わらないままだ。

「ああ、折角だから、今日は外で食事にしよう。お嬢さん、好き嫌いはないな?」
 ディの体の向きが代わり、外の空気が目の前に広がった私は、自然なそれを思いっきり貪る。吐き気は徐々に収まり、なんとか顔をあげる余裕もできた。

 だから、下ろしてもらおうとディを見上げた私は、少しして首を傾げることになった。だって、ディがひどく動揺した顔で私を見つめていたから。

「……ディ?」
 私が名を呼ぶと、巨体をかすかに震わせ、ディは私を地面へとそっとおろした。

「……悪ィ、頭冷やしてくるわ」
「ついでに魚も取ってきなさい」
「へいへい」
 私の視線を避けるようにするディを止める言葉を探している間に、さっさとディはいなくなってしまった。彼の歩いていった方向をじっと見つめる私の肩に、軽く薬屋の手がかけられる。

「おい、そこのー……、賢者と連れ! テーブルセットの準備は任せたよっ」
 相手からの返答も聞かず、そのまま彼女は私の肩を押し、移動を始める。どこへ連れて行くのかと思いきや、小屋の反対側だ。そこは小さな畑になっていて、整然と並んだ畝に等間隔に苗が並んでいることや、余分な雑草がほとんどないことから、手入れを小まめにされているのがわかる。

「ちょっと待ってな」
 そう言い置くと薬屋は畑に入り、程なくいくつかの葉を取って戻ってきた。彼女はそれらを両手で束ね、捏ねる。葉は乾燥気味だったらしく、パリパリとした音を立てて崩れ、彼女が手を開いたときには乾燥海苔を細かくしたもののようになっていた。

「口を開けなさい」
 言われるままに私が口を開くと、あごを掴んで上向かされ、パラパラとしたそれを食べさせられる。味はない。

「な、何?」
 戸惑いながら私が問いかけると、薬屋は穏やかな目で小さく笑った。

「お嬢さんの精神は悪い賢者の魔法で無理やりに引き剥がされたから、特別な薬草とある特殊な技術がなければ二度と目を覚まさない所だったんだよ。で、その特別な薬草には強い副作用があるから、今のはそのための薬だ」
 庶民にはアフターケア万全で良心的な薬屋で名前が通っているんだ、と微笑まれたものの、私には困惑することばかりだ。

 悪い賢者ってのはおそらくフィッシャーで、彼の使った精神を引き剥がす魔法というのは、古の魔法使いの呪文を解読したものだろう。目覚めさせる魔法までは解読が済んでいなかったから、薬屋の怪しい薬に頼った、というところだろうか。

 そもそもフィッシャーたちは、彼女を嫌っているのではなかっただろうか。それなのに、彼女の手を借りるとか、意味がわからない。

 混乱しつつ、私は薬屋の彼女に問いかけた。

「特別な、薬草?」
「――処方を少しでも間違えれば廃人になる高価な薬さ」
 それに対し、薬屋の彼女はとても怪しい瞳で私に囁き、笑ったのだった。

p.2

31#よくある関係



 裏庭で私が説明を求めると、薬屋のハーキマーさんは食事しながら説明するといって、再び私を家の前まで連れて行った。背中を押されてしまったので、私にはどうすることも出来なかった。

 午前中とはいえ陽射しは既に夏の陽気を帯びている。家の表でも、風があまり吹き込まない木陰で、フィッシャーとイェフダ様の二人は四人が楽に座れる大きめの白い丸テーブルを囲んで、紅茶を飲んでいた。

「おかえりなさい、アデュラリア」
 フィッシャーの歓迎するような言葉に、私はなんと返したものか悩んで、眉根を寄せていた。逃亡は確かに上手く行ったのだろうが、今回の作戦はあまりにもお粗末すぎる。そもそもオーサーの変装がバレる危険性のほうが高かったはずだ。それを何故言わなかったのかと言えば、たぶんフィッシャーは私のが大切だからだと、臆面もなく言い切るのは容易に想像できる。

 では、何故私はあの時に確認しなかったのかといえば、認めたくはないがそれなりにフィッシャーを信用してしまっ炊いたからだろう。アレだけ騙されたというのに、自分のそのお人好しさ加減が嫌になる。

 私の隣をディが追い越し、テーブルの上に煮えたぎる緑の液体が入った鍋を置いたのを見て、私も足を進めた。更に私を追い越したハーキマーさんが、テーブルの上に野菜の詰まったサンドイッチを置く。それから、二人は迷うことなく空いた椅子に腰を下ろした。

 右からディ、フィッシャー、イェフダ様、ハーキマーさんが座った後で、私はやっと口を開いた。

「私の席がない」
 そう呟くと、フィッシャーはにっこりと微笑んで、私に向かって両手を広げてみせる。

「おいで」
 何故そうなる。問答するのも疲れるだけなので、私はハーキマーさんに向き直った。

「ハーキマーさん、椅子借りていいですか?」
「アデュラリア嬢さえよろしければ、この椅子をお使いください」
 余談であるが、フィッシャーとイェフダ様の椅子は、ディやハーキマーが座るものよりも少しだけ高価そうにみえた。ディ達が座っているのは小屋の中から持ってきたものにみえるが、二人のはテーブルとセットで使うもので、背凭れまで付いている。

 席を立とうとするイェフダ様を片手で制し、私はその腕を真っ直ぐに伸ばしてフィッシャーを指す。

「違います。ハーキマーさんに借りた椅子を使うのはこの変態ですから気にしないでください」
 私がきっぱりと言い切ると、フィッシャーは少し考え込んだ後で手を打ち合わせた。

「私の温もりのある椅子がいいと」
「冗談も大概にしやがれよ、賢者サマ?」
 どうしてそういう発想に行くんだと私は笑顔で拒絶し、この間にラリマーが小屋の中から持ってきてくれた丸椅子に座った。その後で、あ、と気付く。

「ラリマーの席もないわ」
「私は執事ですので」
 間髪入れずに一緒の席にはつけません、と言うラリマーを無視し、私は座っていた椅子を彼女に渡した。

「じゃあ、これ使ってよ。てか、持ってきたのはラリマーだもんね。ハーキマーさん、椅子もう一個借りますー」
 私はハーキマーさんからの了承を聞かずに、小屋へと軽い足取りを向けた。後ろから、ハーキマーさんの笑い声と了承の声を聞き、私はひらひらと片手を振って応える。

 小屋の入り口までは数歩で、そこに立っても吐き気が襲ってこなかったことに、私は小さく安堵の息を漏らした。

 それから、小屋の中へと足を踏み入れる。この小屋は先日も思ったが妙なつくりをしていた。入口を入ってすぐは通路で、その中に区分されて部屋がひとつ、部屋の向こう側に入院用のベッドのある部屋がひとつあるだけだ。廊下から入る最初の部屋は主に客用だろう。壁一面の施錠された薬棚とその処理道具以外の物は閑散としているが、ハーキマーさんの性格を示すようにどこか温かみを持ち、それでいてきちんと全てが整頓されている。

 部屋の中央に立ち、私は空き放たれたベッドのある部屋から柔らかに吹き込んでくる風の方向を見つめていた。

 以前にここへ来た時は、オーサーが一緒にいた。それは私が無理矢理にオーサーから離れようとして、彼が負ってしまった怪我の治療をするためだった。そういえば、何故あの時賢者の屋敷が破壊されたのだろうか。刻龍の頭領である賢者の屋敷が破壊されるなんて、いくら私の信頼を得るためとはいえ、やり過ぎだ。それに、フィッシャーならば他にいくらでもやりようはあったはずなのに、何故ーー。

「アディ」
「ぅひゃっ」
 背後からいきなり声を掛けられて、私の口から変な声が出た。振り返ると、ディが可笑しそうに口端を歪めている。

「椅子なら俺の使え」
「え、いやいや、それには及ばないデスよ」
 何故か敬語になってしまったのは、自分でも無意識の事だった。

「いいから、戻ってメシを食え」
 ディの言葉で私は食卓の上のメニューを思い出し、そういえばと疑問を口にする。

「ね、ディはハーキマーさんと一緒に旅してたんだよね?」
「あぁ」
 わずかにディの表情が曇った気がしたが、私はそのまま続けた。

「食事とか、ハーキマーさんが作ってたの?」
 肯定が素直に返されるかと思いきや、ディの表情は私の目の前で見る見る青ざめていった。

「い、いや、町にいるときは宿の食堂とか、料理屋とかだな。他は、一応俺が怪我とか病気してない限りはやってたぜ。…あいつが作るとわけわからん薬草が…っ」
「ディ?」
「あいつの料理はよく腹下したり、妙な発熱やら、しびれやら…っ」
 それってハーキマーさんの被検体だったじゃ、と思っても口には出さず、私はディに背を向けて診察用の丸椅子を手にした。それを持って、まだ青ざめているディの隣を通り過ぎて、廊下へと出る。

「あはは、でもさー、そうできるぐらいにはお互いに気を許してたってことでしょ。それっていいよね」
「あ? おまえ、自分がなってないから言えるんだろうけどな、あいつはーー」
 後からついてくるディがそれに反論する。その慌てた様子も、私には微笑ましく映る。

「ハーキマーさんって、その頃からきっとディのことが好きなんだねぇ」
 ついてきていた気配が止まった気がして、私は足を止めて振り返った。案の定、足を止めたディが、真剣な目で私を見つめている。

「唐突に何だ。それにどこをどうみて」
「どこって言われても分からないけど、なんとなくディには遠慮ない感じがするよ」
 私とオーサーみたいな、そんな遠慮のない関係な気がする、と私は思った通りのことをそのまま言葉にして口にした。今ここにいたら、オーサーはなんというだろうか。そう考えたら、自然と口からは小さな笑いも零れてきた。

「全てが終わったら、ディはちゃんとここに帰ってきてあげてね」
 それは私の本心からの声だったはずだ。だって、私は残される哀しさを知っている。別れの寂しさも知っている。だから、もしも本人がそれを望むのなら、そうすべきだと思うのだ。

 だけど、言葉にして口にしてみたら、自分の中にある置いていかれる感情が強く引き出されてしまって。私はその顔を見られないように、ディに背を向けていた。

 弟と思っているオーサーを置いていくのだって、離れるのだって、私にはとてもつらい選択だった。ただそれ以上に危険の只中に置きたくなかったから、彼から離れようとしていただけで、何もなければ、ずっと一緒に居たかったという想いは今でも変わらない。

 ハーキマーさんとディを見ていると、二人の気安い関係が透けて見えてしまって。だからこそ、二人には一緒にいて欲しいと思ったのだ。ーー私とオーサーの代わりに。

「馬鹿いうな」
 私の視界を唐突に太い腕が遮った。

 冷たい甲冑に頬が当たるけれど、包み込む優しい温もりが、泣いている私の心に触れてくる。

「俺はおまえに騎士の誓いを立てた。おまえが生きる限り、俺は」
「ディ・ビアス」
 私はディの言葉を遮り、あの時一度聞いただけの彼の名前を強く呼ぶ。驚いた様子でゆっくりと彼の腕が私から離れるのを感じても、私は彼を見上げずに続ける。

「私はあなたの探す、女神の眷属、ではないよ」
 何度も繰り返した言葉を、私はディに向かって、もう一度繰り返した。

「私は女神の眷属じゃない。だから、この旅が終わったらお別れだよ」
「だが、俺が誓いを立てたのはアディ、おまえだ」
 確かにディの言うことそのものは事実で、騎士の誓いは特別なものだと私も聞いている。でも、絶対じゃないはずだ。何かしらの抜け道はあるだろう。そうでなければ、間違いを正すことさえ認められないなんて、そんなのは女神の誓約にしては横暴すぎる。

「終生仕えると」
「私は名もない村のただの女で、騎士を養うほどの金もない。今も村長の家のただの居候で、出来る事といえば手伝いぐらいしかなくて」
 その上、私は今更ながらに気が付いてしまった。

「私、何もディに返せるものをもってない。仕えてもらうほどの人間じゃないんだよ」
 人には分というものがある。それでみれば、私は自分にそこまでの価値なんて見出せない。私が持っているのは最後の女神の転生の記憶だけで、拳闘士としてもっている技とて、剣士のディやフィッシャーの魔法に比べれば話にならない腕前だ。もしかすると、ラリマーの札よりも劣るかもしれない。

「今まで、私とオーサーを守ってくれたことに感謝もしてるし、たぶんまだディの力が必要だと思う。だけど、この旅が終わった後は、きっと命を狙われることもなくなるし、危険もなくなるはずだから、」
 だから、ディの力はいらないのだと。口にしようとしたが、私の言葉は声にならなかった。

「余計なこと考えてんじゃねぇ」
 私の口を塞ぐ大きな手の主を、目だけで見る。俯いたディの表情はよく見えないけれど、搾り出すような声が苦しさを伝えてくる。

「俺が勝手に、アディに仕えてんだ。他の、終わった後のことなんて、考えんじゃねェ」
「ハーキマーのことだってそうだ。あいつはただの旅仲間で、俺はあいつを女だと思ったことは一度もねェよ」
 私をまっすぐに見つめてくるディの目も、耳元にかかる彼の息も息苦しくなるほどに熱く感じる。



「俺が守りたいと思ったのはおまえだけだ、アデュラリア」



 背筋を何かが這い上がる、ぞくりとした感覚と共に、私の脳を痺れさせるほどの衝撃が襲ってきて、寒くもないのに身体が震える。いや、身体じゃない、心臓を掴んで引き寄せられるような、そんな強い想いの力が、怖くて。

「や…っ」
 自分の中の理由の分からない感情に怯え、私は力任せに手を振り払った。拍子で腕か拳がガツンとディの顔に当たった気がするけれど、確認する余裕もないままに、私は場を駆け去る。椅子を持ったまま小屋を出て、私はすぐに裏手へと走りこんでいた。

「っ!」
 力任せに椅子を投げ捨て、私は震えの収まらない自分の身体を強く抱きしめる。高ぶる感情に押し出された雫が眦を滑り落ちるのを、強く目を閉じて堪える。収まらない私の感情に引き寄せられるように強い南風が吹き、畑に息づく葉をざわめかせ続ける。

「嫌だ、オーサー…っ」
 近くにいないとわかっていても、私は大切な弟の名を呼ばずにはいられなかった。けれど、その呼び声は乱れ狂う風の音にかき消され、私自身の耳にさえ届かない。

 旅に出てから、オーサーは徐々に弟という枠組みからはみ出してきてはいたけれど、それでも私にとっては弟のままだ。どれだけ甘い言葉を囁かれても、私自身にはそこまでの感情を揺らす事にはならなかった。

 それなのに、ディの言葉ひとつで、私はこんなにも弱く逃げ出したい想いに駆られてしまう。両者の違いは、今や私にとっては付き合いの時間だけでしか無いことは、自分でもわかっていた。

 オーサーは大切な弟で、ディも私にとってはただの仲間だ。どちらにも甘い関係なんて私は望んでいない。ただそのまま変わらずにあってほしいと願っているだけなのに、どうしてこんな風に簡単にそれを壊そうとするのだろう。

「何かありましたか、アデュラリア嬢?」
 少し離れた位置からかけられた穏やかな声に驚いたが、私は振り返る前に乱暴に目元を拭った。今の私は、誰かに見せるような笑顔なんで持ち合わせていない。

「な、なんでもありません、イェフダ様」
 私がそんな風にごまかす笑顔を向けると、イェフダ様は柔らかに笑んだまま、白い絹のハンカチを私の顔に押し当てた。

(アクア)
 聞いたことのない不思議な響きをイェフダ様が紡いだ後で、絹のハンカチが湿り気を帯びる。そういえば、この人も札を使うのだと、その時にやっと私は思い出した。普段はかれ札を使うまでもなく、ラリマーが全て終えてしまうからだ。

 ハンカチをよく見ると、そこには模様に見立てて図形のような文字のようなものが描いてある。オーサーやラリマーとはまた違うタイプの札士なのだろう。

 私がイェフダ様を見上げると、彼は少し照れたように頬を染めていた。

「少し冷やしたほうが良いでしょう。でなければ皆が貴女を心配します」
 何故イェフダ様がここにきたのかとか、どうして何も聞かないのか、といった疑問はいくつも浮かんだけれど。

「……ありがとう、ございます」
 私はただ彼の小さな優しさに甘え、ハンカチに顔を押し当てるだけに留めた。

p.3

32#よくある食事



 涙を拭いた後で、私は心配そうなイェフダ様を促し、昼食の席へと戻った。さほど離れていないとはいえ、この人と二人でいるだけだと沈黙が重い。話題もないし、まだフィッシャーと二人のほうがマシだと思えてくるから不思議だ。ちなみに、現在はあまりディとは二人きりになりたくもないから、迎えに来られる前に早々の戻るに限る。

 投げ捨てた椅子を手に戻った私は、椅子をイェフダの隣に置き、反対の隣にラリマーを呼んだ。イェフダの隣にはフィッシャーで、その隣にディが座り、ラリマーとディの間にハーキマーさんが座る。ディは濡れた布巾で私が腕を強かにぶつけた辺りの顔を抑えていて、ハーキマーさんはそれをからかう目線で見ている。

 至近距離だったし痛かっただろうかと、私が口には出さずに心配の目線を送ると、ディは大丈夫だとでも言うように手を振り、布をテーブルに戻した。ーー痕の残っていない様子に、私も軽く息を吐く。

「それじゃあ食事にしようか。特にディとお嬢さんはちゃんと食べるように」
 私が椅子を取りに行ってから暫く経つというのに、テーブルで未だにグツグツと煮えたぎっている鍋を見た私は、自然と眉が寄っていた。そういえばとさっきのディの話を思い出す。

「これ、薬草入って……ます?」
 私の問いに対し、当然だとハーキマーさんは胸を張った。張るほどに胸があるのは羨ましいが、料理の腕がいいかというのは別問題だ。これ、食べても大丈夫なのだろうか。

「お嬢さんの栄養もしっかり考慮してあるんだから、好き嫌いせずにちゃんと食べなさい」
「ぅ…っ」
 好き嫌いというレベルで計れるものではないが、私やディが言ったのでは説得力がない。

 ハーキマーさんの手で楽しげに装われた木の椀からは、何故か果物の甘い香りがする。それこそが怪しいことこの上ない。が、自分のためといわれては、食べる以外の選択肢はないだろう。決心を固めるべく、私はじっとその碗を見つめた。

「私はこちらのサンドイッチで充分です」
「あ、私もこちらで」
 フィッシャーとイェフダ様は苦笑しつつ、逃れるようにサンドイッチを手にする。それはずるいと思ったが、鍋もサンドイッチもハーキマーさんが用意してくれたものだ。挟んであるのはハムや卵、それに数枚の葉のようだが、匂いで判別できないそれはそれで危険な気もする。

 見た目危険な鍋と、一件危険に見えないサンドイッチ。どちらを選んでも苦い結末しか思い浮かばない私は、思わず眉を下げていた。

「ディ」
 しかし、私と同じく目の前に鍋から装われた碗を置かれたディは、嫌そうにそれをハーキマーさんの前においやった。

「こら、ちゃんと食べないと流石のおまえももたないぞ」
「俺はいらん」
「そんなことを言って。また主人においていかれても知らないよ」
 ハーキマーさんの警告に、ディと私は同時にビクリと反応してしまった。だって、私はさっき似たようなことをディに言ったばかりだ。

「嫌ならちゃんと食べろ」
 だが、さっき彼女は「また」と言わなかっただろうか。それはつまり、以前に彼は騎士の誓いを立てた主人を持っていたことになる。騎士の誓いは一度行えば、相手が死ぬまで続くものと聞いている。だが、ディが自分にその誓いを行ったということは。

「食うから、おまえ少しだまってろ、ダイヤ」
 嫌々承諾したディはその直後、わき腹を押さえて椅子の上で俯いていた。ハーキマーさんが名前を呼ばれるのを嫌がっているのは知っていたが、ディが一瞬でも俯くほどの攻撃力を持っているのに私は驚いた。何かコツでもあるのだろうか。

「この馬鹿は放っておいて、あんたたちに聞きたいことがある。……食べてからの方が良いか?」
 自問自答するように後半の言葉を小さく呟くハーキマーさんは、ディと私を見て、首をかしげた。大人の女性だけれど、不思議とその動作が似合う。

「時間がないのでしたら、食べながらでもいいのではありませんか?」
 イェフダ様がおっとりと言うと、ハーキマーさんは何かを考えるように一度目を伏せた。

「……食事を済ませてしまってからのほうがいいか。特に、お嬢さんは」
「え?」
 ハーキマーさんの瞳が私を捉え、意味がわからずに私も首を傾げた。

「血腥い話を聞きながらでは、どんな食事も不味くなるだろう?」
 彼女の言葉を反芻したものの、私たちは同時にテーブルの上、つまり鍋に目線を置いていた。血腥い話で有るにしても、それがなくてもこの料理は美味しいのだろうか。多分に残る疑問に私がディへ視線を向けると、ディは嫌そうにため息を付いた。

「……オマエの料理がこれ以上不味くなることはねぇだろうが、食べてからにしたほうがいいみたいだな」
 そう言って、ディは椀を手に持ち、呼吸を整えてから一気に喉へ流し込んだ。発言に不満はあるようだが、ハーキマーさんとしては食べたことの方に意味があるらしく、口端をわずかに歪めて笑ってから、私をじっと見つめた。

(私も食べろ、と)
 ディのようには出来ないが、私は傍に置かれていた木製のスプーンを手に、しばし椀を見つめる。うん、まだグツグツいってるんだけど、これどうやって作ったの。しかも、湯気が出てないのに煮え立ってるってのは、熱いの冷たいの。色は茶色っぽいんだけど、味の予想もつかないんだけどーー。

 先に食べたディはどうしているだろうと顔を上げると、目を瞬かせて不思議そうな顔をしている男が一人。

「……おぉ、食えるもんになってる……」
「食べられないものを出すわけなかろうが」
 即座にハーキマーさんの平手がディの後頭部を打ち付けたが、微塵も揺らぐ様子はない。どころか、血色も良くなっている。身体にいい薬草入りというのは本当らしい。それに、食べられる、と。

 恐る恐る口に淹れた私は、次にはなんとも言えない顔をしていたに違いない。

「アデュラリア、どうしました?」
 不思議そうに聞いてきたフィッシャーにぎこちない視線を向けた私は、次には目を伏せ、首を振った。うん、味とか二の次だよね。腹に入れば皆同じだし。

 もくもくと椀の中身を口に運び、とりあえず流し込んでいく作業をする。そう、これは食事と言うよりも回復のための作業なのだ。そうに違いない。

 味は不味くはないが美味いわけでもない。味がないわけでもないが、なんと表現したらいいのかわからない。だが、食べれば回復はしそうだし、腹が減っている気分ではないが、何かを身体が欲しているのはわかる。だから、私は無心でそれを食べきった。

「……ごちそうさまでした」
 空になった椀にスプーンを置いた私は、どうしてもハーキマーさんを見ることは出来なかった。感想なんて言えるわけがない。お世辞でもこれを美味しいとは言えない。不味いとも、言えない。私の様子に何かを察したのは、誰も食事の感想を訊いてくることがなかったのは救いだった。ハーキマーさん自身も期待してないっとことは、これ、もしかしてわざと不味くしてるんじゃないだろうか。一瞬でもそう思って顔を上げた私は、期待するようなハーキマーさんの視線にぶつかり、慌てて目線を逸らしたのだった。

 さて、私が食べ終えたのを確認した所で、改めてハーキマーさんが私達を厳しい表情で見回した。つまり、眉間に皺を寄せ、座った目で睨まれた。美人が睨むと怖い。

 特に強く睨まれていたのはフィッシャーのようだが、彼は薄笑いさえ浮かべて、それを躱している様子だ。これが貴族お得意のスルースキルというやつなのだろうか。

「そこの賢者は既に知っているかもしれない。だが、だからこそ、貴様に訊ねたいことがある。リュドラント王妃アークライト様が先日刻龍の襲撃を受けてお隠れになられた。これは、貴様たちに関わりのあることか?」
 フィッシャーはぴくりとも表情を動かさないが、イェフダ様が不自然に表情を硬くしたことは、明らかに関係があると言っているのと同じだ。ただ、私はその方のことはよく知らない。どころか雲の上過ぎて、見たこともない人だ。

「アークライト様は、八年前に我が国と隣国リュドラントの平和協定のために、自らリュドラント王に嫁がれた方です」
 私が状況も何もわからないと思ったラリマーが、隣で補足してくれるのは有難いが、それでもわからないことは多い。

「リュドラントでアークライト様はこの国に対する敵愾心を失くすために尽力されておられた。またリュドラント王も聡明な王妃がいる限りはこちらに手を出さないと厳命してくださっていた」
「だが、今年で御歳二歳となられる王子もアークライト様と共に殺され…お二人の血を使って、壁に文字が刻まれていたそうだ。ーー呪女神、と」
 淡々とハーキマーさんは話していたが、その場面をリアルに想像してしまって、私は息を呑んで口元を抑えていた。

 あまり詳しく思い出したくはないが、かつての自分の過去とかぶるのだ。路地裏で、切り刻まれる仲間たち、そして迫り来る黒い影のような者達。狙いは間違いなく自分で、力もなく頼れる人もいなくて、脅しではなく本気で殺されることろだった。あの時、イネスの警備隊が間に合わなければきっと間違いなく自分は終わっていただろう。

 数日間放心している状態で事情聴取を受けたが、満足な受け答えをすることも出来ず、開放されて戻った路地裏で、私は同じような血文字を見た気がする。

 でも、あの時の記憶はひどく曖昧で朧気だ。同じかどうかなど私にはわからない。

「女神信仰は年々薄れてきてはいる。だが、刻龍が女神を敵視していることも、この国に潜伏していることも周知の事実だ。王家は女神の眷属の血筋であり、アークライトは、女神に一番近い者と言われていた。女神に連なるものとはいえ、一国の王妃と王子が他国の犯罪者によって殺されたのだ。これを機にリュドラントがこの国へ攻め入ってくる可能性は高い」
 ハーキマーさんが強く奥歯を噛み締める音が、私には聞こえた気がした。

「もしもお前たちに関わりがあることなら、即刻これから始まる戦争を食い止めなさい。敵も味方も誰一人死なせちゃいけない。でなければ、アークライトが嫁いだ意味がなくなるんだ」
 彼女の握った拳は白く、爪が食い込んでいるかもしれない。それぐらい、ハーキマーさんは怒りに打ち震えているようだった。

 もしも、女神が原因だとすれば、それは私のせいということだろうか。もしも、あの時殺されていれば、アークライト王妃もその王子も殺されることはなかったのだろうか。

「ハーキマー殿は、アークライト様と繋がりがあったのですか?」
 怪訝そうにイェフダ様が尋ねると、彼女は気持ちを落ち着けるためか深く息を吐きだし、目線をテーブルに落としていた。

「アークライト様は魔法耐性がひどく弱かったし、病にかかると薬草でしか治療できないだろう。丈夫ではあられたが、少し体調を崩されたことがあってね。それで一度こちらにお越しになられた。その時に話を少しして、ーーこんな一介の薬屋を」
 ハーキマーさんは一瞬だけ少女のような顔で微笑んで。それは今まで見ていた彼女の大人の余裕を持った妖艶な笑みとは違っていて、私も男性陣も皆あっけにとられるほどの破壊力を持っている。

(美人って、すごい……)
 一体王妃様と何があったのかはわからないが、懇意であるのは間違いないだろう。その人がもしかしたら私のせいで殺されたかもしれないというのだ。私は膝に置いていた拳を思わず強く握りこんでいた。

 もともと私は女神の眷属「かもしれない」というだけで、幼少時から狙われていることがわかっていた。女神に連なるものを手にすることは、世界を手にする。その伝承がすべての元凶であることも知っていた。だけど、旅に出るまでこんなふうに命を狙われるなんてことまでは考えてなかったし、まして女神に関わるもの全てを殺そうとする者達がいるなんて思いもしなかった。

 女神の、そしてその眷属の生命を狙う組織ーー刻龍。その頭領たるフィッシャーを、私が疑念の目で睨みつけると、それに気づいた彼は何故か困ったように微笑んで返してきた。それで思い出したのだが、フィッシャーは私を殺そうとは思っていない。むしろ、取り込もうとする側だ。そして、今は刻龍も分裂状態で、フィッシャーに従わない派閥が出来ているのだと言っていた。そう、メルト=レリックのような人を使って、私を殺そうとするような。

 ……彼はまだ私を狙っているのだろうか。

「私はーー眷属じゃありません。それでも、できることがあるんですか?」
 ハーキマーさんにはオーサーを救ってもらった恩もある。だから、力になれることがあるのならというつもりで言葉を口にした私を、ディが射るように睨みつけてくる。

 言うな、と物語るディの視線を意識しないようにして、私はまっすぐにハーキマーさんを見つめる。ハーキマーさんは私を見て、わずかに微笑んだ。

「お嬢さん、私はそこの三人に言っているのであって、君には何の責もないことだ。どころかお嬢さんは精神を肉体から切り取られるなんてことをされたのだから、今はまだ安静にしているべきなんだよ。ああ、食事も終わったことだし、少しベッドで横になっているといい」
 部外者は黙っていろと言われた気がしたのは、私の気のせいではないだろう。それは、私がまだ幼いということにも起因するのだと頭ではわかる。でも、女神に関わることならば、私は無関係ではいられない。そうして、拒絶した所で後悔しか残らないのだということを、私は知っている。

「ハーキマーさんは私が孤児で、系統(ルーツ)不明だということを聞いていますよね」
「ああ」
「私のような者にはすべて女神ないし女神の眷属という疑いがあるということも、私ぐらい年齢で生き残っている孤児がいないことも、知っていますよね?」
 そこまで言った所で感づいた様子のディが立ち上がった。

「アディ!」
「ああ、知っている。だが、それと今は関係ないだろう?」
 だけど、すかさずディを抑えこんだのはすごい。その目が少し楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。

「何もせずにここまで生き残れるほど、世界は優しくありませんよ」
 周囲がはっと息を呑んだのは、私がうっすらと笑みを浮かべたからだろう。

「私が、オーサーの母であるマリベル=バルベーリに見つけてもらったのは、八歳の時でした。助けてもらってからは大人たちに拳闘士として鍛えてもらいましたが、それ以前は何の力も持たない唯の孤児でしかなかった。だけど、私たちは自ら考え、自ら戦って生き残っていたんです」
 目を閉じて、当時を思い出すのは苦ではない。よく夢に見るからだ。

p.4

33#よくある身の上話



「私が覚えている最初の記憶は、初めて系統診断(ルーティスト)を受けたところからです」
 旅を決めた日と同じように、目の前で光がパチンと爆ぜて、一気に明るくなった気がした。あの時の神官の姿はよく覚えていないけど、驚いた顔をしていたのは覚えてる。

「……失敗、だと……?」
 驚きに見開かれた目はその神官だけでなく、周囲の子どもたちも同じで。不安になった私が、私をここに連れてきた少年(当時の孤児たちのリーダーだった)を見上げると、彼がいち早くしゃがんで笑いかけてくれた。

「ああ、神官様はもうお疲れみたいだ。明日また出直してきますね」
 彼は神官に暇の挨拶すると、私を抱き上げ、足早に神殿を後にした。系統(ルーツ)が風の小妖精という彼が歩くと、周囲が飛ぶようにすぎるから、私は彼に抱いてもらって移動するのが好きだった。

「りーだぁ、きらきらっ」
「ああ、そうだな」
 薄い金髪が陽の光の具合で水色にも見える不思議な髪色で、瞳は濃い碧で、肌は傷が多くとも白く透き通っていて、きちんとした身なりをすれば妖精と本当に言われてしまうような少年がリーダーだった。彼の周囲はいつもキラキラとした光が溢れていて、そのせいで確かよく拐われていたと思う。……常に自力で帰るだけの実力者ではあったが。

 使う獲物は湾曲した青竜刀で、それを使って、踊り子の真似事をして孤児たちを養ってくれていたはずだ。

「……フェン、先に行って備えさせろ。チビが系統(ルーツ)不明になった。……騒ぐな、まだわかんね。でも、俺らは見張られてるから、先に撒いてく。チビ? 一人で帰れるわけねぇだろっ」
「フェーン? フェーン、いるぅ?」
「行けっ」
 一瞬リーダーの周囲で突風が吹き荒れ、私はそれを大はしゃぎで見ていた。

「チビ、ちょっち寄り道な? みんなに土産かってこうぜ」
「おみー?」
「そうだ。だから、しっかり捕まってろよ」
「あい!」
「いい子だ。……行くぞ」
 それから二人で露天を見て回り、新鮮な果物を待ち人から幾つか貰って帰った。いつも通る道じゃないのが嬉しくて、私はいつまでもはしゃいでた。

 ああ、なんでこの時のことはこんなにも鮮明に覚えているんだろう。何年経っても色褪せない思い出は、キラキラと輝いている。この後すぐに、何が起こるかも知らずに、ただ私はリーダーと一緒にいられることが嬉しくて楽しくて仕方なかったことだけはずっとずっと覚えている。

「アディ?」
 話の途中で空を見上げて黙りこんでしまった私に、フィッシャーが気遣わしげな声をかけてくる。ディは、心配そうに私を伺っている。私は誰に視線を向けるでなく、ぐるりと一同を見渡してから、ハーキマーさんに視線を戻した。

「最初の襲撃はその日の夜でした。私と同じかその前後ぐらいの子供だけが年上の孤児に隠されて、生き延びることが出来たんです。他は、皆、殺されました」
 思い出すことはいつも容易で、そしていつも怖い。リーダーたちがいなくなってから、しばらくは誰がまとめるでもなく過ごしていたけど、気がついたら私が孤児たちをまとめるようになっていた。

「それから何度か襲撃を受けたけど、幸い数人が自然の系統(ルーツ)を持っていたから、退けることができていたの。そう、私が八つの年までは全てが順調で、私たちはどんな大人が来たって負けないって思ってた」
 膝の上で震える拳を押さえつけて、私はハーキマーに不敵に笑ってみせた。

「ま、つまりは、喧嘩の仲裁ってのは慣れてるってこと。要は相手に躊躇させるネタを作ればいいんでしょ? それには孤児で系統(ルーツ)不明な私が一言それを口にすれば良い。ーーでしょ、フィッシャー?」
 真偽を問いただされても、系統(ルーツ)が判明しない限り、誰もそれを否定出来ない。そこに更に神官の言葉も加えればーー。

「俺は反対だ」
 フィッシャーが答えるより先に、ディが眉を顰め、強い決意の目で異議を申し立ててきた。

「……ディ」
「アディ、アンタは……女神の眷属じゃ、ねぇんだろ? それを言っちまったら、もう」
「ディ・ビアス」
 私は彼の言葉を遮り、一度目を閉じ、深呼吸してから笑いかけた。

「守ってくれるんでしょ?」
 ディはひどく困惑した表情で目線を泳がせ、少し俯いて頭を掻いた。

「当然だろうが……っ」
 やりきれなさで搾り出されたディの言葉に、少なからず私の胸も痛んだ。まだ、誰にも言っていないことがある。眷属でもない私が、何者、なのか。自分のことをただの孤児だと断言できるほど、愚かではない。そう思うのはとっくに諦めてる。

 私は覚悟を決めて、テーブルに並ぶ面々に順に目を向けた。

「じゃあ、細かいことを決めていきましょうか」
 そうして私がフィッシャーたちと相談しながら作戦を立てている間、ディはただじっと不安げに私を見つめていたのだけど、私は気づかないように目をそらし続けた。私達の様子を、ハーキマーさんは何故か苦笑しながら、眺めているようだった。

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34#よくある騒動



 隣国リュドラントとの国境の町ーーヨンフェン。両国の境界は高い石塀と深く濃い森の闇に包まれている。この町を利用するのは主に両国間で交易を行う商人達で、彼らのために宿が出来、物資と共に人が集まるために町として栄えている場所だ。昼でも薄暗い森に他の場所が閉ざされているため、他に両国を行き来する場所はない。

 私は店先で並ぶ赤い果物をひとつ手にする。今はオーサーの服を着て、髪も一つに括ってあるため、年は十二、三ぐらいの少年に見えるはずだ。

「美味しそう~。おねえさん、これはいくら?」
 果物を指で軽くこすると、新鮮さを主張するようにそれは昼の陽光を返す。

「リュドラントで最近出来た新種のダイダイでね、そのまま食べてもいいけどバターを入れて焼くともっと美味いよ。二〇でどうだい」
「ん~、さっき向こうでも十五でみたよ」
 向こうと私が指したのは道の角で、その先の商店など、ここから見えはしない。

「こっちは宵に戻った商人から買ったばかりで鮮度が違うんだよ」
「今朝って関所空いてた?」
「さぁてね。それより、買うのかい、買わないのかい」
 少し思案してみせた後で、私は首に下げた紐を引っ張り上げ、服の中から小さな皮袋を取り出した。

「まだ通れるかなぁ」
 品物を買うと思った女性の口が滑らかに動く。

「昼に宿出たのが戻ってきてたし、たぶん難しいんじゃないかねぇ」
「ふーん」
 私が差し出された手に少し多めの金額を乗せると、女性は「まいど」とへらりと笑ってくれた。それに礼を返して、私は店の前を立ち去る。その足は、国境の門扉が備えられている方向へ向かっていたわけだが。

「アディ」
 歩く私を後ろから無造作に大男が抱え上げ、道の端に連れてきてから下ろした。

「勝手にふらつくなっつっただろうが」
 大声でないにしろ、きつめの大男の声音を、私は眉をしかめて受け取る。眼の前にいるのはもちろん、ここまで一緒に来たディしかいない。相変わらず、目立つ格好だというのに人混みに紛れるのが得意な男だ。ミゼットでもそうだったな、とそれほど遠くない過去に思いを馳せて、私は心の中で小さく笑った。現実は、子供のように口を尖らせ、見上げる相手に文句をつける。

「ちょっと見てくるぐらい、いーじゃん」
 起きてからずっと、ディは過保護に拍車がかかっている。特に、ヨンフェンについてからは更にひどく、一人で出歩くなとまで言ってくる。もちろん、目的を考えれば、そんな忠告を聞けるはずもない。

「何かあったらどうする」
「何かあるから来てるんでしょ」
 私が飄々と返すと、ディは眉間に皺を湛えたまま、深く息を吐きだした。これが一時とはいえ二度と起きないのではないかと心配した人物には到底みえない、と何度も愚痴をこぼされたから、私でも彼が何を言いたいのかはだいたい分かる。

「大体勝手に何でもかんでも決めといて、私にどうこう言えるわけ?」
 ハーキマーの家からここまではそれなりに距離があった。馬を使いたくとも、近隣に馬借はなく。一番近いイネスまで徒歩で向かった。その間に色々と自分の知らない場所での話を聞いてた。……聞いてしまった。

 始まりは賢者であるフィッシャーとの賭けから、そんな前から始まっていた。しかも、オーサー発案。私が心配だという名目で、フィッシャーとディとイェフダ様に私の保護を願い出ていた。負ける駆けを利用したのは札の件だけではなかったことが判明して、私はひどく憤ったのだ。

 確かに私はオーサーを危険に晒さないために遠ざけようとしたわけで、オーサーも事前に察知して対策していたことまではいい。でも、なんでわざわざ会ったばかりのディやフィッシャーに、しかも貴族なんて奴らに私を保護させるのか。私の権力嫌いは知っているはずなのに!

 私が目を眇めると、ディはそれまでの経緯のせいもあるのだろうが、文句をいうのをやめてくれるようになった。ディもこの波乱に満ちた旅の間で、少しは私の性格を把握してくれたようだ。

 別に感謝をしていないわけじゃない。オーサーやフィッシャー、ディの機転がなければ、おそらくはとっくに私は刻龍に殺されるか、大神殿まで連れ去られているだろう。本来の目的地は大神殿ではあるが、到着したらおそらくは自由に出歩くことができなくなることぐらい、私にも予想できていた。女神であれ、眷属であれ、いや、可能性が少しでもあるならば、女神神殿は私を女神の眷属へとしたてあげるだろう。

 そのほうがいいと思っていた時期もあった。マリベルたちに迷惑をかけるぐらいなら、いっそーーと、何度も考えた。でも、彼女やオーサー、ウォルフや村のみんなの笑顔を思い出すたび、どうしても決断できなくて。

 やっと決断して、大神殿に許可をもらいにいくところだったのに、こんな隣国との戦を止めに行くことまでは想定できるはずもなかった。

「宿に連絡が届いてる」
 次にディが小さく耳打ちした言葉を聞いたと時、私は彼ではなく関所の方向へと顔を向けていた。

「なんて?」
 硬い声で私は口を強く引き結び、真っ直ぐにディを顧みて見上げる。ここで起きる何かを待ってはいたし、他に起きるだろう予測も既にフィッシャーから聞かされている。だけど、頭で理解するのと心での覚悟は別物だ。私の様子を確認したディは、嘆息してから続けた。

「お前の村が刻龍に襲撃されているそうだ」
「戦況は」
 間髪入れずに返すと、そこでディは少々複雑な表情をした。村が襲撃されるという話は予想済みだ。だが、安々とやられるような村人ではないーー否、唯の民間人とは到底云い難い腕前を持つ面々であることは知っていた。オーサーの時は彼の怪我に気圧されて、混乱していたために誤解したけれど、よく考えたら彼らならばディだって倒せるぐらいの強さなのだ。

 私なんて、下っ端の札士にさえ、手加減してもらって、ナイショでファラに手伝ってもらって、ようやく勝たせてもらえる程度だ。それなのに、いくら刻竜が強いといっても、村を焼かれるほどの惨敗は有り得ない。冷静になればなるほど、彼らが負ける姿は想像できなかった。

「刻龍はあらゆる戦闘のプロがいる。いくら賢者が刻龍の頭領であっても、」
 だけど、頭でいくらわかっていても不安は尽きることがなくて、私はそれを押し隠すように拳を握りしめていた。だって、いつだって、皆私を置いていってしまうのだから。

「……宿に戻ってからにしようや」
 言葉を止めて、少し思案した後のディの提案を、私は彼の巨体を押しのけて取下げさせた。私が歩き出す方向は国境の関所となっている場所そのものだ。

「先に下見だけさせて」
「アディ」
「見るだけだから」
 ここの着いてから見ることが出来たのは、せいぜい宿屋の窓から位だ。近くへ言って、周囲を確かめたい。そう何度頼んでも、ディは聞き届けてくれていない。到着したのは昨日の日が落ちてからだから仕方ないとはいえ、できるだけ土地を把握しておくのは喧嘩の基本だ。否、今回は喧嘩ではないけど。

 強く頼み込み、了承を聞かずに私は足を進めた。すると、諦めたのかディが少し離れてついてくる。軽く振り返ってそれを確認した私は、知らず安堵の笑みを浮かべていた。人の頭を越す長身だというのに、ディの姿は雑踏に自然と紛れ、先を歩く私に直ぐ追いつく。気遣わしげに見下ろしてくるディに軽く笑いかけると、眉を下げた、なんとも云い難い表情を返された。その口がかすかに開き、何かの言葉を発するために息を吸い込む。そんな中だった。

「リュドラントの警備にうちの警備隊が斬られたぞ!!」
 雑踏の人々が驚きに足を止める中、私はそれを叫んだ人物の方向に向かって走り出していた。頭にあるのは、フィッシャーと話した時の彼の予想した状況の話だ。

ーー仕掛けてくるなら、リュドラントから。国境で互いの兵も詰めているヨンフェンならば、きっかけは些細でも大事にすることができます。もともとリュドラントとうちは、然程仲良くないですからね。

 そのきっかけを作る元凶はおそらくは刻龍だろうとも、フィッシャーは言っていた。だから、原因を引きずり出せば、場を収めることは、少なくとも戦に持ち込まれる前に止めることはできるかもしれない。そう、言っていた。

 叫んだのはおそらく元凶に加担している。そいつさえ捕まえればなんとかなるかもしれないと、身体が先に動いていたのだ。

「アディっ!」
 直後、ディの強い警戒の声が私を呼んだが、それは間に合わなかった。

p.6

35#よくある宣言



 かつて世界は女神によって治められていた。女神がいなくなり、国として分裂した各々が統一を目論んでも何の不自然もなく、隣国同士で争うことは当然だ。その上、ルクレシアとリュドラントは数十年前までは同一の国家であったことも要因し、当たり前のように仲が悪い。いくら紋章を重ね合わせた所でその均衡など脆く崩れやすく、だからこそ、今日まで両国間に関が設けられ、警備隊が常駐している。

 だが、歴史的事項を無視したとしても、リュドラントは港を保有するルクレシアを欲しがっていたし、ルクレシアはかつての首都を置いていたリュドラントの土地が欲しかった。両国の危ういバランスを辛うじて保っていたのは次世代の女神とまで言われたアークライト妃の存在のみといっても過言じゃない。

 そんな話をハーキマーの家で別れる前に、私とディはフィッシャーから聞いた。なんの力も持たない一般市民である私自身が世情に疎いのは知っているけれど、そこまで隣国との関係が危ういとまでは知らなかった。そう言うと、イェフダ様は口元に指を一本立てて、苦笑していた。どうやら、この辺りのことは、私でなくとも知るものは少ないということらしい。

「戦争を始めるのは簡単です。アークライト妃がいない今、ほんの少しのきっかけで両者の均衡は崩壊します」
「きっかけ?」
「リュドラントの警備兵がルクレシアの警備兵を、或いは、ルクレシアの警備兵がリュドラントの警備兵を害せばいい」
 フィッシャーの話を声のした方へ走りながら思い出して、私は強く奥歯を噛み締める。このルクレシアと隣国リュドラントが戦争をしていたのは、今の自分が生まれる前の出来事だ。経験しているはずもないが遠い記憶にある、もっと昔の、夢で見た戦争の情景に、私の肌は粟立ち、恐怖と怒りに胸が震える。

 私のいた場所から叫び声の聞こえた位置までの距離はそう離れていないから、ディが着いてくるかどうかなんて気にしていなかった。だから、ただひたすらに急ぎ、声を張り上げようと口を開く。

 しかし、私の口から、音は、出なかった。自分に何が起きたのか私は理解する間もなく、砂埃の舞う地面が近づく。どさり、と自分が倒れた音を、私は他人事みたいに聞いていた。

「…ィ、アディ!」
 焦りと願いと祈りと、初めて聞く泣き出しそうなディの声が、私を呼び戻す。

「医者はいねぇかっ!」
 射られたと気付いたのは、ほんの少し後になるけれど、この時はただどうしてそんな風にディが泣きそうに呼ぶか不思議だった。逆光の眩しさを感じながら、私はうっすら目を開いて、目の前の黒い影を見上げた。

「アディ?」
 とぎれとぎれの自分の声をひゅうひゅうと風の音が抜けて、言葉とならない。肺に傷がついているのだろうか。肩も痛い気がする。でも、今は耐えなきゃいけないと、私は呼吸を落ち着かせて声を発した。

「女神、の、誓約に、おいて、命、じます」
 かすれた自分の声が耳に届き、言葉になったことを安堵する。

「ディは、直にこの中心に、行って…騒動を、止め、」
「嫌だ!」
 ディの強い拒否に、私は目を大きく開いた。

「俺は二度も主を失わねぇ。アディを、好きなヤツをこれ以上死なせられるか!」
 ひどく苦しげな咆哮を聞いて、そこからディが騎士の誓いをした時の、そしてその後の過剰すぎる行動の理由を察知して、私は納得した。やはり以前にディには仕える主がいて、そして、失っているのだ。だからこそ、今の主となっている私が死ぬことをひどく恐れている。

「誰か医者はいねぇのかよっ、くそっ!」
 せっぱ詰まる様子のディに手を伸ばすと、彼は大きな手を震わせながら、私の手を両手で包んだ。

「私、も、すぐ、行く…っ」
「ば、動くなっ」
「この、ぐらい、たい、した、こと…ない…」
 ゆっくりとだが体を起こすと、左肩がひどく痛んで、私の口からは小さく呻き声が漏れてしまった。

「無理するなってんだっ」
「今、無理、しないで…いつ、するの」
 ディは焦りながらも、怪我をしている私に触れるのを恐れて、無闇に触れてこない。ただそっと背中に添えてくるディの腕に、寄りかかってはダメだ。鳩尾に力を込めるようにして、上半身を自力で支える。

 その状態で私が周囲を見回すと、取り囲む人々の不安と恐れの顔、そして、少し離れた場所から金属同士のぶつかり合う音と怒声が聞こえる。

 地面についた右腕に力を入れて、自分の体を支え、人々の不安そうな視線を受けながら立ち上がる。ぐらぐらと目が回っている気がするのを、目を閉じて深呼吸することでやり過ごす。そして、私は倒れないように、揺れる地面をしっかりと両足で踏みしめて立ちあがる。

「道を、空けて」
 私の発した掠れるほどの小さな声は、周囲の誰にも届かなかった。

「アディ、無茶だ」
 座ったままのディが向けてくる願いの篭る視線を視界から追い出し、私はまっすぐに前を向いて声を荒げた。

「今すぐ戦争を起こしたくないなら、道を空けなさいっ」
 気圧されるように人垣が割れ、土埃の舞い上がる戦いが、私の目にかすかに映る。痛む左肩を右手で押さえて、私はぐらつく地面を一歩ずつ進む。

「頼む、今は治療を先に……っ」
 目の前に現れた大きな影を避けられず、私はぶつかる。頭が、痛い。また、地面が近づく前に、私は足を踏ん張る。肩が、ひどく痛い。でも、私がやると決めたのだから、今更引くつもりはない。このタイミングを逃せば、きっと戦争を避ける機会を失うだろうから。

「ーー天の、女神の、誓約において、命ず。この身、宿りし、女神の力、」
 力を込めて綴る言葉の前に、がりっと、私は柔らかくも硬い何かを噛んで、言葉を繋げられなくなった。何かというのは人の指で、口から離されたその指が誰のかと視線を上げれば、ひどく辛そうな表情のディが私を見下ろす。

「少しは俺の話も聞きやがれ……っ」
 ディの立場を思えば、私にだって、彼が言わんとすることがなんなのかはわかる。だけど、聞くことは出来ても、今の私はそれを聞き届けられない。

「聞けないよ」
「アディ、頼む」
「聞けない」
「アディ」
 縋る言葉も腕も、私は振り払い進む。

「ファラ」
 私が歩きながら呼ぶと、普段通り悠長にゆらゆらと妖精が落ちてきて、目の前に留まる。その顔も葉の上も雨に打たれたようにぐっしょりと濡れている。

「行かせません、アディ」
「…あなたまで何言うの。いいから、ディを刻龍のところまで案内して、」
 小さくとも風の妖精であるファラならば、それがわかるはずだから、と呼び出したのだが。

「アディが死んでしまうです。僕は、もう、これ以上…あなたを失いたくないですっ」
 涙声から溢れる滴はファラの乗る葉に落ち、そこからさらに滴がボタボタと落ちて砂色の地面を黒く染める。

 二人が言うほど、私は死にかけているのだろうか。たかが、矢が一本通り抜けただけだ。それも実体のない魔法の矢であり、傷は痛むが実体のある矢とは違って、破片が残る心配もない。普通の矢を受けるより別なことがーー呪いがないか心配となるのはおそらくこの矢を放った相手が刻龍だからだ。見てはいないけれど、おそらくはそう。だからこそ、何が起きるかわからないけれど、そんな心配は起きてから考えてもいいと私は思う。

 今は、戦争を起こさせないことが、どんな事象よりも最優先なのだから。

 目の前で泣きじゃくる小さな妖精を、私は眼差しを柔らかくして見つめた。私が自分の正体を知ってから従わせることができたのは、この妖精だけだった。彼だけがいつもそばにいてくれた。だけど、彼以外が私に従うことはなかった。世界が女神を必要としていないことなど、私自身がとっくに気がついていた。

「ファラ、お願いよ」
 ふよふよと近づいてきた妖精が、私に触れる。小さな手はひんやりと冷たい。

「お願いだから、言うことを聞いて」
「できませんです、アディ」
「ディにも私にもわからない。でも、ファラならアレの居場所がわかるでしょう?」
「できません、アディっ! 今のあなたを一人になんて、できませんっ」
 触れ合う部分から、ファラの優しさと不安が流れ込んでくる。心優しい、しょうのない妖精だ。

「女神アデュラリアの誓約において命じます。ファラは今すぐ私を射った刻龍を、私の前まで連れてきなさい」
「いやです、アディっっ」
 妖精を肩を抑えていた右手で引っぺがすと、いやいやと首と両手両足を振って、拒絶する。その様子はとても可愛らしいが、持っている手から振動が伝わってきて少し辛い。かといって、ここで痛がって手を離したりなんかしたら、ますます言うことを聞いてくれなくなる。

「ファラ、私にはあなたしかいないの。私をこれ以上情けない女神にしないで」
 小さな声でゆっくりと諭すと、ようやくファラは動くのをやめた。つり下げられたまま、小さな目が不安に揺れつつ、私を見つめる。

「僕が戻るまで無茶しないでください、アディ」
「わかってる」
 ファラの同意を得て、私は体ごと後ろを振り返り、ディに彼を放り投げる。

「わぁっ」
「ディ、ファラだけじゃ無理だから一緒に行って。ここで待ってるから」
 私はゆっくりと地面に腰をおろし、二人を安心させる為に笑顔を向けた。

「いってらっしゃい」
 二人は途惑うように私と互いを少し見た後、同時に息を吐き出した。

「絶対に、ここを動くなよ」
「うん」
「すぐに連れてきますから、無茶しないでくださいね」
「うん」
 ディとファラ、それぞれからの忠告に頷くと、二人は心配そうにしながらも、すぐに私を残して駆け去った。

 動かない、なんて約束は、していない。私はただ二人に頷いただけだ。待つほどの時間はないと、場の空気が知らせてくれるから。ポケットに忍ばせておいた小さな錠剤ーー痛み止めを口に放り込み、飲み込む。別れる前にハーキマーさんからもらったものだ。効き目が現れるのは一分程度と言っていた。それほどに強力な痛み止めで、普通なら副作用で眠くなるはずの成分も殺してあるらしい。代わりに襲ってくる強烈な苦味と吐き気に口を抑えて、やり過ごす。吐いてしまえば効かないとも言われたからだ。

「ーーごめんね、ディ、ファラ」
 苦味と痛みが少しだけ引いた体で立ち上がり、私は耳を澄ませた。割れたままの人垣を歩き出す。

「おい」
「……やめたほうが……」
 私を気遣い止めようとしてくる人々を一瞥し、私はまっすぐに騒動の中心へと足を進める。

 金属をぶつけあう高い音と低い怒声、その中で目当ての者達を探る。そして、自分の間合いに入ってすぐに私は地面を蹴り、周囲の剣を交える警備兵達の間をすり抜けるようにして、その場所まで到着した。

「な、なんや、おまっ?」
 ヨンフェンの警備隊長は私を知っているらしく、驚いた表情が視界の片隅に入った。もしかして、ミゼットかイネスの出身の者なのかもしれない。あの村のほかで私を知っているものといえば、その辺りの子供が主だ。

 だが、今は追求している時間はない。私は休むことなく、まずヨンフェンの警備隊長の剣を狙って、蹴りを放つ。

「はぁっ!」
 流石に剣に当たることは無かったが、後退した姿を着地した横目に見やりつつ、そのままリュドラントの警備隊長に連続で蹴りと拳を放つ。

「な、おまえ…っ」
 それも避けられるのは想定内だ。むしろ、そのぐらいの力量がなくては困る。二人を引き離した中心に膝をついた私は、肺に空気を送り込み、腹に力を込めて一気に吐き出す。

「両者、剣を引け! ここは両国の中立域! このまま戦争を始めるつもりでないのなら、剣を治めよ!!」
「女、何様のつもりか知らんが…っ」
 リュドラントの警備隊長が息巻くのを、私は強く睨みつける。何を言いたいかわかっていても、今はそれを先に黙らせることが先決だ。

「私は、アデュラリア!」
 これを口にしてしまえば、後戻りできない。だけど、私はもう二度と、女神に関わる戦なんて、繰り返したくないんだ。





「最後の女神の末裔よ!!」

p.7

36#よくいる隊長



 世界は女神に創られ、統治された。その間、世界はとても穏やかで平和で、争い事を知るものはなく、女神に仕えることを至上の喜びとしていた。無機物も有機物も、ヒトも動物も、全てが言葉を交わすことが出来た神代の時代は永く、永く、永遠に続くと誰もが信じていた。

 だが、天帝に女神達が呼び戻され、女神がいなくなった日。女神にもっとも近く作られ愛されたヒトが、この世界で生まれた、ただ一人の幼い女神を両手に抱いたまま言った。

「この女神が成長するまで、私が世界を統治しよう」
 当然のごとく反発は起こり、そして、誰が女神を手にするかを争う間に、いつしか何もかもが言葉を交わす術も忘れてしまった。

 私が最後の女神であると宣言したとき、この世界がどれだけ女神を見放していても、暴動が起きてもおかしくはなかった。だって、私は物心ついた時から、一度ならず殺されかけた身だ。女神に見捨てられ、既に女神を必要としないこの世界で、こんな宣言をしたら。

「…女神…だって?」
 人々のざわめきを身に受けつつ、私は敢えてそちらを見ないようにして、二人の隊長を見据えた。

「こんなガキが?」
 そう口にした男は、訝しげに眉を潜めた。鉄色の髪を後ろに撫で付けた、細目の眼光鋭い男だ。陽光を鈍く反射する同色の灰藍色の甲冑にはヨンフェンの紋章があり、こちらは反対側にリュドラントの紋章を印してある。おそらくは、ヨンフェンにおけるリュドラントの警備隊長だろう。

「信じなくても構わない。だけど、私の目の届く範囲でこれ以上の戦闘はさせないわ」
「どうやって」
 リュドラントの警備隊長と対峙していた男は、明らかに信用していない眼差しで、私をせせら笑う。彼は獅子の鬣を思い起こす金髪を立てていて、一房だけ何故か腰まで長く伸ばしている。その薄汚れた灰藍色の甲冑にはヨンフェンの紋章が右の肩当の上で、鈍い存在感を示しており、反対側の肩当にはルクレシアの紋章が記されていた。おそらくは、この男がヨンフェンにおけるルクレシアの警備隊長なのだろう。

 私は心を落ち着かせ、ふっと短く息を吐き出す。

「そうね。何をしても信じない者は信じないし、何もしなくても信じる者は信じる。だけど、」
 今ここで必要なのは、私が本物の女神の末裔かどうかじゃない。今ここで必要なのは、はったりだ。私は意識して口端を吊り上げ、まっすぐにリュドラントの警備隊長を睨みつけた。私の眼前で彼の眉がほんの少し上がる。

「リュドラント王は潔癖で有名だよ。勝手に戦争を起こしたりして、しかもルクレシアの謀略に巻き込まれて、あげく負けたりなんてしたら、当然貴方は処罰されるね」
 私の言い様に、リュドラントの警備隊長の目が剣呑な光を点す。彼の構えた剣の前、私は静かに拳を構える。

「俺が負けると」
 相手の手が剣の柄にかかるのをみて、私は不敵な笑いを口元に滲ませた。

「たとえば、の話。まあこんな小娘に容易に負けてくれるような男が警備隊長な訳もないでしょうけど」
 二国で構成されたヨンフェンの警備隊は建前上、境界を侵さないという条約に従ったものではあるが、互いに力を誇示するように両国の精鋭が揃えられている。その中でもトップに立つ二人の警備隊長は、武においても知においても優れたものでなければなれない。

「やけど、女に剣を向けるような者が警備隊長であるわけがないやろう。そこまでにしとけよ、アデュラリア」
 間に割って入ったのはルクレシアの警備隊長だ。

「ほんで、ヨウ。あんさんも安い挑発にのるな」
「のってねェ。それはてめぇの知り合いか?」
 ヨウと呼ばれたリュドラントの警備隊長は、不機嫌さを隠そうともせずに目を眇める。

「馴染みでな、ちびっとばかり気が強い」
 リュドランとの警備隊長はどこが少しだと履き捨てるように言うものの、既に二人に戦闘の意志は見られない。リュドラントの警備隊長に多少の嫌気は残ってはいるが、ルクレシアの警備隊長との対応の様子は、普段からこういう男なのだと物語っている。

「え…仲、良いの…?」
 さっきの騒ぎが何だったのだと言いたくなる二人の様子には、命を張ろうとしていた私としても首を傾げたくもなるというものだ。

「よくねェ」「ようない」
 二人で仲良く否定されても、全く説得力がない。もしや、これでは私の決死の女神宣言の意味などないのではないだろうか。

 私が彼らを戸惑いの目で見上げると、ルクレシアの警備隊長はなんだと憎たらしいほど陽気に笑う。さっきまでの戦闘などなかったかのような、陽光そのままの笑顔だ。加えて、リュドラントの警備隊長はなんだと不機嫌に睨みつけてくるものの、先程までのような殺気はまったくない。

「さっきの叫んでたの聞いたから、二人は戦ってたんじゃないの?」
 私の問いに、リュドラントの警備隊長は舌打ちを返した。

「せっかく、この男を葬る良い機会だってのに、余計なことをしやがってっ」
 余計なことというのは、私の決死の女神宣言のことだろうか。

「いやだなぁ、ヨウくん~。俺ら仲間(つれ)やろ?」
 へらへらと笑うルクレシアの警備隊長は、片手でリュドラントの警備隊長に向かって手を振る。大して、リュドラントの警備隊長はますます眉間の皺を深くしていた。

「あの程度のことに騙されるほど抜けとるようなのが、警備隊長なんかやってられると思うか?」
「先に仕掛けたらおまえらに攻める隙を与えるようなもんだ。そんなことをするような馬鹿はこの俺の部下にいらん」
 とりあえず、先程からのやり取りを見る限り、小競り合いが本格的な戦となる可能性が低くなるくらいの関係に見える。

「ヨウは虎視眈々とこっちの隙を狙っとるからな~、そない安易なことするわけないって」
 私に触れようとしたルクレシアの警備隊長の手の前を、不意に突風がつらぬいた。とたんに、それまで笑顔を張り付けていた男の目元が、剣呑に光ったようにみえた。

「っと、あいかわらずあいつとおるのか?」
「え?」
「オーサーやろ、この風。ったく、昔っからあんさん一筋で、正直うっとおしいんだよな」
 ここで意外な名前を持ちだされ、私は慌ててあたりを見回した。周囲の人垣の中に見慣れた幼馴染みの姿は見つからないが、この大人数の中からオーサーの気配だけを探り出すほどの力を私はもっていない。

 いや、そんなことよりも、なぜこの男がオーサーを知っているのだろうか。そういえば、さっきから私を知っているような口ぶりだけど、こんな知り合いなんて、いただろうか。

「オーサーを知ってるの?」
 顔を見ても彼が誰なのか思い出せない私は、ルクレシアの警備隊長に視線を戻して首を傾げた。だが、すぐに耳を強く引っ張られ、る。引っ張ったのは耳元で騒ぐちんまい妖精だ。

「こんなやつに関わっちゃだめです、アディ。忘れたんですかっ?」
「ちょ、痛いって、ファラ」
 さっきの突風はおそらくこの妖精だろうと気がつき、私はわかっていながらも少しだけ落胆してしまった。だがそれを隠して、どうやら彼を知っているらしい妖精に、私は小さく問いかける。

「誰?」
 俺様の目の前でそりゃねぇだろ、と警備隊長が片手を自分の額に当てて、大げさに呻く。

「確かに逢っとる回数は少ないけど、帰るたびに遊んでやったやないかぁよーっ」
 遊び相手で、オーサーのことも知っているということは、マリベルに拾われてからの知り合いということになる。となると、村には子供もいないし、おそらくは一番近いミゼットの遊び仲間のうちの一人ということになるだろうが、年頃になりミゼットを離れた者達の中に懇意にしているものがいたかどうかさえ覚えていない。

 私がそうやって考え込んでいると、いきなり身体を後ろに引っ張られた。その気配はよく知るものだったため、私は抵抗もせず、むしろ触れる手の暖かさに安堵して勝手に頬が緩んでしまう。

「待ってるっつっただろうがっ!」
 頭上からディに大声で怒鳴られて、私は堪らずに耳を塞いだ。

「ご、ごめん…」
「俺がっ、どれだけっ、心配したとっ」
 怒鳴りながら、ばさりとディのマントで隠すように包み込まれてしまい、私は少しだけ慌てた。

「ディっ」
 上からディの謝罪の声と、大人しくしてくれという懇願が降ってくる。理由もなく私の視界を塞ぐわけもないのだろうが、ここまでしなくとも安堵からか私は一歩も動けない。気のせいかもしれないが、先ほどの矢傷の痛みが蘇ってきた気もする。

「あんたらがヨンフェンの警備隊長か? …ておまえ、ヨウ?」
「兄貴…?」
 ディの問いかけに、リュドラントの警備隊長から不審気な声が返された。

「お前が隊長なら丁度いい。ちっとおまえんとこの王様まで取り次いでくれ」
「なんでだよ」
「必要ならこいつを持っていけ」
 ディはゴソゴソと自分の身につけた何かを探り、それを相手に放り投げたようだ。しかし、何を渡したのかまでは、マントに包まれたままの私ではわからなかった。

「柄尻を見せりゃ話が通る」
 その言い方から、たぶん短剣か何かなのだろうが。

「なんで、あんたがこんなところにいるんだ」
 マントに隠されて彼らがどんな顔をしているのか、私には何もわからない。でも、ディの手は強く私を抱いて、決して離すまいとしている。そして、リュドラントの隊長の声は、焦燥を含んでいるように聞こえた。

「ちっ、せっかく再会したってのにまた護衛つきか」
 マントの中にいても、私にはルクレシアの隊長の小さなボヤキが聞こえた。その声だけを聞いていれば、かすかに覚えがあるような気がしないでもない。

「なあ、おまえキレーだなっ」
 記憶のどこかで似たようだが少し幼い声が、夕日を背に笑う。夕日に照らされて銅線を思い出させる赤髪で、あの頃の自分には眩しすぎる笑顔だった。

「はぁ? あったりまえでしょ」
 私はまだあの名もなき村に住むようになったばかりで、彼は私よりも随分背が低いけど自信に満ちた目が、未来を見ているその瞳が、大嫌いだった。だから、強気な言葉とオーサーとつないだ手の中に、私はいつも弱さを隠してた。

「俺の嫁になれ! 俺、絶対に大切にすっからっ!」
 そうだ、それで、初めて私に告白してきた奇特な男の子だった。

「ジェリン!?」
 私はディの腕の中からもがきつつ、マントから顔だけでも出して、ルクレシアの警備隊長を見つめる。そういえば、あのときの記憶では赤髪だけど、あれは夕日のせいというだけで、元々は金の髪をしていたと思い出す。思い出と重ねてみれば、その笑顔に面影もかすかに残る。

「やぁっと思い出したのかよ」
 嬉しそうに笑うジェリンことタンジェリン=クォーツはやっぱり能天気な笑顔で、だけどよく見ればあの頃とまったく変わっていなかった。

「わざわざ俺様の嫁になりにきてくれはったなんて嬉しいぜー」
「んなわけないでしょ」
「はっはっはっ…即答なんてつれへんねぇ」
 ジェリンと話していると腕が離されたので、私はディを見上げた。が、私が彼の顔を確認するより早く、上から頭を押さえつけられて、私はそれをすることは叶わなかった。

「アディの知り合いなら話が早い。警備隊で治癒術の使える奴らを呼んでくれ」
 あいよ、と軽く応えたジェリンが片手を上げる。その手に微かに赤い星のような光が瞬く。

「まぁた無茶したのかよ、アデュラリア。女なんやし痕が残るような怪我すんじゃねぇよ」
「……ジェリンには関係ないでしょ」
 痕が残った所で、今更自分には関係ない、と私は勝手に思っていた。だけど、ジェリンは私が思いもよらないフォローをしてきた。

「ないことないって。なんたって未来の俺様の嫁だし」
「ば、な、勝手に決めないでよっ」
 ジェリンは昔から、女ならば誰にでもこんなことを言っていると知っているのに。私は懐かしさと気恥ずかしさで、熱くなる頬を両手で隠すように抑えるしかなくて。そんな私を少し切ない目でディが見てたなんて、気づきもしなかった。

p.8

37#よくある治療



 四方を積み重ねた白っぽい灰色の石で囲まれた、丸椅子二つと簡易ベット一つしか四畳半程度の小さな部屋一つしかない建物の中に、私はディの手で運び込まれた。ここはヨンフェン警備隊のルクレシア側の詰所であるという。飾り気ひとつない、この簡素な詰所には通常は当番の兵士二人が詰める程度で、主な警備兵はヨンフェンの町に紛れて生活しているということだ。

「外にいる」
 たった一言、それだけを残して、ディはあっさりと部屋から出て行った。お小言も何もかも後回しにして、とりあえずは治療を優先させるということだろう。大きな背中が出て行くのをぼんやりと見ていると、入れ替わりに小柄な兵士ーーだが、小さな魔石を複数身につけた魔法士と思しき者二人と共にジェリンが中へと入ってきた。

「なんでジェリンもいるの」
「気にすんなや」
「……別にいいけど」
 ここで口論しても仕方ない、と切り替えて、私は目の前の魔法士二人に頭を下げた。

「えーと、宜しくお願いします」
 二人は顔を見合わせ苦笑して返してきた。魔法士といっても軍属とだけあって格好はジェリンと大差ない。違いといえば、腰には剣の代わりに細長い杖を差し、腰に巻いたベルトや腕、胸、指になどいたるところに魔石が装着されている。大きさは二ミリにも満たない程度のもので、通常ならば判別できる色も分からないため、一見しただけではどんな効果があるのかわからないが、それでも数だけは多い。

 一人は私より少し年上ぐらいで、もう一人はフィッシャーぐらいの年齢に見える。名前は聞いたけれど、あいにくと私に覚える気がない。

「上衣を脱いでください」
 ここで恥じらう意味はないので、私は頷き、彼らに背を向けて服を脱いだ。着ているものはシャツと下着ぐらいなのだが、シャツを脱いだだけで、後ろで息を呑む複数の声がした。気にはなったが、続けて胸を抑えていたあて布を外す。

「ひどいの?」
 怪我の位置は右肺の少し上の肩辺りだが、自分の見える範囲に見えるのは小さな穴があるだけだ。普通の怪我ではないためなのか、既に血は止まっている。私自身の元々の治癒能力の高さもあるのだろう。その上、ハーキマーさんからもらった薬がまだ効いているので、私自身に然程痛みはない。

「ひどいというか」
「隊長、」
 魔法士二人のためらう声に、私は顔だけで振り返る。ひどく真剣なジェリンの視線が、まっすぐに私の背中を見詰めているのがわかり、私は訝しげに眉を顰めた。

 ジェリンにはふざけている様子はまったくなくて、それは確かに隊長と呼ばれるだけの格があって。かつての姿と重ならなくて、別人ではないかと疑いはじめた頃、彼は口を開いた。

「アディ、成長してへんな」
「は?」
「もう十五なんだし、あとチトぐらいはあってもえぇーと思うぜ」
 ジェリンの手元が何かを掬い上げるような動きをして、瞬間的に私は彼が何を言っているのかわかってしまった。つまり、この男は、この状況下で、私の胸が小さいことを指摘しているということだ。そりゃ、布を当ててなくても大きさに然程違いは出ないけど。

「あんたに何の関係があるのよっ」
 怒鳴り返した私を無視して、ジェリンが年上の魔法士に続ける。

「おい、こいつに治療のついでに豊胸の、」
 私が胸を脱いだ服で押さえたまま後ろ蹴りを放つと、ジェリンは笑いながら戸口へと逃げた。

「誰がそんなこと頼んだかー!」
「あぶねぇぜ、アディ。見えるぞ」
「出てけーっ!」
 ジェリンを追い出してから室内を振り返ると、魔法士二人は苦笑していて。

「……あの、隊長が言うほど小さくはないかと……」
「っ」
 余計なことを言う年若い魔法士を睨みつけた私は、悪くないだろう。

「治療だけ、お願いします」
 余計なことはするなと私が強く睨みながら言うと、魔法士二人は苦笑いしながら頷いた。

「お嬢ちゃん、痛くはないかい?」
 年嵩の魔法士に尋ねられ、私は痛み止めを服用中だと答えた。

「じゃあ、とりあえず、損傷箇所の修復と造血か。エリス、洗浄と修復だ。できるな?」
「はい」
 命じられた若い魔法士は真剣な顔で頷き、私の肩の傷口に、背中からひんやりと冷たい手を当てた。

「楽にしててください」
 緊張していた私に、穏やかな笑顔を年嵩の魔法士が向けてくる。

「えーっと、魔法、効きますかね?」
「おや、効かない体質ですか?」
「ジェリン……隊長さんからお聞きではないですか? 一応、女神の末裔なので、」
 口にした瞬間、肩で熱がはじけた。

「っ!」
 痛みに両目を閉じ、身体を丸めて呻いていると、焦った様子の声が室内で騒ぐ。

「え、ええっ!?」
「おちつけ、エリス」
「だ、え、女神っ!?」
「騒ぐな」
 ゴンと頭を殴られる音がしたかと思うと、どさりと私の足元に年若い魔法士が倒れて、頭を抑えている。

「すまんね、お嬢ちゃん。今度は私がさせてもらうから、もう少し我慢しててくれ」
 我慢て、聞き返すまもなく、肩の傷口に熱い掌が触れた。

「ーー吾女神に請い願うーー」
 そこから紡がれた力ある言葉は、私を大いに驚かせた。女神の力を使うものが残っているとは、思っても見なかった。

 僅かに痛みを持つ部分を中心に、わずかだが春の日差しのような暖かさが体全体に広がり、爪先にまで行き渡る。女神の治癒術なんて初めて施されるのに、何故か私は懐かしいと思ってしまっていた。これは、私の中の女神の記憶、なのだろうか。

「……おじさん、誰?」
 私が戸惑い、振り返ると、年嵩の魔法士は軽く肩を竦めた。

「ヨンフェン警備隊救護部隊隊長、メチル=エーテルって、最初に自己紹介しましたよね?」
「じゃなくて!」
「それから、私はおじさんじゃなくて、お兄さんです」
 何故か誤魔化すようなことばかりをいう年嵩の魔法士を睨みつけると、生温かな眼差しと苦笑を返された。それから、右手の人差指を口元に当てて、囁くように明かしてくれた。

「今生で女神様にお会いできて光栄です。私の系統(ルーツ)はただの葉っぱなんですけどねぇ。学院で研究していた失われた女神の力を使えることが二、三年前からわかりまして。今は研究の一環で、こちらで治癒をメインに実験をしているところなんですよ」
 学院というのはおそらく王都の王立学院を示しているというのはわかった。そこは素質とそれなりの身分が必要だと聞いているから、おそらくは彼もそれなりの貴族の身分を持っているのだろう。

「思えば、女神様の降臨が成されていたから、失われた力を使えるようになったんですかねぇ」
 軽い笑いを零した魔法士の言葉は、珍しく嫌味でなく、温かく私の心に届いた。

「ーー降臨はしてません」
「みたいですねぇ。まあ、どちらでもいいんですよ。私にとって重要なのは、この女神の力で何ができるかということですから」
 ジェリンに報告に行くと言って、メチルという魔法士がもうひとりのエリスという魔法士を引きずって部屋を出て行った後で。

 私は戸惑うままに、首に手をやり、ため息を付いた。

 女神の力が失われていたから、世界は女神を忘れたってことなのか。それとも、使えるものが使おうとしないうちに技が廃れて、消えてしまっていたのか。或いは、人々の魔力の保有量が減少しているのが原因なのか。

(フィッシャーたちなら、何か知ってるのかな)
 機会があったら、訊いてみてもいいかな、と考えながら、私は脱いだ服に手をかけた。

p.9

38#よくある刻印



 女神の治癒術というのを初めて受けたが、身体が日向ぼっこしているみたいに温かい。脳髄まで緩んでしまいそうな暖かさに、私は機嫌よく着替えて、言われたとおりに簡易寝台へと横たわった。

 直ぐに眠気が襲ってきたのは、魔法で治癒されたとはいえ、身体が修復のために休息を求めているせいだろう。たしか、マリベルがそんな話をしてくれたことがあったような。

(……ディ……?)
 眠りの深淵に誘い込まれ、沈む寸前、誰かが部屋に入ってきた気がしたけれど、もう私は目を開ける気力もなかった。

「アディ」
 髪を撫でられ、あれ、いつのまに解いたんだっけと疑問が掠めたが、そんなものは睡魔の前では瑣末な問題だ。あとあと、と闇に意識が沈む寸前、大きな音が私の頭上で聞こえた気がした。たぶんだけど、ディが壁を殴った音じゃないかと推察される。

「……最悪だ……っ」
 今まで聞いたこともない酷く苦しげなディの低い声は、私の夢の中まで追いかけてきた。おかげで、私の寝覚めは悪いったらない。

 それなのに、普段と同じ飄々とした様子でジェリンをあしらうディを見た私の、この複雑な心境が誰にわかるだろうか。

「女神だからだぁ? ふざけるんも大概にせえよ」
 私がぼんやりと目を覚ましたとき、すぐそばにはジェリンとディがいた。二人は小声で話していたけれど、狭い部屋の中では聞かないことのほうが難しい。

 ジェリンの声音には、私の知っているふざけた様子は欠片もない。本気で怒りに燃えているジェリンは続ける。

「そないな理由で俺様の嫁に勝手な印なんかつけよったんかいッ」
 彼の勝手な主張は置いておいて、印って何のことだろう。

「アディの肌に印をつけてもいいのは俺様だけやて、昔から決まってんのやぞッ」
 何を言っているんだ、この馬鹿(ジェリン)は。私はこれまでに一度たりとも、ジェリンに印をつけられるようなことをされた覚えはない。

「少し落ち着け、あんた、仮にも警備隊長だろうが」
 呆れたディの声音は眠る前に聞いたのよりも落ち着いていたので、私はあれは夢だったのかもと安堵した。あんなディを私は見ていたくなかったから。

 間をおいて、不服そうなジェリンがディに問いかける。

「何でそない、落ち着いてられるんや。あんたはアディに仕えてる騎士やないかい」
「刻龍の印は目当てを報せるだけのものであって、それですぐさま死に至るわけじゃない。傍で守ればいいだけのことだ」
 会話の片鱗から、私はようやくジェリンたちの言う「印」に合点がいった。考えてみれば受けた矢は魔法製で、放ったのは刻龍の者だ。私の怪我した箇所に、オーサーの腕にあった死の刻印と同じものが残されたとしても、なんら不思議はない。むしろ居場所を捉える魔法を使う、絶好の機会だっただろう。

「魔法使われたらどないする気ぃや」
「それはない」
「言い切れへんやろッ」
 聞き分けのない子供を諭すように、静かにディが言う。

「刻龍には、絶対の掟がある」
 そういえば何故ディは刻龍に詳しいのだろう。聞いたことはなかったと、私は今更のように気が付く。いや、私がディについて知っていることなんて、女神の従者であるということと、オーサーの両親ーーつまりはマリベルに依頼されて、私を守ってくれる騎士だということぐらいだ。

「女神に関わる者は必ず剣(つるぎ)をもって、葬らなければならない。もっとも女神を殺すほどの魔法は、女神の内から生まれるものだから、女神自身を、つまりアディを死に至らしめることなんぞできやしねぇがな」
 気配が動いたかと思うと、近づいてきて、私の寝台を揺らして座った。ついで、上からわしゃわしゃと前髪を撫でられて、私は心底吃驚した。

「わっ」
「熱は下がったみてぇだな、アディ」
 私が起きていたことに、ディは気がついていたらしい。観念して目を開け、私は手の先を辿って、ディを見上げる。私を見下ろす彼は、普段以上にとても優しい顔をしていて。

「動けるか」
 背筋がむず痒くなるディの優しさを振り払い、私は右手を軽く握って、力を入れても痛みがないことを確認し、彼の手を借りずに起き上がった。うん、眠る前よりも頭もはっきりしているし、身体の感覚もしっかりある。旅に出る前、日常はいつもこれぐらいだった気がする。ーー知らずに溜まっていた疲れも、一緒に吹き飛んでくれたのかもしれない。

「大丈夫そうだな」
 ごく自然と伸ばされたディの腕に首を傾げていると、程なく私は大きな腕の中に迎えられていた。つまり、ディに抱きしめられているわけだが。

「あーッ! あんた、何してんのや。アディは俺の嫁やゆーてるやろッ!」
 当然のように騒ぎ出すジェリンの声は、幸いというかディの腕の中にいる私には少しくぐもって聞こえる。てか、誰が誰の嫁だ。

「そういうわけだから、今後は何があっても絶対に傍を離れねぇからな」
 頭の上から囁くように示された決意は、しばらく撤回されることはないだろう。

「え、えと、ディ?」
 普通ならここは焦る状況なのだけど、私が腕の中から見上げたディの表情は、完全に相手をからかっているときの顔だ。この場では十中八九、ジェリンを、ということで間違いないだろう。

「アディから離れんかい、おっさんッ!」
 そういえば、ディという男は、最初から人を食ったような男だったことを思い出し、私は深く息を吐きだしてから、その腕を抜け出した。ディを間に挟んだまま、まっすぐにジェリンを見つめる。

「ジェリン、リュドラントの隊長は?」
「俺に何か用かよ」
 ひどく不機嫌な声が室内で聞こえて、私は本気で吃驚した。室内がとても狭いのは、ディとジェリンのせいだけでもなかったらしい。

「い、いたんだ」
 ごまかし笑いをする私を見て、彼はさっさと自分の用事を済ませてしまうことにしたらしい。

「我が国リュドラントの国王陛下が、直々に女神の末裔殿と話がしたいそうだ」
 リュドラント側の警備隊長は不機嫌もかくやと言った顔を隠しもせず、淡々と告げてきた。それはこちらとしても願ってもみない申し出だし、断るつもりはないけど。

「明朝、砦の向こうに案内する。あるかどうかしらんが、せめて女の格好で出てくれよ」
 極めて業務的な言い方から、なんとなくこの人に私は嫌われているような気がする。そりゃあ、喧嘩を売ったけど、リュドラントの警備隊長は買ってないじゃないか。買おうとしてたのを止めたのは、ジェリンだけども。

 用事は済んだからと出て行こうとするリュドラントの警備隊長を、ジェリンが彼の首に腕を回すようにして捕らえる。

「何勝手に出て行こうとしてるんや」
「俺は明日の準備があるんだ。貴様なんぞに構っている時間はないっ」
「ディさん、こいつの兄貴ならゆうてくれや。こいつは女の子が来てもいつもぶすっとしよってからに」
 ああそういえば、ディとリュドラントの警備隊長は知り合いみたいだったのを今更思い出した。

「兄貴じゃねぇ。こいつは昔の知り合いってだけだ」
 ディのあっさりとした否定に、しかし私とジェリンは同時に首を傾げていた。そして、私達が問うより早く、リュドラントの警備隊長が口を切る。

「貴様らにはどうでもいいことだろう」
 じゃあな、と出て行こうとした彼の背を見たジェリンが、先ほどのディと同じような質の悪い顔で笑った。

「ヨウ、あんさん、やけに女っけがねぇ思たら、そっちか」
 思わせぶりだが、遠回しな言葉に私は首を傾げた。そっち、ってどういう意味だ。

「俺は違うからな」
 なにかわかっている様子のディが否定し、ジェリンは更に笑みを深める。

「そーか、そーか、なぁるほどなぁー」
「貴様、何が言いたい」
 怒気をはらんだ声で振り返ったリュドラントの隊長が、ジェリンを睨みつける。が、そんなものなんだと当人はあっさり受け流しているようだ。

「別にぃ? バラしたりせぇへんよ。リュドラントの警備隊長が「男好き」だなんて、こんなおもろいこ」
「貴様っ!」
 剣を抜こうとしたリュドラントの警備隊長の腰の剣を、ジェリンはあっさりと柄を抑えてしまう。思わず感心してしまうほどの鮮やかさだ。

「誰が、男好きだ!」
「ヨウやろ」
「単に同じ部隊にいたことがあるだけだ!」
「リュドラントのか?」
「そ……っ」
「ヨウ」
 二人の声をディの重い声が遮った。ジェリンは既に笑みを収め、恐ろしく真剣な眼差しでディを見つめている。リュドラントの警備隊長は、自分の失言に気づいて渋面していた。

「最初からそれが狙いか。心配しなくとも、俺の剣は既にアディに捧げている。今更リュドラントに義理立てするつもりもない」
 ジェリンから目線で問われ、私は仕方なく頷いた。強引だったとはいえ、ディが私を裏切ることはないだろう。ディにとって、剣を捧げる主というのは、かなり特別なものであるのは確かだからだ。

「……ジェリン、ディは従者なんだよ」
「あ?」
「女神の従者。だから、絶対に女神を裏切ることは出来ないんだよ」
 私はあえて自分ではなく、「女神」を裏切れないと口にした。

「それがどうした」
 しかし、ジェリンはそれでは信用出来ないらしい。ディはため息を付いて、私の言葉に口を添えた。

「違うだろ。俺は、女神なんかじゃなく、オマエに誓ったんだ、アデュラリア」



ーー女神の盟約により、我はアデュラリアに騎士として、終生護り仕えることを誓う。



 一瞬、あの時のディの姿と、誓いを思い出してしまった私は、結局口を曲げて顔を背けた。

「……頼んでない」
「言えば、誓わせなかっただろうが。それじゃ、おまえを守りきれねぇ」
「……そんなの……っ」
 いらない、と言おうとした私の前に、ジェリンが溜息とともに口を開いた。

「オーサー二号かよ」
「は?」
「あーもー、やっぱ、無理言って、居座りゃよかったっ!」
 何故か頭を抱えて呻くジェリンに、私を含めた三人が戸惑った。えっと、さっきまでこの人に尋問されてたはず、だよね。

「あのー、ジェリン?」
 それから私をみたジェリンは、何故か切なそうな顔をしている。

「最初に会うて、俺がなんてゆーたか、覚えてるか」
「えーと、嫁に来い……」
「あれな、けっこう本気やったんや。せやから、親父とかおまえんとこの村長とかに頼んで、なんとか村に置かせてもらおうとしたんやけどな。どっちも折れんかった」
 急に始まった打ち明け話に、先にリュドラントの隊長がため息を付いた。

「おい、俺はもう」
「子供過ぎたとか、そんなんやないで。俺かて、その頃には親父の手伝いもしとったんやからな。でもな、村長の出した条件がどうしても無理やった」
 そんなことがあったのか、と大人しく聞いていた私は次の瞬間笑ってしまった。

「村長夫人も含めた村の人間全員に勝てるなら、と。俺は最初のひとりにさえ、かすり傷ひとつ付けられず、あしらわれた」
 それは、私も村でやられた遊びの一つだ。毎日毎日、遊んでいると思ったら、拳闘士としての術をほとんど授けられていた。それでも、ヨシュにさえ、手加減してもらえないと勝てないんだけど。オーサーと二人で、村の人間の半分がやっとだ。

 ちなみに本当か嘘か、村最強はマリベルだと言われたが、真偽を確かめることはできていない。

「そりゃぁ、無理だろ」
 呆れたディの言葉に、私とジェリンが目を向けると、生温かな目で見られた。

「あの村の人間のほとんどが、本物の剣術使い、魔法使い、ないし、札士だからな。村長夫妻に至っちゃ……っと、しゃべりすぎたな」
「え、マリ母さんたちがなんなの?」
「知りたいなら、本人に聞いてくれ。俺も命は惜しい」
 残念なことにディはそれ以上教えてくれなかった。確かに、村の外と中ではあまりに力量差がありすぎることは私も知っていたが、何か理由があるとまでは考えなかった。無事に村へ戻ることが出来たら、ヨシュか村長辺りでも問い詰めよう。マリベルには間違いなくはぐらかされそうだから、そもそも聞かない。

 小さい頃のジェリンが勝てなくても無理は無いとしても。

「そういや、いつの間にか来なくなったよね。いつから、軍人になんてなったの?」
 私が首を傾げて問いかけると、ジェリンは何故か寂しそうに笑っただけだった。謎だ。

 さて、ジェリンとディと話しているが、この場にはもう一人いる。リュドラントの警備隊長だ。彼はディが私に騎士の誓いをしたという話の辺りから、ディを鋭い目で凝視している。

「兄貴……」
 二人は目線を合わせて、それだけで会話終了してしまった。やはり、ディが主を持つということは何かあるのだろう。もしかすると、リュドラントにいたことにも関わりがあるのかもしれない。

 しかし、これは困った。なんといっても、何故か場の空気が重い。原因はリュドラントの隊長とディのせいだ。私が救いを求めてジェリンを見ると、彼は数度瞬きしてから笑顔で頷いた。

「せや、アディのドレスを仕立てんとあかんな」
 斜め上の助け舟どころか、ジェリンはあり得ない展開をねじ込んできた。

「いくらなんでもリュドラントの王様に会うのに、そのカッコはないやろ。近くに知り合いの仕立屋があるし、いくか」
 にかりと笑うジェリンから、私は自然と後退り、距離をとろうとした。しかし、ここは狭い室内。半歩で踵が壁についてしまう。

「や、やだ……」
「観念しぃ」
「いーやーだーぁっ」
 抵抗むなしく、私はジェリンに担がれるようにして、その場を抜け出すことになったのだった。

p.10

39#よくある後悔



 翌日の早朝はいつかの日を思いださせるような白い靄がヨンフェン全体を覆っていて、私はあんまり良くない気分で起きだした。

 泊まったのはヨンフェンに来て直ぐにとった宿屋で、二人部屋のもう一つのベッドには既にディの姿がない。食事処が開いているわけでもないし、何か用事があって出ているのか、どちらかの隊長に呼ばれてでているのか、私は知らない。

 何故か室内に用意されている水の溜まった水桶に指を入れ、私は小さく息を吐いた。冷たい、ということはこれを置いてからディが出て行ったのなら、さほど時間は経っていないだろう。

 ベッドサイドの小さめのテーブルに置かれた、伏せられた透明なコップを手に取り、水桶から水を汲んで、喉に流し込む。体中を巡る水を感じながら、目覚め始めた身体を動かし、私は顔を洗った。

 水面に映る女の顔がちょっと泣きそうに見えたので、パシャリと音を立てて、水面の姿を消した。

 女神の宣言をしたのはつい昨日のことだ。騒ぎは大きくなっていないが、王都には早々に伝わるだろう。王都の大神殿に囚われているオーサーがが偽物と判明した場合、彼がどう扱われるのかが心配だ。だから、一刻も早く、こちらでの騒動をーーつまり、リュドラント王との話し合いを済ませて、オーサーを迎えに行かなければならない。

 泣いている時間も、弱気になっている時間も、私にはないのだ。

 手早く身支度を済ませた私は、小さな荷物を手に宿屋を後にする。支払いをしようとしたが、カウンターにいた宿の主人がそれが済んでいることと、宿の外で待っている者のことを教えてくれた。

 待っていたのは、ジェリンだ。

「おはよ、ジェリン」
「おはようさん。じゃあ、行くか」
 先に立って歩き出すジェリンが向かっているのは、昨日連れて行かれた仕立屋だろう。持って帰っても一人では着飾ることが出来ないため、そこで全部を任せてあるのだ。

「よう寝れたか?」
「まあまあ」
「そうか」
 実は、昨日連れ去られてから後のジェリンと私の会話は少ない。てっきり、勝手に色々と話してくれるのかとおもいきや、何度も何かを言いかけては口を噤んでしまっているのだ。私は沈黙をそれほど不快には感じなかったから放っておいた。

 ミゼットほどの広さもない、こじんまりとしたヨンフェンの町では、宿から仕立屋までの距離はほとんどない。結局、何も話さないまま目的地に着いてしまった。

「アディ」
 戸を叩く前に、ジェリンが私を顧みて、困った様子で口を閉じる。何かを言いたいのだろうけど、音にしなければそれが何かも私にはわからない。

「何?」
 私が真っ直ぐに見つめ返すと、ジェリンは困惑し、何故か頬を染める。て、なんでだ。

「ジェリン?」
「……あかん、あかんわ」
「は?」
「俺は、ヨンフェンの警備隊長なんや」
 何故か私の両肩を抑えて、自己紹介を始めようとしてくるジェリンに、私は今非常に困っている。

「顔も性格も、センスだってええ。剣の腕も立つし、指揮官としても認められとる」
 彼が言うように、ただ強いだけで警備隊長になれるとは思わない。ここは隣国との要の関所なのだ。真っ先に戦端が開かれる可能性の高い場所でも有る。そこにいるのだから、それだけの実力があって当然だろう。

 まして、ジェリンは元鍛冶屋の息子。つまり、民間人から実力でここまでのし上がって来たのだ。強さだけでないというのは、当然だろう。

「なのに、なんで今更会いに来るんや……っ」
「別に、ジェリンに会うために来たわけじゃないよ。たまたまジェリンがヨンフェンの警備隊長だっただけで」
「俺にはもう……」
 それっきり黙ってしまったジェリンは、俯いたまま私を抑えていた腕を離し、頭を抱えてうずくまってしまった。

 何を悩んでいるのかわからないが、そこでしゃがんでいられると、仕立屋に入ることが出来ないのだが。

「もう、なに?」
 これはもう話さないことにはどうしようもないな、と私は呆れながらも先を促した。ジェリンは大きな身体を微かに震わせ、私を見上げる。

「ほんま、おまえは変わらんなぁ、アディ」
「変わる必要ある?」
 私が首を傾げると、ジェリンは一瞬の間の後で、再び俯いて、意味のない呻きを上げた。

「なぁ、もし俺がずっと一緒におったら、アディは俺を選んだか?」
「選ぶ?」
「俺の嫁になったか?」
 私は数回瞬きしてから、首を傾げた。

「無いと思うよ。だって、私が結婚とかできるわけないでしょ。系統(ルーツ)を証明されてないんだから。それに、女神の系統(ルーツ)が短命なのは本当だよ?」
 ジェリンの目が心底不思議そうな顔をするが、これは事実だ。誰がどのように亡くなったとか、そういうのは全く残っていないが、有名な所でリンカ王妃は二十歳になる半月前に、病死。一番古い女神の記憶も二十歳を前に、殺されている。そういえば、時々夢に出てくるルナって女神の系統(ルーツ)の子も、かなり若くして亡くなっているはずだ。他にも記憶の端々に、若くして亡くなる者が多い。

 死にたがりというわけじゃないし、愛国心とかがあるわけじゃない。皆が皆、孤児だから、親の顔も知らないしね。ただ、この世界を守るためだったら、きっと私も同じ事をするだろう。

「私は生まれた時から一人だったし、死ぬ時も一人でいいと思ってる。マリベルやオーサーは泣いてくれるかもしれないけど、それ以上に大切な人はもう」
「あの騎士のおっさんは?」
「え?」
「あの騎士のおっさんはどうなんや」
 唐突にディのことを持ちだされた私は、彼を思い浮かべて、思わず渋面していた。

 ディはたぶん、前の主に騎士の誓いをさせてもらえず、殺されている。それもあって、たぶん強引に私に誓いをしたのだ。それが再び主を失うーーそれも、念願の女神の系統(ルーツ)である主を女神の従者が失ったら、どうなるのか。そんなこと、どんなに記憶を探ったとしてもわかるわけない。そもそも、従者がいたことを知ったのはディに出会ってからだ。

「泣きは、しないと思う、けど」
「…………」
「ごめん、わかんない。そもそも、私もよくわかんないんだ。ディは、なんか無条件に信頼しちゃう何かがある。それが従者だからなのか、何度か助けてもらったからなのか、わかんない。ーー私が死んだら、ディ、どうすんだろ」
 私はつい、遠い目をして考えこんでしまった。騎士の誓いは主の位置を知らせるものなのだと聞いた。しかも、ディとしては長年待ち望んだ「女神の系統(ルーツ)を持つ者」だ。今の女神信仰の薄い時代に、直ぐに次が生まれるとも限らない。

 考えこむ私の頭に、ジェリンの手が置かれ、グシャグシャと撫でられる。

「わっ、何、ジェリン!?」
 無言で私の頭を撫で回していたジェリンは、そのまま店の戸を叩き、開かれた薄暗い店内へと私を放り込んだ。

「俺は外で待ってるから、綺麗にしてもらえや」
 そのまま店の戸を閉められてしまったから、私はジェリンがどういう顔をしていたのかも、外で何をしていたのかもしらない。ただ、声は何故か寂しそうだった。

あとがき

話休題二一、よくある陰謀


 感想を下さった寝逃げさん、韻さん、まひるさん、緋桜さん、くるみりさん
 それから、楽しみに読んでくださる方々も有難うです♪


 やっぱりアディの目覚める部分は外せないかなーと後半を書きなおしていたら、薬屋メインになってしまいました。この人でると字数足りなくなる(あらすじなのにっっ


 うーん、やっぱり人称が難点です。でも負けない。頑張ります!


次回は、


【二二、よくある街並】


 オーサー側とアディ側の連携をとれる二人が曲者なのでどうしたもんかw


 感想・批評・酷評大歓迎です♪


 なんかもう長くてすいません!
 ストーリーは既に折り返してるのでもうしばらくお付き合いください



201 2/17 20:46
202 2/17 20:50
203 2/17 20:52
204 2/17 20:56
205 2/17 20:59
206 2/19 07:59
207 2/19 08:01
208 2/19 08:04
209 2/19 08:07
210 2/19 08:19


話休題二二、よくある食事前


 感想を下さった韻さん、寝逃げさん、まひるさん、緋桜さん、くるみりさん、氷室 神威さん、ぼんぼりさん、
 それから、楽しみに読んでくださる方々も有難うです♪


 友人に人称対策には「登場人物の履歴書&相関図を作るとよいらしい」と聞いて、早速「用語辞典」的なものをまとめてみました。
 履歴書&相関図以前に、いろいろと問題に気が付きました。どうしよう。フィスの設定が何かダメな大人な感じに~


次回は、


【二三、よくある会議】


 会議にどんな顔でアディはでるのか、大人二人(フィスとディ)が暴走しないか心配です~


 感想・批評・酷評大歓迎です♪
 ここまで読んでくださり、有難うございます。
 まだ続きますが、最後までよろしくお付き合いください~


24,よくある街並
25,よくある暴動
26,よくある誘拐
27,よくある敵対
28,よくいる英雄
29,よくある祝宴
30,よくある帰還


211 2009-02-20 18:47
212 2009-02-20 18:54
213 2009-02-20 18:58
214 2009-02-20 19:01
215 2009-02-20 19:13
216 2009-02-20 19:16
217 2009-02-20 19:36
218 2009-02-20 19:39
219 2009-02-20 19:51
220 2009-02-20 19:57


あらすじ
(2009/02/22)


話休題二三、よくある会議


 感想を下さった寝逃げさん、緋桜さん、ぼんぼりさん、 それから、楽しみに読んでくださる方々も有難うです♪
 リュドラントとの関係、もうちょっと詳しく書いたほうがいいだろうなぁ
 王妃の話をこんなに簡略するってどうよ(でも、最初に書いたときに吐き気がした)(スプラッタ駄目なんです)(おい)
 でも、こんな話を食事中に話す薬屋の神経がわからない(書いたのはおまえ)(そうだけどー)
 後半は実は21後半に入れる予定だった部分の使いまわしだったりして


次回は、
【二四、よくある手口】


 感想・批評・酷評大歓迎です♪
 ここまで読んでくださり、有難うございます。
 あと六回以内で終わらせられるといいんですが~ 最後までよろしくお付き合いください~


221 2009-02-23 19:41
222 2009-02-23 19:44
223 2009-02-23 19:53
224 2009-02-23 19:56
225 2009-02-23 20:06
226 2009-02-24 07:59
227 2009-02-24 08:02
228 2009-02-24 08:05
229 2009-02-24 08:10
230 2009-02-24 08:14


話休題二六、よくある宣言


 感想を下さった氷室 神威さん、寝逃げさん、ぼんぼりさん、緋桜さん、韻さん、ILMAさん
 それから、楽しみに読んでくださる方々も有難うです♪


 書きながらアディが出血多量で死にそうです
 苦手な戦闘なので作者も死にそう…
 今回も雑です。ある意味粗筋らしい、のかな?


次回は、


【二七、よくある送迎】


 終わるといいなぁ
 でも、終わらない人たちがいるんだよなぁ…


 感想・批評・酷評大歓迎です♪
 ここまで読んでくださり、有難うでした
 まだ続きますが、最後までお付き合いください~


 あ、やっと本編として始動しました。地の文の一行が何故か倍加していきます。…まあ予定通り、かな



251 2009-03-19 12:31
252 2009-03-19 12:35
253 2009-03-19 12:39
254 2009-03-19 12:48
255 2009-03-19 18:17
256 2009-03-19 18:27
257 2009-03-19 18:33
258 2009-03-19 18:37
259 2009-03-19 18:52
260 2009-03-19 18:59


寝逃げさん
2009-03-20 00:05
ファラ久しぶりだ∀`)
妖精さんと言えばあんな感じの口調ですよね、人類は滅亡しましたを思い出しましたω`)
というか……一、二の三で引き抜ける彼女が凄い……д゚)))


緋桜さん
2009-03-20 21:30
まで
アディがおっとこまえだと思いました(*゜▽゜)
どんなヒーローよりヒーローらしいヒロインだと思います~
ラストシーンは本当、流石は主人公だなぁと思ってしまう程、凜としている様子がよく伝わってきました~
ディさんも相変わらずかっちょよくて素敵でした、アディパーティは男女問わず、格好いい人が多いです~~~


私的に、矢を引き抜いちゃうアディの判断はどうかなぁと~~~
ナイフや矢などが突き刺さった場合は引き抜くと出血性ショックで死に至ることも有り得ると思います。
なんでわざわざ引き抜くんだろうと感じました。
弓矢によってアディの二の腕が地面に縫い付けられていたのなら、「地質」と「矢」の詳細な描写が欲しいなぁと。
本編の の場面は「アディの心情」「見守る人々の歓喜の表情」を加えていくと、更にドラマティックかなぁと思いました~


完結間近ですね、ハッピーエンドになって欲しい~~~と切実に願ってます~


神恭さん
2009-03-21 22:01
えーと、感想の前に日頃の非礼と感謝を。


いつも感想本当にありがとうございます。そして、何のお返しもできなくて本当にごめんなさい。


では。


妖精との対話シーン二カ所について少し疑問に思ったところがあります。


まず、257の泣いている妖精の描写。若干足りないかな、と。
言葉を必死に絞り出しているシーンですが、「肩を震わせる」とか、「顔をくしゃくしゃにする」なんかを加えるとより哀しみの表情が出るのではないかと思います。


次に、258の「アディはだめて~」の所。
ここは逆に信頼の裏返しから来る台詞だと思ったのですが、できればそれを表すような表情か声の様子を表す描写が欲しい気がします。


ストーリーに関しては自分が口出しできるレベルではないので、今回は焦点を絞って言わせていただきました。, 話休題


 感想を下さった氷室 神威さん、寝逃げさん、ぼんぼりさん、緋桜さん、韻さん、ILMAさん、神恭さん、
 それから、楽しみに読んでくださる方々も有難うです♪


話休題二六、よくある宣言(改)


 ごめんなさい、週末考えて、納得いかなくて結局書き直しました
 感想で指摘があった部分は自分でもものすごく気になっていた部分でした
 書き直しで良くなっていればいいけど、ダメになっている感も否めない…


 そして、投稿が今は消せないってどうしてなのー
 消せるようになったら消します


次回は、


【二七、よくある送迎】


 アディ陣営がまともに集まってくれればいいのにー


 感想・批評・酷評大歓迎です♪
 ここまで読んでくださり、有難うでした
 まだ続きますが、最後までお付き合いください~



261 2009-03-23 12:33
262 2009-03-23 12:39
263 2009-03-23 12:47
264 2009-03-23 12:51
265 2009-03-23 12:55
266 2009-03-23 19:03
267 2009-03-23 19:12
268 2009-03-23 19:16
269 2009-03-23 19:17
270 2009-03-23 19:22


話休題二七、よくいる隊長


 前回の更新後、感想を下さった寝逃げさん、ぼんぼりさん、緋桜さん、ILMAさん
 それから、楽しみに読んでくださる方々も有難うです♪


 いきあたりばったりは楽しいけど収拾がつかなくなるなと反省しています
 警備隊長と関係を持たせるつもりはなかったんですが、考え始めたら楽しくてとまらなくなり
 &現在はまり中のゲームの影響を受けて「俺の嫁」発言と相成りました


 反省はしてるけど、後悔はしてない(きっぱり


 しかしばったり過ぎたなジェリンの名前は今までになくあからさまな名前になりました
 だって、橙石の名前が良かったんだー!(叫


次回は、


【二八、よくある審査】


 刻龍を捕まえにいったはずのディがどうしているのかとかそういうのは次回持ち越し~


 感想・批評・酷評大歓迎です♪
 ここまで読んでくださり、有難うでした
 まだまだ続きますが、最後までお付き合いください~




たゃんと終わらせる予定はあります!(寄り道多いけど~


271 2009-04-03 17:05
272 2009-04-03 17:09
273 2009-04-03 17:12
274 2009-04-03 17:17
275 2009-04-03 17:21
276 2009-04-03 17:27
277 2009-04-03 17:32
278 2009-04-03 17:37
279 2009-04-03 17:44
280 2009-04-03 17:49


話休題二八、よくある刻印


 前回の更新後、感想を下さった寝逃げさん、ILMAさん、韻さん、緋桜さん
 それから、楽しみに読んでくださる方々も有難うです♪


 か、書き分けられない……!
 あとは方言に代えるしかないな!?
 てことで途中からジェリンはぁゃしぃ関西系キャラになりました←


 せめて謁見までもっていくつもりだったんですが
 ヨウの一言のおかげで展開をはさまなければならなく……っ


てことで次回は、


【二九、よくいる仕立屋】


 実はジェリンは鍛冶屋の息子です


 感想・批評・酷評大歓迎です♪
 ここまで読んでくださり、有難うでした
 まだまだ続きますが、最後までお付き合いください~


281 2009-04-14 12:39
282 2009-04-14 12:44
283 2009-04-14 12:49
284 2009-04-14 12:55
285 2009-04-14 19:32
286 2009-04-14 19:44
287 2009-04-14 19:58
288 2009-04-14 20:02
289 2009-04-14 20:13
290 2009-04-14 20:17


長くお待たせしました。
アディが寝てから、どんだけ経ってんだっていう。
なんかもうホントすいません。
だって、前の章一段落したら、気持ち落ち着いちゃったから(おい
あと、仕事始まったら、前作のリンカで遊びたくなっちゃったんですよね。


ホント、申し訳ない(深謝)


今年はできるだけこっちの更新を急ぐんで、見捨てないでアディを応援していただけると嬉しいです。
(2013/01/25)


ディがちょっと暴走気味。
賢者は通常運転です。
(2013/02/06)


あらすじがあまりにぶっ飛んでいるので追加修正してたら、長くなりすぎた…orz
(2013/03/13)


子供時代のアディの愛称が「ちび」なのではなく、リーダーにとって、守るべき子供は全員「ちび」という認識。
……実はアディとファラの繋がりに関係する人という設定を書きながら思いついた(今更。
イネスの孤児たちは過去は団結力があって、自活していたという強引設定。
年長者が金を稼いで、働けない子供を養ってやっているかんじ。
本当ならリーダーもそれなりのいい所で働けるけど、ちびどもを見るために残っていたという設定。
家は町外れの空屋敷……の地下を勝手に使用。


うん、リーダーの設定深めると面白そう。
まあ単に子アディに「りーだぁ」と呼ばせたかっただけですがね(キリッ
(2013/03/24)


もともとはこの辺でオーサーのあれこれを入れてたんですが、二章でその辺はまとめてしまったので続けます。
つーか、一人称だとこの辺のシーンが威力半減てのを実感。
せめてディ視点なら良かったのかもですが、これ以上キャラ視点を増やすと、まとめきれない。
……ディの思考とかあんまり書くと大変なことになるんですよねー。
長生きしてる人間は抱えてるものが多くて面倒ー(おい。
(2013/03/25)


ディ祭開催中!
この間の賢者たちの動向もあらすじでは書いていたんですが……さて、どこで載せようか。
とりあえず、しばらくはヨンフェンです。
(2013/03/26)


エセ関西弁で、読みにくいですね。
ちょっと誰かとキャラが被りそうだったので、こんなことになりました。
(2013/04/17)


あぁぁぁ、キャラ増やしたくないのに、ふーえーたー!!!
でも、魔法士二人とも掘り下げると愉しそう。
しないですけど。
これ以上、掘り下げると、底の浅さがさらに露呈する!(今更…
(2013/04/23)


あらすじが大幅に変更になった気がします。
というか、元よりジェリンが何故か食わせ者になりました。
まあ、腐っても国境の要の関所の警備隊長ですしね。
ジェリンの逸話は結構考えてて楽しい。
そのままあらすじを進めるか、このままジェリンの絡みで洋装店を書くか。
……悩みどころです。
(2013/04/25)


あらすじではなかったのですが、これがたぶんジェリンとの最後の絡み。
告白まがいでも、ヒロインは華麗にスルー。
まあ、オーサーのあからさまな告白でもスルーするからね、この子。
賢者は蹴り倒して、ディも張り倒して逃亡。
……うちのヒロインは何故にいつも相手に告白されると逃亡するのだろうー?
(2013/04/27)



こめんと閲覧

  • (~290)
    関西弁www
    私関西人ですので、ジェリンの関西弁には違和感が(ノ´∀`)
    ですがキャラを書き分ける点では何の問題もないかと。
    オーサー…早く登場しないとジェリンがアディに印をつけちゃry
    それにしてもディはどんどん紳士になっていきますね( ´・ω・)
    かっこよすぎますチクショ←
    ディがアディとくっついたらオーサーは私が貰いまry
    続きを楽しみにしてます^^
    (2009-04-19 19:02:00 韻)
  • ジェリンが関西人になりましたね~


    キャラがバッチリ書き分けられていて、いいと思います。
    ただ、正直なところ。


    どうにもエセ関西人っぽいww


    ジェリンというキャラが、やたら胡散臭く見えるようになってしまったのは僕だけでしょうか。(笑)


    でもこれは悪い意味じゃなくて、逆にキャラに厚みが出たということです。
    まぁひまうささんが意図した性格であるかは別にしてw
    僕は今回の口調チェンジで、ジェリンの輪郭が親しみやすいものになったと思いますよ。~


    物語的には、ディが格好よかった!ヨウが可愛かった!
    アディどうなるの!?オーサーはまだか!?
    などなど。(笑)
    書きたいことがありすぎるので自重しますwww


    続きを楽しみにしてますね。~
    (2009-04-15 20:37:00 ILMA)
  • まで
    ヨウさんの口調が関西弁になったことで、ぐっと読み易さが増してキャラの個性が出てきたかなぁと思いました(*゜▽゜)
    そして、抱き締めたりスキンシップ過多なディさん~
    貴方は相変わらず素敵ですね、何てこったい(笑)


    私が関西弁を活用する大阪民族なので、少し気になる台詞もちらほら。
    「何でそないに~」の台詞はちょっと違和感が有るかなぁとか~
    「何でそない、落ち着いてられるんや」
    にした方が自然かなぁとか(そない使いませんが
    「言い切れねェやろっ!」という言葉は「言い切れへんやろ!」とした方が完璧な関西弁で良いと思います。
    (2009-04-15 08:30:00 緋桜)
  • やはりアディにも主人公としての素質が……フラグ立てますねぇω`)
    コメディ部分実に微笑ましかったですw特に豊胸の辺りがwwぁゃしぃ関西弁の色々は、関西の方に任せますwww
    オーソドックスな指摘ですが、281の最初の一文は2つくらいにバラした方が読みやすくなるやもω`)
    (2009-04-15 00:28:00 寝逃げ)
  • まで
    おぉっ(*゜▽゜)
    運命の再会という奴ですね~
    そして、オーサーがアディと再会することは有るのかなぁとドキドキしながら見守らせて頂きます~
    アディは罪作りなオナゴですね(・ω・;)(;・ω・)


    何となく、ジェリンのキャラが薄い印象を受けました。
    ディとキャラが被ってるかなぁと。
    キャラ立ちはなかなか難しいですが、キャラ独特の口調や癖などを考えてみても面白いと思います。
    (2009-04-09 00:06:00 緋桜)
  • (~280)
    アディは俺の嫁……
    ていうかどうしましょう
    ジェリンに惚れそうです(^Д^)
    でもでもアディを悪漢の魔の手(違)から守ろうとするオーサーがやっぱり大好きです←
    気になった点はあまりなかったんですが、敢えて言うならジェリンの目の描写がもう少しあれば良かったかな、と。
    どんな色をしている、くらいしか思いつかないんですが←
    とにかく続きを楽しみにしてます(^ω^)
    (2009-04-06 21:49:00 韻)
  • おおっ!一人称視点!~
    これで、よりアディの内面が表に出てくるわけですね。


    そして。


    さぁ。出てきました、ジェリン。
    確かに今までにないタイプの人だ!(笑)
    フィスも「嫁になりなさい」言うてましたけどねw
    彼の場合は確定ですから!命令ではなく確定ww


    それから、ヨウも気になるキャラです。
    これで彼もアディの争奪戦に加わったら……。
    ディとヨウの兄弟間での争い!
    うわぁ~……。何と言う泥沼w


    でも、こんなすごい多角関係なのにドロドロしないのは、やっぱりひまうささんの作るキャラクターの魅力が成せる業なんだと思います~


    終わりに向かって加速しているような、遠回りと寄り道を重ねてるような。(笑)
    とにかく、楽しんで書いてください。
    僕たちも楽しんで読んでますので。~
    (2009-04-04 07:48:00 ILMA)
  • 楽しそうですねω`)w
    楽しく書かなきゃ楽しく読めるはずもないです、大きく暴れたりしない限りは楽しくやるのが一番なんじゃないすかねω`)
    そして婿候補がまた一人wwディの弟もでてきてホクホクな回でした∀`)
    (2009-04-04 00:43:00 寝逃げ)
  • 読破~!!やったぜ!~


    でも達成感よりも、アディへの心配が強い…。
    くっ、もう少しゆっくり読めば良かった!(笑)


    今まで格好いいキャラはディが断トツだったんですが、今回でアディが1位に来た予感!
    ヒロインなはずなのにw


    でも、それだけ魅力的なキャラってことですよね~


    それから、書き直しはすごい成功したと思います。
    描写が大変丁寧になってました。~


    非常に続きの気になる展開ですよ。
    と、同時に。
    そろそろ終わらせたい、というひまうささんの希望は反映されないだろうなぁとも思いました。(笑)
    僕にとっては嬉しいことですが。



    長々と失礼しました。
    執筆活動がんばってくださいね。~
    (2009-03-27 14:28:00 ILMA)
  • まで
    ディさんの台詞にお腹が満たされました~
    ディさんやっぱ格好いいよディさん~
    改訂版でも、やはりアディは強いなぁと思いました。
    肉体の面も強いですが、何よりも精神的に彼女は強いですね~
    矢の部分に違和感が無くなったなぁと感じました。


    時折、思うことなのですが。
    三人称の場面から一人称になるのはやはり少々違和感が有ります。
    私が~したと書かれても、この私って誰だっけ~と思ったりもします。
    本編ではなるべくどちらかの人称で統一するのが良いかなぁと~


    大団円を期待してます、執筆頑張って下さい~
    (2009-03-27 01:23:00 緋桜)
  • 【270まで】
    きゃあああ
    アディかっこええええ!
    こんな強いヒロイン大好きです~
    (2009-03-24 23:52:00 ぼんぼり)
  • ファラ……。
    彼の描写がかなり増えましたね。唯一ついてきてくれた彼が、止めようと必死になる姿に胸打たれます……。
    ふよふよがなんか好きですω`)w
    (2009-03-24 00:00:00 寝逃げ)
  • 【210まで】なんかオーサーのアディを思う気持ちが一層色濃く現れてる感じが…!
    ナルさんいいですね、好きです
    あともうちょっとで追い付くので読みまくりますよ~
    (2009-03-04 21:42:00 ぼんぼり)
  • (~230
    ディ……ッ
    そんなに格好いいと、オーサーから浮気したくなるじゃねえかっ!←
    いやいや私はオーサーがチェスしてる僅かなシーンにもきゅんきゅんしてましたよ(´∀`~
    ていうかアディッ~
    アディが傷つくのは嫌です~~
    まさか死……なんてことはないですよね(^◇^;)
    ディがついてますもんね(必死
    (2009-02-25 13:38:00 韻)
  • まで
    ああああああアディーっΣ( ̄□ ̄;
    ちょ……ディさん、アディを何とか助けてやって下さい。
    後生だからっ~~~~
    射られても位置によります……よね(^_^;)
    心臓とか危険な場所を射られてませんよ……ね~
    ともかく、ひまうささんの主人公を愛する気持ちとディさんに信じるしか有りませんっ~
    アディ、負けるなアディっ~~~~


    薬屋さんの「耳に入れておきたいこと」という言葉にちょっと違和感が有りました。
    耳に入れておきたいとは「自分が持っている耳寄りな情報などを伝えたい」という意だと思います(^_^;)
    この台詞の後、質問をする薬屋さんの会話の流れは少しおかしいのでは無いかなぁと~


    とにもかくにも、いよいよ佳境~
    ハッピーエンドを期待してます~
    (2009-02-25 00:14:00 緋桜)
  • 工エエエエ(´Д`)エエエエ工
    突き抜けたって、まじですか。
    もうディになんとかして貰うしか……。
    (2009-02-24 20:28:00 寝逃げ)
  • アディイイイ!!!!!!
    どうしよう!どうしよう!
    どーしよー!!!!←落ち着け
    大変やばい展開ですな全く
    てかどーしよー!!!!
    (2009-02-24 16:41:00 氷室 神威)
  • おぉぉ、加速しましたね。遂に……ですか?
    どんな収束を見せるのでしょうか、盛wりww上wがwwwっwてwwきwたww
    (2009-02-23 21:05:00 寝逃げ)
  • まで
    一つ言わせて下さい、ひまうささん(*゜▽゜)
    キュンとして良いですか、今回のディさんにはキュンとしまくっちゃって良いですか~
    ちょ……兄さん、格好よすぎるぜ畜生~
    緋桜の鼻血スキル発動しても知らないんだからねっ~~~(何処のツンデレ
    てな訳で今回は改めてディさん祭りを堪能出来ました、お兄さん格好いいよアディ幸せ者だよ何てこったい(話が纏まらない


    ひまうささんの情景描写はいつも殊更丁寧で憧れます~
    でも、寝逃げさんもおっしゃっていましたが の巨石の描写は少し分かりにくいかなぁと(^_^;)
    んー、適格に描写出来て無いと言うよりも余計な言葉が付随しており、ちょっと文章の並び方がおかしいのかな~と。
    「よく見なくても」を削り、修飾を先に行ってみたら文章がすっきりするのでは無いでしょうか。
    表面だけ平らに削られており、削られている場所に藁で編んだ敷き物を敷いてる……そんな巨石に私は横になっていたことがうかがえた。


    「……」二つを使うなどいまいちな添削ですが私だったら、こう直しますかね。


    取り敢えず、ディさんが格好いいですよ(連呼
    (2009-02-21 02:02:00 緋桜)
  • フィスwww
    俺は結構彼が好きですw
    無視される様が……w
    なんだか平和ですね……ω`)
    (2009-02-20 20:23:00 寝逃げ)
  • 廃人になる薬……俺はいつの間に盛られたのだろう……?w
    おかげで毎日がエブリデイ状態ですww
    表面だけ歪な~のくだりがよく分かりませんサーセンw
    (2009-02-19 20:46:00 寝逃げ)
  • つぼりましたよ、ナルさんよ
    そのキャラ、いかしてます(o>3<)b
    濃いキャラは好きなのでどれだけ変人でも問題有りでも関係ないのですっ
    あ、ナル様って呼ぼうかな……←唐突
    あと、ディがいけてるメンズだと再認識いたしました!!
    オーサーもいけてるんですが個人的にはやっぱりディが一番ですな←
    (2009-02-19 20:08:00 氷室 神威)
  • 161~205
    濃厚な物語がギュギュッと詰まってますね!とても読み応えがあります。
    アディの運命は、真実は…。とても気になります!これからも楽しみです!
    それから、やっぱりアディと周囲の男達…。この関係の変化も萌えます!
    オーサーが復活すると、なんだかホッとします。彼が曇りなく迷い無くまっすぐアディを見つめているからですかね…。
    でも、私はディが好きです!好みです!!女神の従者、たまりません。
    男達との関係も、これからどうなっていくのか…ハラハラドキドキです。
    これからも頑張ってください!
    (2009-02-19 02:32:00 くるみり)
  • まで
    殺気って……お爺ちゃんキャラ強そうですね、ナルちゃんはどう太刀打ちしていくのやら(*゜▽゜)
    そして、飄々としたナルちゃんがかわゆいですっ~
    私がオーサーだったら、浮気しとると思いまっす(さり気なく問題発言
    アディを思い続けるオーサーは本当に良い奴ですよ~(何様
    オーサーの歯がゆさが伝わってきます、頑張れ負けるなオーサーっ~
    まだ怪我は~の二文が少し気になります。
    んー、「居るし」とか「訳じゃ無いし」とか三人称にしては話し言葉が入ったくだけた書き方かなぁと。
    まだ怪我は完治しておらず、足手纏いになるのも目に見えていた。
    アディの側には心強い仲間も居り、彼等には自分とは違いアディを守る力だけの力を持っている。


    私だったら、こう直します。


    オーサーには是非とも頑張って欲しいものです~
    (2009-02-18 23:21:00 緋桜)
  • ~205
    なにやら不穏な空気が漂っているようで……新キャラのナルちゃんにもしやこれからピンチが?ナルちゃん好きなのに(告白←)
    しかしオーサーの近頃の活躍は素晴らしいですね。序盤とは桁違いに輝いて見えます。アディの鈍感さに告白流されたのは……哀れですけど。どうか彼に救いの手を!
    相変わらずスムーズに読める文章構成には頭が上がりません。こうスッキリと纏められるひまうささんはどう構成を練っているのか気になる今日この頃
    ではでは貴族二人の新たな活躍に期待しつつおとなしく次回を待ちます(*´∀`*)
    (2009-02-18 19:05:00 まひる)
  • 女神で遊ぶとは、なんつーことを考えてるんだ……w
    相変わらずナルはゆるーいですねω`)
    人間サイドのベニシエ登場、役者が揃ってゆく……。
    (2009-02-18 17:47:00 寝逃げ)
  • (205まで)
    およよ…~なんだか怪しい雰囲気がΣ(O_o~)
    それにしても…ああ、良かった~オーサーの出番があって~←
    アディへの想いがひしひし伝わってきますよ、オーちゃん(笑)
    (2009-02-18 17:08:00 韻)