幕末恋風記>> ルート改変:斎藤一>> 慶応三年弥生 10章 - 10.3.3#ふたつの距離(追加)

書名:幕末恋風記
章名:ルート改変:斎藤一

話名:慶応三年弥生 10章 - 10.3.3#ふたつの距離(追加)


作:ひまうさ
公開日(更新日):2012.12.7
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:1663 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)
10.3.3#ふたつの距離
大石「大石の期待」裏
(斎藤、沖田)

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p.1

 春の風の冷たさの中に、徐々に混じる芽吹きの気配に、私は自然と口元を緩ませていた。枝に添えた手をそのままに、顔を近づけて覗き見る枝先には、新芽がひっそりと青葉をのぞかせているのだ。

「葉桜」
 名を呼ばれて私が振り返ると、斎藤がいつものように佇んでいた。気がつけばそばにいるという状況に慣れつつある自分に少しだけ驚いたものの、ふとこれまでの人生を振り返って、他にもそういうものがいたことを思い出す。

 その者と会わなくなって久しいが、きっと今も変わらないだろうなということだけは容易に想像がついた。私の代わりに、ひっそりと表巫女を守りつづけているはずだ。

「何か用か?」
 私が問いかけると、斎藤はゆっくりと近づいてきて、私の前に立った。真っ直ぐに私を見つめてくる目が何を言いたいのか、そうして立っているだけではわからない。けれど、斎藤が何を考えているのかと思い巡らせる時間は、私にとって悪くないものだ。

 立ち止まったままの斎藤に自分から歩み寄り、私は彼の瞳を隠す前髪を片手で避けて、その顔を覗きこんだ。

「斎藤?」
 一瞬の後で、斎藤は一歩下がり、私の手を逃れた。あまりの素早さに呆気にとられる私を、またじっと物言いたげに斎藤が見つめてくる。先程よりも、不機嫌そうに見えるが。

(ちょっと、面白いかも)
 私が一歩踏み出した時には、既に斎藤は一歩を下った後で。ならばと足を変えて踏み出しても、互いの距離は変わることはなく。

「ふっ」
 早足で近づくと、一足飛びに距離を取られる。何はともあれ、斎藤を捕まえるのが先だな、と私が口端を挙げて臨戦態勢に入ろうとしたところで、がっしと腕を掴まれた。

「何を遊んでいるんですか、葉桜さん」
 私は気配を読むのは下手だが、新選組にいるようになって、その苦手もかなり克服してきていた。それでも、こいつの、沖田の気配だけはいつも読みづらい。

 笑顔でありながらも、背後から黒いものを吹き出しつつ怒っている沖田の頭に、私は手を伸ばして撫でてやる。

「葉桜さん」
 それから、沖田の後頭部を自分の胸に引き寄せ、空いた手で背中を撫でてやる。

「よしよし」
「誤魔化されませんよっ」
 私がクスクスと笑いながら沖田をあやしている間に、斎藤は姿を消したようだった。それなら、と沖田の手を引き、私は彼の部屋へと足を向ける。今日は体調が良いようだが、今触れた時には体温が少し高くなっているようだ。

 大人しく私に手を引かれるままに歩いて部屋へと戻った沖田だったけれど、すぐには私を開放してくれなかった。

「僕は貴女を好きだから、枷になりたくないから、山南さんのトコへ行きます」
 私が沖田に、彼に山南の所へ療養に行くように言った時、沖田は素直にそれを口にした。

「僕は必ず病を治して、貴女のもとへ戻ってきます」
 言葉にされた沖田の意思が、私には何よりも嬉しかった。

「だから、どうかーー」
 ただ一度とせがまれて、私が沖田に逆らえるはずもなかった。

 私がその時のことをぼんやりと思い出している間に、沖田の説教は終わったようだ。眠そうな沖田を布団に横にならせて、しっかりと上掛けを肩まで引き上げてやって。

 しばらくして眠ってしまった沖田をじっと見つめていた私は、廊下から小さく名を呼ばれて顔をあげた。

 沖田を起こさないようにそっと廊下に出ると、そこにいたのは先程逃げた斎藤で、少しきまり悪げに私を見ている。

「伊東さん達のことは聞いたか」
 私はその問に笑みを深くしたつもりだったが、斎藤は何故か苦しげに顔を歪めた。

「伊東さんは葉桜を評価している」
「光栄だね」
 私が少し得意げな表情を作ると、斎藤は何か言いたげに顔を顰めて、それから私の手首を掴んで歩き出した。

「土方さんが、話があると」
 沖田を寝かしつけていたら一緒に眠くなってきてしまっていた私は、欠伸を片手で抑えながら、斎藤の言葉を脳内で反芻し。

 一気に覚醒した。

「それを早く言えっ!」
 斎藤の手を振り払い、土方の部屋へとかけ出した私は、彼が普段の倍以上も複雑な瞳で、自分を見送っていたことを知らなかった。

あとがき

斎藤の話にしておきたかったんだけど、逃げるから。
沖田に乱入されました。
そういや、しばらく預けるんだっけーと、書きながら思い出すとか(笑
うん、うっかり、沖田のR18の伏線張っちゃった(てへ☆
気が向いたら、書くかも知れません。
……最近、一次のR18一歩手前(?)なバカップルでお腹いっぱいなので、どうするかはわかりませんが。


あんまりにも普通な日常を書いてしまって、タイトル付けが一番困りました。
斎藤との距離は、一歩分。
沖田との距離は、見ての通り。
……伝わらないですよねぇ。
タイトルって難しい。
(2012/12/07)